逃走
「にしても、また接点が消え失せたわね」
姫が、ぽつりと呟く。
「そうだな。また消えた」
科の行方について問いただそうとしたのに、逃げられるとは思わなかった。
姫と指揮は思わず、深い溜息を吐く。
「あ、あの~」
と、鈴野が重苦しい雰囲気に耐えれなくなったのか、おずおずと手を上げた。
「なに?」
指揮は笑顔を意識して、問う。
「その、十字団の今後の予定を聞いたんだけど……」
『え!?』
二人の食いつきに鈴野は腰を引かせながら、言う。
「いや、私の能力は指揮にはもう言ったけど……。姫のために説明すると私の能力は――自分で言ってるだけなんだけど、『テレパシー』って言うの」
「あ、名前あるんだ。初めて知った」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「ああ、聞いてない」
「指揮も名前とか付けてるの?」
「俺は『スプーン曲げ』? かなあ……能力に気づいてからスプーンとかしか曲げてなかったし」
そもそも、スプーンも二三本曲げただけで、終わった。
理由は親に怒られるからだ。
そんな下らない雑談に姫が割って入った。
「そんな事はどうでもいいのよ!! それよりも説明しなさいよ!」
「どうでもいい……?」
鈴野は信じられない、と首を振る。
「能力に名前をつけるは常識だよ!!?」
「どこの国の常識よ!」
「姫はシッカリ付けてないんだっけ?」
「じゃあ、私が付けてあげる」
と、俄然やる気になる鈴野が言う。
「いい!!」
断固拒否の姿勢を声に滲ませながら言い放つ姫に、鈴野はえ~と不満そうに唇を尖らせる。
「何で?」
「あんたがやると絶対に変な横文字になりそうだからよ!」
「それは言えてる『テレパシー』だもんな。よし、俺が考え――」
「指揮も駄目!! 絶対!」
親切にも名づけ親になってやろうと言う指揮に姫は鈴野と――いや、鈴野よりも拒否反応を大きくして言った。
「何で!?」
「スプーン曲げとかセンスのない能力名しか考え付かない人に、どうなるか……」
ぞっとするわ、姫は付け加えた。
指揮はが~ん、と昭和のギャグっぽく言ってからタイル張りの床に指で『の』の字を書き始める。
「あ、じゃあ重力操作とかは?」
「何か、恥ずかしいから……」
「……恥ず……?」
自分のセンスが否定された鈴野は自信喪失して、棒立ちのまま脳内雪景色状態になる。
「あ、じゃあ俺俺!!」
ようやく立ち直った指揮はぶんぶん手を振って姫にアピールする。
「……」
アピールする。
「……」
ぶんぶん、アピール。
「……」
ぶん……ゴホン、と指揮は腕を振り続けるを止めて咳払いをする。
「重力子とかどう? カッコよくね?」
「まあ、悪くはないけど……って別にいいって言ってるでしょ! 私の能力名は私が決める!!」
鈴野と指揮はその発言にキョトンとしてから、拍手喝采を送った。
「どんなのにするの?」
「やっぱり、横文字? それとも俺みたいな?」
「それよりも、さっさと十字団の話をしなさいよ……」
呆れたように言う姫に指揮と鈴野は顔を見合わせる。
「ていうかさ、まず遊園地から離れた方がいいと思うんだけど……」
「うん私もそう思う」
「……じゃあ、どこで話すのよ? 言っとくけど、指揮の家は狭いから無理だから」
「狭……っ!? ま、まあそうだけど……」
一応、同居を知られない為の事前回避だったのだろうと、指揮は姫を見直す。
が、
「うーん。じゃあ私の家……ん? 何で姫ちゃんが指揮の家の事知ってるのかな~?」
何かに気づいたっぽい鈴野は、にこにこ笑いながら指揮に問う。
無言の圧力に指揮は、目線を逸らし思考を回転させる。
「あ、いや遊園地から離れよう! 人が着てからじゃ遅いし!!」
目の前には転倒したトラックに、穴の開いた床、そして柱が階層ぶち破って存在しているこのプール。
見られれば、少年院行きは確実である。
不良どころじゃない少年たちが集うような場所で指揮が生きていけると思えない。
「じゃあ、指揮の所で喋ろうね??」
脅迫的な笑顔を浮かべる鈴野に、指揮と姫は仕方なく頷くしかなかった。