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第4話 超新生児

 粗末な門扉をぶち破り堂々と正面から侵入すると、異変に気付いたテロリストたちはこれまた粗末な銃火器で私に鉛を投げつけてきた。それらを全て弾き返して先頭に立っていた男を捕まえる。



「指導者はどこよ」

「カトリックの殺し屋か! 誰が言うか! テメェは今から死ぬんだよ!」

「今から死ぬのはアンタ」


 男を殴りつけると土塀にぶつかり、その衝撃で土塀は赤く染まる。さっきまで大口をたたいていた男は沈黙し、その顔は赤く潰れた。






 一か月前、ギリシャで大規模なテロ事件が発生した。その犯人がこいつら。その討伐指令を受けた時にジュリオさんが言った。



「こいつら“アッラーの鏡”だけど、コイツらはムンバイ同時多発テロ事件にも関与してたらしいんだよ」




 許せなかった。シャンティの家族の仇。私が仇を討ってあげたいと思った。だから、アンジェロやみんなの意見も無視して、正面から堂々と攻撃を仕掛けた。勿論、死神のみんなを危険にさらすわけにはいかないから、私が掃除した後に、後方から援護に数人回ってもらう事にしたのだけど。


 テロリストたちはどこにこんなに人がいるのかと思う程の人数だ。建物の影が紅く光って、おびただしい数の銃弾が飛んでくる。



「ミナ、大丈夫か?」

「ミナちゃん、無理しないで」


 無線から半ば叫ぶように声が聞こえる。あまりにも熾烈な攻撃に驚いたのか、アンジェロ達を心配させてしまったようだ。


「全然平気。全く問題ない。銃では私は殺せないから」


 地面を蹴って建物の陰に迫り、テロリストたちを切り殺していく。入り口の陰に隠れていた奴らは沈黙した。



「正面入り口制圧完了。ディオ、入ってきて大丈夫だよ」

「了解」


 返事を受けると、すぐさまクラウディオとオリバー、ルカ、ジョヴァンニが警戒しつつも入って来た。




「ねぇ、指導者はまだいるかな?」

「ここを抜けたら広場に出るんだけど、その向こうにデカい建物があるからいるとしたらそこだろうね」

「そか、じゃぁこのままつっきるね」

「ヤー」



 クラウディオが返事をした瞬間乾いた音が響いて、咄嗟に3人の前で羽を広げると、その羽にビシビシと銃弾が当たって転げ落ちた。



「・・・ごめん。まだ生き残りがいたみたい」

「いや、いいんだけど・・・」

「隊長すげー」

「すげー。羽だ」

「死神っつーかむしろ女神じゃん」

「いや、女神はねーだろ」

「死神でも女神でもないよ。ただの化け物・・・っていうかアンジェロ、わざわざ無線でツッコまないでよ!」

「いや、あまりにもあまりだったんで、つい」

「・・・ムカつく」


 状況を全く無視したアンジェロの無神経なツッコみに気を悪くしながらも、撃ってきたヤツを見つけてすぐさま斬り捨てた。




 その後クラウディオチームは後方支援に回りつつ、私と共に前進していく。

 

 この殲滅機関と死神に籍を置いて結構経つけど、その間に私はすっかり人殺しになってしまった。まさか部活が実戦に生かせるなんて微塵も考えていなかったし、初めて人を殺した時はあんなに恐ろしいと思ったのに、特に今は昔ほどの感慨はない。


 そりゃ、罪悪だとか全くないわけじゃないけど、昔の自分と比べると信じられない程に落ち着いてこの手を血に染めている。私は、化け物だ。



 初めて人殺しをしたときの私は、さながら戦争映画に出てくる新兵だった。自分の所業に頭をおかしくして、それが人なのか死体なのかもわからない。でも、そんな新兵も経験を積んで一流の傭兵になった。

 それは決して正しくはない。でも、私は化け物だ。ヴァチカンの殺し屋だ。人間の常識で間違っていても、私たちの常識では間違いとは言い切れないのかもしれない。なんて都合がいいかもしれないけど。



 でも、私は化け物だからまだいいとして、クラウディオ達はどう思ってるんだろう。ジョヴァンニなんて死神に入ったばかりだし。と言ってもその前から機関員として活動はしてたみたいだけど。前にアンジェロは昔は疑問に思ったことがあったと言っていた。みんなも、そうなのかな。今は、どう思ってるのかな。






 考え事に夢中になってボケッとしていたら、急に体が爆発した。


「ミナちゃぁぁぁん!?」

「隊長!? 大丈夫!?」

「ゲホッ! いったぁ・・・だ、大丈夫。びっくりしたぁ」

「こっちがビックリだよ! なんで銃弾避けられるのに砲撃避けらんないの!?」

「ごめん、ぼーっとしてた」



 どうやら砲撃されたらしく吹っ飛んだ私を心配して、4人が慌てて走ってきた。ていうか、私本当に懲りないな。いい加減説教じゃ済まないかもしんない。本当に気を付けないと。砲撃なんかよりも、あの吸血兄弟の説教の方が余程恐ろしい。




