第2話 昔話と正義と闘争
「ある所に憐れな吸血鬼がいた。謀略により殺され、恋人を奪われたその吸血鬼は、ヴァンパイアハンターとして名高い教授に仕えていた。その教授が死ぬ間際に言った。「人間の為にその力を遣え。福音をもたらせ」と。そして、ヴァチカンに連れてこられた。その時男は思った。人類への福音などどうでもいい。この状況を利用して、あの憎い男を殺してくれよう」
アルカードさんの言う男、それはきっと目の前で憎しみを湛えた瞳で話を聞いている、この男性のこと。
「それから男は怨敵を殺す為、営々と準備を進め、努力を重ね、着実に地位を重ねた。しばらくして教理省の秘匿部隊の指揮を任されるようになると、その功績をたたえられ、教皇より枢機卿に指名された。その数年後に教皇より命が下った。徹底的に敵を滅ぼせる部隊を創設せよ。
「その命を受け、男は精鋭部隊死神の創設に取り掛かった。だが、問題があった。予てより配下に置かれていたのは教理省の者であり、自分の者ではない。かといって修道院より引き取ってきた子供を育成しても修道会の目がある。殲滅機関は秘匿機関だったからな。その存在を身内にすら知られるわけにはいかなかった。策に窮した男は、ある男の力を借りることにした」
「ある男・・・?」
「お前もよく知っている男だ。その男の名は、イルファーン・スレシュ」
そして出てきた第2の男、イルファーン・スレシュ。インドで襲撃したスレシュファミリーのボス。この男の存在が、この男の名前がここで出てくるとは予想していなかった。
「えっ!? なんで、スレシュが・・・まさか!」
「そうだ。その男はスレシュの力を借りて人員を集め、自分に忠実な私兵、いや、兵器として育て上げた」
「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に、本当ですか!?」
「お前もスレシュの稼業を知っているだろう」
「知ってます・・・人身売買、ですよね。でも、そんなこと・・・」
スレシュの稼業は人身売買。もし、ジュリオさんと繋がりがあるなら、死神たちはスレシュにより連れ去られジュリオさんが買い取った、という憶測が成り立つ。そんなこと、信じられない、信じたくない。そんな、酷い事が、そんな酷い事をジュリオさんがしていたなんて。
思わずアンジェロに視線を移すと、一瞬目が合うとすぐに逸らされて、少し辛そうに俯いた。
「スレシュによってまず最初に連れてこられたのは、アンジェロ・ジェズアルド当時5歳。スレシュにより両親を惨殺され、誘拐された。この事は当時の新聞にも記事が載っていた。アルフォンソ・ジェズアルドとその妻カテリーナが銃殺され、一人息子は行方不明、という風にな。勿論、小僧だけでなく他の奴らの中にもそう言う状況の者はいる」
「・・・うそ、でしょ・・・?」
「残念ながら事実だ。小僧、お前も覚えているはずだ」
あまりの事に、言葉が上手く出てこなかった。アンジェロに聞いていた話と違う、きっと隠していたんだろう。でも、酷すぎる。あまりにも酷すぎる。それほどの過去を背負わされたアンジェロがどれほどの思いで生きていたか、そう考えたら辛くて仕方がない。
アルカードさんに話を振られたアンジェロは、より辛そうに顔を歪める。
「・・・でも、あれは・・・」
「強盗の仕業、か? 残念だがそれは違う。男の命を受けたスレシュの部下がやったことだ。だが、お前もそのことを知っていたはずだ。レミがお前を脅迫した時に言っていたな。「毎晩のように・・・」その続きはこうだ。「主人の部屋に侵入して何やら調べていた」。小僧、お前は知っていたはずだ。お前の仕えている男が裏で何をしていたのかを、真実を、自分の存在の意味を。知っていて、知ったことを後悔して認めようとしなかった、それだけだ」
あの時、レミにプロポーズされた時にレミがアンジェロを脅迫していた内容は、そう言う事だったんだ。アンジェロは、本当は真実を知ってたんだ、知っていてそれでもなお、ジュリオさんを信じたかったんだ。
「だって、信じられるかよ・・・ジュリオ様は・・・」
「ウソはつかない、か? 現についているというのに? 何十年もお前たちを騙し続けていたのにか? バカバカしい、そんなものは忠誠とは言わない。盲信と言うんだ」
「でも、そうだとしても、俺は・・・!」
「まぁいい、続けよう。その後も徐々に人員を集め、最終的に11人の子供たちを買い入れた男は、自分に忠実になるように育て、幼少から戦闘の英才教育を施した。全ては自分に忠実で、自分の命令に絶対に服従する兵器、いや駒ともいうか、そうするために。そして、子供たちが心身ともに成熟し、ゆるぎない忠誠を確立した時に、男はある洗礼を施した」
