復讐
「三千円頂きます」
三十代の受付女性はそう言ってパソコンで何かを打つ。
包帯を巻かれただけで、三千円。
(まあ、仕方ないか……)
指揮はそう思う事にして鞄のポケットから財布を取り出し、三千円を出して出口の傍のソファに座っている姫の元へ馳せ参じる。
「マシになったか?」
「まあね」
と姫は一つ頷く。
「それよりも、私が考えたんだけど、指揮って独り暮らしよね?」
「まあ」
嫌な予感が胸中を支配するが、その予感を否定する。
ないってないない。
「で、指揮は十字団に狙われてる。私は十字団を潰したい」
「はあ……」
「だから指揮のところに私が住めばいいと思う訳? どう?」
名案でしょ? と言外に言い放っている雰囲気が指揮に伝わる。
名案というか迷案だ。
「何? 不満?」
「いや……まあ、それしか、ないのか……」
はあ、と小さく溜息を吐く。
味方が増えるのは喜ばしいことなのだが、女の子と暮らすなんて非現実的なことが実現してしまうのもどうかと思う。
恋人でもないのに。
◆◆◆◆◆◆◆
「広いわね!」
と、マンションに入った瞬間姫が興奮したように言い放つ。
「広い、か……?」
電気を点けつつ、鞄を部屋の隅に投げる。
「鈴野のマンションに行ったら卒倒するなコレは……」
「それじゃあ、私はこの押入れで寝るってことでいい?」
そう言って押入れの襖をバンバン叩く姫。
「まあいいけど」
確か、予備の布団と入りきらなくなった小説なんかが入っていた筈だ。
「なあ、お前のこと訊いてもいいか?」
「私のこと?」
「そう姫のこと。何でネットカフェで住んでたのか、とか」
と、指揮は探りを入れるように訊く。
姫は一瞬黙ってから言う。
「親が十字団だったから。私は逃げるしかないじゃない?」
「え?」
(俺と同じ……)
科に、友達に裏切られたように姫は両親に裏切られたのだ。
裏切られて、家を出たのか。
指揮の心中で同情心と仲間意識が生まれる。
「……そっか。それで、十字団を」
「そう。あの二人はぶん殴る」
そう言った姫の言葉には絶対にやり遂げる、と言う覚悟が滲んでいた。
俺には出ないベクトルの覚悟だと指揮は思う。
清々しく科をぶん殴って清々するならしたいが、それはあり得ない。
「じゃあ私は寝るから」
そう言って押入れに入り込もうとした姫の首――より正確に言うならマフラーを掴む。
「その前に、足だけ残して風呂入れって」