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第1話 女人禁制

「んはぁ・・・幸せだ」



 レオ(猫の方)を抱っこしながらごろごろして血を啜る私。隊長になってからずっと仕事が忙しかったんだけど、ここ一週間は久しぶりにお休みだ。隊員たちも久しぶりの休暇を満喫しているようだ。



 戦いの連続だった日々が幸いしたのか、ジョヴァンニの事は未だにバレてないようだ。他の使用人さん達とは死神は基本的にライフスタイルも違うし、私たちの冷蔵庫から私が血を持って行ってるから特に怪しまれることもない。

 報告の度にドキドキするんだけど、場数を踏んだおかげか、最近はジュリオさんに嘘を吐くのにも慣れてきた。慣れって怖い。



 あれからずっと戦闘漬けの日々が続いて気が付けば季節はもう春。フィレンツェに来てから既に1年が経っていた。その事に気付いて色々思い返してみた。



 この1年の間にすごくいろんなことがあったなぁ・・・本当色々ありすぎて忘れちゃったよ。充実し過ぎってくらいの1年だ。


 毎日の様になにかしらイベント発生してた気がする。ジュリオさんに誘拐されたり、アルカードさんの真実を知ったり、アルカードさんとアンジェロに追い回されたり、アンジェロとケンカしたり、アルカードさんとクリシュナと北都がケンカしたり、アルカードさんとジュリオさんがケンカしたり、ミラーカさんとアルカードさんがケンカしたり、アルカードさんとアンジェロがケンカしたり、ボニーさんとクライドさんがケンカしたり、クリシュナと北都とアンジェロがケンカ・・・ケンカばっかりじゃん!



 来た翌日から色々忙しくて、落ち着いたと思ったらジュリオさんと出会って、落ち着いたと思ったら、アルカードさんがジュリオさんと不可侵条約結んで、落ち着かないうちに戦いに身を置くことになって、やっと城に帰ったと思ったらやっぱり戦いの日々で、誕生日を祝ってもらって、アンジェロにケンカで負けて、死神の隊長になって、ジョヴァンニを吸血鬼にして、ますます戦いの連続の日々。


 よく考えたら戦闘しかしてない、私。こんなに好戦的だったっけ。どっちかって言うと平和主義なんだけどなぁ。やっぱ機関員に志願したのは間違いだったのかしら。ま、でも、死神のみんなは仲良くしてくれるし、死神に身を置いている間はクリシュナとの約束もちゃんと守れるわけだし、別にいいか。



 そう考えていると、ふと、疑問が浮かんだので、アルカードさんの所に行った。アルカードさんはリビングで本を読んでて、ジュリオさんとアンジェロもリビングにいた。



「ねー、アルカードさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


 隣に腰かけて尋ねると、アルカードさんは私に視線もむけずに返事をした。



「お前は既に活動していたし、クリシュナとお前との約束もあったからな」


 どうも質問は先読みにされてしまったようだ。


「あ、そっかぁ。でも、最初は私がエヴァンゲリウム・ディアボルスで活動すること大反対だったじゃないですか。それなら最初から許可してくれたら良かったのに」


 そう尋ねると、アルカードさんはやっと本から私に視線を向けてくれて、ジュリオさんも会話に入って来た。



「俺もそれ不思議だったんですよ! より一層危険なのになーって」

「勿論基本的には反対だが、死神の隊長として活動している間はジュリオの目から離れるからな」


 アルカードさんはジュリオさんをチラリと見やるとまたすぐ本に視線を戻した。


「あ、あぁ・・・」


 アルカードさんの返事を聞いたジュリオさんはムキーと激昂している。ジュリオさんの手前どう返事をしていいかわからずに適当に返事をするしかなかった。まさかそんな計算の上でだとは思わなかったぜ。確かにクリシュナの言う通り“独占欲が服着て歩いてる奴”だな、と思ってたら睨まれた。



