少年少女(?)
指揮は二人が帰ってくるまで、人間観察に精を出していた。
字面にすると、大層なことをやっているイメージが沸くが、要するに人をぼーっと見ているだけの事である。
「ふわあ……」
天気がいいし、眠たくなってくる。
二人は仲良くやっているだろうか?
ケンカをする訳ないと思うが、何となく仲がよくならなさそうだ。
少し、目を瞑る。
と。
「ふはあ!」
どかっと、疲れたようにベンチに誰かが、座ってきた。
目を開けて、横目で見る。
黒髪を眉に辺りにまで伸ばした人当たりの良さそうな男子だった。
十六、十七くらいだろうか。
ジェットコースターに乗っていた人だ、と指揮は気づいた。
「あ、悪い。もしかして寝てたか?」
と、その男子が言う。
指揮は、横に居る筈の女の子が居ないことに気づく。
「いや、寝てはいないけど……。クレアって子は?」
「あーアイツはメリーゴーランドに乗ってる」
「何で乗らねえの?」
指揮がそう尋ねると男子は恥ずかしそうに、呟いた。
「恥ずかしいだろ。流石に」
くす、と指揮は思わず笑ってしまう。
「な、何だよ?」
「いや、可愛いなと思って」
「……天然なのか?」
懐疑的な視線を向けてくる男子に指揮は首を傾げる。
「へ?」
「いや、別になんでもねえ」
そう言いつつ、男は笑っていた。
指揮は、口を開く。
初めて会う人間だからこそ、聞けることもある。
「なあ、変な事言うようだけど……もしも、信頼してた奴が裏切って自分の命を狙ってきたとしたらどうする?」
「ん? 信頼って……恋人とか? 親友とかか?」
コチラを向いて、尋ねる男に心中を見破られまいと軽妙に頷く。
「何か、真に迫ってる気がするけど。ま、そうだな。俺なら……」
う~ん、と一通り唸ったあと、
「どうしよう?」
眉根を寄せて指揮に尋ねてきた。
「何で俺に尋ねるんだよ?」
はは、と指揮が笑う。
「ま、理由は聞きたいかな」
ベンチから腰を上げて、男は言う。
目の前を見ると、白いドレスの女の子がぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「頑張れ」
何かを見透かしたかのように男は言った。
「ああ。頑張ってみるよ俺」
「また会えるといいな」
男そう言ってから、クレアの元へと帰っていく。
指揮は微笑み、少しの嗜虐心が生まれるのを感じた。
「じゃあな! そこの嫁さんにもよろしく!」
びくぅ、と二人の肩が大きく揺れた。
「嫁じゃねえよ!!」
ツッコミを入れた男は、表情を変えてにやりと笑う。
「お前にも嫁が居たよな? 名前も呼べてなかったけど? またな」
そう言って、男とクレアは歩き去っていった。