ココア
ココアを口に流し込む。
甘ったるい液体が全身を駆け巡って、緊張を解してくれる様だ。
濡れた服は、紙袋に入れ、指揮の足元に置いてある。
代わりに、警察署でくれた『信号を守ろう!!』と書いているオリジナルの革ジャンと、少し大きめの何やら英文が尻から裾まで書いてあるジーパンを着ていた。
「どんなセンスだ」
警察官から聞いた話だと、ダイエット目的で歩いてるあの、おばさん犬コンビが指揮と爆弾魔を発見し通報したらしい。
ありがたい事だ。
爆弾魔は、あの銃弾で死んでしまった。
指揮が襲われようとしているので「思わず発砲してしまった」そう言っていた。
指揮としては、助かったわけだが、何となく釈然としない。
そして、警察署の指揮への対応は爆弾魔が死んだことが関係しているのか、忙しいのか、社交辞令じみた感謝を警官から受け、服とココアを奢ってくれただけに止まった。
「取調べとか、いいのかなあ?」
おばさんが代わりに受けてくれるらしいが、いいのだろうか?
超能力を見せてからというものツキが抜け落ちているかのように、運が悪い。
正直、取調べがないという小さな幸運がないとやっていけない。
「何か、ショックが大きいからどうのこうの言ってたような……」
余り、丁寧に説明はされなかった。
「まあ姫も気になるし……」
結果オーライというヤツだ。
◆◆◆◆◆◆◆
「おーい? 姫ー? ……お姫様? あれ? 姫様?」
あれ? と指揮は首を傾げた。
「姫が居ない?」
部屋は夕方に差し迫っているので、寂しげなオレンジ色で満たされている。
姫の姿がない。
「やっぱり、あの時何かあったのか?」
あ、と当たり前の事に気づき、真下――玄関を見る。
オレンジのストライプが入った靴があった。
「って事は……押入れか」
指揮は、ドロドロに汚れた元は白の靴を手を使わずに脱ぎ、靴下を洗面台に放り込む。
そして、指揮は押入れに手をかけ、開いた。
「おーい姫。開けるぞ」
「まって……!!」
あ、指揮は思わず固まった。
下着姿の姫が手を、ぶんぶん振り回して視界を遮ろうとするが、掌ごときで視界は完全に遮られない。
真っ白で、綺麗な肌が指揮の視力を奪いそうになる。
胸は、意外にもあった。
少なくとも、純白のブラジャーを着けるくらいには、だ。
そして、体勢が少しおかしかった。
と言うよりも、狭い場所で無理やり着替えているので、グラビアもかくやというお色気ポーズをしている。
指揮の方に手を伸ばし、視界を遮ろうとしているので、自然、身体は指揮の方へと向き色々な部分が見えてしまっている。
白のパンツから、伸びている健康的な長い脚やくびれ、そして少し小さいが胸の谷間など。
ココが砂浜で、水着姿ならグラビアとして普通に通用する。
姫が、震えた声で言う。
「わ、私は、アンタが帰ってくるかもしれないからって、こんな狭い――狭い、ところで……」
「あー」
間延びした声を出す。
音を出し続けている間は、何もされないのではないかという期待があった。
そのまま、押入れのドアをすっと閉めようとしたその時、姫の怒りが最頂点に達したのか顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「いつまで見てんのよおおおおおお!!」
「うわあ!!?」
顔面に蹴りが減り込んだ。