「ザザ・・・ナ・・・ザザザ・・・ど・・・た」


 どうやら無線が壊れてしまったらしい。何言ってんのかさっぱりわからん。首を傾げていると、オリバーが使っていいよ、と無線を貸してくれた。


「ごっめーん! 無線壊しちゃった!」

「ごめんじゃねぇだろ! バカかお前は! なんでお前はいつもそうボケッとしてやがるんだよ! いい加減学習しろ!」

「もぉ、ごめんてばぁ」

「ハァ。怪我は?」

「ないよ! 服が焦げただけ!」

「あっそ。お前も焦げればよかったのに」

「焦げるか!」



 ムカついて無線を一方的に切ると、みんなに呆れ笑されてしまった。むむ、これはイカン。上官としての威厳が著しく失墜してる雰囲気だ。



「よし! じゃぁ気を取り直してレッツ」


ドォン!



「ミナちゃん、いい加減にしようか」

「・・・はい」



 オリバーの手を借りて立ち上がると、なんだかムカついてきた。チクショー、恥かかせやがって! テロリストどもめ! 



 腹が立って割と本気で殺しにかかった。シャンティの家族や罪もない人を殺すわ、私に恥をかかせるわ、とんでもない奴らだ。

 羽の生えた体に、紅い刀身の剣を振り回す私を見て、テロリストたちが何か叫んでいる。アラブ語かわからないけど、私の知らない言葉だから何を言っているのかはわからない。でも、どうせ化け物って言ってるんでしょ。そうですよ、化け物ですよ。それがどーした。




 居住区を抜けて広場に出ると、大勢の男達が銃を乱射してきた。これほどの人数なら、剣をふるうのはかえって面倒くさい。


「インフェルノ・ヴェーダ第2 シヴァ」



 シヴァに炎を吐かせた後風を送らせると、炎は渦を巻いて炎の竜巻になり敵に襲い掛かっていく。シヴァの炎の渦にのみこまれた人間たちはその渦から逃れることもできず、不規則な動きをする竜巻から逃れることもできず、焼き尽くされていく。焦げ臭い。タンパク質の焦げるにおいが周囲に充満してきた。



「くっさ! うわぁ、こっち風下じゃん」

「隊長、俺吐きそう」

「うん、私も気持ち悪くなってきた。これは失敗だったな」

「俺もうバーベキューできねー」



 周囲から苦情が殺到するものだからすぐに炎を止めて、何とか匂いを飛ばそうとシヴァに突風を吹かせると少しはマシになった。



「つーかそのライオン超かっけぇ」

「何この神々しさ。神の使いみたいじゃん。やっぱミナ女神じゃん」

「だから女神じゃねぇって」

「なんでアンジェロが反論すんのよ」

「条件反射だ。むしろジョヴァンニがしつこい」

「いいじゃん、別に。副長だって見たらそう思うよ」

「いや、思わねぇけど。さてはお前ミナに惚れたな」

「違うし! そんなわけないじゃん!」

「ハハハ。落ち着けよ。どーせバレバレだ」

「違うってば! ミナ、違うからね!」

「うーん、いいよ、どうでも」

「どうでも!?」

「お前ひでぇな」



 無線に向かって笑っていたら、広場の向こうから車が外に出て行くのが見えた。しまった! 余裕ブッコきすぎた!


「ヤバい! 逃げられちゃうから追いかけるね!」

「隊長、大丈夫だよ」


 無線に叫んで走り出そうとすると、急にルカがそう言って引き留めた。


「なんで?」

「まぁみてなって」


 半信半疑で逃げる車を見ていると、その車は突然爆発した。



「・・・なにしたの?」

「実はあっちのルートに感応式のトラップ仕掛けてたんだ」

「いつの間に・・・やるわね」

「まーね! ってことで、後は雑魚を片づけないとね」

「だね。パパッと済ませちゃおう」

「ヤー!」



 敵陣に走って剣を振り回していくと、その頭数は瞬く間に減っていく。目の前にいた男達を掃討すると、隠れていた奴らは弾切れしたのか、こちらに走ってくる。その手はインドで経験済み。どうせ自爆でしょ。

 駆け寄ってきた男達は、後方からの射撃で私に到達する前にその場に崩れ落ちて行った。投げつけられる榴弾も後方からの援護射撃によって撃墜されていく。なんて頼もしい部下かしら。


 しばらく戦闘していると、徐々にその場は静寂していく。人の声も、銃声も砲声も聞こえなくなって、人間の姿をしたものは見当たらなくなった。


 制圧完了だな、そう思って剣と羽を消した瞬間、後方でダンと銃声が聞こえたと思うと、続けてドサッと音がした。




 一瞬激しく胸騒ぎがして慌てて振り返ると、後衛達がしゃがみこんでいた。11時の方向にはその3人に銃口を向けた男がヨロヨロと立ち上がる。咄嗟に3人の前に立ちはだかると、お腹にショットガンの弾を浴びた。



 ショットガン、そんな大口径の銃で撃たれたの!? まさか!