「えー、でも、死神の人とかは別にいいんですか? チャライのいますよ?」

「お前が相手にするほどの奴らじゃない」

「・・・ま、確かにそうですね」


 言いながらちらっとアンジェロを見ると何か言いたそうな顔をしていた。多分「言う程たいしていい女でもねーだろ!」とか思ってるんだろうけど、ジュリオさんの手前我慢しているようだ。ざまぁみろ。



 何となく会話が途切れて、質問することも他にはなくなったので、アルカードさんの持っている本の表紙を覗き込んでみた。なんと地質学の本だ。そんなの読んでどうするんだ。そう思っていたらアルカードさんは本を閉じると急に立ち上がって私の腕を掴んで無理やり引き立たせた。



「え? な、なんですか?」

「勉強だ」

「は?」



 意味も分からず引きずられるままに書斎まで着いて行くと、アルカードさんは書架からたくさんの本を取り出して私の前にドサッと置いた。



「お前化学は得意か?」

「え? あぁ、はい。一応工業系の学校だったし。得意な方でしたけど」

「そうか、では今からお前はこれを学べ」



 差し出された本のタイトルを見ると「ヘルメス文書」と記されている。何の本なのかさっぱりわからずに開いてみると、余計意味が分からなかった。


 そこには宇宙の創造だの大宇宙と小宇宙がどうの、世界の神秘がどうの永遠の命がどうの書かれている。首をひねってアルカードさんに目線を戻した。


「これ、何の本ですか? 全然意味わかんないんですけど」


 できればもうちょっとわかりやすい、入門書的なのが欲しいんだけど。私の質問に、今度はアルカードさんはまた別の本を差し出した。その本のタイトルは「錬金術の構成の書」



「え!? れ、錬金術!?」

「そうだ。錬金術は現代の化学の前身ともいえるものだ。お前は錬金術を学べ」

「こ、こんな難しそうなのわかんないですよぉ・・・」

「何のために私たちの脳が発達していると思っているんだ。人間にできることが私達にできないはずがないだろう」

「そうですけどぉ」

「とりあえず、それを読め」

「・・・わかりました」



 それだけ言うとアルカードさんは私を置いて書斎から消えてしまった。

 確かに私は吸血鬼になってから随分記憶力はよくなった。死神の活動であちこち海外出張するものだから、行ったことのある国や近隣の国の言葉は大概話せるようになったし。


 そりゃぁ確かに化学は結構好きだったりするけど、錬金術って名前が難しいからもう難しいんだけど。ていうか、書いてある単語の意味から分かんないんだけど。

 でも、途中で投げ出したら絶対アルカードさんに怒られるだろうから、頑張るしかない。そう覚悟を決めて辞書片手に「錬金術の構成の書」を読み始めた。




 どれほど時間が経ったのか、空はもう明るくなっていた。辞書のお陰だけど、読んでいくと段々面白くなってきて、いつの間にか熱中して読んでいた。

 賢者の石、生命のエリクシールの抽出、ホムンクルスの創造、王水や今では当たり前となっている化合物の発見、伝説の錬金術師ヘルメス・トリスメギストスの思想。


 そっかぁ、昔の人たちは完全な生命を得る為にこんなことまで考えだしたのか。昔の人ってすごいんだなぁ。人間の叡智ってスゴイ。ゴイスー。



 でも、永遠の命か。不死身ではないにしろ不死身に近い私には特に興味が湧かない・・・宇宙がどうのとか神に近い存在とかそんな事よりも、私はエリクシールを抽出する過程で使う溶解液とか王水とか化合物の精製とかそっちの方が面白かった。


 そっか! だから錬金術は化学の前身なのか! なぁるほど! きっと永遠の命とか神とか時と共に神秘への信仰が薄れてくる中、私みたいにそっちに興味を持った人たちが錬金術を化学へと昇華させたんだろう。


