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第9話 開戦直前


12月18日



 新しく命令が下りたというアンジェロのいいつけで、再び死神たちは集合した。その指令を聞いて、死神たちは全員驚愕した。



「そ、そんなことを、俺達にしろと・・・?」

「そうだ」

「あんまりだ、酷すぎる・・・」

「最初から、こうするつもりだったんだ、きっと。最初から裏切るつもりで・・・」

「お前らは心配しなくていい、俺がやる」


 アンジェロの発言に全員驚愕と悲壮を表情に現した。



「何言ってんだよ! 副長が一番ダメだろ!」

「そうだよ、副長は・・・」

「そうだ、俺が一番近いから、だから、俺がやる」



 アンジェロの言い分もわからなくはない。自分たちの正義に照らし合わせるなら、それこそが正義。でも、誰よりも何よりも一番辛い選択。


「誰かがやらなきゃいけねぇとしたら、それは俺しかいない。俺以外にはやらせねぇ。俺が、殺る」



 アンジェロの強い言葉に、その場の全員は口をつぐんだ。もし、その時が訪れたら、その時は、アンジェロはきっと絶望するだろう。それでも――――――――



「伯爵とクリシュナさんに言われたからな。俺も部下なわけだし、上官が意に沿わないことをしたら、それを正すのも部下の役目だ。今度こそ、その役目を全うする」



 その言葉に、みんなはただ黙って頷くしかなかった。




 この時すでに作戦名“オペレーション・ヴァルプルギス”実行まで1週間を切っていた。着実に近づく破滅の足音に、いまだミナは気付かない。








12月23日


 

「んもー! アルカードさん! 明日結婚式なのに! オリバー連れまわしてどこ行ってたんですか!」

「あぁ、うるさい。お前もさっさと支度をしろ」

「もー! オリバーどこ行ってたの!?」

「ミナちゃんにはヒミツ」

「んもー! どいつもこいつもー! こっちは準備で大忙しなんだから!」





 いよいよ、全ては明日。目前に控えて、アルカードは死神に最後の招集をかけた。



「明日の細かい作戦内容は?」

「こちらです」


 渡された資料に目を通していく。できる事なら、これに目を通すまでもなく止めたかった。最後のチャンスは明日。



「わかった。では、お前たちはボニーとクライドを呼びに行くふりをして、そのまま城から逃走しろ」


 以前からそう言われてきた。戦いが始まれば、すぐに逃げろと。でも、死神たちは誰ひとりそのことを納得も理解もしていなかった。



「イヤです。俺達も戦います」

「ダメだ。お前等ではいたずらに死ぬだけだ」

「だとしても、俺らだって戦力としては十分に役立ちます」

「そう言う事を言っているのではない。誰を敵に回すのか考えろと言っているのだ」


 誰が敵に? 誰もが敵に。でも、それでも彼らは自分たちの信じるものを曲げたくはなかった。ミナの為に、周りの人々の為に、憎しみや復讐心なんかで戦いを引き起こすことが到底正しいとは思えなかった。

 心底、引かなかった。クリスティアーノが、進み出てくる。


「副長が言っていました。上官が誤った判断をしたときはそれを正すのも部下の役目だと、そう伯爵とクリシュナさんに言われたのだと。それこそが正に俺たちの忠誠であり正義です」



 その言葉を聞いたアルカードは少し驚いたもののすぐに声を上げて笑い出した。


「ハハハ、全くお前らは大した奴らだ。実に優秀だ。本気で私の部下に欲しいくらいだ。500年前にお前らが私の臣下として国に仕えていてくれたら、私も吸血鬼などになっていなかっただろうな」

「臣下・・・国?」


 急に笑われて賛辞を述べられたことにも驚いたが、死神たちはその単語も気になった。すかさずアルカードに話を聞いていたジョヴァンニが耳打ちする。


「伯爵は生前国王だったんだよ」

「マジか」

「マジで?」

「マジで」

「いやでも、言われてみるとそれっぽい」

「確かに」

「偉そうだしな」

「本当に偉かったんだな」

「なんか納得」

「でも伯爵の下で働くのって大変そうだよな」

「毎日無茶ブリだぜ、きっと」

「ミナちゃんがいれば全部ミナちゃんに押し付けりゃいいんじゃね?」

「あ、そうだな」



「お前ら、いい加減にしろよ」

『すいません!』



 思わず与太話になってしまってアルカードに睨みつけられた死神たちは急に萎縮した。溜息を吐いたアルカードは再び死神に目を向ける。



「全くお前らは。明日で運命が決まると言うのに。肝が据わっているのはいいことだが、これで明日死んだら笑い話にもならんぞ」

「・・・そうですね」

「とにかく、私としては逃げて欲しい」

「逃げません」

「逃げろ」

「お断りします」

「とりあえず逃げるという事も一応考えておけ」

「・・・・・・わかりました」



 アルカードが言い方を変えると微妙に悩み始めた死神たちは、渋々受け入れた。死神たちは逃走の準備もある程度は進めていると語った。それを受けてアルカードは新たに指令を下す。



「戦いが終わって、もし私達が誰か一人でも生き残っていたら、生き残りと私の棺桶を持ってインドへ逃げろ」

「わかりました。全員揃って逃げましょう」

「できることならな」

「全員でと約束してください」

「約束する事は出来ない。努力はするが」



 アルカードは約束は守る。だからこそ守れない約束はしない。約束できないという事は、誰かが欠ける可能性が高いということ。

 ミナの為に止めたいのに、誰かが欠けてしまっては、特にそれがアルカードなら、例え生き残ってもミナは苦しむだろう。


 でも、それでも決着をつけると言うアルカードの決意に抗う事など不可能で、死神たちは静かにその指令を受け入れた。



 いよいよ、明日。明日で運命がすべてきまる。




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