第1話 聖夜の結婚式、そして祭典
12月24日
ヴァルプルギス
それは西欧に古くから伝わる祭りの一つ。
その時期、その日に、地獄から溢れた亡者たちや悪魔や魔女の魂が街を跋扈すると言われる。
その魂を祓うため、かがり火を灯し聖なる炎で街を清め、悪魔を追い払う。
それが、ヴァルプルギスの夜。
そんな夜に結婚式を迎え、ミナはアルカードに贈られた淡い藤色のワンピースと、青いダイヤを胸に飾り、ミラーカに貰ったコバルトブルーの髪飾りで髪を結いあげてリビングに降りた。
「折角結婚式なのに、なんでアンジェロはいつもと同じ格好なの?」
「結婚式だからだろうが。俺神父!」
「あ、そうだったね。ていうかアンジェロ祝福とかやったことあるの?」
「ねーな」
「エセ神父め・・・」
「うるせぇ」
思わず自分の結婚式の事を思い出した。あの時はクライドさんが神父さん役をやってくれたのはいいけど、グダグダだったなぁ。このエセ神父に任せて大丈夫なんだろうか。
「あ、一つ忘れてたけど、宣誓の時は神に誓わないでよ」
「それもそうか。でも誰に誓えばいいんだ?」
「私の時はアルカードさんに誓ったよ」
「伯爵かよ。まぁ伯爵以外にはいねぇか」
「そうそう。ちゃんとやってね? 大丈夫? ちゃんとできる?」
「この俺様に不可能はない」
「よく言うよ・・・そして大袈裟」
「うるせぇ」
アンジェロとそんな話をしていたら、アルカードさんとミラーカさんも正装で降りてきた。二人ともすごく綺麗。まるでどこかの国の王様と王妃様みたいだ。むしろ主役級だ。
「ミラーカさんはもうさすがですね。超キレイですよ。超似合いますよ」
「本当ですね。迫力美人とはまさにミラーカさんの事ですね」
ミラーカさんの美貌に圧倒されたのはアンジェロも同様だったらしい。この男が他人をほめるなんて天変地異の前触れとしか言いようがない。
「アンジェロが女の人を褒めるなんて・・・」
「ミラーカさんクラスになりゃ誰だって褒めるだろ」
「・・・確かに」
「褒めて欲しけりゃお前は整形が必要だな」
「!! ヒドーイ! なんでそう言う事言うの!」
「ハァ、コレだもんなぁ。中身がこれじゃ着られてる服もアクセサリーも気の毒だ」
「ムカつくー!!」
「馬子に衣装着せても所詮馬子は馬子だよな」
ムカついてアンジェロに掴み掛ったら余計ムカつくことを言われた。なんて奴だ。ジュリオさんの紳士っぷりを見習え! バカ!
心の中で毒づいていたら、ふと気づいた。
「ミラーカさん、アルカードさん、もうあの二人の着付けは終わったんですか?」
「えぇ、しばらくしたら降りてくるはずよ」
「そうですか! 楽しみ!」
使用人さん達に促されて席に着き、二人が現れるのを待った。
けれども、どれほど待っても二人は現れない。さすがに城の中はざわついてきた。
「どうしたんですかね?」
「誰か呼びに行って来い」
「あ、私行きます」
アルカードさんの命令に立ち上がろうとしたらジュリオさんが座ってて、と制止した。
「ウチのにやらせるから。ミナも主賓でしょ」
「あ、ありがとうございます」
大人しく座りなおすと、アンジェロ以外の死神のメンバー全員が階段を上って行った。
あれ? 呼びにやるのに10人がかりなんて、そんなに必要? そう思って眺めていると、死神たちの姿が見えなくなった瞬間、アルカードさんが口を開いた。
「ジュリオ、今まで我慢させて悪かったな」
「はい?」
「だが、今しばらく我慢してもらおう」
「・・・なんのことですか」
「勿論、“オペレーション・ヴァルプルギス”だ」
その言葉を聞いた瞬間、ジュリオさんは顔色を変え、慌てて立ち上がった。そして、城に低く笑い声が響き渡る。
「くくく・・・そうか、さすが伯爵。お気づきでしたか」
「まぁな。気付いたのは最近だが、一応わかってはいる。今更逃げられないことも、既に包囲されていることも」
アルカードさんの言葉を聞いたジュリオさんがパチンと指を鳴らすと、城中の至る所からジャキンと音が聞こえて、おびただしい数の銃口がこちらに向けられていた。一体、これは、何? 何が起きてるの?
当惑する私をよそに、二人は睨みあいながらも話を続ける。
「そうですね、今更手遅れです。しかし待てとはなんでしょう? 今更助けを求めても無駄ですよ?」
「当然そんなことはわかっているし、助けを求める相手もいない。最後に、話をさせて欲しいだけだ」
「話? まぁ最後と言うなら聞いてもいいでしょう。一応言っておきますが、100年前の謝罪など今更受け付けません。それでよければ、どうぞ?」
ジュリオさんの言葉に一瞬だけアルカードさんは動揺したように瞳を揺らした。それを見て気付いた。アルカードさんは説得するつもりだったのだと。この事態を納めようとしているのだと。でも、先手を打たれた。
少しだけ瞳を伏したアルカードさんは、私の方に振り向いた。
「ミナ、昔話をしてやろう。ある男の話だ」
「え? むかし、ばなし?」
突然話を振られて一瞬たじろいだ私に、アルカードさんは躊躇うことなく口を開いた。