「伯爵、待ってくれ、それは言わない約束だろ!」
アルカードさんがそこまで言うと、突然アンジェロは顔色を変えて私に視線を移した。驚いた。アルカードさんがアンジェロと約束を交わしていたことが。でも、それ以上に驚愕する、言わないと約束した重大な秘密。その約束を破らなければならないほどの状況に。
「小僧、状況を考えろ。既に手遅れだ。お前たちは死神の洗礼を受けた。洗礼の際に約束した。その内人間に戻してやるとな。それを信じて小僧たちはついてきた。それがどんな方法かも知らずにだ。そうだな?」
「死神の洗礼?」
「ミナ、お前は気付かなかったようだが、小僧も他の奴らも既に吸血鬼化しているし、お前と同い年でもない」
「えぇ!? ウソ!」
心底驚愕した。完全にみんな人間だと思い込んでいた。あまりのことに思わず飛び上がりそうになるほどに。
「小僧たちは隠していたし私も黙っていたが、お前おかしいと思わなかったのか? 仲間外れにされた時、美味しそうな匂いがしたと言ったな。吸血鬼が食欲を感じるものは血液以外にはない。いくらお前が手抜きしたからと言って人間がお前の力、スピードに対抗できて、さらには勝てるはずがないだろう。普通の人間には見えないはずの悪魔を小僧が認識できたはずがないし、こいつらが夜間しか活動しなかったのも、異常なほどに才能に長けているのも全て吸血鬼だからだ」
そう言われてみると違和感を感じたことは今まで何度もあった。けど、自分が吸血鬼だったせいで気づきもしなかった。でも、だからこそ泉の様に疑問が溢れ浮かんだ。
「で、でもジョヴァンニは人間でしたよ!」
「今から約17年前、戦闘中に一人死んだらしいな。ジョヴァンニはその後釜として連れてこられたわけだ」
「そんな、じゃぁジョヴァンニ以外のみんなは・・・」
「見た目はこの有様だが、年齢はお前より一回りは上だ」
「でも、それならお屋敷の人たちが気付かないはずないじゃないですか!」
「気付かない。気付かなくされていた」
「どういうことですか?」
「結界だ。結界の力で屋敷にいる間は力を抑え込まれていた。こいつらの様に弱い吸血鬼なら人間並みにまで能力が落ちていたはずだ。私達くらいになると大して影響は受けないが。同族の私達にはわからなくても、人間からは普通の人間の様にしか見えなかったはずだ。だが、城に来たことで結界を張ることが難しくなり、死神は以前より多く駆り出され、出張も増えたというわけだ」
てっきり結界は周囲からの防御の為だけだと思っていた。城に来て結界が張られなかったのは私達がいたせいだと思い込んでいた。私達が多忙を極めていたのにそう言う理由があったことを初めて知った。
「あの結界は、その為に・・・」
「そうだ。その為でもある、と言った方が正解だがな。話をつづけよう。ある時、男はスレシュと連絡が取れなくなったことに気付いた」
「私達、ですか」
「そうだ。それで男は調べさせて、私の存在に気付いた。これがどういうことかわかるか?」
「私達がインドにいる時から知ってたんですね・・・」
「それだけではない。男は私の存在を知って、イスラムに潜入させていた工作員に指令を送った。情報を操作し、スレシュの屋敷にいる化け物を掃討せよ、とな」
「ま、まさか! ウソ、ウソでしょう!? そんな!」
アルカードさんの言葉に一瞬だけ、思いもかけない事実が頭に浮かんだ。信じられない、信じたくない、そんなことがあっていいはずがない。
「残念ながら、これもまた事実だ。あの時ムジャヒディーンが言っていただろう。化け物がいると聞いてやってきた、と。ずっと疑問に思っていた。聞いた? 誰に? あの時知っていたのはシャンティ達だけだったから内部の者はあり得ない。インドにいた頃は私達の存在を知る者はいなかった。外部の者でもあり得ない。
「だが、例外が存在した。やはり外部の人間で、私達の存在を知り得る者、そして私に恨みを抱く者。その対象は一人しかいない。クリシュナを殺した黒幕は、その男だ。本来なら私を殺す気だったのだろうが、ムジャヒディーンが暴走したせいで結果的にクリシュナが殺された」
信じられなかった。知りたくなかった。ジュリオさんがクリシュナを殺した黒幕だったなんて。ジュリオさんの殺意で、クリシュナが死んでしまっただなんて。ジュリオさんが、本当の仇だったなんて―――――!
