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第8話 海外出張

「また出張かよぉ」

「最近遠出ばっかりだねぇ」



 例の事件から一週間後、再び遠征の命令が下った。今度はスペイン。ミゲルの故郷だ。お屋敷にいたころはそこまで感じなかったんだけど、城に戻ってから妙に出張が多い気がする。まぁ、死神に入って隊長になったせいもあるんだけど。



「もー! 全然労働に対する休暇貰ってねぇよ! 城に帰ってからも仕事は山積みだってのによー! ヴァチカンは労働基準法適用外なのか!?」

「本当だよねぇ、商会と工場に武器の製造依頼して、教会に銀の手配して、車両と通信機のチューンナップに備品の発注、作戦会議に依頼人との交渉。これほど隊長職が多忙だったとは・・・」

「隊長、そのほとんどを未だに俺がやってるんですが」

「エヘッ!」

「エヘッじゃねーよ、バカ! 毎日“一日隊長”しやがって! このマスコット管理職が!」

「まぁいいじゃない。そんな事よりそのスペインの敵“神里教”だっけ? そんなに危ない教団なの?」



 憤慨するアンジェロが面倒くさくてさっさと話を切り替えると、アンジェロはいかにも疲れるという顔をして大きく溜息を吐いた。



「・・・俺の知る限りじゃ“神里教”ってのは大した敵じゃねぇんだけど。最近になって勢力拡大してきたらしい」

「私の初陣の時みたいな過激派って事?」

「ってわけでもねぇんだけど。ある意味将来性のある宗教だから邪魔なんだろ」

「なるほど、ていうかそれって死神の担当外じゃない?」

「そーなんだよなー。まぁ人手不足なんだろ」

「2000人もいるのに人手不足って・・・教理省の人ってどんだけ狭量なのよ」

「狭量っつーか狂信だな。カトリック以外クソにしか見えてねぇんだから」

「はーん・・・そりゃすごいね。理解できない。生来無神論者だし」

「・・・呪われろ」

「これ以上呪われたら悪魔になっちゃう」

「それもそーだな。悪魔になったら討伐してやる」

「やめてよ・・・」




そしてやってきたスペイン。



「あ! ジョヴァンニは触らないで!」

「俺がやるから!」

「・・・ごめん」



 ジョヴァンニはまだ力の制御に苦労しているようで、何度か銃を壊したりだの機器を破壊したりだのしたせいで、著しく信頼を失墜していた。可哀想に、そしてゴメン。



「ジョヴァンニ! 元気だしなよ! すぐに慣れるから!」


 すっかり落ち込んでしまったジョヴァンニに声をかけるもジョヴァンニは溜息を吐いてうなだれる。



「俺って役立たず・・・吸血鬼向いてない」

「いや、適性とかナイから。完全にこればっかりは慣れなのよ! 私だって最初の内はいろんなもの破壊しちゃったんだから、そんなにすぐにうまくいかないよ。最初の内は触る物みんなゼリーとか卵みたいに思って触れば慣れて来るって! ジョヴァンニなら大丈夫!」

「うん、ありがとう。頑張る・・・ハァ」



 ジョヴァンニってばナイーヴな子ねぇ。こんなナイーヴな性格の人がよくこのチンピラ集団に身を置けるもんだよ。大変だろうなぁ。ていうかどっちかっていうとジョヴァンニの方が神父としてはイメージ合うけど、他の人たちが聖職者にしては自由すぎなんだよね。本当に聖職者? たまに忘れちゃうんだけど。




 セーフハウスにて再び作戦会議をするも、私も含めどうもみんなテンションが低い。


「今日は作戦とかなくてよさげだよな」

「だよなー。ただの一般人だし」

「なんか勝手が違う相手だとかえってやりづれぇな」

「つーかこいつらも殲滅でいいのか?」

「とりあえず皆殺しって言う命令ではあるんだよね。正直過激派でもないなら教祖様だけ殺しちゃえば頭を潰した蛇みたいに自滅しちゃうと思うんだけど」

「バーカ、お前ら余計なこと考えんな。俺らは言われたとおりにやってりゃいーんだよ」

「はーいはい」



 テンション低めの作戦会議を終えてやってきた彼ら、“神里教”の教会は大きな雑居ビルの一室に居を構えていた。こういう集会場みたいな拠点があちこちにいくつもあって、先に教祖様が中心的に活動しているここを潰して、それから各地を回っていこうという事になったんだけど、その数なんと15か所。