 でも、「世界の神秘を味わい尽くす」というヘルメス思想。これは多分世界中の科学者たちの持つ思想なんだろうな。すごいな、面白いな。



 この日をきっかけに、私は錬金術や化学のお勉強に没頭してしまった。




「へぇ、王水って塩酸と硝酸で作れるのかぁ。その二つが手に入れば作れるじゃん! まぁ作ったところで使い道はないぅわ!」


 いつの間にかアルカードさんが本を読む私を後ろから覗き込んでいた。なんかこんな事、前もあったような。



「面白いか?」

「はい! 面白いです! でも、どうして錬金術を勉強させようと思ったんですか?」

「お前には必要なことだからだ」

「必要、なんですか?」

「あぁ。お前にとっては重要なことだ」

「どういうことですか?」

「そのうちわかる」

「はぁ・・・」



 こういう言い方をするときはどれほど食い下がっても教えてくれないので、さっさと諦めるに限る。必要、重要なことなのか・・・なんでだろ。ていうか、なんで今になって突然? でも、アルカードさんがそう言うならお勉強しておかなきゃ。



 お仕事の合間にも、行った先々でいろんな本を買ったりしてお勉強に励んでいたある日、仕事から帰って報告にとジュリオさんの部屋に行ってみるとお留守のようでいなかった。



「あれ? アンジェロ、ジュリオさん仕事って言ってたっけ?」

「機関の仕事は入ってなかったはずだから私用じゃねぇか?」

「アンジェロが知らないならそうかもね。たまにはジュリオさんもハメはずしたいんだ」



 執務室から出たところでレミに出くわしたので、ちょうどいいと思って聞いてみた。


「あ、ジュリオ様は急用ができたとかで2,3日お城を空けるそうですよ」

「そっか。相変わらず忙しいんだね」

「はい、でもお仕事ではないようでしたので」

「ふーんそうなんだ。やっぱり私用だったんだね。珍しい」

「だな」


 じゃぁ、報告はジュリオさんが帰ってきてからにしようという事になって、普段より自由時間ができたものだから早速買ってきた本を読むことにした。


 しばらく読書しているとお腹が空いてきたので、冷蔵庫に私とジョヴァンニの分と血を取りに行って、ジョヴァンニの部屋に行くと丁度出ようとしているところだった。



「あ、ジョヴァンニ。ご飯」

「ありがと。今日はあっちで飲むよ」

「あっち?」

「ミナも来る?」

「ん?」


 ジョヴァンニに着いて行くと、ジョヴァンニはアンジェロの部屋に向かっていて、近づくにつれてにぎやかな声が聞こえる。ジュリオさんが居ないと思ってハメを外していたのは隊員たちの方だったらしい。



 ドアを開けると、より一層にぎやかな声が聞こえて、なんだか美味しそうなにおいが鼻をくすぐった。


「打ち上げでもしてんの?」


 ジョヴァンニの背後から顔を覗かせると、何故かみんなはゲッと言う顔をした。



「ジョヴァンニ! てめぇ何ミナ連れてきてんだよ! ここは女人禁制だ! 出てけ。シッシッ!」

「ちょっとくらいいいじゃない! ケチ!」

「ダメダメ―。ミナちゃんは立ち入り禁止―」

「隊長、諦めなサイ」


 アンジェロどころか全員から出てけコール。超寂しい。なに? 私が気付かなかっただけで、実は私嫌われてんの?


「もう! みんなの意地悪! アルカードさんとジュリオさんに言いつけてやる!」


 そう捨て台詞を吐いてドアを閉めると、ドア越しにチクッたらブッ殺す! と聞こえてきたので、絶対チクッてやろうと決めた。ドアの前から離れて少し歩くと、運よくアルカードさんに出くわした。



「もー! アルカードさん聞いてくださいよ! みんな私だけ仲間外れにするんです!」

「どうした?」

「なんかアンジェロの部屋で、みんなで集まって打ち上げしてるみたいです。美味しそうな匂いがして、超盛り上がってたから私も行きたかったのに! 女は来るなとか言われて! ヒドイですよね!」

「・・・やはりな」

「やはりな!? どゆことですか!?」


 私の質問を無視して、アルカードさんは私の横を通りぬけていく。いつもながらヒドイよ・・・そう思って背中を見つめていたら、アルカードさんはアンジェロの部屋のドアに手をかけた。