それが真実なら、そう思い至るとより恐ろしい想像が頭を駆け巡る。
「そんな、信じられない、信じられない! そんなのあんまりです! そんな、そんなことが・・・」
「そう、あまりにあまりだ。その後運よく私達がイタリアにやってきたことで、とうとうその男の満願成就の夜がやってきたわけだ。インドの工作員から私たちの行先を聞いた男は、偶然を装ってクライドと出会い城へやってきた。そしてお前を屋敷に連れ去り、100年間温め続けていた作戦を教皇に話し、作戦を実行に移した」
恐怖していた想像が、的中してしまった。どこまで、一体どこまで・・・どこまでも続く憎しみと呪いの連鎖に絶望感が広がる。
「じゃぁ、最初から全部、ウソ・・・? アルカードさんと友達だって言ったのも、不可侵条約も、私を愛してると言ってくれたのも・・・」
「そうだ。全ては計画の一部でしかない、ウソだ。最初はミナを奪取できればそれでよかった。だがお前は“ミナ”ではない。その男にしてみれば“ミナ”の姿をしていないお前には道具として以外に価値はない。しかし、その事が男にとっては都合のいい事実となった。私達の城へ入り込む口実になったからだ。
「ただ、予想もしていなかった事態が起きて少し変更はあったようだな。本来ならばお前を心身ともに傾倒させ、私を絶望の底で殺すことが目的だったと思うが、その前に小僧がお前に手を出して、どういうわけかその後親しくなってしまった。それで男は作戦を変更した。
「私とお前をより絶望の中で殺すなら、小僧とお前を親しくさせていた方が都合がいいし、より面白くなる。お前が心底小僧を信頼してそれを私も認めたなら、小僧に裏切られたと知った時に味わう絶望はいかほどか、そう考えたのだろう。そして男は小僧に、お前に接近するよう命令した」
「そんな・・・じゃぁ、アンジェロは、みんなは最初から知ってたの? 最初から知ってて、私を殺そうとしてて、友達だって言ったの?」
「それは・・・」
思わずアンジェロに視線を移すと、アンジェロは悲しそうに視線を逸らす。親友だと思っていた、大事な友達だって思っていた、親友だと言ってくれたアンジェロにも、最初から裏切られていたの―――――?