 正直、1か月程度では帰れないんじゃないかと思う。普段完全粛清にかけるのは長くても一週間くらいだったから超面倒くさいしやり辛い。そりゃみんなも文句言うよ。

 どう考えてもどれほど作戦を急いでも他の拠点の信者たちを皆殺しにできないと思う。情報が回れば逃げ出すに決まってる。私達の人数じゃ同時に攻撃もできないし、その時は、ダメでしたーでいいんだろうか。・・・よくないよね。頑張るしかないか。



 クラウディオのチームを外の出入り口に配備してレオナルドのチームと教会内に入ると、一斉に視線を浴びて、なんだかざわざわし始めた。



「あれ? カトリックのシスターさんに神父さんだ」

「こんばんわー」

「え? こ、こんばんは・・・」



 なんだこれ、なんだこの好意的な態度! まさかのリアクションにこっちは完全に浮き足立って動揺してしまった。



「ちょ、ミナっち! 俺らこんな奴ら殺るの!?」

「え、そ、場所間違ったりとかしてないよね!?」

「いや間違ってねぇけどよ。調子狂うなぁ」

「良心の呵責が半端ねぇな。ま、異教徒ってだけで少しはマシだけど」

「はぁ、とりあえず命令だし、元気出していきましょう」

「ヤー」



 イタリア語でコソコソ相談していた顔を上げて、神里教の皆々様方に振り向いて教祖様の前まで歩み寄った。



「えっとぉ、こんばんは。それと、さようなら」

「え? あの、何かご用件があるんじゃないんですか?」

「あのぉ、私達ヴァチカンの殺し屋さんです。今から皆さんには死んでもらいます」

「なんですって!?」

「あの、まぁそういうことなので、さようなら」



 剣を出して驚いてこちらを見つめる教祖様を、全く無抵抗なただの人間の首を、刎ねた。その瞬間悲鳴が会館に響き渡った。



「うわぁぁぁ! 教祖様! 人殺し!」

「あなた、なんてことを!」

「それでも神に仕える聖職者なの!」

「私本当は聖職者じゃありませんから。皆さんにも死んでもらわなきゃ。総員、攻撃開始」



 私の声と共に銃声と悲鳴が響き渡る。私も剣をふるって近くにいた人達から切り殺していった。

 それはあまりにもあっけなく、5分程度で会館内には銃声と薬莢の落ちる音しか聞こえなくなった。



「攻撃やめ。もういいんじゃない」

「そうだな。引き上げるとするか」

「なんかしっくりこねぇ! なにこれ!」

「達成感も爽快感もない仕事なんてつまんねぇ」

「仕事なんて本来憂鬱なもんだろ。クラウディオ、殲滅は済んだ。中に入って片付け手伝え。ミナ、車まわすから死体を処理しろ」

「了解」



 それから死体をトラックに乗せて、機関員に連絡を取って引き取りに来てもらいセーフハウスへ戻った。



「ただいまぁ」

「おかえり。お疲れ」

「はぁー、こんなのが後15か所かぁ」

「楽なのはいいんだけどね」



 そう、確かに楽な仕事だ。だからこそみんな文句たらたら。普段スリルに慣れてると楽な状況が不満なようだ。



「この中途半端な連中があと15か所かぁ、ねぇアンジェロ、今夜あと1件潰しに行かない?」

「まぁ行けねぇこともねぇけど、お前らどうする?」

「いいじゃん、行こうぜ。こっから一番近いとこは?」

「隣の県だな。車で2時間くらいか」

「えー近いじゃん! 行こう行こう!」

「じゃぁ今度は突入はディオのチームで行こうか。さ、準備して出かけよう」

「ヤー!」



 急に新たに仕事を振ったのに、みんなは少し元気が出たようだ。みんな真面目ね・・・

 それから車を走らせて、別の教会に到着して車を降りた。中に入ると、本拠と同じようなリアクションをされて、再び動揺が走った。



「もうこいつら本当なんなの? 調子狂う!」

「考えると憂鬱になるから滅私奉公でいこうぜ・・・」

「だな。さっさと殺ってさっさと帰ろうぜ」

「あ、ちょっと待って。ここはジョヴァンニ一人にやらせるから」

「え? 俺一人?」


 私の言葉に全員が私に視線を向けた。



「せっかく吸血鬼化して最初の戦闘なんだもの。その力量を自分で推し量るいい機会でしょ?」

「そっか、それもそうだね」

「銃は私が預かっておく。素手でやりなさい」

「えぇ!? 素手で!?」

