情報開示2
十字団は殆ど宗教に近かった。
『超能力者は凶暴で、血に飢えています。いつ殺されるかわかりませんよ』『超能力者はこの世の害悪ですよ』
そんな教えを徹底的に受けさせる。
受けさせて、真実を話す。
『私達はこの世を超能力者から護る為に組織された正義の味方のようなモノです。ヒーローですよ。あなたもなってみませんか?』
人は、特別に憧れる。
そこに付け込めばいい。
それから、更にグループ行動を頻繁に行い集会を開く。
それだけで、簡単には離れなくなる。情も沸くし、何より一体感――日本人が美徳とする『和』が十字団から抜けることを不可能にする。
超能力者を殺させる、というのも一つの手だ。
人は絶対に十字団を抜けず、依存するしかなくなる。
人殺しを褒め称え、保護してくれるという環境が人を底なし沼のように飲み込んでいく。
コレが、十字団の出来方だった。
特に目新しい新技術を使ってもいないただの『洗脳術』だ。
マインドコントロールでも合っているかもしれない。
階級としては、十字士と聖騎士の二つだけ。
あくまでも、表向きは。
そんな十字団の本部のソファで、神村駆流と佐藤香苗が喋っていた。
十字団を背負っている男――神村駆流が言う。
「で、本当にそんな事が出来るのかい?」
対面に座る香苗は表情を和らげ軽々しく言った。
「私は一応『使者』ですよ」
ふふん、と笑って香苗は説明を始める。
「DNAを崩壊させるの毒ガスってご存知ですか?」
「ああ、それなら――確か個人のDNAを採取してその人だけを殺傷させる個人専用の毒ガス……だよね」
「そうです。で、超能力者はある特有のDNAを皆持ってます。それが、特別な進化をもたらしたんでしょうね。資料は、見ましたよね?」
香苗は駆流に確かめた。
駆流は「見たよ」と頷く。
「ようするに、そのDNAを傷つけるガスを作ればいいんです。まあDNAが連鎖的に崩壊して全員死ぬでしょうけど」
「で、その毒ガスはもう作られるんだよね」
「そうですね。いつ発表するんですか? まあ、警察の方も最近嗅ぎ回ってるらしいですし。十字団を抑える為にも発表は必要でしょう?」
「うん? まあ、発表兼実験でも行うかな。超能力者を招きいれようと思うんだ。そうした方が自重効果もより生まれるだろう?」
香苗は「そりゃそうですね。いい考えだと思います」と笑みながら呟き、ソファの質感を確かめるように、二三度肘掛けを触り褒める。
「にしても、いい素材使ってますね」
「ありがとう」
ニッコリと笑い、受け止める。
目鼻立ちの整ったその顔は、男女問わず人気があった。
十字団に入ろうと思ったキッカケが、駆流に惚れ込んだ、という者も居るくらいだ。
「に、しても……そんな顔でよくもまあエゲツない方法取りますよね」
「どれの事? このこと? それとも、他の事?」
笑顔のままそう問う駆流に、香苗は一瞬言葉を失う。
「いや、超能力者を殺すっていう団体を作ったことに対して、ですよ。まあ毒ガスで皆殺しっていうのも当たってますけど」
「ああ。僕は、超能力者を殺すことには躊躇いは覚えないし、手段だってどんなモノを使ってもいいと思ってる」
モノ、というのは者と物を指していた。
駆流も、香苗もそこには今更そこに触れはしない。
「恨みでも、あるんですか?」
「ないけど? でも、超能力は害悪を生む。だから、殺す。どんな手を使っても」
端正な顔を狂気に歪めて言う駆流に、香苗は得体の知れない『恐怖』を感じた。
「言っておくけど、そこに好き嫌いはない」