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文化祭

「よお指揮。昨日と違って遅かったな」

 元那はニヤニヤ笑いながら野性的な瞳を緩める。

 時計を見ると確かにギリギリだった。

 あと数十秒遅れたらHRに間に合わなかったかもしれない。

「笑顔が気持ち悪いぞ」

 そうバッサリと斬ってから元那の隣の席に座る。

「なあ科の奴は?」

「さあ?」

 と指揮はとぼける。

 元那は溜息を吐く。

「なるほどね……タイミングがいいのか悪いのか……忙しくなりそうだな」

 ガラッとドアが開き、先生が入ってきた。

「んじゃあHR始めっぞー」

 三十代独身(男)の先生はやる気のない表情で言う。

「今日は朝の授業を潰して文化祭の準備をするからな」

「あーい」

 何ともやる気のない声が幾重にも重なって不協和音を奏でる。

 その理由の一端は、インフルエンザで一度延期になっていることにある。

 指揮は特別な行事が嫌いなので、やる気は最底辺だ。

 例えるなら世界最深の海溝を軽く凌駕するやる気のなさ。

 彼女が居る勝ち組やお祭り大好き人間でもなければ高校生の文化祭など、特別な人間の為の特別な舞台を作り上げている感覚だ。

 モブキャラとして、頑張ってください。盛り上げてください。

「面倒くせーなあ……何でこんなことすんだろうな?」

「授業を頑張っている生徒へのプレゼントじゃねえの?」

「俺なら迷わずプレゼントを突き帰すね」

 特別なプレゼントなら顔面を殴っているレベルだ。

「んじゃ、四十五分に放送が流れるからそれに従うように」

 そう言って先生は教室から出て行った。

 元那が指揮の席に少し身を乗り出して言う。

「俺たちって確かテント班だったっけ?」

「そうそう。俺と科と元那と村上と……あと誰が一緒だったっけ?」

「瀬川とお前のことがだーいすきな鈴野さんも一緒だろうが! 爆砕しろテメエ!」

「そ、そこまで言うか……」

「言う」


◆◆◆◆◆◆◆


「やっと終わったね指揮」

 と、満面の笑みを向けてくる鈴野。

 目の前には六人で建てたテントが鎮座している。

 後からやってくる焼きそば班が器具などを持ち込む手筈だ。

 ここで分かると思うが、指揮たちのクラスは焼きそば屋に決定した。

 もう一つ、社会科準備室では木材で作られた『スカイツリー』の展覧会もする。

「ああそうだな」

 指揮は儀礼的に小さく笑みを返す。

 いつ、どこで『十字団』の話をしようかと、逡巡する。

「今日の放課後開いてる?」

 そのセリフに必要以上の神経で会話を聞こうと皆が身構えるのを指揮は見た。

 溜息を吐く。

「あー今日は無理だな」

「そう……じゃあちょっと付き合ってよ」

「どこに?」

 指揮の言葉を態度で示すかのように歩き出す。

「中庭」

 指揮は皆の居るピロティを見たが、悔しそうに手を振っている元那を見て諦める。

 鈴野の後を追う。

 ピロティから運動場まで続いている廊下を少し歩いたところで、三段しかない階段を使い、中庭に出る。

 目の前には枯れ切った木々が見える。

 中心に小さな鯉を飼っている池があり、その周りをちょっとした花や木で色付けしている場所がこの学校の中庭だった。

 今の時期は殺風景な上に寒いことこの上なく、サボる場所にさえ適さない。

 故に誰も居なかった。

 木々を避けながら池の近くのベンチに二人は座る。

「で? 何の用?」

 指揮が話を促す。

 鈴野が人前でしたくない話など、科の話か能力者の話に決まっていた。

 鈴野は一つ息を吸ってから覚悟を決めたように指揮を見つめる。

「十字団って知ってる?」

 指揮は少し動揺する。

 指揮が漏らした『十字団』と『聖騎士』という言葉以外は鈴野には情報はいっていない筈だ。

 なのに、この場で話始めたということは何か掴んでしまったのだろうか? 必要最低限の事は話す気だったから、いいのだけれど、それ以上の情報を掴んでいたとしたら……?

 十字団に狙われる理由が、もう一つ簡単に出来上がる。

「ああ、科が言ってたしな」

「うん。それでね、十字団の目的は……『超能力者の絶滅』らしいの」

 声を萎縮させて言う鈴野。口に出すのも恐ろしかったに違いない。

 だけど、指揮に伝えなきゃと思って言ってくれたのだろう。

「やっぱり、か……」

 指揮のセリフはただそれだけだった。

 別に何かは期待していた訳ではなかったが、絶対に当たる筈もない宝くじ一等が、掠りもせずにで外れた感じ。

 虚無感さえ心の中にある。

「やっぱり、って知ってたの?」

「まあ……人づてに聞いて……鈴野は?」

「私は色々と調べたり、調べてもらったり……」

 何か拒絶するような声音が含まれてあったので、それ以上は突っ込まないようにする。

 まだ知り合ったばかりだし、お互いそこまで親しくはない。

「あくまで噂なんだけど、十字団はあるモノを開発してるんだって」

「あるモノ……?」

「よく分からないけど、駅前で馬鹿みたいに募金を集めてたよ」

「よく相手が喋ったな……」

「私の能力を使ったら、秘密なんてすぐ分かるから」

 馬鹿とか浅はかだとか言う単語が脳裏に閃き、血管が切れそうになる。

 意識する前に口が開いた。

「十字団相手にそんなことするなよ! お前だって命を狙われるだろ!」

 鈴野はビクッと、身体を竦める。

「だって、指揮が心配だったんだもん! だから危険だってわかってたけど……」

 鈴野は真っ直ぐに指揮を見て言い返す。

 指揮は瞳から思わず目を逸らしてしまう。

 その気持ちは嬉しい。

 だけど、

「そのせいで鈴野が傷ついたら俺が嫌だし、心配するって……でも、まあありがとう」

 確かに集団に狙われているなんて状況は怖いし、仲間が欲しいが道連れは欲しくない。

 項垂れている鈴野に、指揮は少し悩んで言った。

「危険じゃないように調べてくれないかな?」

 その言葉に鈴野は嬉しそうに頷く。

「あ、ちょっと待て。お前って記憶も覗けんのか?」

「うん。限定的にだけど」

「……凄いな」

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