そう考えると、涙が溢れてきた。そんな私にアルカードさんは強く語りかける。
「違う。小僧たちがこの作戦を知らされたのは最近だ。思いのほかお前と小僧が親しくなったものだから言い出せなくなったのだろう。まぁ、それ以上に先に話してしまってボロが出ても困るだろうからな」
その言葉に心底安堵した。安堵の表情を浮かべたのに気付いたアルカードさんは言葉を続けた。
「そして、ついに最大の好機が訪れた。私達の懐に入り込み、警戒を解くことに成功した。私たちの能力のスペックを図り、そのデータを得、更には私の力が落ちたことで、とうとうこの夜がやってきた。満願成就のこの夜が。魑魅魍魎を追い払い、亡者の魂を焼き尽くす、ヴァルプルギスの夜が。そうだな、ジュリオ」
言葉と共に強い視線を向けるアルカードさんに、ジュリオさんは憎々しげに笑いかける。
「・・・随分と長い昔話を・・・ご苦労様です。さすが、伯爵は本当ムカつきますねぇ。一体どんな手を使って調べたんです?」
ジュリオさんの質問と共に、アルカードさんの後ろにジョヴァンニをはじめとして、死神のみんなが整列した。
「はぁ、お前ら、逃げろと言っただろう」
溜息を吐くアルカードさんに死神たちは強い視線を向けて言い放った。
「逃げません。俺達は自分の正義を貫きます」
「逃げろと言った意味を理解してほしかったんだがな」
その言葉に不思議そうに視線を向ける死神たちに、ジュリオさんは驚愕と憎悪の視線を向けていた。
「お前達・・・裏切ったのか」
そう呟いたジュリオさんにアルカードさんは向き直り、強く睨みつけた。
「こいつらは駒ではない。こいつらは裏切り者ではない。私の血が流れるれっきとした私の臣下。反逆者はお前の方だ。お前がこいつらの信頼に反逆した結果だ」
その言葉にジュリオさんは悔しげに顔を歪め、私を睨む。
「く・・・そうか、そうか、その為に入隊を許したのか! その為のミナか!」
「そうだ。ミナは決して裏切らない。私やお前と違ってな。こいつらはミナを信奉し、ミナに忠誠を誓ったミナの部下だ」
アルカードさんはこの計画を随分前から悟っていた。いや、杞憂と言うレベルだったのかもしれない。でも、それでも死神たちを味方につけるために、恐らくアンジェロがいたから、だから私が死神に籍を置くことを許したんだ。
ジュリオさんへの忠誠と、私への忠誠とで彼らは板挟みになって苦しんだだろう。それでも彼らは、ここへ立った。逃げもせずに、苦しみを乗り越えて、前に進み出る。正義という剣で自らを奮い立たせて。
「ジュリオ様、俺たちはあなたを裏切るつもりはありません。ですが、伯爵に言われました。主人が誤った判断をしそうな時には、それを止めるのも部下の役目だと。ジュリオ様、やめる事は出来ないのですか? もう、やめませんか? 伯爵を許してあげる事は出来ないのですか?」
「許す? 許すだって? 冗談じゃない! 俺がこの100年どれほど苛まれてきたのかお前たちにわかるのか! どれほどその男を憎んだか、恨んだか、お前たちにわかるものか!」
「ですが、もう、今更どうしようもありません。あなたの“ミナ”はもういないんですよ? 今更伯爵と戦ったところで何になると言うのですか?」
クリスティアーノは落ち着いた口調でジュリオさんの説得に臨むも、ジュリオさんは興奮した様子で全く取り合ってくれない。それでも引き下がらないのは、ジュリオさんへの本物の忠誠心。
ジュリオさんにこんなことをしてほしくないから、もう前を向いて生きて欲しいと願うから、だから止めたいのだと、ジュリオさんに気付いてほしい。気付いてほしいのに、ジュリオさんの心は憎悪に支配されていた。
「あぁ、“ミナ”はいない、いないよ。彼女は人間として死んだ。それなら俺も人間として死にたい。俺は伯爵を殺して人間に戻って人間として死ぬ。俺と“ミナ”の人間としての生死を奪ったその男を許すことなんてできない、できるはずがない。俺はこれほど苦しんでいるのに、さっさと新しいミナを得て呪いから解放されたその男を、許すことなんかできるはずがない!」
「ジュリオ様・・・」
「クリスティアーノ、もういい。ジュリオには何を言っても無駄だ。お前たちはもう下がれ、死ぬぞ」
