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第3話 主従関係

 城に戻ってみんなにお土産を渡すととても喜んでもらえた。


「さっすがミナは気が利くなー! 伊達に5年以上下僕やってねぇな!」


 クライドさんはいつも一言多いんじゃい! でも、ウキウキしながら箱を開けたクライドさんは一気にがっかりした顔をした。


「おーい、ミナ! ビールってどういうことだよ!」

「デュッセルドルフの名物アルトビールですよ? すごいでしょ?」

「俺ら飲めねーじゃん! バカじゃん!?」

「あ、そっか・・・」


 名産品だと思ってうっかり浮かれて忘れてた・・・まぁ、ジュリオさんファミリーの方々に美味しく頂いてもらうとしよう。



「じゃ、また今度ですね! これと、あとドイツのチョコレートと、それとコレもデュッセルドルフ名物のマスタードとソーセージ! ジュリオさんファミリーの皆さんでどうぞ!」

「わぁ、ありがとう。みんな喜ぶよー」



 がっかりヴァンパイア達とは対照的にジュリオさんは喜んで受け取ってくれた。どれもこれも私が人間だったら是非とも食べたい・・・こういう時って吸血鬼って勿体ないなぁ。



「やっぱ人間っていいよねー。食べる楽しみがあるって幸せだよー」

「だなー。俺らも別に飽きたりはしねーけど、やっぱたまにはピザとか喰いてぇ」

「あー、いいですねーピザ! 私マック行きたいです」

「いーねー! あー・・・なんか食い物の話してたら腹減ってきた」

「あはは・・・持ってきます。血だけど」

「本当あたし達、悲しいなぁ・・・」





 苦笑いしながら血を啜っていると、いるはずの人を見かけないことに気付いた。



「ねぇボニーさん、アルカードさんとミラーカさんは?」

「さぁ? わかんない。今日はまだ一回も見てないから部屋じゃない?」

「ふーん?」


 年長組二人が引きこもりなんて、何かあったんだろうか。もしかして私がいない間にまたジュリオさんとケンカしちゃったとかじゃないよね・・・それとも2人が派遣された討伐活動中に怪我でもしたとか・・・はないか。

 なんだかよくわかんないけど、まぁいっか。今からジュリオさんに仕事の報告もしなきゃいけないし。


 私が血を飲み終わったのを見計らってジュリオさんが立ちあがったので、片づけをしてアンジェロと3人でジュリオさんの執務室へ向かった。




「なんでこうミナが関わる事件っていちいち有名人がでてくるんだろうね?」


 どうやらジュリオさんはペーター・キュルテンの事をご存じだったらしい。あの人本当に有名人だったのか。なんか悪い事したな。


「ペーターさんのこと知ってるんですか?」

「勿論。彼が逮捕処刑されたのは俺の死後だけど、当時は大騒動だったからね。年齢も俺とあんまり変わらないはずだよ」

「あージュリオさん世代なんですねー」

「なるほど、ヨハンやオリバーが知らないはずですね」

「だろうね。ところで、この報告書アンジェロが作ったでしょ? なんで?」



 怒っているのかなんなのか、ニコニコしながらジュリオさんは私達を見つめる。思わずアンジェロに視線を向けると、目が合った瞬間アンジェロは手に持っていたファイルから書類を取り出した。


「こちらがミナ様の作成した報告書です」

「あ! なんで用意してんのよ!」

「うるせぇ」


 アンジェロの差し出した報告書を受け取ると、ジュリオさんはそれを読み始めてしばらくして顔を上げた。



「アンジェロ、これからもお願いね」

「かしこまりました」


 クソ・・・ムカつくなぁ・・・




「今回はミナの活躍で武器の使用はナシだね。他に補給は?」

「できれば発信機が欲しいです」

「なんで?」

「報告書には記載しませんでしたが、討伐後ミナ様につられて隊員も迷子になりました」

「えぇー!? あり得ないんだけど・・・」

「私もそう思います。とりあえずミナ様の分だけでも用意して戴かないと、ミナ様の事ですから独断専行して勝手に迷子になる恐れもありますので」

「うわーアンジェロすごーい。なんで知ってんの?」

「・・・」

「・・・わかった」



 私の質問は無視されて、あっさりジュリオさんは承諾した。無視されるのは慣れてるんだけど、なんでいつも私の質問って誰からも無視されるんだろう・・・まともに相手してくれるのクリシュナと北都位だ。寂しいなぁオイ。



「ていうか、ミナってそんなにしょっちゅう迷子になるの?」


 私の質問はシカトしたのに逆にジュリオさんから質問された。


「まぁ、慣れるまでは大概・・・迷っちゃいますね」

「そう・・・大変だね」

「そうでもないですよ? うろついてればその内なんとかなるし、いつもアルカードさんが見つけてくれますから」

「・・・伯爵も大変なんだね」

「まぁ、アルカードさんには私の事はなんでもわかりますからね。探しに行くのは嫌でしょうけど」


 この前の警察の時もものすごくイヤイヤだったしなぁ・・・テロの時も怒られたし。アルカードさんの性格上、誰かを迎えに行くとか大嫌いなんだろうな。ちょっと反省。



「ん? 伯爵には何でも分かるってどういう意味?」


 話が一段落したと思ったら再び質問。ていうか、ジュリオさん知らなかったんだろうか。ジュリオさんには眷属はいないし吸血鬼の情報はヴァチカンにそこまで流れてないのか?