「本格的な戦闘時はいつまで弾が持つかもわからないでしょ? 吸血鬼なんだから銃にばっかり頼っちゃダメ。ある程度は格闘が出来なきゃいざって時に困るもん」

「そっかぁ、わかった」

「この教会の人たちには悪いけど、これは演習だと思って。気楽にね」

「ヤー!」



 相談を終えて教壇の前に立つ女性の下に歩み寄ると、女性はキョトンとした視線を向けた。


「あの・・・?」

「こんばんは。あなたが支部長さん?」

「そうですが、なにか?」

「申し遅れました。私ヴァチカンの殺し屋です。今から死んで頂きますので、よろしくお願いします」

「・・・え?」

「ジョヴァンニ、攻撃用意」


 狼狽える女性を尻目にジョヴァンニに声をかけると、ジョヴァンニは前に進み出た。



「攻撃始め」


 私の合図とともに、ジョヴァンニは強く床を蹴って信者たちに殴り掛かっていった。

 最初の一撃で、殴られた信者は血をまき散らしながら吹き飛ばされる。それに誰よりも驚いていたのはジョヴァンニ自身だった。


「ジョヴァンニー、続けて続けて」

「あっ! や、ヤー!」



 それからジョヴァンニは順調に信者たちを殴り殺していく。最初は勝手がつかめなかったようだけど、徐々に慣れてきたようで自分の力にもスピードにも着いて行けるようになってきた。



「ジョヴァンニ、人間の頃の感覚は忘れなさい。もうあなたは人間じゃないのよ」

「ヤー!」



 しばらくすると、教会で立っているのは私達と支部長さんだけになった。



「ま、最初ならこんなもんだね。慣れたらもっと効率的に戦闘できるようになると思うから」

「そっかぁ、やっぱ格闘訓練つけてもらおうかなぁ」

「と言っても私のは我流だから、力の制御向きなんだけど。本当ならクリスの得意分野だし適任なんだろうけど、彼に任せたら彼が死んじゃうしね」

「確かに」

「じゃ、最後。この支部長さんで終わりだよ」

「ヤー」



 助けて、殺さないで、そう叫ぶ支部長さんをジョヴァンニの前に突きだすと、ジョヴァンニは支部長さんの首を絞めはじめる。最初は苦しそうにしていただけの支部長さんはもがき苦しみ始め、ジョヴァンニが手に力を入れた瞬間、ゴキン、と音が響いて動かなくなった。



「作戦完了です!」

「はい、お疲れ様。じゃぁみんな、後片付けして帰ろうか」

「りょーかーい」



 本拠同様に片づけを済ませて、再び車を走らせて本部に戻った。すぐに再び作戦会議を開いていると、アンジェロが提案した。



「つーかうっかり忘れてたんだけどよ、ジョヴァンニがいるならクラウディオとレオのチームは別行動で、それぞれ活動した方が効率的じゃねぇか?」


 私も忘れてた・・・確かに戦力として強力な兵器である吸血鬼が二人もいるなら、戦力を分散させて活動した方が効率的だ。何より数が多いし時間をかけるわけにもいかない。人数が少ない分、仕事量は圧倒的に増加してしまうけど、人数が少ないからこそ人員を割かなければ。


「じゃぁ、レオのチームは私が指揮を執るよ。ディオの所にはジョヴァンニがいるし、そっちは誰か別に指揮を執って」

「そうだな。んじゃクリスが指揮を執れ」


 そうアンジェロが名指しすると、クリスティアーノは嫌そうに顔を歪めた。


「俺? アンジェロがやれよ。元隊長なんだからさぁ」

「ヤダ。面倒くせぇ。お前やれ」

「面倒なだけで押し付けんなよ・・・」

「うるせぇ。大体俺は二つの隊を同時に本部から指揮しなきゃいけねぇんだぞ。お前それできんの?」

「・・・ハァ、わかった」


 面倒くせぇ発言はどうかと思うけど、確かにアンジェロの言う通り、二つの隊を同時に指揮するのなんてそっちの方が面倒くさいし大変だし難しい。そして私には絶対できない。こりゃ確かに私はマスコット管理職だな。

 渋々承諾したクリスティアーノを慰めていると、ミゲルがうーんと唸りだした。


「でも隊を分けるとなるとさぁ、人数少ないんだし包囲が組めなくなるんじゃね? 1チーム4人は厳しいだろ」


 そりゃ確かに厳しい。というかあり得ない。でもそれは“普通”ならの話。



「多分大丈夫だよ。メインの戦闘を私とジョヴァンニがやって他の人たちで周りを固めてれば何とかなるんじゃない? 相手は武器も持たないただの人間だし。ただ、ジョヴァンニは同時攻撃ができないから、ディオのチームは包囲を徹底してね」

