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第1話 転居

 それから、城に引っ越すまでの約2週間、何度か前線に出た。でも、相手はただの人間だったから、使い魔を使ったのは最初の一回だけで後は素手か、ダーインスレイヴで十分だった。


 正直言うと、やってられないと思った。やっぱり人殺しをするのは苦しい。だけど、私はクリシュナと約束したんだ。強くなるって。戦って、腕を磨いて、血をあおって、強くなるんだ。

 そのためにこのエイヴァンゲリウム・ディアボルスで戦うのはとてもメリットがある。頑張らなくちゃ。





 そして、とうとう城へ帰還する日を迎えた。


 皆に会うのは1か月ぶりだ。そんなに経ってないのに、なんだかすごく懐かしい。あんな家出みたいに出てきて、みんなは私を歓迎してくれるかな。

 少し不安になりながら、城のアーチをくぐった。



 季節は春。

 庭園は綺麗な花が咲き誇っていた。もう少し暖かくなったら、睡蓮も咲くかな。

 庭を見回しながら城への道を歩いて行くと、城の玄関ドアがバンと開かれてボニーさんとクライドさんが走ってきた。



「ミナー! おかえり!」

「ミナー! 会いたかったよぅ!」


 私の所まで来ると、二人は抱き着いてとても喜んでくれた。凄く嬉しい。


「ボニーさん、クライドさん、勝手に出て行ってごめんなさい」

「本当だよ! もう! 大変だったんだからね!」

「もうマジでお前がいないせいで、アルカードがだいぶ面白いことなってんだぞ!」

「ん? 面白い事?」


 二人は庭園を歩きながら私がいない間の話をしてくれた。



「もう、ミナがいないとアルカードが元気なくてさ」

「そうなんだよ! 落ち込んでるか機嫌が悪いかのどっちかしかねーし!」

「ミラーカ様と喧嘩しちゃうし。ジメジメして引きこもってるし」

「そうそう、この前なんかあいつ落ち込みすギャ!」

「きゃー! クライドォォォ!」


 急に視界からクライドさんが消えて、急にアルカードさんが目の前に現れた。




「ミナ、おかえり」


 そう言って手を差し伸べてくれるアルカードさんは満面の笑顔だ。なんだけど。


「ただいまっていうか、あの…」


 アルカードさんに吹っ飛ばされて、クライドさんはアーチの外まで飛ばされていた。それを見ていたジュリオファミリーもさすがに驚いている。

 ムクリと起き上ったクライドさんは全速力でこっちまで走ってきた。



「アルカード! お前何すんの!」

「黙れ」

「何も蹴ることないじゃんかよ!」

「うるさい」

「なんだよ! お前が落ち込んでたのは事実じゃん!」

「死ね」

「死ね!? ってギャアァァァ!」


 クライドさんは喋りすぎたんだろう。アルカードさんにリンチされ始めた。それを見てジュリオファミリーとボニーさんはオロオロしだす。



「ミナー! お願い! アルカードを止めてよー!」

「・・・アルカードさん、クライドさんも心配してただけなんだから、その辺にしてあげてください」



 そう言うとアルカードさんはすぐにリンチをやめてくれた。



「クライドさん、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど…いつも思うけど、なんでミナが謝んの?」

「…なんとなく」


 クライドさんの手を引いて立ち上がらせると、ブツブツ言いながら起き上ってきた。


「ミナがいないといつもこうだよ! まったく!」

 みんな苦労したんだな。ごめんなさい。





「すいませんでした」


 アルカードさんの前に改めて行って、そう謝って頭を下げると、ふわっと頭を撫でられた。



「いや、お前は悪くない。悪いのは私だ。すまなかった」

 顔を上げてアルカードさんを見ると、少し悲しげな顔をして謝ってくれた。



「お前が帰ってきてくれて、私は本当にうれしい。おかえり、ミナ」

「アルカードさん…ただいま!」



 嬉しいと素直に言ってくれたアルカードさんが私も本当に嬉しくて、思わず抱き着いた。鬱陶しい! と剥がされるかなと思ったけど、アルカードさんは優しく抱きしめてくれた。

 しばらくアルカードさんに抱き着いていたら、背後からコホンと咳ばらいが聞こえて、振り向くとジュリオさんがにこにこと笑っていた。

 あぁ、すっかり忘れてた。



「伯爵、今日からお世話になります」

「あぁ」

「約束、守ってくださいね」

「あぁ」



 なんだかアルカードさんが異常にそっけなくて不安になってきた。私が帰って来たから、こいつらにはもう用はないとか思ってたらどうしよう。殺したりとかしないよね…

 急に不安に駆られていたら、アルカードさんがこちらを振り向いて心配するな。と言ってくれたので、とりあえず安心した。


 皆でゾロゾロ城へ入ると、サルーンでミラーカさんが待っていた。



「ミナちゃん! おかえりなさい!」


 ミラーカさんは私を見とめると駆け寄って抱きしめてくれた。あぁ、ミラーカさんあったかい。うれしい。私の帰宅を喜んでくれてすごくうれしい半面、これだけ喜ばれるってことは、いない間に迷惑かけたんだなぁと思って、反省した。