 だとしたら話していいんだろうか。いくらジュリオさんでも私達にとってはあくまで敵方なわけだしなぁ。まぁ、知られたからってそんな困ることじゃないか。


「えーと、まぁ、その言葉のとおりですけど」

「何でもって?」

「何でもです。アルカードさんと出会ってから今までの私の事で知らないことなんかないと思います」

「えぇ!? そうなの!?」

「そうですね」

「マジ!? ヤバいじゃんソレ! 殺される!」



 私の肯定の言葉を聞いた途端に慌てだすジュリオさん。何のことを言っているのか大方予想はつくけど、今殺されてなかったら大丈夫だと思うけどなぁ。


「殺す気があるならとっくに殺してると思いますよ。不可侵条約も締結してるわけだし大丈夫ですよ。あの人約束だけは絶対守ってくれるから」

「そうかなぁ、俺はともかくアンジェロなんて確実に殺されるじゃん」

「あぁ、アンジェロは殺すって言ってたけど、許してあげてって言ったらやめてくれました」

「・・・そう、ミナ、ごめんね」

「いーえ」

「ていうか、ミナはプライバシーないの? それでいいの?」

「はい。基本的に気にしてないし、慣れましたから」

「あ、そう・・・」


 ジュリオさんとアンジェロは気の毒そうな視線を向けるけど、正直慣れたというより最初からあまり自覚して行動してないからなぁ。ある意味アルカードさんの方が大変かも。

 むしろ、アルカードさんが居ると思うと安心して迷子になれるしな、うん。



「へぇ・・・でも、逆に便利じゃない? アンジェロ、お前ミナの眷属になりなよ。そしたらミナはアンジェロを探せばいいだけだし、発信機いらないじゃん」

「絶っっ対イヤです! 死んだ方がマシです! 私はプライバシーのない生活なんてイヤです。尚且つミナ様の眷属なんて、5重に輪をかけてイヤです!」



 ジュリオさんの提案にアンジェロは力強く猛反対した。こっちが引くほど猛反発した。ぶっちゃけ軽く傷ついた。



「な、何もそこまで・・・アンジェロ、私の事キライなの?」

「じゃぁキライ」

「ヒドーイ!! なんでそんな意地悪言うの! 傷ついた!」

「あぁ? じゃぁ好きって言って欲しいわけ?」

「やだぁ、気持ち悪ーい」

「お前マジムカつく。死ねバカ」

「アンジェロの方がよっぽどムカつくわ!」



 二人でチッと舌打ちしてツンとそっぽを向くと、それを見ていたジュリオさんはクスクス笑っていた。



「アンジェロ、冗談なんだからそんなに怒るなよ」

「冗談でもご遠慮願えますか。生きた心地がしませんでした」

「嫌がりすぎだろ」




 下がっていいよ、とジュリオさんに言われて執務室から出たところでアルカードさんとミラーカさんにばったりと出くわした。

 二人は私の顔を見ると一瞬驚いた表情をして、でもすぐにおかえり、と笑顔を取り繕う。なんか怪しい。



「ただいまです。どうしたんですか? 引きこもっちゃって、何かあったんですか?」


 階下へ向かう2人に随行しながらちょっと声を抑えて聞いてみた。私の質問にミラーカさんは不思議そうに首を傾げる。


「どうして? なにもないわよ?」

「いえ、なんとなくですけど。私の出張中二人はジュリオさんと別の討伐に行ってたから、その間になにかあったのかなって思っただけです」

「なにもないわよ。ミナちゃんは心配性ね」


 珍しく心配性が発動したものの、普段発動しないから空振りしたようだ。年長組二人がコソコソしてるなんて何かありそうって気がしただけだし、単純に作戦会議でもやってたんだろう。



「所でミナちゃん、デュッセルドルフは楽しかった?」

「はい! 楽しかったですよ! 警察署の署長さんがすっごくいい人で、討伐成功をすごく喜んでくれて頑張った甲斐がありました!」

「そう、よかったわね。そういえばデュッセルドルフにはバカな子が一人いたけど、今どうしてるかしら・・・」

「バカな子?」

「えぇ、キュルテンっていう子でどうしようもないバカよ」

「え・・・知り合いですか?」

「知り合いと言えば知り合いね。趣味も合うし嫌いではなかったけど、自由すぎてちょっと軽蔑していたわ。ミナちゃんこそ知り合いなの?」

「今回の標的でした・・・」

「あら、まぁあの子なら死んでもしょうがないわね」


 さすがミラーカさんは顔が広いなぁ。ミラーカさんもアルカードさんも割とあちこち行ってるみたいだし、吸血鬼の知り合いが結構いるんだろうな。経験上、吸血鬼同士って遭遇しやすいみたいだし。

