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 朝。

 やはり学校には行くことにした。

 命を狙われているのはわかったが、鈴野にも伝えた方がいいだろうという考えだ。いや、思いやりかもしれない。

 他にも、学校に行くのを後押しする考えは無数にあるのだが、基本的には上記の理由が指揮の行動を決定付けたのである。

 テレビでは午後には雨が降る地域が多いので傘を持って出かけましょう、とお母さんのような発言をしていた。

 その思考に引き摺られるように、お母さんのセリフが浮かぶ。

「ママのセリフ取ったな」

 よく、お母さんはテレビに文句を言ってから何事もなかったかのように指揮と弟、それからお父さんに言った。

「今日は午後から雨が降りそうだから傘を持って行きなさいよ」

「あ、冬は風が強いからね。傘を破壊してこないように。テレビでは言わないから」

 時には、そんな注釈もつけたな、とぼんやり思い出す。

 ポップコーンが弾ける様に、更に思い出した。お父さんがツッコミを入れて、夫婦漫才に発展したこともあった。

 いいコンビだと今でも思う。

 お母さんのセリフを思い出したからか、百円のビニール傘で風を凌げるのかな、と少し大げさに心配してしまう。

 一つ、傘の骨が折れているのだ。

 テレビを見ると、この地域に雨は降らないらしい。

 降水確率、二〇パーセントだ。

 余程の心配性でもなければ持っていかない確立。

「ちょっと指揮。本気で独りで学校に行く訳?」

 と、姫がテーブルでパンをもしゃもしゃ食べながら訊いてくる。

 姫の格好は指揮のTシャツに姫の制服スカートだ。

 昨日の夜、指揮が頑張って消毒をし、包帯を巻いた足がテーブルからにょっきり出ている為、見えた。

 因みにマフラーも黒コートもブラウスも洗濯中だ。

 一瞬、綺麗な足に見惚れていた指揮は、言い返す。

「科が来るかもしんねえだろ?」

「絶対来ないって」

「なら安全じゃん」

 指揮のセリフに言葉に詰まったようにパンを噛み千切る。

「じゃあ勝手にすれば。でも、付いて行くからね」

「あ、あと服買うから放課後学校に来てくれよ」

「何でアンタの服選びに付き合わなくちゃいけないのよ……まあその時に殺される可能性もあるから着いて行くけどさ」

 ぶつくさ文句を言いながら、お茶を飲み干す。

「いや俺じゃなくて姫の」

「へ? 私?」

「そ」

 自分の顔を指差して問いかける姫に指揮は頷く。

「別にコレで十分なんだけど……」

 嬉しそうに頬を緩ませながらもそう言う姫に気づかず指揮はスカートを指差す。

「いや、そのスカートも臭いから洗濯しようと思って」

「うっさいよ!!!」

 重力操作で凄まじい速度を手に入れたコップが指揮の顎を貫いた。


◆◆◆◆◆◆◆


「いって~……まだヒリヒリする」

「ったくうっさいわね」

 姫の黒コートやマフラーから部屋に訳のわからない菌が繁殖する可能性を考えながら指揮と姫は学校までの道のりを歩む。

 川は跨ぐように作られた古い木造の橋から見る眺めが指揮は好きだ。

 川幅十五メートルほど、長さは川の終わりが見えないため分からないが多分、海に繋がっているのだろう。

 川原は少し強い風に靡き、日の光を存分に浴びた川はキラキラと煌く。

 電柱に張られている電線が邪魔だが仕方ない。

 土手で歩く体格のいい(褒め言葉)おばさんと犬のコンビが指揮の心を和ませてくれる。

 前に喋ったとき、朝、昼、夕方と散歩してるのよ、と言っていた。

 恐らく、ダイエット目的だろう。

 そして、自分はコンビが好きなんじゃないだろうか? と新たな発見をした。

 お母さんにお父さん、おばさんに犬だ。

 この道を過ぎると学校まではあともう少しだ。

「私の昼ごはんって冷蔵庫にあるピラフだっけ?」

「そうそう」

 頷き、歩いてく。

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