苛立ちの理由
「ふざけやがってあのクズ野郎……っ!!」
指揮は人気のない公園で飲み終わったアルミ缶を押し潰した。
まだ苛立ちが立ち込めている。
油のように、ドロドロとしつこい。
「何が人殺しだ!!」
公園に設置されているクズ籠にアルミ缶を思いっきり投げる。
コントロールも何もあったもんじゃない缶は籠から思いっきり外れ、植え込みの穴に吸い込まれるように入った。
指揮は知るか! と立ち上がり、帰ろうとしたのだが、苛立ちの隙間から滑り込むようにモヤモヤした重いガスのようなモノが立ち込める。
「何で俺は……っ!!」
一人、自己嫌悪に苛まれ、毒づきながら植え込みに向かう。
(何で俺がこんな事……! ちくしょう!!)
自分はこれほど苛立っている時でさえ、コレくらいの悪事さえ働けないのかと絶望する。
自分がアイツらみたいならこんな思いは絶対しなかったのに。
金髪も、黒髪も指の骨を折って土下座でもさせれたのに!
けれど、金髪や黒髪のようにもなりたくない。絶対に!
矛盾した思いを抱えながらも植え込みの穴に手を突っ込み、怒声を上げる。
「何で! 俺は! ち、く、しょうが……ッ!!」
缶を掴み、引き抜く。
クズ籠に歩み寄り、叩きつけるように缶を投げ込む。
かさり、上で衣擦れのような微かな音がしたので覗き込むように見る。
見る、そんな些細な作業にでさえ苛立ちを感じてしまう。
コンビニの袋が木に引っ掛かっていた。もうすぐ落ちそうだ。苛立たしい。
苛立ちながら今日は風が強いし、すぐに木から落ちるだろう。無意識に判断する。
その呑気さが『戦争』や『人殺し』などと無縁に感じた。
「全員が俺みたいなら、そんな事……」
起こらなかったし、考えもしなかったのに。
多分、全員仲がよかった筈だ。
ケンカもするだろうけど、だけど最後には仲直りをする筈だ。
暴力なんて必要ない。
何であんな考えを持った奴が居るんだ?
顔を思い出すだけで感情の雪崩が起きて、押し潰されそうになる。
不良が脳裏に映り、次にナイフを持った科が映った。
「科……! お前もアイツらクズと同じなのかよ!!!」
地面を思いっきり蹴り飛ばす。
科があんなクズ達と同じだなんて信じたくなかった。
そう考えるだけで、苛立ちは余計に増していく。
「ふざけんなよ……本当……。人を傷つけたり、殺したりなんて……」
もう、嫌だ。
その場で、力が抜けたように座り込む。
一歩でも、この場から動きたくなかった。
苛立ちから逃れるように、目を瞑る。
誰か、科をアイツらと同じじゃないって事を証明してくれよ。
「殺しが、何だって?」
楽しそうな声は頭上から降り注いだ。
◆◆◆◆◆◆◆
紀伊、弥生と杏は指揮がファミレスから出て行った場面を呆然としながら見る。
紀伊は弥生と杏に押し潰され、呻いていた。
「何で、あんなに怒っているの?」
そう、杏が呟く。
「さあ? 分からないけど……」
弥生もそう言う。
紀伊は二人を見て、何かを決心するように一つ、息を吸う。
紀伊は下から杏を見つめる。
すると、杏は弥生を両手で押し退け、紀伊を自由の身にした。
「ありがとう!」
紀伊はそう言い放ち、服を掴んでくる弥生の手を叩き落とす。
ビデオカメラの女の子が紀伊を後ろから押し退け、出口から飛び出す。
紀伊はたたらを踏むが、急いで体勢を整えると「ちょっと待って!」と言う杏と弥生を無視するように走り出した。