 だけど、ヴァチカンの仕事をしている以上この二人の友達とかを殺しちゃう可能性はなきにしもあらず、か。もしかしてアルカードさんが最初反対したのはそれを懸念しての事だったのかな。

 次に吸血鬼に遭遇した時は、この二人の名前を出してその反応によってはコッソリ見逃してあげられるようにしてみよう。無理かもだけど。




「それよりお前、ジュリオに余計なことを話すな」


 アルカードさんはご機嫌斜めだ。やっぱり言わない方が良かったのか。しかしいまさら言われても時すでにお寿司ってか。


「ごめんなさい、これからは気を付けます・・・でも、テレパシー出来ることは言ってないし、不可侵条約があるから大丈夫ですよ」

「お前は忘れているようだが、ジュリオは私達にとって最大の敵だという事を念頭に置いておけ。不可侵条約があったとしても、私達の情報がジュリオの同業他者に渡れば、そいつらが攻撃してくる可能性だってあるんだからな」

「そうですね・・・すいません」



 そうだ、そこまで考えてなかった。もしそうなってしまったら元も子もない。ジュリオさんはいい人だし、約束したから攻撃してくることはありえないとしても、同業の人達だって世の中にはたくさんいるはずだからわからない。

 もしそんなことが起きてしまったらきっとジュリオさんだって悲しむと思うし、攻撃できる隙を作るのはよくない。



「あの、アルカードさん、もし仮にそういう事態が起きてしまったとして、その時ジュリオさんはどうすると思いますか?」

「助けるだろうな、お前だけは」

「・・・そう、ですか」


 やっぱりアルカードさんはジュリオさんの事を信頼しているわけじゃないんだ。当然と言えば当然だけど。でも、それなら同居を許す必要なかったのに。いや、それこそ私の為だ。


 ん、ちょっと待って。そうだ、ずっとおかしいと思ってた。アルカードさんほどの人がやむを得なかったとしても、宿敵と同居を許可すること自体がおかしい。あの状況ではそれ以外に選択肢がなかったと言うのもあるけど、私を取り戻すために正常な判断を欠いてしまったとしか思えない。

 相手がジュリオさんだからいいようなものの、もしそうでなければアルカードさんの今の状態は非常に危険だ。

「事件の陰に女在り」っていうけど、事件が起きてしまったら私がその女になってしまう。マリーアントワネットや妲己のように、国を滅ぼす災厄の女になってしまう。歴史上、一人の女のせいで戦いが起きて滅んでしまった事例は数多い。

 私たちの歴史の中で、そういう戦いが起きる事だけは避けたい。私が、しっかりしなきゃ。




「アルカードさん、私の事好きですか?」

「・・・・・・・・」

「・・・あ! や、ちが! そう言う事じゃなくて! 私って言うかみんなもですけど、大事ですかって事です!」


 うっかり妙な質問をしてしまって、慌てて訂正した。ほらもぉアルカードさん呆れちゃてるよ・・・わざわざ墓穴掘るようなこと言うなんて、なんでこう私ってバカなの。アホ、間抜け! 本当、もっとしっかりしなきゃ・・・



「ハァ、お前の言わんとしていることはわかる。心配する必要はない。それなりに対策はある」

「あ、そうなんですか? どんな?」

「お前は口が軽そうだから教えない」

「そんなことないですよー! ちゃんと内緒にしますから教えてくださいよ!」

「ダメだ。ある意味ではお前が一番信用できない」

「ヒドーイ! 私が一番の忠臣なのにー!」

「その一番の従僕が一番の敵に尻尾を振るのだから大したものだな」

「う・・・」

「お前もしかして悪女か? いや、ただバカなだけか」

「んもー! どっちも違います! 私誰とでも仲良くはするけど、アルカードさんにはちゃんと忠義を尽くしてるじゃないですか! 私が一番信頼してるのはアルカードさんですよ! 本当別格ですよ! 格別とも言いますよ!」

「どうでもいいが、うるさい、鬱陶しい」



 憤慨してまとわりつきながら忠臣アピールをする私を引きはがしたアルカードさんは、クスクス笑っているミラーカさんとさっさと行ってしまった。もう! このジェラシー男め!







「アルカード、ミナちゃんのこと好き?」

「お前な・・・」

「クスクス。あぁ、面白かった。でも、ちょっと嬉しかったでしょ?」

「・・・何がだ」

「私が一番信頼してるのはアルカードさんですよ! って」

「嬉しいも何も、当然のことだ」

「全くもう、アルカードは可愛くないわね」

「可愛くなくて結構だ。というかお前もう黙れ」

「はいはい、全くあなたって本当にしょうがないわね」

「黙れ」


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