表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/42

第5話 旧友

 着替えが済むと、レミがトコトコ私の前までやってくる。


「ミナ様、いま、猊下はお出かけしてるんです。お戻りになられるまで、どうなさいますか?」

「うーん、とりあえず、屋敷の中を案内してもらってもいい?」

「はい! わかりました!」


 レミは元気に返事をすると、私の手を取って歩き出した。繋いだ小さな手。可愛い。随所に渡って可愛い。

 食堂、サルーン、応接室、書斎、あちこち回っていると、使用人さんらしき人達に声をかけられる。


「ねぇレミくん、どうしてみんな私がミナってわかるの?」

「それはわかりますよ。この屋敷には女性はミナ様しかいらっしゃいませんし、女性のお客様がいらっしゃることも滅多にありません」

「あ、そういえば女の人見かけないね。でも、どうして?」

「さぁ? どうしてでしょう? 僕もわからないんですけど。とにかく使用人は全員男性ですよ」

「ふーん? そうなんだ」



 もしかして、この屋敷の人たちも全員、その殲滅機関とやらのメンバーだったりして。使用人とは仮の姿、謎に包まれた使用人。その正体は、神罰の地上代行者! 


 なーんて、ね。








「そうだよ。よくわかったねー」


 帰ってきたジュリオさんに聞いてみたらその通りだった。びっくりした。



「でも、どうしてレミくんは知らないんですか?」

「まだ子供だからね。血生臭い事、わざわざ教えることないでしょ」

「それもそうですね」



 結構優しい人だな、と感心していると、部屋の扉が開いてアンジェロさんが入って来た。


「猊下、ミナ様、お食事をお持ちしました」



 トレイの上にはグラスに入った血液。輸血用を見慣れてるからすごく違和感。どこから調達してくるんだろう。



 グラスを受け取り、口をつけようとして、はた、と気になった。


「ジュリオさん、あの、これって血ですよね?」

「そうだよ」

「毒とかポイズンとか入ってたり・・・」

「しないよ」

「で、ですよね。失礼しました」

「うん。ちょっと今のは失礼だよね」

「すいません・・・」



 恐縮しつつ、グラスに口をつけると、確かに普通の血だった。でも、なんかこの血、色んな血液型がブレンドされてる・・・本当にどこから調達してるんだろう。

 飲み終わって、アンジェロさんにグラスを預けると、ジュリオさんは今日の行動の報告を始めた。



「今日も聖下の所に行ってきたんだけど、伯爵を攻撃するのは辞めますって言ったら怒られた」

「えぇ!? じゃぁ攻撃するんですか!?」


 教皇にダメって言われたらどうしようもないじゃない! ていうか約束守れないなら教皇庁襲撃してやる!