「え? アルカードさん?」

「お前は立ち入り禁止だ」



 ニヤリと笑ってそう言うと、アルカードさんはアンジェロの部屋に入っていって、その瞬間、チクリやがったなこのヤロー! と声が聞こえたので、お説教してくれるんだとホッとした。


 私は泣く泣く一人でチューチュー血を飲んでいたわけだけど、アルカードさんの様子からして、本当に説教してくれているのかだんだん怪しくなってきた。ちぇっ、男の人って結局、男同志でつるんでる時が一番楽しそうなんだよなぁ。なんか羨ましい。死神のみんなといる時も、たまにアウェーな感じがするしなぁ。


 ていうか、アルカードさんのやはりなって言うのはどういう意味だ。女人禁制がやはりなってことか? それはどゆこと? 女が邪魔? 男同士? 




・・・・・・・・・・・・・!





 いや、まさか! それはないよ! いくらなんでもそれはね! 今まで屋敷に男しかいなくて、女っ気がなかったからってそれはさすがに・・・

 いや、いかん。否定するのはよくない。趣味嗜好は人それぞれだ。うん。愛の形は人それぞれって言うからね。うん。


 あれ? でも、アルカードさん、そんなところに入って行っちゃっていいの? 大丈夫なの? なんかそっちの道に・・・イヤイヤ、アルカードさんに限ってそれはないだろ。伊達にエロオヤジの称号をほしいままにしてないんだからあの人は。

 いや、何を心配しとんねん! 別にそんなのアルカードさんの勝手じゃないの! そうだ、私は一番の側近なんだから、私が理解してあげないと!


【貴様、いい加減にしろよ。殺すぞ】

【きゃぁぁぁ! ごめんなさい!】



 私の妄想はバッチリ聞こえていたようだ。うわー後で絶対怒られる。どうしよう。







その頃アンジェロの部屋。


「伯爵? なに急に黙ってんだ?」

「ハァ・・・なんでもない」


 溜息を吐くアルカードに、アンジェロは閃いたような顔をしてみせる。


「ははーん、さてはミナがまたしょうもない思索に耽ってたんだろ」

「よくわかるな、お前・・・くっくっく」



 言葉の途中で急に笑い出したアルカードに、その場の全員は怪訝そうに首を傾げる。


「何笑ってんだ」

「くっくっく・・・ミナが、心配していた」

「なにを?」

「女人禁制だと言われたのは、お前らが男色に走っているからだと思ったらしい」


 アルカードの言葉に、その場の全員が大声を上げて怒り出した。


「はぁぁぁ!? んなわけねーだろ! アイツバカだろ!」

「マジありえねーし! ミナちゃんどういう思考回路してんの!?」

「隊長・・・ヒドイ」

「明日から俺ら変な目で見られるのかな・・・」

「最悪、隊長最悪」


 チームチャラ男はその場にバタバタと倒れこんで、チームジェントルはプンプンと怒りをあらわにしている。当然と言えば当然の反応。



「伯爵・・・マジアイツ一回泣かせていい? 泣かせていい?」

「ハハハ、まぁ気にするな」

「気にするだろ! つーかアンタどんな躾してんだ! あんなバカに育てやがって!」

「私のせいではない。アイツは最初からバカだ」


 それを聞いて諦めたように大きく溜息を吐くアンジェロ。隊員たちはまだ立ち直れない。


「伯爵、アンタある意味すげーよ。よくあんなバカに惚れたな。心底アンタの趣味を疑うぜ」

「フン、そんな事を言っていいのか? ミナにバラすぞ?」


 その脅迫にアンジェロは思い出したような顔をして舌打ちをした。


「バラすなよ。頼むから」

「“言わないでください、お願いします、アルカード様”」

「く・・・い、言わないでください、お願いします、アルカード様・・・」

「フン、まぁいい。本来なら土下座させるところだが、それで許してやろう」

「クソ・・・ムカツク・・・」


 アンジェロには耐え難いであろう屈辱的な懇願をさせられて悔しそうに顔を歪めるも、すぐに気を取り直してアルカードに顔を向ける。


「本当に頼むよ、ミナには言わないでくれ」

「あぁ、言わない。約束する」

「・・・そうか、アンタがそう約束してくれるなら、信じる」


 それを聞いて不思議に思ったのはアルカードの方だった。たったそれだけであっさりと引き下がるアンジェロを不思議に思わずにはいられなかった。それに気づいたのか、アンジェロは言葉を続ける。