「あ、そっか。ミナちゃんとジョヴァンニがいりゃ戦闘員他にいらねぇもんな」


 ミゲルと共に他のみんなも納得して、その瞬間に気怠い空気が流れ始める。


「とりあえず今夜はこれで休もうぜ。疲れたよー」

「なんもしてねぇけどな・・・なんか疲れたな」

「そうだな。今後の攻撃目標の選別とスケジュールは俺とミナで考えとくからお前らは休め」

「わかった、じゃおやすみー」

「おやすみー」



 みんなが部屋から出て行ったあとの作戦会議は思ったより長引いて、気付いたら5時を回っていた。

 とりあえず、拠点を挟み撃ちにしていくみたいな方法を取って、一拠点に対して移動を含めた準備は3日、攻撃は1日で仕上げて、何とか一か月以内には終わるんじゃないか、という目処が立った。

 その旨を機関の支援部隊にメールを送ったところで、とりあえず会議を終わらせた。



「それにしてもこのミゲルが作った無線すごいよねー。あんなに離れたのにクリアに聞こえるし、通信範囲どのくらいあるの?」

「俺もよく知らねぇ。でも、軍備並だってジュリオ様が褒めてたぞ」

「確かに! こんな機能有してる無線なんて船とか飛行機に搭載されてる無線位だと思ってたもん。それをここまで小型軽量化するなんてミゲル天才じゃん」

「確かになぁ。通信に関してアイツは天才だよな。ハッキングも得意だし、恐ろしくて妙なデータパソコンに残しとけねぇよ」

「ハッキングもできるの!? すごいねぇ。じゃぁミゲルがいたらお金に困らないじゃん。銀行のデータにアクセスして口座間のデータ移動させちゃえば残高の操作できるじゃん」

「お前なんでそんなことはすぐ思いつくわけ?」

「・・・映画の影響かな」

「ミゲルがお前と違ってまっとうな奴でよかったわ。ミゲルの才能を悪用すんなよ」

「しないわよ!」

翌日、私達は北から、クラウディオ達は南から挟撃することになったので、一時お別れ。


「ジョヴァンニ、なんか困ったことがあったらすぐに言うんだよ?」

「うん、ありがとう」

「無線でも電話でもいいからすぐに連絡するんだよ?」

「わかった」


 ジョヴァンニと離れてしまうのが心配で色々と言いつけていると、隊員のみんながクスクス笑い始めた。


「なんか本当に親子みてぇなんだけど、ウケる」

「つーかミナちゃん過保護!」

「これが世に言う親バカ」

「これが世に言うバカ」

「バカはおかしいよね!? しょうがないでしょ。可愛い一人息子の旅立ちが心配なの」

「なに急に母性に目覚めてんだよ。気持ちわりぃ」

「うるさいな! 本来なら子供の一人くらいいてもおかしくないんだから! 別にいいでしょ!」

「ヘイヘイ。じゃぁさっさと行け」

「ヤー! 隊長気をつけてな―!」

「みんなもね!」



 何と言ってもスペインは広い。移動に結構な時間がかかってしまって着いたのは朝方。しょうがないので翌日の夜から作戦会議をすることになった。


 お風呂から出ると、入れた覚えもないんだけど、部屋にはすでに隊員が集まっていた。


「・・・鍵かけてたんだけど」

「まー気にすんなよ!」

「もー! どうせ犯人はアレクでしょ! 才能の無駄遣いやめなよ!」

「それより、ミナちゃん風呂上りもイイね」

「素晴らしい」

「マーベラス」

「お前ら何言ってんの・・・」

「本当何言ってんの・・・」



 すっかり忘れてたけども、仕事に関してはプロ集団のこの死神たち。その中でもこのレオナルドのチームは通称“チームチャラ男”と呼ばれている。唯一真面目なヨハンだけが救いだ。むしろヨハンが気の毒だ。クラウディオのチームは“チームジェントル”だったから結構やりやすかったんだけど。


「もー、ヨハン何とかしてよ」

「わりぃけど無理」



 文句を言いながら冷蔵庫から輸血パックを取り出してソファに腰かけて、早速作戦会議を始めた。



「で、こっちは北だし、時期的にも日照時間が短いから結構時間早めでもいいと・・・ちょっと聞いてる?」


 こっちは真面目に作戦会議をしているのに、どうも真面目に聞いてくれているのはヨハンだけのようで、他のみんなは上の空。私が少しイラついて目の前に座っていたエドワードに語りかけて再びパックに口をつけると、彼はにっこり笑って言った。



