第2話 事後処理
「アンジェローおはよー・・・あれ?」
翌日の昼過ぎに目が覚めて、報告書を作っていなかったことを思い出した。でも、書き方がよくわからないのでアンジェロに相談しに行くと、部屋には誰もいない。
まだ寝てるんだろうかと、そっと寝室を覗いて見ると、真っ暗な室内の少し膨らんだベッドから寝息が聞こえてくる。
「ちぇっ、まだ寝てるのか・・・寝坊助め」
再びそっと寝室のドアを閉めて、居間のテーブルに目をやるとパソコンやプリンターが電源も点けっぱなしで放置されていた。
環境問題舐めんなよ、と思いながら電源を落とそうとパソコンを覗き込むと、ワードのページが開きっぱなしで、そのページには昨日の事件の詳細が記されていた。
「あれ? これって報告書じゃん・・・」
どうやら昨日のうちにアンジェロが報告書の作成を済ませてくれていたみたいだった。ということは、朝になって寝たのか。さすがは仕事人間。
少し感心しながらパソコンとプリンターの電源を落として、プリンターから吐き出されていた報告書をファイリングして部屋を後にした。
部屋に戻っている途中で気が付いた。なんで誰にも会わないのだろう。みんなどんだけ寝坊してるんだか・・・それとも、私が知らないだけで、事後処理みたいな仕事があって朝まで仕事してたのかな。
そう思ったらなんだかとても申し訳ない気がしてきた。
結局「隊長」って言う名前があっても私ってただのお飾りだ。みんなが普通に迎えてくれるのも、ジュリオさんの命令だからであって、私の扱いは「お客さん」なんだろうな。
ちゃんと、頑張らなきゃ。早くみんなに認められるような立派な指揮官にならなきゃ。とりあえず、今できることは・・・署長さんに報告に行こう。報告しに行くくらいなら私一人だってできるもんね!
そう決めて、早速着替えて警察署へ向かった。
「署長さん、こんにちはー!」
「おや、隊長さん。首尾はどうだったね?」
「カンッペキです! 敵はやっぱり吸血鬼でしたけど、バッチリやっつけました!」
署長さんに向かってグッと親指を立てると、署長さんは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「そうか、本当にありがとう。さすがはプロだね」
「いーえ! 当然のことですよ! これで町の人たちに笑顔が戻ると思うと嬉しいです」
「私も嬉しいよ。もうヴァチカンに足を向けては寝れないな」
「アハハ! そんなことで神様は怒ったりしませんよー!」
「そうだね。神は君たちと言う救いを与えて下さった。亡くなった被害者たちもきっと救われた事だろうね」
「えぇ、そう願います。じゃぁ、私はこれで」
「あぁ、本当にありがとう。ミナ・エゼキエル隊長、願わくば君たちの未来に、幸多からんことを祈るよ」
にっこりと微笑んでくれる署長さんに微笑み返して、警察署を後にした。
署長さんがとても喜んでくれて本当に良かった。でも、「死神」が神の救いなんてなんだか複雑! まぁでも、死神も仮にも神だしな。
しかし、私は神に背徳しちゃってる吸血鬼。その辺神様は大目に見てくれるんだろうか。
人の役に立つなら、たとえそれが魔の力でも神様は妥協したりするのかな。それとも、神様って絶滅主義者なのかな・・・うーん、わからん。前者であることを祈っておこう。
ふと、顔を上げて街並みを見渡した。ルール工業地帯として産業革命以降発達を遂げた街並みに心が躍った。そうだ、みんなにお土産を買って帰ろう。
使用人さんにお土産のお菓子と、吸血鬼組のみんなにもお土産を大量に買ってホテルに戻った。
買い物に結構時間がかかってしまって、大量の紙袋を抱えてホテルに戻ったのは夕方。イタリアに帰るのは今夜。とりあえず間に合ってよかった。
さすがにみんな起きてるよね? とアンジェロの部屋に行くと、既に起きていてメンバーの何人かもアンジェロの部屋に集まっていた。
「あ、おはよー。何時に起きたの?」
「3時くらい。つーかお前どこ行ってたんだよ! 勝手にフラフラ出歩いてんじゃねーよ! お前がいないせいで出発が明日に伸びたじゃねーか!」
そういえば、書置きとか何もしてなかったかも。ていうか、なんで私がいないせいで出発が伸びるの?