「いや、しないよ。何とか言いくるめたから」

「え? 本当に?」

「うん。約束したからね」

「本当に!? 絶対しませんか!?」

「しないしない」

「本当の本当ですか!?」

「…俺って信用ないんだね」

「え、ちが!」


 あまりにも信じられなくてしつこく食い下がっていたら、ジュリオさんはショボーンとしてしまって慌てて弁解に回る。


「だって教皇聖下の命令に逆らえるなんて思えないじゃないですか!」

「大丈夫だよ。俺こう見えて元弁護士だから口は達者な方だし。上手い事言いくるめてきたから」

「あぁ、そういえばジュリオさんって口が上手いですよね。しかも頭の回転も速いし」

「それは褒め言葉として受け取っていいんだよね?」

「も、ちろんです」


 若干引きつりながらそう答えると、ジュリオさんは私の様子に苦笑しながら、ソファに背中を預けた。



「あぁ、でも弁護士か。懐かしいな。最初、伯爵とは仕事で出会ったんだよね」

「あ、そうなんですか。殺人の弁護か何かですか?」

「ブッ! そうじゃないけど。家を買いたいって言ってきて。それで俺が担当になったの」


 くすくすと笑いながら、でもジュリオさんは遠くを見るような懐かしむような顔をしていて、その眼には少しだけ悲しみが映っているように見える。



「俺、最初は伯爵、むちゃくちゃいい人だと思ってさ、ちょっと気を許し過ぎたんだよね。でも、ミナのことがなかったら、友達のままでいられたのかな、とも思ったり」

「友達、だったんですか?」

「少なくとも俺はそう思ってたよ。伯爵がミナを狙ってて、俺が邪魔で殺そうとしてるって気付くまでは」

「え!? ジュリオさんってアルカードさんに殺されたんですか!? ・・・本っ当、あの人最低ですね」

「あはは。だね。でも、本当にすごく残念だったよ。今だから思えるけど、ある意味ミナに男の友情壊されたとも言えなくもないかな」



 ま、まさか「ミナ」を手に入れる為にアルカードさんがそこまでしていたとは・・・そりゃジュリオさんが恨むのも納得できる。私がジュリオさんと同じ立場でも誘拐してたかも。でも、そのことを残念だと思えるジュリオさんって、本当にすごいな。



「いや、悪いのはアルカードさんでしょ。ミナさんもジュリオさんも悪くないでしょ」

「あぁ、まぁね。でも、男の間に女が入るとゴチャゴチャなることがあるんだよね。ミナだって結局俺と伯爵の間でゴチャゴチャしてるわけじゃん」

「正直、私無関係だと思ってるんですけどね…。ていうか、私には夫がいるし」

「この状況でよく無関係って思えるね…でもまぁ、そう言うことが起きたりするわけ」

「みんな仲良し! でいいのに。難しく考えるからめんどくさくなるんですよ」

「・・ミナって平和な子だね。あぁ、もうこんな時間だね。ミナお風呂入ってきなよ」

「あ、はい。ありがとうございます」



 レミに着替えの支度をしてもらってお風呂に入りながらさっきの話を思い出してみた。

 もしかして、ジュリオさん、アルカードさんと仲直りしたいのかな。だとしたら、是非とも仲直りしてほしい。あ、でも私がこっちにいる限りアルカードさん許さないかなぁ。

 でも、でも、仲直りしてくれたら、みんな仲良し! になるわけだし。「ミナ」の確執なんて今更だと思うんだけど、当人たちにとってはどうなのかなぁ。


 あー! 誰かに相談したい! ミラーカさんとお気楽コンビに会いたい!出来ればクリシュナにも相談したい! けど、アルカードさんに預けたから無理だしなぁ。

 ていうか、城のメンバーになんてもう会えないし…あんな風に家出して合わせる顔ないしなぁ。あぁ、でも、うーん、あ! 

 この屋敷の人に伝書鳩頼めないかな!? …いや、みんなヴァンパイアハンターじゃん。無理じゃん。


 うーん・・・いかん。のぼせそう。



 着替えて風呂場の外で待っていたレミと共に、廊下を歩きながらまだ考える。

 うーん、なんとかそれっぽい理由をつけて、城に戻れたらいいんだけどな。口頭は無理でも手紙とかをミラーカさん達に渡せたらいいのに。

 でもどうしたらいいんだろう。それなりの理由…うーん。わからん! 頭がまわらん! もう、明日考えよう。今日は寝て・・・



「そぉだぁぁぁぁ!!」

「わっ! ミナ様! どうかしましたか?」

「あ、ごめん。なんでもない」

「そうですか?」

「ハハハ、ごめんね」



 そーだよ! 棺! 棺を取りに行くって口実があるじゃないか!そうと決まれば早速手紙だ! いーや、待て待て! 今日はいいとして次はどうするの!? 次がないじゃん。

 ていうか、そうちょくちょく城に通うわけにもいかないし、きっとジュリオさんに怪しまれる。ていうか最悪断られる。なんかこう、決定的な何か、何か・・・



「あ゛ーもう!!」

「わぁ! ミナ様? さっきからどうしたんですか?」

「・・・本当ごめんね。なんでもないの」

「そうですか?」


 あぁ、一体どうしたら…自分で何とかしろって事かな。いや、無理無理。そうだ、書斎にビジネス本とか心理学の本がないかな。交渉術みたいな。

 こういう時こそ先人の知恵を借りるのだ!そうと決まれば書斎へレッツゴー!

登場人物紹介


【100年前のミナ】

元はジュリオの婚約者。アルカードが一目惚れして強奪するという魔性の女。勿論、この人は何にも悪くない。


【エイヴァンゲリウム・ディアボルス】

お屋敷の使用人さん。勿論使用人さん以外にも機関員は2000人以上いる。

普段は使用人として働きながらジュリオのサポートと屋敷の警護に当たっている。

アンジェロを筆頭とした幹部11人が精鋭部隊「死神」を構成している。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