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第4話 不良

トタタタタ・・・・トタタタタ


 部屋の外でなんだか可愛らしい足音が往復している。不思議に思ってドアを開けると、廊下でレミが右往左往していた。



「レミくん? どうしたの?」


 声をかけると、レミは顔を見るなり目に涙を浮かべて駆け寄ってきた。


「お城が広くて、ミナ様のお部屋が分かんなくて、僕迷子になったかと思って…」

「そっかぁ、ごめんね」


 はう! 可愛い!

 涙目で縋り付いてきたレミをギュッと抱きしめてあげると、ちょっと落ち着いたようで、私から離れると、すみませんでしたと頭を下げた。



 レミから着替えを受け取って、着替えて部屋の外に出ると、レミが今日はどうしますか? と

尋ねてきた。


 今日は仕事もないし…まだ14時か…とくにすることもないんだけど…



「そういえば、レミくんはフィレンツェ初めて?」

「はい。というかヴァチカンから出たことがなかったので」

「そっか! じゃぁ今日は私と一緒にフィレンツェデートしよっか!」

「本当ですか!? わぁい! ありがとうございます!」



 大喜びするレミに萌え萌えしながら手を繋いで今に降りていくと、居間にはアルカードさんとジュリオさんとアンジェロと使用人さんが数人いた。

 うおぉ…この3人と同じ空間にいたくない…さっさと出かけてしまおう。そう思って出かけてきまーすと声をかけてエントランスへ足を向けると、レミにクイ、と袖を引かれた。



「ん? どしたの?」

「ミナ様、どなたかにご一緒頂いた方がいいんじゃありませんか? ミナ様に何かあったりしたら大変ですし…」

「大丈夫だよぅ! それにみんな忙しいから!」

「え、でも…」


 余程心配なのか、なかなかレミは引き下がらない。私達のやり取りを見ていたジュリオさんが、しょうがないなーと口を開いた。


「俺は今日は仕事だから無理だけど、アンジェロついてってあげなよ」

「お断りします」

「私も自分より弱い護衛なんていらないもん!」

「テメェ…」


「…じゃぁ伯爵お願いできます?」

「面倒くさい」

「ていうか、折角レミくんとデートなのに、邪魔されたくないからいいです」

「お前…」


 なんか無駄に険悪な雰囲気にさせただけのような気もするけど、そゆことなんで! とレミを引きずって城を出た。











――――――――――――――10時間後


「ただいま戻りました・・・」

「遅かったじゃない! どうかしたの?」



 時間は0時を回ってしまっていて心配して駆け寄ってきてくれたミラーカさんに、アルカードさんがイライラしながら説明を始めた。


「警察の世話になっていた」

「えぇ!?」









――――――――――――――――その8時間半前


「あれぇ? おかしいなー?」


 レミが大聖堂を見てみたいというので、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂を目指していたのだけど、さぁてここはどこかな?

