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決意

 姫と指揮の二人はハンバーグ定食を食べていた。

 姫はこのクソ寒いのにスカートとブラウスである。

 曰く、「黒コートを着るのはコレが一番心地いいのよ」との事。

「どうして私にそこまでしてくれるの?」

 姫はハンバーグ定食を食べながらそう言った。

 服を買ったり、化粧水なんかはどうだ? と言ったりした親切心のことだろう、と一瞬間を置いてから気づく。

(どうして、って……)

 何で、だろう? 指揮は思わず考え込む。

 一瞬で答えは返ってきた。

『ボディーガード』に逃げられたら困るから。

 そんな保身が親切の理由だった。

 その答えを受け入れたくなくて、すぐさま心の底に仕舞い込む。

(俺は、そうじゃなくて、姫があんな格好してるし……心配だったから)

 多分、それも合っている。

 だけどそれはシックリこなくて、胸がムズムズする。

 事実を認めたい自分と認めたない自分が、混合し、ぶつかり合う。

 今すぐ頭を下げたい気分になり、そして――

「テメエ! 何舐めたこと言ってんだ? アア!?」

 隣席から怒鳴り声が聞こえた。

 指揮は視線だけでそれを見ると、三人の男子高校生が居た。

 金髪の男子高校生が純朴そうな男子高校生に詰め寄り、言う。

「払えないってどういうことだ? ア?」

 指揮は思わず姫を見て、

「なあ、助けてやれねえのか?」

「この一瞬だけ助けてどうするの? ああいう奴らから解放される手段なんて反逆しかないのよ」

 冷たく言い放つ姫に指揮は押し黙る。

 確かにそうかもしれないと思ったからだ。

 ガタン! と、後ろの席で何かが動いた音が聞こえた。

『ちょっとアンタ何行こうとしてんの!?』

『でって、可哀想むぐっ!』

 何か聞いたことのある声だな、と指揮は小首を傾げる。

「だって、もうお金がないし……」

 気弱に少年が黒髪の不良に言う。

「親から持ってくればいいだろ?」

「……親は……」

 さっきは納得した指揮だったが、誰か助けてやれよ、と成り行きを見守る。

 誰かって誰だよ? そんな声が聞こえた。

(漫画の主人公みたいに強い奴に決まってんだろ)

 無意識に奥歯を噛み締める。

(俺は……力ないし)

 鈴野に助けられて、今は姫に助けて貰おうとしている。

 自分は無力だから、仕方ない。

 そんな言い訳を自分にする。

 仕方がないことなんだ。

 だって、自分にはスーパーマンのような力がないんだから。

 安全な位置で世界の平和を望むような、善良で無力な一般市民なんだから、と。

 ゴツ、と頭を殴った音がした。

「指揮?」

 ハンバーグを食べながら訝しげに姫は言う。

 指揮は一向に姫の方を見ずに、靴を見る。

 声が聞こえなかったのだ。

「あははははそれでそれで?」

 その談笑にハッと意識を取り戻す。

 女の笑い声だった。

「そうそう。それが酷くってさあ……」

 男が自慢話でもするかのように喋る。

 どこで喋っているのかはわからなかったが、皆、この席のことを無視していることだけはわかった。

(こんなことで悩む俺が馬鹿なのか?)

 こうしている今でも虐めや殺人などは起こっているのだからこの場のコレも無視しようぜ、そんな暗黙の了解があるかのように店内は談笑に満ちていた。

(何で、笑ってられるんだよ?)

 隣を見れば、ネズミを苛める猫のように肩に拳を打ち付けている最低な奴が居るのに。泣きそうになりながら許しを請う人間が居るのに。

 この歪んだ雰囲気が十字団のように思えて指揮は身震いする。

 あの少年が死んだところでココに居る人たちは談笑を止めないんじゃないかという想像さえしてしまう。

 あの苛められている無力な少年は指揮だ。

 助けられないと何も出来ない無力な少年。

 指揮には鈴野が居たし、今では前に姫が居る。

(アイツには、誰も居ない……)

 こんな苛めを許容する集団の一部にはなりたくない、と強く思う。

 気づくと指揮は立ち上がっていた。

「やるしか、ない」

 指揮しかこの場には居ないのだから。

「ちょっと指揮!? もしかして、助ける気?」

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