 3人の影では、左胸からお腹にかけて抉られ、真っ赤に染め上げたジョヴァンニが苦しそうに肩で息をしていた。それを見た瞬間目の前に怒りの炎が燃え上がるのが見えて、気が付いたときには男はズタズタに切り裂かれていた。



 男を殺して、少し冷静になって再びジョヴァンニの元に駆け寄ると、ジョヴァンニは息も絶え絶えに口を開いた。



「ミナ、撃たれ、ちゃった」

「ジョヴァンニ! 喋っちゃダメ! すぐに病院に連れていくから! 絶対に助けるから!」


 そう言ってジョヴァンニを抱き起こそうとするとオリバーに止められる。


「ミナちゃん、間に合わない。ここから病院まで100キロはある。それまで持たない」

「でも、このままじゃジョヴァンニが死んじゃう!」

「ならせめて、俺達で看取ってやろう」

「ダメだよ! そんなの、絶対ダメ!」

「でも、もうどうしようもないんだよ」

「やだ! そんなの絶対にダメだよ! ジョヴァンニ、頑張って!」


 オリバーの制止を無視して再びジョヴァンニに手を伸ばすと、ジョヴァンニは咳き込みながら口を開く。



「ミナ…いいよ、もう。死神、になった時点・・・で、覚悟はしてる」

「私がよくないよ! 許さない!」

「俺だって、死にたくは、ないよ。でも、どうせ、死ぬなら…ガハッゲホッ…最期に…」

「最期になんて言わないで!」



 ヒューヒューと肺に穴を開けて苦しそうに息をするジョヴァンニ。彼を死なせたくはない。どうしたら、どうしたらいいの。なんで私には殺す力しかないの!? 助けたい、ジョヴァンニを助けたい!


 そうだ、もう、やるしかない。




「ジョヴァンニ、選んで」

「な…に?」

「人として死ぬか、吸血鬼として生きるか、選んで」



 私の言葉を聞いて、回りの3人からも無線からも動揺の声が聞かれる。



「ミナ! 何いってんだ! やめろ!」

「アンジェロ、選ぶのは、選べるのはジョヴァンニだけだよ。さぁ、ジョヴァンニ、選んで」



 選択を迫る私に苦悩の視線を投げたジョヴァンニは手の甲で目を覆った。



「あぁ、クソ、まるで悪魔の囁きだ。チクショー・・・こんなときに、神は救っちゃくれないんだな。クソ、クソ・・・あぁ、俺はまだ、死にたくない、死にたくないよ」

「わかった。でも私は他人を吸血鬼にしたことはないし、確率は五分五分。それでも生きたい?」

「…生きたい」

「覚悟はいい?」

「うん」



 ジョヴァンニの返事を受けて、彼の首元に噛みついた。



 少し吸血して口を離すと、徐々にジョヴァンニは苦しみ悶えはじめる。お願い、お願い。どうかどうかジョヴァンニを助けて。ジョヴァンニを死なせないで。

 苦しむジョヴァンニをみんなで祈るように見つめていると、少しずつ落ち着きを取り戻し、息も整い始め、ジョヴァンニは目を開けた。



「ハァ・・・ハァ・・・俺・・・」

「ジョヴァンニ! 大丈夫!? 何ともない!?」


 みんなで覗き込むように尋ねると、ジョヴァンニは自分のお腹をさすった。すると、そこから銃弾がパラパラと落ちてきた。



「あれ、すごい。傷塞がっちゃった」

「本当に!? なんともない!? 平気!?」

「うーん、全然平気」

「よかったぁー!!」

「ジョヴァンニー!!」



 思わずみんなでジョヴァンニに抱き着くと、くすくすと笑う声が聞こえた。



「本当吸血鬼ってすごいねぇ。全然重くない」

「そりゃそうだよ! ジョヴァンニ、ありがとう。選んでくれてありがとう。生きたいって言ってくれてありがとう!」

「お礼を言うのはこっちだよ。助けてくれてありがとう、マエストロ」

「マエストロ! そっかぁ、私がジョヴァンニのマスターになるんだね。ジョヴァンニも家族になるんだね」

「家族かぁ。そっか、俺はミナの息子みたいなものか。えらく若いお母さんだね」

「確かに! これからよろしくね」

「こちらこそ」


 ジョヴァンニが生きててくれて、本当に良かった。例え化け物でも、生きててくれたらなんだっていい。死んじゃうよりは、全然いい。


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