「さっきから思ってたんだけどォ、ミナちゃんって結構オッパイ大きいよね」

「ブバッ!!」

「ぎゃぁぁぁ!」


 思わぬエドワードのセクハラ発言に、口に含んでいた血を一気に噴き出してエドワードに吹きかけてしまった。



「ちょっと! ミナちゃんなにすんの! ていうかコレ血じゃん!」

「ギャハハハ! エドすげぇ! 血まみれ!」

「マジウケるんだけど! 超スプラッター!」

「オイ、誰かカメラ持ってねぇ!? 撮りてぇー!!」


 私のせいでエドワードは完全にホラー映画に出てくる人になってしまった。怖い。



「あ、エド、ごめんね」


 大爆笑して転げまわる3人を無視してエドワードの前に回り込むと、一生懸命血を拭って不愉快そうに文句を言われた。


「もー本当勘弁してよぉ! 血なまぐさい!」

「ゴメン、でも自業自得だと思うよ」

「えー? 気のせいじゃね?」

「んなわけないでしょ! まったくもう!」

「怒ったミナちゃんも可愛いー」

「殴るよ?」

「ごめんなさい」



 肩にかけていたタオルでエドワードの血を拭っていると、気が付いたらなんだかニヤニヤしている。



「どしたの?」

「いや、怪我の功名ってヤツ?」

「なにが?」

「こっからだと超イイ眺め」

「・・・」

「え!? ちょ、うわぁぁぁぁぁぁ!」



 私の顔から視線を下に外したのにカチンと来て、エドワードを肩に担いで風呂場に押し込んだ。



「さて、会議の続きをするわよ」

「「はーい」」

「・・・」



 しばらくして会議が終わった頃にエドワードが風呂場から出てきた。バッチリシャワーも浴びて。道理で遅いはずだ。



「エド、お前何のんびり風呂入ってんだよ」

「もう会議終わったぞー」


 幾分か大人しくなったレオナルドとアレクサンドルが声をかけるとエドワードはヘラヘラと笑ってみせる。



「ミナちゃんの部屋の風呂に入ってると思うと興奮するよね」



 こいつ、懲りてねぇ。


「お前、スゲェな。なにその無駄な不屈の精神」

「つーかお前ある意味強えぇ」

「だってさぁ、何か起こりそうな予感がしねぇ?」

「しねーよ。アホか」

「少なくともお前はない」


 呆れて物も言えなくなった私に変わって3人がいろいろ言ってくれるけども、それでもエドワードはヘラヘラ笑っている。


「じゃぁ誰ならあんの?」


 その問いかけにレオナルドとアレクサンドルは声を揃えていった。


「「やっぱ俺じゃね?」」

「バカか!!」


 思わずテーブルをひっくり返して星一徹★クラッシュを決めてしまう程瞬間的にキレた。


「なんなんだアンタらは! バカか! チームバカか!」

「隊長、気持ちはわかるけど落ち着け」


 どうどう、と私を宥めるヨハンに思わず掴み掛る。


「もー! ヨハーン! なんとかしてよー!」

「ごめん、俺の手には負えん」

「まーまー、ミナっち落ち着きなってぇ」

「アレクに言われたらムカつくんだけど!?」

「怒ったミナちゃんもかーわーいーい」

「かーわーうぃーうぃー」

「くっ・・・ムカつく・・・」



 今更ながらに思った。男社会で女は完全アウェー。完全に私バカにされてる。完全になめられてる。さすがにアンジェロの下で働いてきただけのことはある。超ムカつく。




殲滅作戦当日。



 教会内に踏み込むと、やっぱり本拠と同じリアクションが待っていた。どうやらまだ情報は回っていないようだ。まぁ皆殺しにしたから当然と言えば当然だ。建物の出入り口に隊員を配備し、インドラジットで攻撃を仕掛けると、ものの2分でカタが着いた。


「終わったよー」

「マジ!? 早っ!」

「吸血鬼ですもの」

「すっげぇー、さすが伯爵の眷属」



 みんなは感心したように私に賛辞を述べる。ちょっとは威厳を取り戻せたようだ。この調子で後6か所掃討できればいいな、と思っていたんだけど、世の中そんなに甘くない。


 2か所目3か所目になってくると、本拠や他の支部の人と連絡が取れないこと、信者たちが行方不明になっていることに気が付いたのか、徐々に警戒が強くなってきた。そして4か所目でとうとう戦局が変わる。