「ミナが言ってたんだよ。伯爵は約束は絶対に破らないって。だから」

「・・・そうか」


 その返答にアルカードは少しだけ微笑んでみせる。少しだけ、嬉しく思った。二つの意味で。



「小僧、お前はミナを信頼しているのだな」

「別に」


 嬉しく思った理由の一つを口にすると、アンジェロはツンとそっぽを向いて、その様子にアルカードも隊員たちも苦笑する。

 それを見届けて、アルカードは立ち上がった。


「アンジェロ、これからもミナと仲良くしてやれ」

「・・・おう」



 アンジェロの返事を聞いたアルカードは、ふっと笑って、部屋から出て行った。それを見届けた隊員たちがポツリと口を開けた。



「なんか伯爵って親父みてぇだな」

「だな」

「隊長の未来の旦那って言うより・・・」

「親父ポジションの方がしっくりくるな」

「だな」

「ミナちゃんの面倒見の良さは伯爵譲り?」

「かもな。つーより伯爵の面倒見れるなら誰の面倒も見れるだろ」

「・・・確かに。あれほどの自己中そうそういねぇよな」

「だよな。でも、伯爵は本当にミナっちが大事なんだな」

「そりゃそーだろ」

「いや、そうじゃなくてさ、俺てっきり伯爵はミナっちと副長が仲良くしてんの気に入らねぇんじゃねぇかと思ってたんだけど」

「そういやそうだよな。伯爵はミナちゃんが楽しそうに笑ってんのが好きなのかもな」

「あぁ、かもな。でもなんかわかる」

「だな。副長、隊長と仲良くしろよ。隊長はアンタの事親友だと思ってんだから」

「うるせぇ」

「照れてるし」

「照れてねぇ」



翌日


「ジョヴァンニ、ご苦労」

「いいえ。まぁ、多少良心の呵責はありますけど、というか俺も知らなかったんでびっくりしたんですけど。でもまぁ俺にはその内話す予定だったみたいだし、別に問題ないです」

「そうだな。だが、ミナには教えるな。この話を私とミラーカ以外の前ですることを禁ずる」

「わかりました・・・でも、なんでですか?」

「なんでもだ。理由はそのうち話す」

「はぁ・・・」



 アルカードの部屋に呼びつけられたジョヴァンニは昨日の件で実は一枚かんでいた。ヒントをミナに拾ってこさせ、確信、そして自然に発掘する、その手伝い。全てはミナの為に。そう言ったアルカードの言葉の為に。



「で、続けてで悪いが一つ調査をしてほしい」

「はい、何の調査ですか?」

「身元を調べて欲しい」

「いいですよ。誰のですか?」


 素直に指令を受けるジョヴァンニにアルカードは少しだけ目を伏せて、すぐに視線を戻した。



「お前を含めた死神のメンバー全員だ」

「・・・え? 俺達?」

「そうだ。出生地、両親の名前、所在、どのようしてヴァチカンに来たのか、すべて」

「そんなの、覚えてる奴は大概覚えてますよ? 本人に聞いても?」

「記憶は当てにならない。内密に、しかし確実な情報を調査しろ」

「・・・なぜ、ですか?」

「今は念のためとだけ言っておこう。いずれお前には話してやる。今はまだ時期が早い」

「わかりました・・・」



 まだジョヴァンニは知らない。この調査結果によって、自分たちの運命が、未来が、過去が、大きく変わることを。まだアルカードは知らない、この調査結果によってもたらされる真実と、疑惑と、後悔を。


 運命のカードを混ぜる者は神か、悪魔か。現時点でその正体を知る者は、いない。彼らの世界を崩壊へ導くカウントダウンが、はじまった。





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