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第6話 会議(1)

 書斎に行ってそれらしい本を探し出し、パラパラとめくる。書斎の本は主に、化け物の生態とか呪術とかの関連の本が多くて、さすがにピンポイントな記述はなかなか見つからない。

 本を読みふけっていると、急に書斎の電気がパチンと点いた。


「うぉ! びっくりした…お前明かりも点けないで何してんだ」

「あ、アンジェロさん。調べものです。私暗くても見えるし」

「だとしても明かり位点けろよ。こっちがびっくりするだろ」

「あ、そっか、すいません」


 アンジェロさんは何やらメモを見ながら本を探している。そういえば、アンジェロさん「ミナ」の事知ってた。この人なら相談に乗ってくれるかも!


「アンジェロさん! 今忙しいですか!?」

「見りゃわかんだろ」

「・・・ですよね。すいません」


 がっかりして本に視線を戻すと、ハァと溜息が聞こえてきた。



「仕事片付いたら来てやるから待ってろ」

「わぁ! ありがとうございます!」



 本を読みながらずーっと待っていると、アンジェロさんが書斎に戻ってきて、で、なんだよ? と不機嫌そうにしながら私の隣に腰かけた。



「あのね、相談があるんです」

「乗ってやってもいいけど、見返りは?」

 聖職者のくせに、がめついなぁ…



「お金持ってないから銀行行って盗んできます。いくら欲しいですか?」

「そんな汚れた金いるか! アホか! バカ!」


 がめついくせにそういうのは許せないのか、ものすごい勢いで怒られた。その勢いに圧倒されて思わず「すいません・・・」と謝ってしまった。


「じゃぁ何がいいんですか?」


 気を取り直して、逆に尋ねてみると、アンジェロさんは少しだけ宙を仰ぐようにして悩んで、すぐに振り向いた。


「そうだな…じゃぁこの前の続」

「もういいです」

「遮ってんじゃねーよバカ。チッ、しょうがねぇな、タダで聞いてやっから。なんだよ?」


 本当、この人の口と性格の悪さを何とかしてほしい。





「・・・あの、さっきジュリオさんと話してたんですけど…かくかくしかじかで二人を仲直りさせてあげられないかなぁって。どう思います?」


 私の話を聞いたアンジェロさんは、腕組みをしながら背もたれにギッともたれ掛って宙を仰ぐ。


「うーん、俺の知る限りじゃ、ジュリオ様は相当恨んでる感じだったけど、そんなこと言ってたのか」

「多分私が手に入ったから、少しは気が済んだんじゃないかなーと。それに、本物は亡くなってるわけだし。今なら何とかなるかなぁって」

「ふぅん、なるほどね。ていうか、俺関係ないしどうでもいい」


 そう言いながら体を起こして頬杖をついたアンジェロさんは、本気で興味がなさそうだ。



「もう! そんなこと言わないでくださいよ! ていうか、それ言うなら私も関係ないんですけど・・・」

「あー、そういえばお前とばっちりだよな。何誘拐されてんのお前。バカだな」


 そう言うとアンジェロさんはケラケラと笑い始めた。くそぅ、他人事だと思って…ていうかバカじゃないし!



「笑い事じゃないですよ…とばっちりで誘拐なんて前代未聞ですよ。大体、今考えるとジュリオさんの“伯爵は俺のミナを奪ったから、俺が伯爵のミナを奪ってもいいはずだ”って言う理屈はおかしいと思うんだけど。本物の“ミナ”ならまだしも私別人だし!」


「ていうかお前、伯爵の女だったのか?」

「違うから余計おかしいんですよ! 私別の人と結婚してるのに! 死んじゃったけど・・・」

「はぁ!? お前既婚者!? お前が!? バカなのに!?」

「・・・どういう意味ですか。ていうかバカじゃないし」

「ハァ。世の中には物好きがいるもんだな」

「失礼な・・・」

「ていうか、話脱線させてんじゃねーよ、バカ」

「私のせいじゃないのに!」



 本当アンジェロさんってムカつくな! その内吸血してやる!




「じゃちゃんと考えて下さいね! 仲直りには賛成ですか? どうしたらいいと思いますか?」

「それに関する賛否は置いといて、無理だろ」

「やっぱ無理なのかなぁ…」

「普通に考えて無理ってわかんだろ、バカ」

「もう! さっきからヒドイ! バカバカ言わないでくださいよ!」

「バカなんだからしょうがねーだろ。バーカ」

「むきー! んもー! もういいです!」


 あーもう! ムカつくー! アンジェロさんに相談した私がバカだった! …いや、バカじゃない! くっそぉ、もういいもん。自分で考えるもん!