「でも!」
激昂するジュリオさんに説得は無駄だと諦めた様子のアルカードさんがクリスティアーノに引き下がるように命ずるも、なかなか引き下がろうとしない。その時、くつくつと低い笑い声が聞こえて、地を這うような低い声が響く。
「そうだ、お前達、裏切ったからには死ぬ覚悟をしろよ。お前たちがいなくても、俺にはエヴァンゲリウム・ディアボルス2000人がいる。殺してやる、裏切り者は全員皆殺しだ! そうだ! 昔から裏切り者は殺されて然るべき! これは宗教裁判だ! お前らはイスカリオテのユダだ! つまらない正義感をぶら下げて俺を伯爵に売った! 銀貨30枚を神殿へ投げ込み首を吊って死ね! それができないと言うのなら、俺が死刑を言い渡してやる。俺がその首を切り落としてやる!」
「ジュリオ様、俺たちは裏切ってなんか・・・! ただ、俺たちは止めたくて・・・」
「黙れ! これから死ぬ奴らの言葉など聞く価値もない! さぁ、エヴァンゲリウム・ディアボルス、最大の晴れ舞台だ。存分にやれ! 死刑執行だ!」
ジュリオさんの声と共に私達に向けられた数えきれないほどの銃口に、咄嗟にテーブルをひっくり返し盾にして羽を広げた瞬間、雨の様に銃弾が降ってきた。銃弾のテンペストの中で城のドアが開かれる音がして、ジュリオさんが城の外に飛び出していくのが見えた。
この銃撃でいずれは外に炙りだされる。そして外には大軍が待ち受けているのだろう。そんな場所にいつまでも死神たちをとどめておくことなどできない。今なら味方の振りが通用する。
「お願い! みんな逃げて!」
「何言ってんだよ! ミナ達だけ置いて逃げられるわけないだろ!」
「うっ!」
「隊長!」
「お願い・・・今の私にはみんなを守る力はない。だから逃げて! お願い!」
「じゃぁ俺たちがミナちゃんを守るよ!」
「無理よ! みんな死んじゃう! お願い、お願いだから逃げて! ぐっ!」
「ミナ!」
問答をしている間にもテーブルには穴が開き、徐々に盾としての役割を果たさなくなってくる。
「・・・ジョヴァンニ、あなたは私に恒久の忠誠を誓ったたった一人の息子、そうだよね?」
「そうだよ!」
「みんなは私に忠誠を誓った私の部下、そうだよね?」
「そ、そうだけど今はそんなこと・・・」
「ならば命令よ! 今すぐこの場から立ち去りなさい! 私に忠誠を誓ったなら従いなさい! 命令よ! 今すぐ逃げなさい!」
「ミナちゃん!」
「命令に逆らうと言うのなら、許しはしない。早く逃げなさい!」
私の怒号に隊員たちは狼狽える。その時、アルカードさんが口を開いた。
「ジョヴァンニ、あの時約束したはずだ。止められなかった時は、逃げろと」
その言葉を聞いて、ジョヴァンニは悔しそうに俯く。
「くっ・・・クソ! クソっ! ・・・みんな、行こう!」
「ジョヴァンニ!? お前・・・」
「俺たちがいたら足手まといだ! ミナの命令には絶対服従だ! 俺はミナに忠誠を誓ったんだ! みんなもそうならミナに従って逃げろ!」
「あぁ・・・クソ! クソッ! 畜生! ミナちゃん! 死ぬなよ!」
「誰に向かってモノを言ってるの? 死ぬわけないじゃない・・・みんなも、死なないでね」
「絶対、迎えに来るから! 待ってろよ!」
私に振り返りながら逃げるみんなを見送っていると、死を、感じた。
「みんな・・・ごめんね。ありがとう、生きてね」
逃げるみんなの背中を見てそう呟くと、不思議と自分の中に湧き上がる死を心地よく感じる。死地に生きる、気力がわいてきた。
その感覚を心の中にとどめ置きながら、私の隣に佇んで彼らを見送る二人を顧みることなく言葉をかけた。
「アルカードさん、ミラーカさん、終わらせましょう。この戦いを。呪いの連鎖を」
「あぁ、今宵すべてに決着をつけよう。私が蒔いた種だ。私が刈り取らなければ」
「ジュリオを呪いから解放してあげましょう」
そう言うと二人も視線に敵意を宿らせた。そう、もはやジュリオさんとエヴァンゲリウム・ディアボルスは敵だ。私達を謀り、裏切り、殺そうとしている敵。
呪いを、不幸の連鎖を、すべてを終わらせる。殺さなきゃいけない、宿敵。死を以て臨む相手には、死を以て立ち向かわなければならない。それが闘争の契約。