爆破
紀伊は思わず歯噛みした。
あの指揮を見ていると、誰かが慰めてやらないと壊れてしまう、そう直感的に思ったのだ。
だから、ずっと秘密にし続けていた『テレパシー』を使い、友達を振り切った。
もし、能力者だとバレればあの時と同じような目に遭うのだろうか、そう思う。
だけど、今はそんな事を気にしている暇はない。
出口から出て、指揮を目で追いかける。
指揮は頼りない足取りで今にも崩れ落ちそうだった。
その指揮の五メートルほど後ろで、女の子がビデオカメラのマジックテープを手に巻きつけ、執拗に指揮を撮っていた。
その光景を見てふと、ある仮説に辿り着いた。
十字団の情報部員のようなモノなのではないだろうか? と。
それが正しいなら、指揮の身の危険が迫っているということになる。
「……」
でも、指揮が気になる。
どうすればいいのか、数秒悩み、ビデオカメラの女の子に声をかけることにした。
指揮の身に危険が及ぶ要素があるなら破壊しておいて方がいいと考えたのだ。
「ちょっといい?」
「え……?」
女の子は驚いたように紀伊を見る。
「名前、何て言うの?」
「……三谷、順子」
三谷は指揮を視線で確認しながら、言う。
「で、何で指揮をさっきから撮ってるの?」
紀伊は優しく尋ねる。
三谷は紀伊を睨みながら、力強く言い切った。
「撮ってません!」
思わず紀伊は怯む。
「いや、撮ってるよね? 私、見たし」
「撮ってません。何か、証拠でもあるんですか?」
「じゃあ、再生してみせてよ」
指揮は曲がり角を曲がって、どこかへ立ち去った。
ようやく一安心する。これで、指揮は安全だろう。
「嫌です」
「撮ったって事だよね?」
「撮ってないけど、嫌なんです! もう行きますから」
そう言い切って、指揮のあとを追いかけようとする。
紀伊は咄嗟に手を掴んで止めた。
「見せてくれない?」
「嫌だってば!」
(なら、三谷さんの頭の中を見せてもらうから)
紀伊は『テレパシー』で、情報を取り上げようと意識を差し向けた。
狭い穴に潜り込むような感覚。
自分が二分され、視界が暗くなり、狭まる。
音が遠のく。
紀伊は頭痛を我慢しながら、脳内で問いかけようとしたその時。
遠くで鳴った花火のような爆音が耳に通り、脳内を揺さぶった。
遠くなる聴覚に、大きな音が聞こえた――その異常に意識が断絶される。
意識が揺さぶられ、視界がクリアになり、急速に広まった。
肉が焦げる匂いが鼻をつく。
遠く、ファミレスの出口の方に煙が立っている。
「爆発!?」
「うわああああああああああ!!? ひ、ひうわ?!」
「人が、人が吹っ飛んだ!!?」
人……? 紀伊は疑問が頭を占め、飽和しそうになる。
「死んだ、ってこと……?」
(あそこには、弥生も、杏も居るのに……?)
指揮に助けられたあの男子も居るのに。
混乱して、上手い具合に行動を選択できない。
棒立ちで突っ立っているだけで、動けない。
確認したくない。
「……う、わあああああああああ!!!」
興奮したように三谷はビデオカメラを地面に叩きつけ、人だかりに突っ込んだ。
「危ないよ!」
そう制止するが、三谷は聞き入れずファミレスに向かって走り出す。
三谷はファミレスの方向から興味なさ気に歩いてきた男性を肩で押し、走り出した。
その時。
誰かが、世界をスロー再生したかのように、紀伊の目に嫌という程鮮明に映る。
三谷の肩が赤く、光ったかと思うとその赤が膨れ上がり、肩を飲み込んだ。
首が半分ほど、赤に飲み込まれ、上に載っている頭がボールのように飛ぶ。
爆発音が紀伊の耳を叩く。
血が、人を確かに形作っていた赤が床に飛び散る。
「え……?」
男は紀伊の隣を悠々と歩いていく。
唇がひん曲がり、笑った気がした。
「は? 何……?」
死んだ? ウソ。
紀伊は呆然と死体を見つめる。
「何? 何で?」
そこで、超能力者という言葉に辿り着く。
スッと、頭が冷めた。
それが正解だと確信する。
「嘘、ホントに?」
現実味が湧かなくて、感情の一片も浮かんでこない。