表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/93

二人

 ただ、無言。

 二人は何を話していいのか分からない状態だった。

「ねえ、何で姫は名前で呼ばれてるの? 何か作戦でも……?」

 鈴野は、悩みぬいた挙句訊いたような悲壮感を滲ませながら言う。

 姫は何を言ってるんだ? というような訝しげな目で見てから、

「別に、名前で呼んでもいいって言ったからだけど」

「それだけ!?」

「……うん。それだけ」

 姫は鈴野の勢いに押されながらも頷く。

 数瞬後。今の話題の理由がわかったのか、ふふんと微笑んだ。

「名前で呼ばれてないんだ?」

「……そうなの。女の子は名前で呼ぶのが恥ずかしいんだって」

 鈴野の何気ない一言にひく、と女子のプライドが傷ついたお姫様が一名。

「あいつ……私が暗に女の子じゃないとでも……?」

 殺す、あいつは刺し違えても絶対に殺す、と姫が呟くのを鈴野は引き攣った表情で受け止める。

「まあ……あの、ほら。性格が女の子な人が無理って言う意味だったのかもしれないし」

「あ? 私の性格が女の子じゃないとでも……?」

 何とかフォローを入れる鈴野のセリフは、しかし逆効果しか生まない。

 姫は鈴野を睨みつける。

「あ、ごめん」

「別に、鈴野が悪い訳じゃないし。あいつは殺すけど」

「あ、でも指揮は姫を可愛いって言ってたよ?」

 鈴野二度目のフォローに、姫は顔を上げる。

 少し意外そうに、それでも少し頬が持ち上がっていた。

「お姫様みたいだって」

「それ、多分褒めてない」

 唐突にぶすっとする姫に、鈴野はボールを取られたサッカー選手が追いかけ、喰らいつくかのように慌ててフォローする。

「褒めてるって絶対に! だって、凄い可愛いって言ってたし!」

 本当は凄い可愛いとは言っていない。

 言ったのは、「ミスコンに姫が出れば優勝できるかもな」程度の事である。

 曲解すれば、凄い可愛いになるのかもしれないが。

「指揮が? 凄い可愛いって?」

 姫は胡散臭そうに鈴野を見る。

 もはや信じる気は〇のようだった。

「そういえば、鈴野って指揮と付き合ってるの?」

 ぶはっと、鈴野は何も飲んでいないのにむせた。

「な、何言ってるの!?」

「いや、顔が真っ赤なんだけど……」

「これは全然違うからね! 私は、元から赤ら顔だから!」

 分かる嘘を喋る鈴野に姫はやはり胡散臭そうな瞳を向ける。

「ふーん。本当に付き合ってないの?」

 鈴野は、頬に手を当てながら頷く。

「本当に付き合ってない」

「指揮に口止めもされてない?」

「されてない……って何でそんなに気になるの?」

「あ、いや、色々と……うん。将来の……いやうん」

 ばつが悪いような顔になった姫は慌てて自販機を指差す。

「ほら自販機が見えてきたわよ」

「……」

 お互い無言で自販機からオレンジジュース二本とココアを買う。

「指揮ってココア好きなの?」

「うん」

 鈴野の問いかけに、軽妙に答え缶を二つ持ち、歩き出す。

 再び、ベンチに戻ってきたとき、指揮は居なかった。

 姫と鈴野は、辺りを見渡すがやはり居ない。

「まさか……ッ!!?」

 最悪な場面が脳裏を過ぎった。

 十字団が攻めて、指揮をこの遊園地で殺そうとしている。

 姫は缶ジュースをベンチに放り出し、駆け出した。

「へ?」

 鈴野は思わず、呟いた。

 姫の突然の失踪。

 指揮がなぜか居ない。

「え?」

 何が起こっているのか、整理に時間がかかりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