 明らかに裏道っぽい所に出てしまっている。完全に迷子になってしまった。


「やっぱりどなたかについてきていただけば良かったですね…」


 くっ、今それ言わないでくれ…大体さぁ、私が断らなくたって、あの3人だって断ってたじゃん。そうだ、私のせいじゃないじゃん! …まぁ、来るって言っても断ったけどさ。



「とりあえず一旦引き返しましょうか?」

「だね。そうしよう」



 いつまでもここに居たって仕方ない。大通りの方に出れば何とかなるはずだ、引き返して少し歩いていると、気付いた。

 何人かに尾行されてる。


 何だろう。何が目的かな。やっぱお金かな。とりあえず来るとき2万持ってきたから1万位渡してさっさとお引き取り願おう。

 私が足を止めると、尾行者たちも足を止めて、少しすると私とレミの周りに集まってきた。



「こんな所に東洋人とフランス坊やが、何してんのかなー?」

「ミナ様…」



 怯えてしがみ付くレミの肩をギュッと引き寄せる。


「お金が欲しいの? 少しくらいなら可哀想なあなた達に、恵んであげてもいいわよ」

「金は欲しいさ。でも少しじゃだめだ。デカイ金じゃなきゃな」

「というわけで、嬢ちゃん。俺らと来いや」


 なるほど。人身売買の組織か。



「嫌よ。この子に凄惨な現場を見せたくないの。帰るからそこどいて」


 私の前に立ちはだかる男にどく様に顎で指示しても、動かない。


「強気だなぁ」

「痛い目見たくなかったら大人しくしろや」

「とりあえず、このガキは邪魔だな」


 そう言うと、一番近くにいた男が、レミの腕を引いて無理やり引きはがしてしまい、その瞬間、私も残りの数人に取り押さえられる。

 あぁ、どうしよう。ブチギレました。



 男達に捕まれた腕をあっさり離し、その瞬間裏拳をブチ込むと、男達はドサツとその場に崩れ落ちた。

 周りにいた男達にもタンと地面を蹴って飛び上がり、ドガガガガっと文字通り一蹴した。



「その子を離して」



 私の周りにいた男たち全員を倒して、トン、と地面に着地してレミを捕まえている男に振り向くと、男は慌ててナイフを取り出してレミに突き付けた。



「それ以上近づくとこのガキを殺すぞ!」

「そんなことはさせないし、そんなことしたらアンタを殺すわよ」



 ズカズカと歩を進めると、男は急にナイフを振り上げた。咄嗟に地面を蹴って、一気に男に寄って手を伸ばすと、何とか間に合った。

 男が振り降ろしたナイフは、私の掌を貫通していたけど、何とかレミは無傷だった。あぁ、良かった、と一息ついて、男を見上げる。



「急に殺しにかかるなんて、ヒドいよねぇ」


 掌に突き刺さったままのナイフを奪い取り、掌から引き抜く。


「あーあ、血が出ちゃった。あ、服に血がついた。どーしてくれるの?」






 とりあえず、その男はボコボコにしてレミとその場を離れた。


「ミナ様…ミナ様ぁ!」

「ごめんね、怖かったね。もう大丈夫だからね」


 恐怖から泣きじゃくるレミを抱っこしながら歩いて、何とか表通りに出る事が出来た。通りに出て少し歩くと、そこにはここに来たばかりの時に初めてアルカードさんときた公園があって、小さなクレープ屋さんの屋台が出ていた。

