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第10話 殲滅

「えぇ? 何言ってんの? ダメに決まってるじゃん」



 帰ってきたジュリオさんに直談判してみたけれども、やはりというか、あっさり断られた。


「でもでも、私このままじゃタダメシ食らいだし! ジュリオさんにはお世話になってるし私も何かしたいんです!」

「その気持ちは嬉しいけど、君に怪我でもさせたら俺が伯爵に殺されちゃうしねー」

「大丈夫ですよ! 怪我したってすぐ治るんだし、私こう見えて結構強いんですよ! 神の使徒とかいうイスラム教徒と戦って殺したし、テロリストとかマフィアとも戦ってきたし、結構戦い慣れてますから!」

「意外に波乱万丈だね・・・」

「吸血鬼の歴史は戦いの歴史だってアルカードさん言ってたし、大丈夫ですって! お願いします!」

「うーん…そうは言ってもねぇ…」

「お願いしますー! この通りです!」


 手を合わせて必死にペコペコして頼み込んでみる。ジュリオさんは困ったように腕組みして溜息を吐いて考えているようだ。悩んでるな…てことは、もうひと押し!



「わかりました! じゃぁ、私を入れてくれたら、何でも言う事聞きますから!」

「えぇ?」

「ジュリオさんの言う事なんでも聞きます! 仕事も手伝うし、死体の処理もするし、泥棒も強盗も略奪もしますからー!」

「・・・一体どんな人生歩んできたの…ていうか、そんなの頼むことないけど。そうだなぁ…」


 更に悩みだしたな。これで私にできる事だったら万々歳!


「あぁ、じゃぁ今夜俺の部屋に来てよ」

「え」

「なんでもするんでしょ?」

「えぇー…ちょっと反則じゃないですか?」

「黙ってればバレないでしょ?」

「うぅ…」


 しまった…そう来たか。どうしよう。想定外だ。ちょっと代価としては釣り合わなくないか? 重くない? 大体、反則じゃないのこれ。



「断ってもいいけど、君の要求は受け入れられないな」

「くっ…」

「何でもするって言ったのはミナなのになー。ウソつき」

「わ、わかりました! わかりましたよ!」


 自分で言った手前、引き下がれないし、これも世界平和のためだ! 今夜だけ、一回だけだ。我慢しろ私! 耐えるんだ私! 腹くくれ私!



 お風呂から出て、ジュリオさんの部屋に行くと、ジュリオさんはソファで読書中だった。私に気付くと、本を閉じて立ち上がり、手招きしている。


 頑張れ私、負けるな私。あぁ、クリシュナごめんなさい。これも世界平和の為なの。わかって! そうだ、こういう時こそ人形モードだ。心を殺せ、感情なんて殺すのよ!



 ベッドに連れて行かれて、潜り込むと、ジュリオさんは手を伸ばしてくる。

 あ、ヤベー、もう嫌になってきた! どうしよう! ヤバい、逃げたい。と焦っていたら、ジュリオさんは私をぎゅっと抱きしめた。




「おやすみ」



 は? おやすみ? あれ? なんでおやすみ?




「え? ジュリオさん?」

「なに?」

「なにもしないんですか?」

「してほしいの?」

「いえいえ! 滅相もないですけども! でも、なんで…」

「嫌なんでしょ? 旦那さんいるもんね。今はこれでいいよ」



 ジュリオ様!! なんていい人や・・・本当この人神様かもしれない。



「ありがとうございます。おやすみなさい」

「おやすみ」



 ジュリオさんの腕と優しさに包まれて、この日はぐっすり眠った。







 翌日、目が覚めるとジュリオさんはもう起きていた。


「あ、おはよう」

「おはようございます。あの…」

「あぁ、加入の件? いいよ。ミナが来てくれたから、約束だし。入れてあげる」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「どういたしまして」