 きちんと下調べをして行ったのに、教会に踏み込むともぬけの殻だった。


「あっちゃぁ、やっぱ誰もいないね」

「逃げられたかぁ。そりゃ殺されるってわかってりゃ集会なんかしねぇよな」

「どーする? つかどーすりゃいいの?」


 隊員たちも困惑しているようだ。



「とりあえず、すぐに撤収して様子を見よう。このままここに居ない方がいい」

「え? なんで?」


 撤退を呼びかける私にみんなは不思議そうに振り返る。


「私たちの活動は隠密なのよ。秘匿で非合法。もし信者たちが警察でも呼んでたりしたら面倒じゃない。どの道このままここに居ても意味ないし」


 私の言葉にみんな納得してくれて、すぐにその場から撤収して、本部と無線を繋いだ。



「アンジェロ、面倒なことになった。クリスの方はどうなの?」

「あっちは何とか4か所目まで抑えたらしいけど、この分なら次はないな。ハァ、どうすっかなぁ」

「ダメでした! じゃダメかなぁ・・・」

「ダメだろ・・・気分的にはそれで済ませたいけどな。本拠を最初に襲撃したから教祖も幹部の奴らの大部分も殺したし、この宗教が復活するかは微妙だし」

「だよね。一回ジュリオさんに相談していいかな」

「あー、そーだな。そーしてくれ」



 拠点にしていたホテルに戻ってすぐにジュリオさんに電話をかけて事の顛末を説明した。


「そういうわけで、動くにも動けなくて。どうしたらいいですか?」

「ん? 殲滅で」

「い、イヤイヤイヤ! 逃げられちゃってるんですよ! 誰もいないんですって!」

「教会には、でしょ?」

「そ、そうですけど、信者たちを探し出して一人一人殺していくなんてできませんよ!」

「そりゃぁね。でも、支部長クラスの奴らだけはやってもらわなきゃぁ」

「え、えぇー・・・」

「何とか探し出して滅殺でよろしく。頑張ってねー」

「え! あ、ちょ!」



 結構な無理難題を押し付けて、ジュリオさんは一方的に電話を切ってしまった。

 あー全く、どうすりゃいいんだ。支部長の身元を調べるなんてこっちじゃできないし、仕方ない、一旦本部に戻ろう。


「というわけで、一旦そっちに戻るからクリスにもその旨を連絡して戻るように言っておいて」

「わかった。とりあえずお前らが戻ってきたら、また本拠に行って情報を集めに行くぞ」

「了解」

 本部に到着すると、既にクリスティアーノの指揮していた隊も到着していて、私が帰ってくるとすぐにジョヴァンニが傍にやってきた。



「おかえり! 俺だいぶ力の制御も格闘もできるようになったよ!」

「本当? よかったね。ほらね、慣れだって言ったでしょ?」

「うん。これからも精進します」

「よろしい。さて、とりあえず調査の方はどうする?」



 アンジェロの方に視線を向けると、面倒くさそうに頬杖をついて手招きするのでみんなで集まった。



「とりあえず、情報があるとしたら本拠だろ。手っ取り早く済ませてぇから全員出動だ。で、今回は調査だからミゲルも同行しろ」

「わかった」

「え? ミゲルも? パソコンのファイル開くだけなら誰だってできるじゃない」

「ロックかかってたら面倒くせぇだろ」

「あ、そっか」

「つーわけで、行くぞ」

「今から?」

「あぁ。オラ、さっさと準備しろ」

「はーいはい」



 それからなんやかんや準備して本拠に向かう。6階建てのビルの階段を駆け上がって最上階の一室にたどり着くと、ドアから明かりが漏れていた。



「先客がいるみてぇだな」

「信者かな」

「警察だったらどうしよう」

「とりあえずちょっと様子を見て来るね」


 インドラジットで霧になってドアの隙間から侵入すると、明かりはついているけど中には誰もいない。他の部屋を見回ってみたけど誰の姿も見当たらなかったし人の気配もしなかった。中から鍵を開けてドアを開けてみんなを招き入れる。


「誰もいないよ。電気消し忘れたのかな」

「外出してるだけかもしんねぇな。さっさと済ますぞ」

「了解」



 それからすぐに教祖様の執務室に向かって、ミゲルはパソコンを開いていじり出して、私達は本棚やキャビネットを漁り始める。しばらくすると、ミゲルが大きく溜息を吐くのが聞こえた。


「ミゲル、どうしたの? 見つからない?」



 声をかけるとミゲルはがっかりした顔をしてパソコンの画面をこちらに向けた。見てみると、幹部紹介とタイトルが付けられて顔写真入りで幹部のリストが乗っていた。


「え? あったんじゃん」

「そーだよ、あったんだよ。神里教のサイトが!」

「えぇ! あ、本当だ! サイトじゃん!」

「何もわざわざ来ることなかったんじゃん!」

「本当だよ。パソコンの中にそれらしきファイルが見当たらなくて、まさかと思って探したらコレだよ。もうイヤんなっちゃうな」

「盲点にも程があるな」



 くたびれもうけの骨折り損にみんなもがっくりと肩を落とした。その瞬間、ビルの入り口ドアが開く音がして、みんなに緊張が走った。誰か帰ってきた。警察か、信者か。執務室のドアをゆっくりと開けて覗いて見ると、11人の男女が入って来た。どうやら信者のようだ。みんなに振り向いて小声で相談を始める。