 クレープを買って、公園の噴水の前に腰を下ろして、レミにあげると、レミは「美味しい」と笑ってくれて、少し落ち着いてきたようだった。



「外の世界にはあんな怖い方もいらっしゃるんですね・・・」


 落ち着いただけに少し冷静になったらしいレミがポツリと呟いた。確かにヴァチカンは聖地だし、基本的にいい人しかいなかったのかも。しかも枢機卿の許なら尚更だろうな。



「ごめんね。せっかくのお出かけだったのに台無しになっちゃったね」

「怖かったです。でも、ミナ様すごいです!」


 急にレミは目をキラキラ輝かせて興奮しだした。


「あっという間に悪い人達を蹴散らして、かっこよかったです!」

「あぁ、まぁね」

「でも、あんなにミナ様が強かったら、僕お守りする必要ないですね…」


 レミは今度は急にショボンとしてしまった。


「そんなことないよ! 今はまだ子供だけど、もう少し大きくなって、ジュリオさんに鍛えてもらったら、レミくんだってうんと強くなるよ!」

「なれるでしょうか?」

「なれるよ! なってもらわなきゃ、ね?」

「はい! 頑張ります! 僕、大きくなったら絶対強くなって、ミナ様のシュヴァリエになります!」



「シュヴァリエってなに?」

「あ、フランス語で騎士って意味です! 僕がシュヴァリエになってミナ様をずっとお守りします!」

「レミくんがシュヴァリエ…あぁ、イイ! イイわ! じゃぁ、応援してる!」


 レミをギュッと抱きしめると、レミも抱きしめ返してくれて、腕の中で頑張るぞーと呟いていた。本当どこまで可愛いんだこの子は。


 レミは今でも超絶美少年だからなー、大人になったらどんだけイケメンになるんだろう。この美少年が私のシュヴァリエ…あぁ、鼻血出ちゃう。

 レミ、大人になったら吸血鬼にならないかな…いや、いっそのこと今の可愛いままでも…



「ミナ様? どうかなさったんですか?」


 すっかり妄想の虜になってニヤニヤしていたようだ。


「レミくんはきっと将来イイ男になるだろうと思って」


 興奮してました、とまでは言えないけども、そう言うとレミは嬉しそうにエヘヘと笑っていた。



 レミがクレープを食べ終わったので、じゃぁ、そろそろ行こうかと立ち上がると、大人数の男たちに取り囲まれた。背後で、一般人たちが公園から逃げていくのが見える。


「東洋人とフランス人のガキ。すぐわかったぜ」


 あっちゃー! これもしかしてさっきのアレか。面倒くせー!! またレミは怖がってるし、せっかく元気出たのにどうしてくれんだコノヤロー。


「私は何にも用はないけど、なんか用?」


 イライラしてぞんざいに尋ねると、男達はプッツンきたらしい。なんか熱い。


「さっきのお礼はたっぷり返させてもらう!」

「いや、結構です」

「くらえぇぇぇ!」


 鉄の棒を振り上げた男が数人いきなり襲いかかってきた。


「いらねーって言ってんでしょうが!!」



 まともに戦うのが面倒くさくて、レミを抱えて大きくジャンプして、そのまま男達を何人か足蹴にしながら公園から脱出した。




「ねー、レミくん、あいつらいつまで追ってくると思う?」

「地の果てまで追ってきそうな形相ではありましたね…」

「あー面倒くさいなー。いっそのことやっちゃおうかなー」


 レミと相談しながら走っていると、やっぱり随分後ろだけど後方から追いかけてきてる。戦うにしてもレミが怪我でもしたら、私逆上して殺しかねないしな。どうしよう、と思っていたらレミに神のご加護が降臨した。



「監督さん!!」

「あれ? 執事のお嬢ちゃんじゃねーか! 久しぶりだな!」


 偶然にも造園業の監督さんと遭遇した。


「最近見かけねーから、どうし」

「監督さん、今忙しいですか!?」

「え!? い、いや、別に…」

「じゃぁ、お願いします! この子を城まで送り届けてください!」

「え!? ミナ様はどうするんですか?」

「私はあいつら片付けるから!じゃ、監督さんお願いしますね!」

「え! ちょっ…」


 監督さんにレミを押し付けると、私は一目散に男達に向かって走り出した。




「はぁ、はぁ、戻ってくるとは、いい度胸じゃねぇか」

「せっかく盛大なお礼を用意してくれたみたいだし。受け取ってあげようと思って。ツマラナイものだったら、承知しないわよ」

「ブッ殺してやるァ!」




 はい。で、男達がまた襲い掛かって来たので、逃げております、と。だって、街中で乱闘騒ぎはいただけない。これからずっとこの町に住むのに、それはいただけない。


 どこかにいい乱闘場所がないかなぁと思って走り続ける事30分。何もしてないのに、脱落者が続出している。これだから都会育ちのもやしっ子はいけないわ。と、思っていたら、工事が中断された空地のような場所を見つけた。

 あ、ここがいいな、としばらくそこで待機していたら、やっと男達が追い付いた。



「遅い。私が言うのもなんだけど、アンタ達大丈夫?」



 全速力で走り続けたせいか男たちは既に瀕死だ。こっちの質問に答える事も出来ないで息を整えるのに必死だ。


「情けないなぁ。待っててやるから、落ち着いたらかかってくれば?」



 そう言って、空地の真ん中で待つことにした。



1分後 

「まだ?」

「…」




3分後

「遅い」

「…」




5分後

「どんだけ待たせる気だ! もう我慢できない! かかってこないなら私から行くわよ!」

「も、もうちょっと待って…」




10分後

「テメェ調子乗んのもいい加減にしろよ! ブッ殺してやるぁ!」

「待っててやったんだから礼の一つも言えっつーの」




 何とか心肺機能が回復した男達が立ち上がって襲い掛かってきた。大体50人位? なんもなければ10分で終わっちゃうかも。

 とりあえず、一番最初に襲い掛かってきた男の持っていた鉄パイプをひょいっと拝借した。



「私のエモノは剣なんだけど。さすがに殺しちゃまずいから、これで我慢してあげる。あ、それと全員で一斉に来てね。さっさと済ませたいから」


 挑発すると男達はまんまと乗っかって全員で襲い掛かってきた。パイプの射程範囲内に入って来た男達に、パイプをふるうと、それを受けた男達は一斉に宙を舞った。それを見て後続は足を止める。



