テレパシー
指揮と鈴野、紀伊さんは新婚さんよろしく朝食の後片付けを済ませると、姫が更にぶすっとしていた。
「何でそんなに怒ってるの? ほらほら、あなたや俺が聞きたがっていた情報を奪い取ったのだってこの子じゃないですか。ほら、上映五秒前ですよ~?」
指揮が己のコミュニケーション能力を最大限に駆使すると、姫はコチラを一瞬ちらりと見て、吐き捨てるように言う。
「二人で洗い物は楽しかったですか? ええ、楽しかったでしょうね。何か古臭いラブコメめいた「あ、ごめん」「う、ううん」みたいな声も聞こえてきてたし?」
「「……」」
「名前のやり取りもまだあったしね。私は全く気にしてないけどね」
いい加減にしつこいのよ、と言い含められるセリフに指揮はだって、恥ずかしいじゃねえか、ともごもご心の中だけで反論する。
「えと……ごめんなさい」
独り身の女の子に確かにあの状況はきつかったかもしれない、と指揮は思う。
男よりも悲惨で憐憫な存在なのかもしれない。
その隣で鈴野紀伊が顔を赤くしているのを指揮は知らない。
「とにかく、座ろ?」
そう言って鈴野が姫の向かい側に。
指揮は、鈴野と姫が挟む指揮から見て左側へ腰を降ろす。
鈴野紀伊は指揮が腰を降ろしたのを見ると緊張を解すためか、咳払いをしてから話し始める。
「まず私の能力を説明すると……人の身体を操るだけじゃなくて記憶も限定的だけど見れるの。あと自分の意思を伝えるテレパシーとか」
「限定的って言うのは具体的に何なんだよ?」
「質問する、っていうのが方法として挙げられるね。例えば「好きな食べ物は何ですか?」とか」
鈴野は饒舌に喋る。
「じゃああの一瞬で質問したって事か?」
そんな様子は一切見えなかったけど、と指揮。
「質問は自分の中で言えばいいの。心の声を相手に届ける感じで。あ、でも普通の心の声とは違うんだよね。上手くは言えないんだけど……意識する、っていうか。う~ん……それとその時に気づいてんだけど『前回の質問』が短期間で受け継がれるらしいんだよね」
「前回の質問?」
「ほら、前に言ったでしょ? 募金の人の……」
「「あ、あの時の……」」
と、姫と指揮はお互いに顔を見合わせる。
「姫ちゃんにも話したの?」
「うん。っつーか、ちゃん付けが定着したな」
「うんその方が呼び易くって」
「俺も紀伊よりも鈴野の方が呼び易いかなあ~。何て……」
「指揮の要望はなし!」
「……ですよね。で。紀伊、さんはどう質問したんだ?」
「十字団の今後の予定。まあ、時間が短すぎだし質問に全意識を投入した訳じゃないから全部はわからなかったんだけど」
期待される前に潰しとこうと思ったのか、後半が早口だったが指揮も姫も気にしない。
一つでも分かれば御の字なのだ。
「で、十字団の今後の予定は明日の午後八時からの『市民ホール』での集会だね」
「明日ぁ!? 早いだろいくらなんでも……」
「別に準備が必要な訳でもないでしょ? それに、早い方がいいじゃない」
と姫が指揮を柔らかく窘め、意欲満々な声言う。
「それもそうだな。アイツと会うのは早い方がいい」
そこには、科が居る。
指揮は元那や遊園地で会った男のことを思い出す。
あの二人は同じことを言っていた。
『理由を問い質す』
そして、指揮の意思も全く同じだ。
目的を明確に、心の中で呟く。
一方、姫も決意を灯していた。
両親ももちろんの如く集会に姿を現す筈だ。
今更謝ってもらおうなんて微塵も思わない。
ただ、ぶん殴って罪を償わす。
姫と指揮はそれぞれの目的のため、静かに闘志を燃やしていた。