「どうしよっか」

「殺しちゃおっか」

「でも、立ち位置的に俺らが出た瞬間に逃げられるぞ」

「大丈夫。私が霧になって回り込んで退路を断つから」

「おぉ、その手があったか」


 再び霧になって入り口のドアに向かい、私が姿を現した瞬間にみんなが執務室から出てくると、信者たちは慌てて銃を構えたり隠れたりを始めた。



「お、お前等か! お前らがやったのか!」

「そーだけど」


 恐慌して怒鳴る信者の一人にアンジェロが飄々と答える。信者たちは初めは動揺して気付かなかったみたいだけど、徐々に気づいて驚愕の表情を浮かべた。



「お前ら、カトリックの神父じゃないか! 神父が、人殺しを!?」

「そーだけど?」

「それでも・・・それでも聖職者か!」

「異教徒に説教される覚えはねぇぜ」

「まさか! お前ら異教弾圧の為に!? ヴァチカンは、ガハッ」

「うるせぇよ」


 声を荒げる信者の眉間に銃弾を撃ち込むと、周りにいた信者たちも次々と一発で仕留めていく。


「アンジェロすごーい! 上手だね!」

「当たり前だろ。何年やってると思ってんだ」

「知らなーい」



 ドアの前からアンジェロに声をかけていたら、隠れていた信者の一人が私に向かって銃を乱射しながら走ってきた。私を撃って、自分が撃たれてでも退路を確保しようと思ったんだろう。でも、そうはいかなかった。




「とう!」


 ジョヴァンニが飛び蹴りをかまして男は吹っ飛んで壁に叩きつけられると動かなくなった。


「おぉ、ジョヴァンニ、お前すげぇな」

「フフン、まーねー」



 アンジェロに褒められてジョヴァンニは得意げだ。これで7人殺した。残っているのは隠れている4人。



「ジョヴァンニ、門番変わって。隠れてる人も銃を持ってるかもしれないから私が探す」

「ヤー!」


 ジョヴァンニを入り口に立たせて、みんなを下がらせて隠れている人を探すと、かすかに衣擦れの音が聞こえる。教壇の裏に隠れているな。

 教壇に近づくと、陰から腕が出てきて発砲されて、流れ弾がみんなに当たらないように羽を広げて教壇にたどり着くと、そこには2人隠れていた。



「みーつけた」


 二人は教壇の横に立つ私の姿を見て大層驚いた表情を浮かべる。



「し、シスター?」

「・・・天使・・・」

「違います。バイバイ」



 教壇の陰にしゃがみ込んでいた二人を蹴飛ばすと、二人は壁に叩きつけられてバキッと嫌な音を立てながら壁を赤く染めた。



「お前のは何かえげつない」

「うっさい」

「ねーねー! 副長! ほらミナ女神みたいでしょ!?」


 羽を生やした私を指さしてジョヴァンニがアンジェロに同意を求める。そう言えばそんなこと言ってたような。



「前も見たことあっけど、ただの化け物じゃねぇか」

「そんなことないよ! キレイだよ!」

「あぁ、そりゃどうも」

「副長じゃねーよ! ミナが!」

「バカか、お前目悪いんじゃねーの。眼科行け」

「バカじゃねーし、メガネっ子に言われたくねーし!」

「コレは伊達だ。視力は人よりいい」

「ぐぬぬ・・・!」



 残念ながらジョヴァンニは口喧嘩には弱いらしい。ていうかアンジェロのはオシャレメガネだったのか。いや、それより今はそんなこと話してる場合じゃないだろ。

 二人を放っといてうろつきながらキョロキョロ探していると、長椅子の下に足が見える。見つけた。


 ツカツカと歩み寄ると私に気付いた足の主は発砲してくる。でも、すぐに私に銃が効かないと悟ったその主は、攻撃目標を隊員たちに変えた。すかさず飛び出してみんなの前に回り込んで羽を広げると、羽に当たった銃弾はパラパラと床に転げ落ちる。



「フィー、間一髪。みんな怪我はない?」

「おぉ、ビビったー」

「大丈夫だよー!」

「ご苦労」

「・・・なんでアンジェロはそんなに偉そうなのよ」

「偉いから」

「私の方が偉いよ」

「人として俺の方が偉い。お前はバカ」

「人格破綻者のくせに・・・」

「脳が破綻してる奴よりはマシだ」


 生まれて初めて人助けして後悔した。ていうかジョヴァンニが口喧嘩弱いんじゃなくてアンジェロが強すぎる。そういえばロクに勝てた試しがないな・・・

 そうこうしている間にも信者は私に向かって発砲していたんだけど、とうとう弾切れしたようだ。それを見計らって、というか待っていたのか、アンジェロが私の頭の横から腕を出してその信者を射殺した。


