表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

第8話 王とその子ら


 アンジェロの肩越しに、ジュリオさんの砂を見つめた。



 終わった、これで、呪いも、戦いも、終わった。


 すべてが終わった。何もかも、終わってしまった。ジュリオさんは死んだ。戦うと言う責任は果たした。みんなの為に戦って、この戦いで、全てを失った。



 私はもう、一人ぼっち。私にはもう、何もない。戦う理由も、生きる理由も、何もない。



 アルカードさんも、クリシュナも、北都も、ミラーカさんも消えてしまった。ボニーさんとクライドさんは、どこにいるのかわからない。



 私は、全てを失ってしまった。



 誰も、守れなかった。私がもっと早く覚醒していればよかったのに、私が弱かったせいで、誰も守れなかった。私が頼りなかったせいで、私の為にみんな消滅してしまった。もう、誰もいない、何もない。こんな世界で生きる意味なんて、無い。



「お願いが、あるの」



 アンジェロから体を離して、アンジェロを見つめた。もう、頼れる人はいない。死神のみんなにしか、頼めない。頼れない。






「私を、殺して」



 そう言った瞬間、アンジェロは悲壮感と怒りに顔を歪ませて、みんなが私の下に座り込んだ。



「お前、本当ひでぇよな・・・この上更に、お前まで殺せってか・・・」


「ごめんね、でも、私にはもう何もない。頼れる人は、いないの。こんなことになって、誰もいなくなって、一人ぼっちになって、もう・・・こんな世界で生きていけない。生きるのが辛い。だから、私を殺して」


「ダメだ、お前は・・・殺せねぇ」


「お願い! 私もう生きていたくない! でも、自分じゃ死ねないの、だから・・・」


「ダメだよ! ミナ、俺が傍にいるから!」


「ジョヴァンニ・・・でも、もうダメなの! 私、耐えられない・・・私の家族は、誰もいなくなっちゃった・・・、私一人になっちゃった・・・アルカードさんも、クリシュナも、北都も、ミラーカさんも、私のせいで死んじゃった・・・! 誰もいない、独りぼっち、そんな世界に生きていられない。そんな世界で、生きていたくない!」




 喪失、虚無、絶望、どんな言葉を使っても足りない程の悲壮。昨日まで楽しく笑い合っていた愛する人たちを、今日突然失った。その現実は、私には耐えられるような事じゃない。失った物が大きすぎて、重すぎて、私には背負って生きることなんか出来ない。


 後悔してもし足りない、懺悔してもし足りない、どれほど祈っても帰っては来ない。どれほど願っても時間は巻き戻せない。それなら、私も死にたい。生きてなんかいたくない。


 泣きながら殺してほしいと訴える私の頬を指が撫でた。



「ミナ、お前は伯爵と約束したんだろ」

「・・・え?」


 “約束”その言葉にアンジェロを見上げた。




「お前は伯爵の為に生きて伯爵の為に死ぬんだろ」


「そう、だけど、でももうアルカードさんは・・・」


「消滅した。でも、消滅する前に伯爵は言った筈だ。“必ず帰ってくるから、待っていてくれ”って。お前は伯爵に忠誠を誓ったんだろ。なら、待たなきゃいけねぇんじゃねぇのか」


「でも、あんな消え方をして、帰ってくるかわかんないのに・・・」


「帰ってくるだろ、伯爵なら。伯爵は約束は絶対に守るっつったのはお前だろ」


「でも、こんなことになって、こんな思いを抱えたままたった一人で、独りぼっちで待つことなんてできない! 独りで、帰ってくるかもわからない人を待つなんて、できない・・・」


「お前を、一人にはしない」


「・・・え?」


 その言葉に俯いていた顔を上げると、みんなが私に優しく微笑みかけてくれた。




「俺たちにも、もう居場所はない。この作戦終了とともに、死神は解体だ。俺たちもいずれは処分される運命だ。それに現時点で伯爵以下の血族の頂点は、唯一伯爵に血を分け与えられた眷属のお前だ。だから、俺たちはお前の支配下に入る」



