うっうっ
姫に変態だのエッチだのと罵られたあと、指揮のボロボロの姿を改めて見て何か思うところでもあったのか、訊いたきた。
「その、姿、何? あの不良に殴られた? とか? その服は罰ゲーム?」
指揮はそのことについて何と言えばいいのか、迷う。
殺人犯をぶっ飛ばしました。信じてくれるか?
不良相手にあそこまでビビって殴られた人間が、今話題の爆弾魔を倒したなんて、俺でも信じない。
指揮は自嘲気味に笑う。
どう話すべきかは、後に回す事にする。
「今日、何でどっか行った訳? まあ、何とかなったけどさ」
姫は言いづらい病名を告げる医者のような苦々しい顔をして、
「親と会って、光山科と戦ったよ」
「は? 科と戦った? 親も?」
なるほど、姫は親を見つけて、科と戦ったらしい。
確かにあの不可解な行動を裏づけする納得する行動である。
「えと、どうだった?」
「顔が気持ち悪いよ」
「……」
人がせっかく姫を気遣うような笑顔を作って訊いたのに! うるさいって……。気持ち悪いって……。
指揮は鈍いボディーブローを打たれたボクサーのように、腹ではなく心が痛む。
「まあ、アイツらは何か目的があったらしいし。知らないけど」
「科も?」
「私の見る限りでは違うと思う。『お前らは命じられてたんだろ』みたいな事言ってたし」
へー、と指揮は反応する。
「俺に何か言ってなかったか?」
「逃げるなら今だって」
姫は伝言を伝える。
指揮はその言葉の意味を考え、心が柔らかく満たされるのを感じた。
生きていて欲しい、という事だと思う。
「あ、私を殺す気はなかったみたい。何か大掛かりな計画でもあるのかも……」
「計画……?」
「いやまだわかんないけど。でも十字団の教徒みたいなのはもう必要ないって言ってたし……。あの時だって私が負傷してたのにわざわざ見逃したし」
姫の歯切れの悪いセリフに指揮は少し深く考えてみて、思い当たった。
鈴野が言っていた『十字団が何かを作っている』という話。
その話を姫に伝え、指揮と姫は首を捻る。
「まだわかんねえけど、何かはありそうだな。ま、今すぐには殺されないって事か」
まだ殺される事はないという事がわかり、少し安堵し、未来に暗い影が射した事に憂鬱になる。
「で? 指揮は、どうしたの? 服もそうだし。何? 『信号を守ろう!!』って……」
「あーこの革ジャンな。……まあ、何だ。爆弾魔と戦ってた」
「……ん?」
ごめん、聞こえなかった。そう言うような表情に、叩き込むように指揮は言った。
「だから、今話題の爆弾魔と戦った。んで、偶然警官が着て、撃ち殺した」
「は? はああああああああああ!!?」
姫は驚愕に染まった顔で指揮を見る。
そして、思い出したように指揮の額を手で突く。
「アンタは! 今! 十字団に! 狙われてるの! わかってる!?」
目を瞑り言う。
「う! わかってるって!」
信じてくれた事に少し驚きつつ後退った。
「なら! 何で! 自分の! 命を! 削る! マネを! する訳!?」
最後に勢い良く突き飛ばされ、うえっと転がり本棚に激突する。
本が揺れ、落ちそうになり意識を集中した。本が落ちてこないことに安堵して、言い返す。
「いや、何でって、色々考えてのことで」
体勢を整え、姫の言葉を待つ。
姫は歯噛みするように、表情を伏せてから、
「馬鹿なのアンタは!?」
言った。
姫の表情は呆れと憤りが半々で入っていた。
別に賞賛の言葉が欲しかった訳ではないが、かと言って罵倒の言葉が欲しかった訳では絶対にない。
指揮は何か言い返そうと姫を見た。
姫の表情には安堵と思われる柔らかい雰囲気が浮かび、次の瞬間、怒りの表情が出てきた。
「……ん? もしかして、俺の心配してくれてる?」
「うっさいよ!」
恥ずかしそうに叫び返す姫に指揮は表情が緩まるのを感じた。
姫はそんな指揮の顔を目敏く発見したのか、それともこの場の雰囲気に居た堪れなくなっ たのか、顔を背けて押入れの方へ行ってしまう。
「もう寝る!!」
「子供っぽいなあ……」
ぽつりと感想を漏らした指揮の腹に小説が飛んできた。
呼吸が不可能になる。
「子供は指揮の方よ!!」
理解不能な指揮は腹を押さえながら姫を見送った。