「全員でって言ったでしょ? 銃でも何でもいいからさっさと来てよ。死にたい奴からかかって来れば?」


 これ、一回言ってみたかった。私の素敵な決め台詞を聞いて、何人かが銃を乱射し始めた。それを全て避けるなり、掴むなり、パイプで弾き返すなりしていると、ガチンと音が聞こえ始める。弾切れしたようだ。



「弾ならあるよ」



 そう言って、受け止めた銃弾を投げ返して男達の太ももに打ち込むと、悲鳴を上げながらのた打ち回っている。もう面倒くさいしそろそろ終わらせて帰ろう。



「じゃぁ、アンタ達のお返しは実にツマラナイものだったので、受け取り拒否をしたいところだけど、折角だから受け取っておいてやるわ」



 その場に残っていた男達全員を倒して、なんとかバカ騒ぎを終結させた。あぁ、やっと帰れる。全くとんでもないことになっちゃったよ。さっさと帰ろう。そう思っていたら、まさかの事態が発生した。




「女の子が悪漢の集団に襲われてるってのはここか!? …あれ? え? 襲われ…え?」


 なんかテンパったお巡りさんが現れた。






「あ、ご苦労様です! もう大丈夫なので! ごきげんよう!」


 そそくさと、その場を立ち去ろうとしたら、お巡りさんにガッと肩を掴まれた。




「署まで一緒に来てもらいましょうか」







「君の名前住民登録にないけど!?」

「旅行者ですもん」

「入国リストにないけど!?」

「ヴァチカンの特使で匿名で来たんです」

「シスターがギャングボコボコにするなんて聞いたことないけど!?」

「人類に福音をもたらすのが信徒の役目ですよ。人攫いの集団壊滅させたんだからいいじゃないですか」

「そーゆー問題じゃないの! 反省してんの!?」

「してますよぉ。ちょっとやりすぎちゃったかなって思ってます!」

「もう! とにかく、しばらくここで頭冷やしなさい!」

「はぁい」



 事情聴取、取り調べ、拘束! もう…警察のお世話になったのなんか初めてだよ。お父さんとお母さんになんて言おう。



「ヴァチカンなら特務機関があるからこっちじゃ手出しできないし、相手はギャングってことで今回は特別だからね! わかった!?」

「わかりましたよぅ!」


 5時間経って、やっと解放された。


「ほら、お迎えの人来てるから」

「え? お迎え? どうやって呼んだ・・・ゲッ!」

「折角この私が! わざわざ! こんな所まで! 迎えにきてやって大層な反応だな!」



 物凄いお怒りの魔王様が仁王立ちして立っていた。



 ズカズカと私の前まで歩いてきたアルカードさんは私の頭をガッと掴んで、それはもう憎らしそうに顔を歪めた。



「お前はどうしてそう、いつもいつもいつもいつもトラブルに巻き込まれるんだ!」

「ぎゃー! いたたたた! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 アルカードさんの指が頭を締め付けて、頭蓋骨がミシミシ言い出す。



「お前には学習能力というものがないのか! しかもお前警察沙汰になるなんて! バカも大概にしろ!」

「いたたたた! すいません! すいません! 本当すいません! 反省してますからぁ!」



 必至に懇願してやっと手を離して貰えた。

 手を離したアルカードさんは、私に憐憫の目を向ける警察署員の面々に「うちのバカ執事がご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」と丁寧に謝罪して、私を蹴っ飛ばして外に出した。




登場人物紹介


【人さらいギャング】

旅行者なんかをさらって売春宿や金持ちのヘンタイに売りつける集団。

彼らのしつこさは業界内では有名で「ニンニクの臭いよりしつこくてめんどくさい」と評判。


【テンパリ巡査】

フィレンツェ署管轄の巡査さん。正義感が強く優しいがちょっとだけオツムが残念。

ダイ・ハードの時のブルース・ウィリスにあこがれている。


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