 アンジェロの言葉とともに、死神のみんなが私の前に跪いた。



不死王ノーライフキングの愛娘」

「蒼い錬金術師」

「アンフィニサージュ」


「吸血鬼ミナ・エゼキエル。俺たちはお前に忠誠を誓う。一生お前の傍にいる。俺たちもずっと一緒に待っててやる。だから、殺してくれなんて言うな。俺たちと一緒に生きろ」

「みんな・・・」



 すべてを失った。何もかも無くなった。生きる意味もその希望も消えて失せた。でも、私に生きる理由を与えて、共に生きると言ってくれる人達が目の前に現れた。



「お前は前に言ってたよな。誰かが生きていて欲しいと願っているうちは死んじゃいけないんだって。俺は、お前に生きててほしい。伯爵も、死んでいった人たちもそう思ったから、お前は生きてる。そうだろ?」

「・・・うん」

「ミナがいないと、俺困るよ」

「ミナちゃん、俺たちが一緒ににいるから」

「ジョヴァンニ、みんな、ありがとう・・・みんな、本当に一緒に生きてくれるの?」

「もちろん」

「どこにもいかないって、約束してくれる?」

「約束するよ」

「一緒に待っててくれる?」

「あぁ」



 みんなは、私の目を真っ直ぐ見て傍にいるよ、と約束してくれる。


 まだこの世界には、私を必要としてくれる人がいる。

 まだこの世界には、私が生きることを願ってくれる人がいる。

 まだこの世界には、私と生きてくれる人がいる。

 まだこの世界で、待つべき人がいる。



 みんながいてくれるなら、生きていける。

 みんながいてくれるなら、待つことができる。

 みんながいてくれるなら、乗り越えられる。



 胸からアルカードさんの結晶を取り出すと、徐々に上ってきた暁光に強く赤く輝いた。

 その結晶をギュッと握りしめて、心に決めた。



 みんなと生きて、みんなでアルカードさんを待とう。




「みんな、ありがとう。みんなと生きる。みんなと一緒にアルカードさんの帰りを待つ」



 そう返事をした瞬間にジョヴァンニに抱きしめられた。


「ミナ、よかった。生きるって言ってくれてありがとう。俺は、俺たちはみんなミナの味方だから。ずっと傍にいるから」

「ありがとう、ジョヴァンニ。みんなも、引き留めてくれてありがとう。私、責任も果たさずに死ぬところだった。ありがとう」

「ミナ、お前はこれからもきっと辛い思いをすることがあるだろう。でも、俺たちがいるから、一人だなんて思うな」

「うん。ありがとう。みんながいてくれるなら、頑張れる」




 これからもきっと私は毎日の様に、今日の事を思い出して泣くんだろう。今日の事はきっと一生忘れられない。何十年経っても何百年経っても、きっと思い出して泣くんだろう。

 今日受けたトラウマと悲しみは大きくて、本当に大きすぎて、癒えるかどうかも分からない。アルカードさんが帰ってくる保障だってどこにもない。死んでしまった人たちも帰っては来ない。


 でも、それでも耐えなきゃいけない。私には義務がある。アルカードさんは約束を破ったことはない。だから私が破っちゃいけない。待たなきゃいけない。



 いつ帰ってくるのかもわからない。帰ってこないかもしれない。きっと待つことは私にとっては辛いこと。辛さと苦しさが連続で襲ってくるだろう。暗闇の中を歩き続ける恐怖に襲われるだろう。心が折れて挫けてしまいそうになるだろう。




 でも、それでも、待たなきゃいけない。待ちたい、会いたい。私の王に、私の神に。

 あの人の帰りを待たなければ。あの人をもう、一人にしちゃいけないから。



 約束した。アルカードさんの為に生きてアルカードさんの為に死ぬと。

 その約束を違えてはいけない。




 アルカードさん、ずっと待ってます。あなたが帰ってくるのを、みんなでずっと、待ち続けます。



 だから、絶対帰ってきて。アルカードさんの傍で、泣かせてほしい。





「ミナ、俺たちは一生忠誠を誓う。お前は伯爵を裏切らない。俺たちの事も裏切らない。だから、俺たちもお前を裏切らないと約束する」

「じゃぁ私も約束する。みんなが傍にいてくれるなら、これから先何があっても誰ひとり死なせはしない。絶対にみんなを守ると約束する。この身に流れる血にかけて」


 涙を拭ってそう宣言すると、アンジェロはふっと笑った。




「かしこまりました。我々も、この身に流れる血にかけて、我らが王アルカードと、我らが主ミナに恒久の忠誠を誓い、地獄の果てまでご一緒すると約束します。ノストラ・プリンシ(我らが姫君)ペサ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