そういうことで
足の怪我は殆ど痛みを感じる事もなくなった。
光山科との戦いで出血はしたものの、痛みは無い。
それよりも、問題は明日の遊園地だ。
「……鈴野……」
そう。それは、前に指揮を学校まで迎えに行った時の話だった。
その時に、鈴野は指揮を狙っているとか、付き合っているという女子達の噂話が耳に入ってきたのだ。
それを知らないと、何となくムズムズする。
指揮は友だちだ、と言っていたがそれは果たして本当なのか。
親友だと言い直したのがますます怪しい。
もしかしたら、付き合っていて『可哀想な』姫を匿う為に嘘を吐いているのではないだろうか? 指揮の性格的にはあり得るかもしれない。
チクリと胸が痛む。
「ま、私には全く関係ない事なんだけど」
胸の痛みを無視して軽口を叩いた。
「指揮が誰と付き合おうと関係ないし」
もしも付き合っていたら、出て行こう。そう勝手に決意する。
「悪いしね」
「ん? 何が?」
指揮は風呂場からジャージ姿で登場した。
頭をバスタオルでごしごし拭いている。
「何でもないわよ」
呑気な指揮に噛み付くように言った。
「……そんなにキツイ言い方しなくっても」
少し不満気な指揮は文句を呟き、キッチンの方に向かった。
風呂上りの麦茶でも飲むのだろう。
最近は指揮の性格や行動がわかるようになってきた。
何となくそれが嬉しく感じられる。
(って何で、指揮の行動が分かるのが嬉しいのよ?)
自問するが、答えは闇に呑まれたかのように返ってこない。
「なあ、俺ちょっと外で色々したい事があるんだけど。ついて来てくれねえか?」
「……プリン一つで手を打ってあげてもいいわよ」
◆◆◆◆◆◆◆
鈴野にとっても決戦日――土曜の朝。
長期休みよりも数は圧倒的に少ないが、それでも多い人の群れの中でゾンビと化した指揮はテンションがだだ下がりのまま言う。
「姫様、着きましたよ……つーか、人多い。いや、少ないのか?」
近くの公園で己の想像力を駆使して遊べよテメエら! と指揮は自分のことは棚に上げて、人ごみを見る。
駅から歩いて五分の場所に『ファクリアランド』はあった。人だらけである。
入り口である大きな白い門に人が吸い込まれるように消えていく風景は掃除機に吸われるゴミにも似ていた。
その門の前には長蛇の列が出来上がっている。
黒コートに人並み外れた可愛い顔を覆い隠す赤いマフラー。
殆どの人が通りがかりに横目で見て、そのままフェードアウトしていく。
「何でそんなにテンション低いのよ? ていうか、寒いわね」
「……今更ながら、不確定要素を思いついたからです」
鈴野は一言も「二人で行こう」とは言わなかった。
要するに『鈴野の友だちが来る可能性がある』のだ。
楽観的な思考回路で出来上がっていた過去の自分を諭しに行きたい気分である。
「まあ余分にお金は持ってきてるし、姫の入場料を払っても大丈夫と思うんだけど……アドレスくらい聞けばよかったかなあ」
二万円を持ってきたので、心配はない筈なのだが、色々と考えてしまう。
悩んでいる指揮の肩をぽん、と姫が叩いてきた。
「あれじゃないの?」
ん? と指揮は姫の人差し指を追うと、そこには美少女オーラと言うべきものなのか、何なのかは分からないが見ているだけで良い匂いが香ってきそうな人が居た。
雰囲気が、美少女然としているのだ。
「そうだな鈴野だ」
鈴野は、キョロキョロと視線を彷徨わせると指揮と目があった。
指揮の隣に居る女の子に視線がスライドする。
え? と、信じられないモノを見たような顔になり、叫んだ。
「ってその子と一緒!!?」