 本当、ジュリオさんって神様や! ジュリオ神! あ、こういう神様いそう。

 寝起き早々ジュリオさんに感動していると、コンコンとノックの音がして、ジュリオさんの返事を待たずにアンジェロが入って来た。



「失礼します。先日の新興宗教の件で…うわ! お前なんでいんの!?」



 持っていた書類をバサバサ落としてアンジェロは大層驚いている。


「え…昨夜はここで寝たから…」


 アンジェロのびっくり顔に少し気圧されてそう答えると、アンジェロはマジかよと言う顔をしてジュリオさんに視線を向けた。



「うわー…猊下、伯爵に知られたらどうするんですか…ていうか、なんで急に…」

「黙ってりゃバレないってー」


 ジュリオさんは軽く答えて手をパタパタさせている。


「いや、あの、ていうかなにも…」

 してないんだけど! と口を挟もうとしたら、アンジェロは急にハッとしてこっちに振り向いた。


「お前、もしかして交換条件か…そこまでやるか?」

「えぇーだって…いや、ていうか…」

「ていうかお前軽いなー。俺の時はあんなに嫌がってたくせに。あぁ、利益があれば話は違うのか。女って怖えぇな」


 またしても言葉を遮られて、すっかり忘れていたことを蒸し返された上に、不当な言いようをされて、なんだか怒りが込み上げてきた。



「ふざけんな! 軽くないわよ! 大体普通に考えて、いきなりあんなことするなんておかしいでしょ!? しかも銃まで突き付けられて喜ぶ人なんかいないよ! バカじゃないの!」

「バカはお前だろ! マジありえねー! 何してくれてんのお前! 伯爵にバレたら大戦争だろうが!」

「それはこっちのセリフだよ! アンジェロが言えた義理じゃないでしょ! ていうか何もしてないし!」



 そう叫ぶと、アンジェロは言葉を止めてちょっとキョトン顔をしてジュリオさんに視線を向ける。アンジェロの視線に気づいたジュリオさんはアンジェロににこっと笑って見せた。


「本当に残念ながら、何もしてないんだよねーこれが」

「えぇ!? 信じられない…」

「お前びっくりしすぎだよ。俺はお前と違って紳士だから」

「確かにそうですが…猊下、据え膳喰わぬは男の恥ですよ」

「もうお前どっちだよ!」





「はー、全く。で、この前の新興宗教がなに? どしたの?」


 ジュリオさんは深く溜息を吐いてソファに腰かけて報告を促すと、アンジェロも思い出したようにばらまいた書類を拾い集めて、報告を始めた。


「やはり猊下の予想通り、一連の事件は彼らの犯行だと言う結論が出ました。現場近辺での目撃者の証言とも一致しますし、潜入していたチームの報告によると、犯行を教唆する内容の教義があったという事ですし、実行犯はその宗教の信者とみて間違いないそうです」