「あ、ごめんね。署長さんに事件の報告に行って、それからみんなにお土産をと思って買い物してたの」
エヘッと笑いながら弁明すると、アンジェロ達は少し驚いたような顔をした。
「え? もう行ったのか? お前一人で?」
「うん、だってまだみんな寝てたみたいだし。報告位なら私一人でもできるし。それに、報告書作ってくれてたでしょ? 本当は私の仕事なのに、ごめんね、ありがとう」
笑ってお礼を言った瞬間、みんなの視線は一気にアンジェロに注がれた。
「俺らにはいっつも厳しいくせにー!」
「なんだよ! 結局副長が一番ミナちゃん甘やかしてんじゃん!」
「違ぇーよ! ミナじゃ心配だったからだ!」
憤慨しながらアンジェロはソファに座るとパソコンの電源をつけ始めた。
「お前らちょっとこっち来い。ミナ、座れ」
集合がかかって、アンジェロの隣に腰かけると、アンジェロは怒ったような表情のままみんなに言った。
「俺がわざわざ報告書を作った理由と、こいつがどんだけバカなのか今から証明してやる。ミナ、お前なりに昨日の事件の報告書を作ってみろ」
アンジェロのその物言いには非常に腹が立ったけど、練習だと思ってやってみることにした。
―――――10分後
「はい! できました!」
「・・・やっぱりな。オイ、見てみろ」
溜息を吐きながらみんなに振り向いたアンジェロに、みんなも背後から覗き込んできて、少しすると大爆笑し始めた。
「え? そんなおかしい?」
「もう、おかしい。おかしすぎる。まず、お前報告する気がないよな」
「そんなことないよ!」
「じゃぁコレなんだよ! 「敵はやっぱり吸血鬼だったので、なんやかんやでやっつけました」って! バカか! これ見てもジュリオ様チンプンカンプンだろ!」
「えー、だってやっつけたじゃん」
「もっと詳細に書けっつってんだよ! それとココ、「町に平和が戻ってよかったです」作文か! お前の感想なんていらねーんだよ!」
その後もあちこち細かい点にダメ出しをされ続けて、その度にみんなに爆笑される始末。元々文章書いたりするの苦手だけど、怒られ過ぎてさすがにムカムカする。
「な? わざわざ俺が代行した理由がよーくわかっただろ?」
「うん、副長、ごめん」
「ちょっと俺らミナちゃんをナメてたわ」
「副長それ記念に保存しといてよ」
結局みんなはアンジェロの味方に回ってしまって、私がバカだと確定したらしい。超不服。
「でも、こういう書類作ったことないんだもん! だからアンジェロに相談しようと思ったらもう作ってあったし、寝てたし! 教えてくれたら私だってちゃんとするもん!」
「断る。お前に教えんのが面倒くせぇ。俺がやるからお前は手出しすんな」
「もー! アンジェロのケチ! じゃぁクリス教えてよ!」
「え? 俺? 俺やったことないぞ?」
「クリスも副長じゃん? どうして?」
「そりゃアンジェロが自分の仕事を他人にさせんのが嫌いだったからだよ。根っからの仕事人間だし」
「えー? そうなの? アンジェロ、そんなんじゃ後継が育たないよ?」
「うるせぇ! ジュリオ様に取り入って下剋上した奴が偉そうに言ってんじゃねぇよ!」
まだ根に持っていたらしいアンジェロに怒りながらバシッと頭を叩かれた。叩かれた頭を撫でながら睨みつけても、アンジェロはツンとしたまま、さっさとパソコンの電源を落として立ち上がった。
「じゃ、お前ら出る準備しろ。帰るぞ」
「あ、やっぱ今日帰んの?」
「あぁ、ミナが報告に行ったんなら留まる理由はないからな。オラ、さっさとしろ」
「はーいはい」
どうも延期の理由は警察署に報告に行けなかったせいらしい。でも、私が行ったなら延期する必要もなくなったというわけだ。
それから支度をしてチェックアウトをしてイタリアへと帰った。
登場人物紹介
死神メンバー
【アンジェロ・ジェズアルド】(前にも紹介しているけど)
副長。戦術や戦略を考えたりミナが頼りないので全体的な指揮、統率をする。人にも自分にも超厳しい。銃を扱わせたら右に出る者はいない。
【クリスティアーノ・インザーギ】
25歳 イタリア出身
以前から副長。口の悪いアンジェロの通訳をやったり、サポートしたり結構大変な人。対人格闘が得意。
【レオナルド・ジュリアーニ 】
25歳 イタリア出身
チームリーダー。レオナルドのチームはヨハン、エド、アレク。
狙撃が得意。
【クラウディオ・フォンダート】
25歳 イタリア出身
チームリーダー。クラウディオのチームはオリバー、ルカ、ジョヴァンニ。
爆発物とか作ったりする。手先が器用。
【ヨハン・シュトレーゼマン】
24歳 ドイツ出身
ものすごく真面目。銃や武器開発をしたりする。彼のおかげで武器の性能がグッと向上した。
【エドワード・クロムウェル】
23歳 アイルランド出身
あらゆる武器を使いこなす武器マニア。でも一番好きなのは剣だったりする。
【アレクサンドル・ミッテラン】
24歳 フランス出身
変装が得意。潜入捜査とか任せると敵の指導者をいつの間にか暗殺してたりする。
【オリバー・スプリンガー】
23歳 ドイツ出身
運転技術が半端ない。車から船、飛行機まで彼の手にかかればおもちゃ同然。
【ルカ・フォンドリエスト】
20歳 イタリア出身
イタリア語は女性に愛をささやく言葉だと本気で思っている。みんなからは「人間版ジュリオ様」とか言われている。トラップと逃げ足の速さは一級品。
【ジョヴァンニ・マキァヴェッリ】
18歳 イタリア出身
最近死神に叙任されたばかり。新人だけど銃の腕前は一流。チンピラ集団の中に合って唯一大人しい。
【ミゲル・デ・バンデラス】
21歳 スペイン出身
ルカと仲良し。通信や情報操作が得意。