 イライラしながら再び本を開いて読みだすと、横っ面に視線を感じる。なんだよ、なんでまだいるんだよ。もー、早く出ていけばいいのに。チラ、と視線を送ると、アンジェロさんは相変わらず頬杖をついて私を見下ろしていた。



「何見てんだ、コラ」

「こっちのセリフなんですけど…」

「あぁ? 調子乗んな」



 あぁ、怖い。ていうか腹立つ…。この人のこの横暴さとムカつき度は、アルカードさんに匹敵するな。いや、超越するかも。あぁ、クリシュナに会いたい。慰めて欲しい。



「お前さぁ、なんで仲直りさせたいわけ?」



 急にアンジェロさんが話を戻すものだから、少しキョトンとしていたら「さっさと答えろ、バカ」とまた怒られた。


「えーと、ジュリオさんは友達だと思ってたって言ってたし…アルカードさん、伯爵は何考えてるかわかんないけど、もし、同じように思ってたら、“ミナ”のことを解決して、仲直りした方がいいのになって。それに、伯爵は最強の吸血鬼だし、ジュリオさんにとって最大の敵で、伯爵から見てもそうだろうし。二人が仲直りしたら、無駄に血を流すことも誰かが死ぬ事もないし。その方がみんなハッピーなのになって」


「みんなハッピーねぇ…だとすると、お前の意見を踏襲するなら“ミナ”の事を解決しなきゃいけないわけだろ。ジュリオ様はまぁいいとして、伯爵はどうなんだ?」

「それが一番の問題なんですよ。あの人、異常なまでに執着してるから。彼女を忘れられなくて私を“ミナ”っていうお人形にしてたくらいに。気持ちは分からなくもないけど、そこまで“ミナ”に妄執してるのを吹っ切らせるのは、難しそうなんですよね」



 私も頬杖をつきながら答えて、ふぅと溜息を吐いた。自分で言っといてなんだけど、お人形か…あぁ、傷つくなぁ。


「お前人形だったのか。確かに異常だな。んー、だとしたら尚更難しいんじゃねーか。今頃大事なお人形を奪われて、怒り狂ってんじゃねーの」

「やっぱりそう思います? でも、何とかしたいんですよ。私の為にも伯爵の為にもさっさと吹っ切ってもらった方がいいし。その為にどうしたらいいと思います?」

「他に女を作るしかねーだろうな」

「ですよねぇ…てことは、こっちでできることないじゃん!」

「そういうことだな。待ってりゃその内どうにかなるんじゃねーの?」

「そうかなぁ…100年経ってもこれなのに、時間が解決するようには思えないけどなぁ。はぁ、伯爵がもう少ししっかりしてくれてたら、私も傷つかずに済んだのに…」


 おっとぉ! 思わず余計な本音が出ちまった。あぁ、さっきまで興味なさげだったアンジェロさんがなんか真顔になってるし。

 ジュリオさん側の人間から同情されたら余計ややこしくなる! これ以上敵対されたら仲直りできなくなっちゃう!



「い、今のは、聞かなかったことに…」

「…お前、なんでそんな奴に着いて行こうと思ったんだ? お前バカだろ」



 同情はされてないみたいだけど、なにこれ、怒られてんの? 無表情でわからん! ていうか、私が怒られてんの? これ。


「え、そりゃやっぱり私のご主人様なわけだし。信頼してたし、大事にもしてくれたし!」


 若干必死になりながらそういうと、怒られていたのにさらにトドメの一撃がやってきた。



「お前を大事にしてたのはお前が人形だったからじゃねーのか?」

「うわぁ…それ言っちゃいます? マジ傷ついた…」

「あ、悪い…」


 さすがに人から言われたら傷つくぜ! はうーと机にうつぶせになると、なんだかアンジェロさんもバツが悪そうだ。悪気があったわけじゃないだろうし、謝ってくれたし、赦してやろう。


「はぁー。いや、いいですよ。事実だし、わかってたから」



 机から顔を上げてちゃんと笑顔で言ったのに、まだアンジェロさんは真顔のままだ。なんかリアクションしてよ。


「・・・お前、わかってて着いて行ってたのか?」

「そうですよ。どんな理由があるにせよ、私を大事にしてくれてたことに変わりはないしそれに、ちゃんと“ミナ”じゃない私を大事にしてくれてる部分もあったし、何よりも私が傍にいたかったんです。マスターだし、色々助けてもらったし、私が大事に思ってたから」