 アンジェロの報告を、書類を見ながら聞いていたジュリオさんは話を聞き終わると、書類をアンジェロに返しながら指示を始めた。


「ふーん、やっぱりね。じゃ、早速今夜やろうか。とりあえず3チーム準備しといてね。潜入チームは早急に引き揚げさせて」

「かしこまりました」



「あのー、事件ってなんですか?」


 しれっと話を聞いてたけど、事件が何かわかんないし。急に口を挟んできた私に、二人は、あぁいたんだという顔をして説明を始めた。


「なんか最近、教会が襲撃される事件が頻発しててね。その犯人を追ってたら、ある新興宗教が怪しいってことになったわけ。で、犯人って確定したから、殲滅する」

「殲滅…皆殺しってことですか? 人間ですよね?」

「そうだよ。でもカトリックの敵だから殺してもいいの」

「そういうものなんですか?」

「ヴァチカンは基本カトリックしか許してないから、死んだ異教徒だけが良い異教徒っていう」

「はぁ…なるほど。狂信的ですね」

「まーねー。俺的にはどうでもいいんだけどね。で、ミナ。今夜、初陣いっちゃう?」


 思わぬお誘いに嬉しくなって速攻、行きます! と返事をしたら、ミナって好戦的だねと笑われてしまった。






「ミナ様ー、お衣裳お持ちしましたー」


 作戦会議を終わらせて自室に戻ると、レミが黒い服を持って部屋に入って来た。



「え? 衣裳?」

「今日はジュリオ様とお仕事でお出かけなさるんですよね。ミナ様は教皇庁の方じゃありませんけど、お仕事の際には、こちらの衣装をお召いただくのが決まりなんです」


 そう言ってレミに渡された服を広げてみると、まさかの修道服だった。バッチリ十字架も用意されている。これから人殺ししに行くのに、この服はどうなんだろう。


「大丈夫ですよ! 十字架は銀じゃありませんし、法儀を受けていない市販品ですから!」


 ニコニコとフォローを入れてくれるレミの顔を見ていたら、まぁいっかと諦めがついた。修道服に着替えて部屋の外に出るとジュリオさんと出くわした。



「ミナ、シスターの服似合うね。可愛いよ」

「あ、う、ありがとうございます」


 折角褒めてもらっておいてなんだけども、この服に関しては複雑だ。



「そういえば、ジュリオさんはどうして神父さんの格好なんですか?」


 ジュリオさんはアンジェロがいつも着ているような黒い神父の服を着ている。ジュリオさんは枢機卿だから、教皇庁に出かける時はいつも礼服を着ているのに。



「そりゃそうだよ。枢機卿が人殺ししてたってバレたら困るでしょ? それに、こういう隠密行動とか暗殺とか殺人とかダークなお仕事は、黒い服って相場が決まってるじゃん?」



 ダークなお仕事…確かにな。じゃぁ、ダーク枢機卿にダークシスターだな。





「んじゃ、Aチームは裏口に展開、Bチームは厨房側ね。逃げようとした奴らは射殺で」


 件の新興宗教のいわゆる教会前に到着すると、早速ジュリオさんが指揮を初めて、各隊10人位ずつ展開して配置についた。



「多分教会内には200人くらいいると思うんだけど、逃げられると面倒だから、突入したら一斉射撃で同時攻撃ね」

「了解」



 Cチームに指示を出して、突入準備に入ろうとした時に、ふと気づいた。



「あ、ちょっと待ってください。私、同時攻撃得意ですよ。銃弾勿体ないし、私に任せてもらえません?」

「えぇ? うーん、わかった。じゃぁ、お手並み拝見といきますか」

「ありがとうございます。危ないから、終わるまで教会内に踏み込まないでくださいね」




 うーん。やっぱり外は結界が張ってなくて、体を動かしやすいな。一つ背伸びをして、教会正面玄関前まで足を運び、少しだけドアを開けた。



「インフェルノ・ヴェーダ第1、インドラジット」


 詠唱した直後、私の体は影に包まれた後霧散し、他者の視界から消える。ドアの隙間から侵入すると、教会内には大勢の人がいて、教義を聞いていた。




「昨夜、再びカトリックの獣の屋敷に神の制裁が下った! これは神の思し召しである!」



 教壇の前で、50代くらいのおじさんが声高に叫ぶと、教徒たちは大喜びして彼らの神を讃えはじめる。

 なぁーにが神の思し召しだよ。ばっかみたい。そう思いながら、部屋の上空に霧を充満させた。さて、これで準備は整いました、と。早速、いきますか。



「ん? なんだ? なんで霧が…」


 霧に気付かれたけど、だからどうという事はない。霧はジャキンと矢に代わり、一斉に集中豪雨の様に降り注ぐ。


「ぎゃぁぁぁ!」

「なんだ、これは! ギャッ!」


 部屋中に霧を充満させているから、逃げ場などない。矢の雨に打たれて、2.3分で教会内は静かになった。

 インドラジットを戻して姿を現すと、カタンと音が響いた。どうやら、何人か隠れてやり過ごした人がいたらしい。音の方を見ると、教壇の陰で震える「教祖様」を見つけた。



「魔剣・ダーインスレイヴ」

 


 インドラジットで剣を構成して近づくと、急に5人ほど私の前に銃を構えて立ちはだかった。

 