「ちょ! うるさ! 耳キィンなったよ!」

「知るかボケ。お前もうるせぇよバカ。オラ、残党探せ」

「わかってるよ!」

「うるせぇ」



 イライラしながらも再びキョロキョロしていると、アレクサンドルが、あ、と声を上げた。


「ほら、あそこ」


 指さす方向を見てみると、テーブルの陰から延びる影。はっけーん。今度は一気に詰め寄ってテーブルごと吹っ飛ばした。



「これで全部片付いたね! ミゲル! 終わったよ!」


 執務室に向かって声をかけると、資料の束を持ったミゲルが出てきた。



「お疲れ! 幹部の住所地も調べといたからすぐにでも出動できるよ」

「さすがだね!」


 アンジェロは念のためと言って私とジョヴァンニが蹴っ飛ばした人にも銃弾を撃ち込んで確実に絶命させた。


「ていうかこの中に幹部いたりしないかな?」

「いるかもね! 確認してみよう」


 幹部の数は全員で18人。その内本拠と私達が掃討した支部の担当幹部は11人。残るは7人。ミゲルと共に死体を確認してみると、死体11人中6人が幹部だった。


「てことは、残すところあと一人!」

「やったー! これでイタリアに帰れるー!」



 私達はウキウキしながら本部に帰って、早速作戦会議を開いた。



「家を襲撃して家族皆殺しでいいんじゃね?」

「それはダメだろ。こいつが神里教だからって家族も信心してるとは限らねぇだろ。カトリック信者だったらどーすんだよ」

「だよなぁ。てことは、コイツが一人になったところを狙って殺すしかねぇよな」

「なんか、面倒くせぇ。つか、状況が状況だし、都合よく一人で外出するかわかんねぇだろ」

「じゃぁ俺がやる」


 名乗りを上げたレオナルドにみんな納得して決まってしまった。



「え? どういうこと? どうすんの?」


 一人だけついていけなくてみんなに尋ねるとジョヴァンニが回答してくれた。


「レオは狙撃の達人なんだよ」

「あ! なるほど! 狙撃かぁ! それなら家に居ても仕留められるね!」

「そういうこと」



 作戦が決まって、とうとう迎えた作戦当日。折角なので狙撃の腕を拝見させてもらおうと、レオナルドに同行してビルの屋上に上った。このビルから幹部の住んでいるマンションまで距離にして約700m。今日は月も隠れて真っ暗だ。隠密行動にはもってこいの夜なんだけど。



「レオ、離れすぎじゃない? 大丈夫?」

「余裕」

 レオナルドが握っているのは、セミオートの狙撃銃。

 口径7.62ミリ☓51

 全長1,280ミリ

 銃身長650ミリ

 重量8100グラム

 装弾数5発

 ドイツのH&K社が開発した、高性能スナイパーライフル、PSG-1。PSG-1(精密狙撃銃)の名が示す通り、連続発射性能、高い精度を併せ持ち、狙撃ライフルの最高峰と言われている。それを純銀製NATO弾装填用に改造した銃“ウェーヴァー”。

 ウェーヴァーというのは、どうも「魔弾の射手」の作者、カール・マリア・フォン・ウェーヴァーから来ているようだ。

 照準器の向こう側では、標的が廊下を歩いている。一瞬、レオナルドの周りの空気が引き締まって、その瞬間銃弾が発射され、標的は倒れた。



「レオ本当すごい! 一流! ゴルゴ! ゴルゴ13!」

「ゴルゴ? なにそれ?」

「漫画のキャラクターでいるの。超一流の殺し屋さん」

「ふーん」



 これだけ私が賛辞を送って褒めちぎっているのにレオナルドは別にいつも通り、みたいな顔をしていた。なんだこの落ち着き。本当に一流のスナイパーだ。一流の殺し屋だ。普段あんなにチャライのに、男って仕事の時は顔が変わるのね。



 本部に戻って狙撃の様子を興奮しながらみんなに話した。


「もう私感動しちゃったよ! 本当レオは一流だね! 見直した! かっこよかったよ!」

「マジで? かっこよかった? 惚れ直した?」

「かっこよかったし見直しはしたけど最初から惚れてないよ」

「んもー、ミナちゃんってばつれないんだからー」



 さっきまでは一流の殺し屋みたいな顔してかっこよかったのに、なんて残念な奴だ、レオナルド。でもま、とにかくこれでミッションコンプリート。なんだかんだで結局1か月かかってスペインとおさらばした。



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