ミラーハウスでの死闘
指揮の能力は単純だが、応用や詳細となると知らなければならない事が多岐に渡る。
例えば、人の骨を折る場合と、金属を折る場合の時間差。
見なくては折る事は出来ないのか?
速度の調整は?
あのイメージの『流れ』は存在しているものなのか?
どれだけ巨大な物を折ることが出来るのか?
折るだけではなく、操る事は?
二本同時は無理なのか?
どれだけ離れた距離から折る事が可能なのか?
自分の骨は折れるのか?
距離で強弱が変わるのか?
能力使用の最大数は?
障害物があっても能力は問題なく使えるのか?
その他諸々の様々な疑問を解消すべく、ホームセンターで色々買い込み、人気の無い学校のグラウンド(違法な気もするが、能力をバレるのはヤバイのだ)で能力を使っていたのだ。
『プリン一個じゃ安すぎる!!』
そう抗議してきた姫を思い出し、苦笑する。
「早く倒して、帰らないとな」
視線をチラッと移動させると『ミラーハウス』という何の捻りもないアトラクションがあった。
人気がないのか、隅の方でやっているからか誰も居ない。または、中に人が居るのか。
ともあれ、戦うには最適の場所ではないだろうか?
指揮の能力をココよりは発揮出来る。
村井に視線を寄越す。
村井はジェットコースターを見ながらも、コチラを気にしている様子が見て取れた。
気にせずミラーハウスの受付へ向かう。
向こうも『人が居ない』という状況は好都合な筈だ。
腕に巻いているパスを見せ、ミラーハウスの中へ入った。
「はあー」
一息入れ、心を落ち着かせる。
奥へ奥へと進んでいく。上下左右に等身大の自分や太った自分、細い自分が現れ、しかし皆真剣にこの状況について考え込んでいる。
恐らく村井の能力は爆弾魔と同じだ。
自分の意識したモノのみを収納できる。
でなければ、右手をもう少し慎重に扱う筈だ。
逃げていた時も、右手のことなど気にかけていない素振りだった。
そもそも生物を収納できないという情報自体が嘘かもしれない。
しかし、どちらにしても指揮は右手に触れてはいけないし、それに注意を向けないといけない。
かつん、と靴が鏡を叩く音が聞こえた。
コッチに向かってくる。
指揮は、鏡の曲がり角で待つ。
近くへ来れば、斜め前の鏡が教えてくれる。
腕を曲げ、痛みに悶絶させれば後は科の行方でも、何でも訊けばいい。
もしかしたら、爆弾魔のようなタイプかもしれないがその場合でも折られる恐怖が付き纏う筈だ。そう思いたい。
「来い……」
感覚を刃のように鋭く尖らす。
来た瞬間、獲物を食う食虫植物のように、待つ。
靴音と心臓の音が大きく、耳朶を叩く。
バッ、と腕を振るう音がした。
疑問が沸いたが、それは次の瞬間解消させた。
鏡に拳銃と腕が映り、指揮は眩暈を覚える。
ゴツイ、少し大きめの拳銃を握っていた。
一発で、死ぬ。
意識を集中する。
腕から透明な『流れ』が伸びて、再び還っていく、想像。
触れれば、電気が走り、爆発しそうな雰囲気に両者は鏡越しに対峙する。
慎重に歩いてきた村井は指揮の元へ走ってきた。
「させるかよぉ!!」
指揮は、叫び右腕を曲げた。
アッパーを打つかのように、腕は上を向き、銃が飛んだ。
そのまま縄のように右腕は背中の方へ無理やりに曲げられるが、身体を上手く捻り、右腕をいなした。宙に浮いている銃を左手で受け取った。
右腕は床にパアン、と豪快に打ち付けられ、村井は苦悶の表情を浮かべる。
銃を左手で、撃った。
「い……ッ!!?」
指揮の目の前にあった鏡が破裂したかのように、破片となって飛び散り、背中を預けていた鏡も破壊された。
指揮は、意識を無意識の内に手放す。頬や耳にガラスの破片が降り注いだ。
頬や耳に鋭い痛みが走った。腕を振り上げ、頭を庇いながら奥へと逃げる。
銃音が更に響く。
鏡が破裂する。
銃音に心臓が痛みに似た症状を起こす。
指揮はひっと悲鳴を上げたくなりながらも、堪えて走った。
マガジンでも装填しているのか、足音は聞こえない。
前方の左右に伸びる道を見て、舌打ちしたくなる。
「くそ……ッ!!」
一瞬だけ逡巡してから右を選ぶ。
後ろから、村井が走ってくる音がする気がして、焦燥感が胸を焦がすようにジリジリと勢いを増していく。
ジャンパーのポケットを弄り、何があるか確認する。
能力だけでは勝てないし、指を折ったりという行為もしたくない。
指を折ったところで、痛みに耐え相討ち覚悟の銃乱射に巻き込まれるに決まっているので、それも踏まえてだ。
ポケットにはハンカチ、財布に止血クリーム、塗り薬、ケータイが入ってあった。
止血クリームと塗り薬は持っているより持っていた方がいいよな、とホームセンターで買い込んだのだ。
虹色のドアがあったので開けて入る。
多分、マジックミラーだ。そう思い、ドアから外を見た。
一面鏡張りの通路が見える。
目の前にはマジックミラーのドアが三枚あった。
「クラクラしてくるな」
そう軽口を叩きながらも、思考を回転させる。
「どうする?」
どうする?