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爆発

 電車に乗って二十分。

 歩いて十分のその場所に光山科の自宅はあった。

 流石に鈴野よりも劣ってはいるが立派なマンションだ。

『801』号室が科の部屋。

 無意識の内に生唾を飲み込む。

「独り暮らし?」

「ああ。独り暮らしだけど……お前は? 何かキッタないカッコしてるけど」

 初めて訊きたいことを訊けた。

 親は何をしているのだろか? それとも独り暮らしなのか。

「……うっさいわね。別にいいでしょ」

「独り暮らしか。洗濯ぐらいしっかりしろよ」

「あーもううっさい! 余計なお世話!」

 須藤は耳を掌で覆いながらマンションに入っていった。

(俺の忠告は無視……)

 指揮は何となく須藤の素性が気になる。

「まともな生活はしてねえんだろうなあ……」

 そんな予感だけはする。

 だって黒コートにボロボロのマフラーだ。


◆◆◆◆◆◆◆


 エレベーター内で指揮は心臓に手を置いて深呼吸をする。

(ナイフを持って来たら何とか説得して……それでも無理なら鞄でガードしながら……やっぱり、説得か……)

 ぶん殴れよ、と元那が囁いた、ような気がした。

「倉井はそう言ってたな……」

 エレベーターの間の抜けた音を聞き終えてから降りると、右側の通路を歩く。

『801』号室の扉の前で止まる。

「ここ」

 声が擦れて上手く声が紡げない。

「ふーん。なら入りましょうか」

「ちょ、ちょっと待って」

 思わず口から飛び出た制止に須藤はあからさまに不機嫌になる。

「何? もしかして今になって怖くなった? まあ、別に隠れててもいいけど」

「……いや、行くよ」

 心を強く持って言う。

 須藤がドアノブに手をかける。

 ――刹那。

 腹の底から響く音が轟いた。

 殆ど同時に扉が盛り上がり、弾け飛んだ。

「……な……ッ!!?」

 無意識の内に瞳を固く閉じて腕を顔の前で交差させる。

 熱風が頬を撫でて過ぎ去って行く。

(あっちい……)

 熱風が過ぎ去った頃、薄く瞳を開けると須藤が脚を抱えるようにして蹲り、呻いていた。

 周りにはドアノブや木片が散らばり、ドア枠は焦げついている。

 指揮が辛うじて確認したのはそれだけだった。

 部屋の中を注意深く見る間もなく須藤に駆け寄る。

 爆風の影響で目でもやられたのかもしれない。

「お、オイ大丈夫か!?」

 肩膝をついて声をかける。

「……木片が脚に刺さったわ」

 見れば、手で覆っている右足の太腿から赤い血が垂れ流れていた。

 見ているだけで痛々しい傷だ。

「病院に行かねえと!!」

「大丈夫よ。コレくらい」

「大丈夫な訳ねえだろ……病院に……」

 はあ、と須藤は諦めたよう吐息を漏らす。

「私は貧乏なの! だから病院なんて行けない」

「……だったら俺が払う。それくらいの金はあるし」

 須藤は驚きで痛みを忘れたかのように指揮を見つめて「は?」と漏らした。

「何でアンタがそんなことする訳?」

「え?」

 今度は指揮が驚く番だった。

 確かに縁もゆかりもないが、人間として当たり前の行動なのではないだろうか。

「……いや、怪我してるし」

 その時。

「指揮……お前……」

 科の声が指揮の頭に降って来た。

 部屋から聞こえた。

「し、な……?」

 指揮が科の方に目を向ける。

 黒髪を真後ろに束ねている青年が隣に立っていた。

 部屋は玄関のみが崩壊しており、部屋自体はそれほど傷ついていない。

 本棚も倒れていなし、焦げ付いてもいない。精々がテーブルやAVラックの上に乗っているテレビや小物が部屋に転がっているくらいだ。

 おかしい。

 爆発は確かに起こったのに怪我一つ負っていないなんて……。

(ドアにのみ爆弾を仕掛けた……?)

 指揮は青年の方に視線をやってから、科に問う。

「誰、だよソイツ……」

「お前のほうこそ何でソイツと一緒に居やがる……?」

 科は驚きと敵意を込めた目をして言う。

「……早く行くぞ」

 ぼそっと青年が言った。

「やらなくてもいいのか……?」

 科は確認するように言う。

「……五秒で皆殺しできるのなら止めはしない。それに、お前が手を下さずとも悲願は達成される」

 青年はそう言って窓から軽やかに飛び降りた。

 科もそれに習うようにして、窓に向かって歩き始める。

「待てっ……!」

 そう言って指揮と須藤は同時に立ち上がり、部屋へと走る。

 須藤の方は重力を感じさせない動きと速さで科を捕まえようと手を伸ばす。

 が、一歩手前で科は窓から飛び降りてしまった。

「トラック……ッ!!?」

 須藤がそう窓から顔を出して言う。

 指揮はようやく窓に着き、見た。

 確かにトラックが走っているし、科が荷台に乗っている。

「……アイツは? あの男が運転しているのか?」

 指揮は浮かんだ疑問をそのまま口に出した。

 そして、科との唯一のコンタクトの機会を失ってしまった。

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