「みんな、本当にごめんなさいでした!」



 みんなで居間に集まったので早速謝罪すると、みんないーよー! と許してくれた。


「ミナのせいじゃねーじゃん! アルカードがバカなんだから!」

「そうだよ! アルカード最低だし! ミナはしょうがなかったんだから!」

「そうよ。アルカードが下種だったからいけなかったのよ。謝ることないわ」


 なんか、アルカードさん酷い言われようなんだけど…3人のフォローを聞いたジュリオさんとアンジェロはクスクス笑っている。



「そ、うですか? ありがとうございます」


 お礼を言いながらアルカードさんをチラリとのぞき見てみた。あぁ、ダメだ。物凄く怒ってる。あぁ、怖い。

 ここはなんとかフォローを入れねば、またクライドさんがリンチされてしまう。



「あの、アルカードさん、本当にごめんなさい。今度から勝手に家出したりしません。ずっとここにいます。酷い事を言ってごめんなさい。許して貰えますか?」


 恐る恐る窺うようにそう言うと、アルカードさんはふわっと微笑んで、頭を撫でてくれた。


「お前は悪くない。こいつらの言う通り、悪いのは私だ。だが、私はお前を手放す気はないし、勝手に離れることも二度と許さない。わかったか?」

「はい! ありがとうございます!」


 謝罪してる雰囲気が全く感じられない高圧的な物言いだったけど、とりあえず機嫌は回復したようなので、それで満足することにした。



「でさー、ジュリオ達本当にここに住むの?」

 ボニーさんが発した言葉で、みんなで一斉にジュリオさんに視線を向けた。


「一応伯爵とそう言う約束をしたからね。もしかして伯爵以外は反対かな?」

 そう言ってジュリオさんがみんなを見渡すと、みんなはブンブン顔を横に振った。



「一応ここに住むことも、条件のことも聞いたよ。ていうか、アルカードが承諾してきた時点であたし達に拒否権ないしね」

「確かにな! でもぶっちゃけアルカードが一番怪しいよな」

「そうねぇ。アルカード、暗殺したり、魔眼使ったりしちゃだめよ?」

「お前らに言われずともわかってる!」

「怪しいよねー」


 この短期間でアルカードさんはこの3人の信用をだいぶ失ったようだ。一体何があったんだろう。

 4人の様子を見ていたジュリオさんとアンジェロはまたしてもクスクス笑っている。アルカードさんが虐められてるのが、そんなに面白いんだろうか。私はハラハラして仕方がないんだけど。



「クスクス。とりあえず、納得してくれているようでよかった。じゃぁこれからお世話になります。俺は仕事もここですることになるから、迷惑かけることがあるかもしれないけど、よろしく」