「でもお前は、傷ついたんだろ?」

「うん、まぁ、そうですね・・いや、ていうかこの話やめません!? この雰囲気がなんかイヤ!」


 なんだかこのフワフワした感じが気持ち悪くて、無理やり話を区切ると、アンジェロさんは溜息を吐いて興味なさげな顔に戻った。



「まぁいいけど。で、仲直りさせてお前はどうしたいわけ?」

「え? ん? 何がですか?」


 仲直りをさせることしか考えてなくて、どうしたいとか全く考えてもいなかった。


「だーかーらー、お前はどうしたいの? 仲直りさせて城に戻りたいのか?」

「いや、何も考えてなかったですけど。城に戻りたいとも思ってないです」

「は!? 思ってねーの!?」



 どんだけ意外だったのか知らないけれども、アンジェロさんは鳩が散弾銃を喰らったような顔をしている。ていうか、暗に帰れって言いたいんだろうか。



「思ってた方が良かったんですか…」

「バカ! そうじゃねーよ! 普通、誘拐されてきたら帰りたいって思うだろ」

「あぁ、そういうことですか。私、もうジュリオさんと生きていくって決めたから。帰るつもりはありませんよ」

「はぁ? なんで?」


 アンジェロさんの顔には「信じられない! こいつバカか!?」って書いてあるように見える。ていうか、絶対思ってるな。



「いや、最初は帰りたかったですよ。でも、ジュリオさんと取引したんです。私がここでジュリオさんと生きる代わりに、城のみんなには手出ししないって。みんなには内緒だけど。ジュリオさんの話を聞いて、さすがに私もダメージ受けちゃって、今迄みたいに伯爵を信じていいのかわからなくなったし、みんなに酷い事を言って出てきちゃったし、それに自分で決めて出てきたから、帰る気はないです」


「ふーん、なるほどね。で、ダメージって何?」

「…あんま言いたくないんですけど」

「言え」


 鬼かこいつは! まぁ、もう、いいけどさ・・・はぁ、と溜息を吐いて渋々白状する。


「私の夫は私を守って死んだんですけど、その時伯爵も傍にいたのに助けられなかった。その話を聞いたジュリオさんに言われたんです。“伯爵は完璧なミナを作る為に、邪魔に思っていた君の夫を見殺しにして、力を取り込ませた”って。私の変身能力は夫の力を受け継いだものだったから


「勿論、そんなはずないって思いましたよ。伯爵は彼を助けられなかったことにすごく責任を感じていたし、夫とは兄弟だったから。でも、伯爵は、その時反論しなかったのか、できなかったのか、とにかく何も言わなくて。それで、信じていいのかわからなくなって。本当だったらどうしようって思っちゃいました」


 まぁ、そんなかんじです! と話を終える頃には、アンジェロさんはまた真顔になっていた。もー、だから話すの嫌だったんだよね・・・何考えてるかわかんないから怖いんだけど・・・



「もー、その顔やめてくださいよー。なんかこわーい!」

「うるせぇ、バカ!」


 ヒィ! 怒った! …なんなのこの人、本当怖い!


「チッ! とにかく、伯爵とジュリオ様が和解した上で、お前はジュリオ様の元にいて尚且つそれを伯爵が許す。てのがお前の理想なわけね。・・・・・余計無理だろ」

「やっぱ無理かなぁ…はぁ」



 確かに難しいよなぁ・・・ジュリオさんはわかんないけど、アルカードさんが譲歩してくれるようには思えないし。ていうか、アルカードさんの方がジュリオさんに迷惑かけたんだから譲歩するべきだと思うんだけど! まぁ、あの人がするとは思えないけど。

 それに、やっぱりどう考えても「ミナ」の呪縛を解くのは簡単じゃない。ジュリオさんを殺してまで手に入れて、更に私を人形にするほどだもん、本当に相当執着しているんだ。こりゃぁ厳しいなぁ・・・