「なんだ貴様! カトリックのシスターが何の用だ!」

「これはお前の仕業か! 寄るな! 撃つぞ!」

「教祖様を守れ!」


 その人達は、歩みを止めない私に恐れをなしたのか、急に発砲し始めた。うぅん、クリシュナパワー? 痛くもかゆくもない。ていうか、避けようと思えば避けれるな。



「なっ!? 銃が効かない!?」

「なんだお前は!」


 怯えながら発砲を続ける教徒たちに、剣をふるいながら答えてあげた。



「なんだチミはってか? そーです。私が・・・あぁ、聞いてないや」


 言い終わらないうちに、教徒たちはバラバラになっていた。




 教壇の前まで行くと教祖様は震えて、私の姿を見ると、ヒーとか言っている。あ、ていうか、この人殺していいのかな。一応聞いてみたほうがいいか。


「は、離せぇぇぇ!」


 教壇の前に座り込んでいた教祖様をズルズル引きずって、正面入り口まで連れて行き入り口のドアから様子を見ていたジュリオさんに声をかけた。


「ジュリオさん! あとはこの教祖様だけなんですけど、殺しちゃってもいいんですか?」

「いーよ」

「わかりました。ということなんで、サヨウナラ」


 泣き叫ぶ教祖様を離して、しゅん、とダーインスレイヴを振ると、教祖様の首は胴から離れた。




「終わりました」

「お疲れ様―! すごいね! 5分くらいしか経ってないよ! ていうか、あの技凄いね。さすがに伯爵の眷属は、並の吸血鬼とは格が違うねー」

「まぁ、慣れてますから」


 ジュリオさんと終わったよー、とチームの人たちに言いながら外に出ると、みんな一様に、マジで!? と驚いていた。



 それから、死体の片づけや、なんやかんやして屋敷に帰ると、使用人さん達が出迎えてくれて早かったですねーと驚いて、今度は私の穴だらけの格好を見て驚かれた。




 あぁ、またやっちゃった。本当に服も構築できるといいのに。今回は砲撃されたわけじゃないから穴だけで済んだし、いいんだけど。次回からはちゃんと避けるなり止めるなりしよう。

 穴だらけの服をつまんで、部屋に戻ろうとすると、ばったりとアンジェロに会った。



「よぉ。良い恰好じゃねーか」

「それは修道服が? 穴だらけなことが?」

「修道服が穴だらけなことが」





「本当にお前も化け物なんだなー、無傷だし」

 アンジェロは穴が開いた腕をめくって、珍しそうに見ている。


「普段のお前を見てると、化け物とは思えねーけどな」

「それはどういう意味?」

「そう言う意味」


 多分、褒められてはいないと思う。バカにされてると思う。全くもう! と溜息を吐いてちょっとスネていると、なぜか急にアンジェロは真顔になった。


「なに? どしたの? 急に」

「いや、意外だと思って」

「何が?」

「お前が、簡単に人殺しをしたことが」


 簡単に、か。それはどっちの意味でだろう。どっちもかな。確かに、簡単に引き受けて簡単に殺したけど、簡単に納得した訳じゃない。


「アンジェロは、この仕事に疑問を持ったことってある?」

「…まぁ、昔はな」


 急な質問に少し驚いたものの、アンジェロはすぐに答えた。まぁ、普通の人間が全く何も感じないで、殺人マシーンになれるとは思ってないけど。


「私だって、最近まで絶対嫌だって思ってたよ。人を殺すことに、抵抗がないわけじゃない。でも、私には必要なことだから」

「必要、なのか?」

「うん。クリシュナと約束したの。強くなるって。私が甘いせいで、弱いせいで、大事な人が死ぬくらいなら、私が殺すの。強くなるために必要なら、私はこれからもいくらでも進んで戦いに身を投じる。強くなって、誰にも守られなくてもいいように、誰でも守れるように。もう、大事な人に死なれるのは嫌だから」


 なぁんて、自分の勝手な都合なんだけどね。と顔を上げてアンジェロに笑ってみせると、アンジェロは私の頭にポンと手を置いて、「簡単に、とか言って悪かったな。」そう言うと、その場を立ち去って行った。



登場人物紹介


【教祖様】

大学生の時に始めた宗教サークルが想像以上の成果を上げて新興宗教にまで発展してしまった。

最初は戸惑ったものの寄付金に味をしめてカルト教団にまで発展し、神より金を崇拝するようになってしまった哀れな人。

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