皿二枚
鈴野を玄関に入れたその時。
指揮は、間違いを悟った。
玄関からダイレクトに見える広間(八畳)にあるテーブルに朝食が向かい合うようにして二皿置いてあった。
「どういうこと?」
鈴野の低い呟きに指揮は思わず身が竦む。
「え、とあのその……」
えー何だろう? あはは、不思議だなあくらい言えればいいのに、指揮はそれほどまでにコメディに特化していない。
不純異性行為、退学、白い目、様々なマイナスなイメージが湧き出て頭がオーバーフローする。
「いや、その……えー俺は、コレがいつもの朝食なんだよ!! 決して姫と住んでる訳じゃないからね!!」
そう? と、鈴野は凄くいい笑顔で部屋へ突き進み、散らばっていたスカートを拾い上げた。
「じゃあコレは?」
「てんめえぇええええ!!? 何で直してねえんだよおおおおおおお!!!?」
姫に怒鳴りつけるというよりは、悲鳴じみたその声に姫は思わず済まなく感じる。
「何かごめん」
「う……鈴野様。ホントに、真に申し訳ございません。先生たちに言うのは……」
沈み、項垂れる指揮。
「姫ちゃんと一緒に住んでるんだ?」
「いや、先生に言ってないよ紙に書いたんだよもなしで。あと、理事長は先生じゃないもん生徒は先生じゃないもんもなしでお願いします。本当、俺たちそんな事何一つとしてしてないですしそんな気が起きたこともないんです」
鈴野は、鷹揚に手を振り、姫は女子のプライドを傷つけられたのか、げし、と指揮の踵を蹴りつけた。
鈍い痛みが足に染み渡る。
「何で一緒に住んでるの? もしもその理由が、変なことなら……」
「……それは俺からは言えない」
鈴野は、首を傾げて姫を見る。
「別に姫も言わなくていいぞ?」
気遣うような指揮の態度が逆に癇に障った、というような表情をして姫は言う。
「別に、指揮にだけ言ったつもりじゃ……」
「ま、そりゃそうだけど……」
鈴野は指揮と姫のやり取りを見て、疑問とその他の様々な感情を混ぜたような複雑な表情を浮かべる。
「何にもないんだよね?」
「へ? 何が?」
指揮は質問の意味がわからないと返す。
「だから、恋人じゃないってこと」
「う、うん。まあ、違うけど」
「じゃあいいや。何もしてないんなら」
鈴野のさっぱりとしたセリフにホッと一息吐く。
「いやーありがとう! って事は誰にも言わないってこと?」
「そうだね」
「本当にありがとうございました鈴野さん!」
「き・い!」
「あ、き、いさん……?」
(まだ恥ずかしい……)
と、指揮は頬をほんのり赤らめる。
ゴガン! と頭頂部をいきなり殴られた。
「いって!? 何すんだよ!!」
「うっさいわね! 名前で呼ぶだけでデレデレしてんじゃないわよ!!」
そのセリフに鈴野――紀伊、さんと指揮は顔を突き合わせ、視線を思わず逸らす。
「その、十字団のことについて早く話さねえ?」
「うんそうだね」
あははははは、と指揮と鈴野は乾いた笑みを向け合いながら、テーブルへ移動していく。
「何意識してるんだか」
姫は一人、仏頂面でテーブルへ移動して行く。
純な二人と、仏頂面のままの一人が十字団について話し合う。