 ジュリオさんが笑いながらそう言うと、アルカードさん以外の3人はよろしく! と笑顔を向けた。あぁ、よかった。案外仲良くやっていけるかも。

 そう思って安心していたら、今まで黙っていたアンジェロが急に口を開いた。



「しかし、猊下。ミナ様の職務の件につきましては、まだ了承いただいておりませんが」

「あ」

「あ」


 肝心なことを忘れてた・・・



「職務?」

「許さん」


 首を傾げる3人とは対照的に、さっさと私の心を読んだアルカードさんに反対された。


「待ってくださいよ! 私、もう結構携わっちゃってるし…」

「ダメだ」

「職務って何? 仕事ってこと?」

「なぁんでですかぁ! いいじゃないですか!」

「ダメだ」

「ねぇ、職務って何?」

「もう! 良いじゃないですか! ケチ!」

「誰がケチだ。とにかくダメなものはダメだ」

「だから職務って何!?」

「クライド! お前はさっきからうるさいぞ! 黙れ!」

「えぇー!?」


 無視された上に(私も無視してたけど)怒られたクライドさんはいじけてしまった。とりあえず、仕事内容を話す許可をジュリオさんに貰って、3人に教えた。



「特に問題ないんじゃないかしら」

「いーんじゃねーの? 別に」

「楽しそう! あたしもやりたーい!」


 3人は別に気にしていないようだ。ていうかボニーさんやりたいのか。でも、いくらこの3人が賛成してくれたって


「許さん」


 暴君がこれじゃねぇ…

 どうやって納得させようか考えていたら、後ろでガチンとスライドを引く音が聞こえて急に首を腕で締め付けられたと思ったら、こめかみに冷たい感触がした。



「伯爵さぁ、グダグダ言ってねーでウンて言えよ。じゃねーとコイツの頭吹っ飛ばすぞ」




「アンジェロ!? お前何してんの!?」

「いやー! やだぁ! それ向けないでよ!」


 アンジェロに後ろから首をクラッチされて、こめかみに銃を突きつけられてしまった。なのに、大慌ての私とジュリオさんとは対照的にみんなぽけーとしている。


「ミナ、何慌ててんの? ただの銃じゃん」

「ただの銃じゃないんですって! 銀弾なんですって! しかもこの人本当に撃つんです! もう、アンジェロ! 本当にやめてよー!」


 私が泣きそうな顔でジタバタしながら必死に訴えると、さすがにみんなも顔色を変えた。




「バカ、お前暴れんなよ。まぁ、とにかく、伯爵がウンて言わなきゃミナは死ぬけど」

「アルカードさん! お願いします! 許してください!」

「伯爵! 俺からもお願いします! 本当こいつアホだから!」


 私とジュリオさんで必死に懇願すると、アルカードさんはしばらく悩んでから渋々許してくれて、それを見たアンジェロは銃を納めて、やっと解放してくれた。



「よかったな。俺のおかげで丸く収まって。感謝しろよ!」

「するか! 全然丸くないし! バカじゃないの!?」

「あぁ? お前のためにやってやったのに。なんだその言い方は?」

「だからって、やって良い事と悪い事ってあるでしょ!」

「お前に関しては悪い事なんかねーし」

「何言ってんのよ! そんなわけないでしょ! なんでアンジェロはそうバカなのよ!」

「お前に言われたくねーよバカ! また銀弾ブチ込まれてーのか!」

「ムカつくー! なによ! その銃がなきゃただの人間のくせに! その内絶対吸血してやるから!」

「どーせ返り討ちに遭ってピーピー泣くのがオチだろ! やれるもんならやってみろ、バーカ!」

「むきー!」


 くっそぉぉぉ! 本当ムカつく! あの銃さえなければ、アンジェロなんてただの紙細工いや、ティッシュなのに! あー! くっそぉぉぉ! マジムカつくー!!

 あまりにもイライラして、持っていたソファのクッションをビリビリに引き裂いていたらジュリオさんが落ち着いて! と声をかけてきて、今度はジュリオさんにだんだん腹が立ってきた。ギン! と睨みつけるとジュリオさんは、今度は俺!? と言う顔をして、さっと私から離れる。



「もう! ジュリオさん! 部下の教育がなってないですよ!」

「…ごめんね…反省するよ。はぁ…全くもう。伯爵、すいません」


 八つ当たりされたのに、ジュリオさんは本当に申し訳なさそうに溜息を吐いて、アルカードさんにも謝った。それを聞いたアルカードさんも、さすがにジュリオさんに気の毒そうな目を向けた。


「…お前も大変だな。とりあえず、そのクソ生意気でイカレた小僧は殺していいか?」


 アンジェロはアルカードさんの「クソ生意気でイカレた小僧」と言う単語に反応したのか「殺していいか?」に反応したのかはわからないけど、ピクと眉を(ひそ)めた。でも、「すいません、赦してやってください。悪い奴じゃないんですよ」というジュリオさんのフォローを聞くと、ざまぁみろと言わんばかりにニヤニヤしだした。



「いや、アンジェロお前何笑ってんの!? お前じゃなければ俺が殺してるくらいなんだけど!」

「それは、私が何をしても殺される心配はないという事でしょうか?」

「違うよバカ! 殺されても文句言えないようなことするのはやめなさいって言ってるの! もうミナに銃突き付けて脅したり、撃ったりするなよ!」

「あぁ、では殺されないうちは何をしてもいい、という風に解釈してもよろしいでしょうか?」

「よろしくないよ! どんな思考回路してんのお前! ていうか、反省とかそういうの無いの!?」

「ハハハ。申し訳ありません。ミナ様の恐怖に怯えた顔には大変そそられるものですから。病み付きになりそうです。ですが、そこまでおっしゃるなら反省する努力をしてみます」

「お前ね…ていうか、笑うなって! あぁ、全くもう…」

「アンジェロ最低…」


 ジュリオさんと二人で大きな溜息を吐いて顔を上げると、みんなに気の毒そうな顔で見られた。アンジェロはバカだし、アルカードさんとも間違いなく相性が悪い。何かある度に、私とジュリオさんは気苦労が絶えないんだろうなと思うと先が思いやられた。


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