「あ! もう3時過ぎてるじゃねーか!」


 アンジェロさんに言われて時計を見ると3時15分を回っていた。


「ホントだ…すいません、遅くまで付き合わせちゃって」

「ったくよぉ、人間様は吸血鬼と違って、朝から働いてんだから勘弁しろよ」

「すいません、でも、ありがとうございます」


 お礼を言って頭を下げると、下げた頭をベシッと叩かれた。


「なんで叩くんですかぁ…」


 別に痛くはないんだけど、叩かれたことが大いに不満で頭を撫でながら文句を言うと、アンジェロさんはしれっとした顔をして答えた。


「別に意味はねぇ」

「えぇ? じゃぁ叩く必要ないでしょ?」

「必要はねーけどなんとなく」

「意味わかんないし…」

「意味ねーつってんだろ」



 ムカつくなぁ…とりあえず、仲直りできない事とやっぱりアンジェロさんがムカつく事しかわからなかったな。ホント意味ないな。

 でも、本当に仲直りできないのかなぁ。させてあげたいな。ジュリオさんいい人だし。本当はアルカードさんとも、ジュリオさんとも敵対したくない。



「アンジェロさん!」

 ドアを開けようとしていたアンジェロさんを呼び止めると、あぁ? と不機嫌そうに振り向かれる。


「また相談乗ってください! やっぱり諦めきれないです!」


 そう言うとアンジェロさんはプイとドアに視線を戻して、溜息を吐きながらドアノブを回す。



「もう! アンジェロさんてば!」

「はいはい、わーったから。また今度な」


 その返事にきゃっほーう! と浮かれて、アンジェロさんと書斎を出た。



 

 二人で書斎を出たところで、ジュリオさんに出くわしてしまった。


「あ、お、やすみなさぁい」


 何食わぬ顔をしてアンジェロさんとその場を立ち去ろうとしたら「二人ともちょっと待って」と呼び止められる。

 アカンアカン! 仲直り大作戦の会議をしてたって今ばれたらアカン! なんとか適当にごまかさなければ!


「何してたの? こんな夜中に?」

「えーとですね、アンジェロさんに調べものを手伝ってもらってました!」

「ふぅーん。で、「また今度」ってなに?」

「え!? えーと、調べ物が終わらなくて、また頼んだところです!」

「へーぇ…」


 あぁ、そんなに真っ直ぐ見ないでくださいよぉ。あぁ、目を逸らしたい! 目が…目がぁぁぁ! しまった! 逸らしちゃった!



「ウソつき」

「が、ちが! 嘘じゃないですって!」

「何焦ってんの?」

「うっ、ウソじゃないからです!」

「続きを所望するほど、アンジェロが気に入った?」

「・・・・ん?」

「俺よりアンジェロの方がいいの?」

「え? 何・・・・・あ! 違いますよ! 勘違いも甚だしい! アンジェロさんなんか願い下げですよ!」

「はぁ? ふざけんな。こっちこそ願い下げだ」

「いや、アンジェロが言っても説得力ないけどね」

「あー、そうですね。ハハハ」

「何納得してんの!? で、何笑ってんの!? アンジェロお前、ミナに近づくなって言っただろ!」

「私が頼んだんですよ! 本当! アンジェロさん悪くないし、手伝ってもらっただけですって!」


 結局ジュリオさんにガミガミ怒られて、何とか信じてもらって解放された。




「お前のせいで俺まで怒られたじゃねーか。もう4時だし、どーしてくれんだ!」

「私も怒られたんだから良いじゃないですか。おあいこですよ」


 書斎前から解放されて廊下を歩きながら文句を言われる。


「おあいこじゃねーよ! お前が頼むから付き合ってやったんだろ! 俺の睡眠時間を返せ!」

「そんな無茶な・・・もー謝ったじゃないですかぁ」

「うるせぇ、土下座しろ」

「するか! バカじゃないの!?」

「あぁ? なんだその口のきき方は? もう話聞いてやんねぇぞ?」

「あー! ウソウソごめんなさい! 土下座はしないけど!」

「チッ、ホラ着いたぞ、さっさと寝ろ。で、二度と起きてくんな」

「起きますよ! もう! おやすみなさい!」

「夜中にうるせーよ。悪夢にうなされろバーカ」



 最後までムカつくアンジェロさんに、部屋に蹴飛ばされて押し込まれた。くっそー! ムカつくー! 普通「良い夢見ろよ」って言うでしょ! 悪夢にうなされろってなんだよ! もう! バカ! 

 ベッドに入ってもイライラしてなかなか寝付けない。あぁ、ストレスでハゲるかも。


 イライラして寝たせいか、その日はまんまと悪夢にうなされた。更に驚いたことに、後日再び悪夢を見ることになる。



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