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第1話 快楽殺人

「だーかーらー! ダメだっつってんだろ!」

「なんでよ! 特攻でいいじゃない!」

「つーかお前特攻しか知らねぇじゃねーか! 効率的な戦術なんていくらでもあんだよ! 無闇に俺らを死地に追いやるな!」

「それは、そっか。本当に大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫だって。つーかお前うるせーよ! 新参者は黙って聞いてろ!」

「わかったわよぅ!」



 現在、死神の作戦会議中であります。ジュリオさんに隊長に叙任されてから今日が初集会。うっかり口を挟んで怒られたところであります。



「被害者は5歳~30歳までの少女や若い女。殺害の手口は様々。強姦した後刺殺したり、撲殺したり。ただし、吸血痕があるのを見ると、吸血鬼の快楽殺人に間違いない」



 最近ドイツのデュッセルドルフ郊外の小さな村で奇妙な殺人事件が多発している。少女や若い女性が殺されて、全身の血を抜き取られるという事件。

 当初は誰も気づかなかった首筋の吸血痕が被害者全員に見られたことから、ヴァチカンに討伐要請がやってきた。


 対人間の敵は主にジュリオさんが率いる部隊が担当するらしいんだけど、対化け物とかデカイ組織になると精鋭の死神が出動するらしい。



「つーわけで、折角ミナもいることだし、お前囮やれ」

「うん、いいよ。でもさ、快楽殺人って殺人の快楽を得る為に周到に準備したりするものなんじゃないの? たまたま目に着いた女を殺したりするかな?」

「人間ならな。でも相手は吸血鬼だし、誰にも捕まるはずないってたかをくくってる。餌を差し出せば喰うだろ」

「なるほどねー。わかった、殺していいんだよね?」

「当然。もしお前が返り討ちに遭っても敵は俺らが仕留めるから、安心して死ね」

「死なないわよ!」




 まずはデュッセルドルフに向かって警察署の署長さんにみんなでごあいさつ。署長室に入ると、50歳くらいのおじさんが私たちの姿を見るとキョトンとした視線を投げてきた。



「こんにちは。ヴァチカンから来ました、エイヴァンゲリウム・ディアボルス精鋭部隊隊長ミナ・エゼキエルと愉快な仲間達です。早速ですが、現状の説明をよろしいでしょうか?」

「き、君たちがヴァチカンの・・・?」



 まさかこんな若者達でしかも隊長が女だとは思わなかったんだろう。なんだか署長さんは不安げな顔になった。



「だ、大丈夫なのかね?」

「大丈夫ですよぅ!」

「お嬢さんが隊長なのか。ヴァチカンもこんなお嬢さんを戦いに寄越すとはね」

「ご心配なく! とりあえず、ただいまより指揮権は私に移行して戴きますね。敵の動向や現状の説明をお願いできますか?」

「あ、あぁ、よろしく頼むよ」



 犯行は主に月が隠れる暗い夜。州都デュッセルドルフ近郊のエルクラト市において連日被害が相次いでいることから、エルクラト市内に潜伏していると思われる。かろうじて一命を取り留め救助された女性の証言によると、その男は紅い囚人服のような作業着風の格好をしていたそうだ。

 化け物ならばなおの事、繁華街には住めない。貧民街か廃屋に潜伏しているだろうし、被害も人通りの少ない南部の街辻に集中している。




「エルクラト市民は今恐怖のどん底だ。夜はもちろん昼間も人通りが途絶えてまるで寒村のようだ。これ以上未来ある若者たちを卑劣な化け物などに殺されたくはない」

「えぇ、お任せ下さい。必ず敵は抹殺します」

「頼もしいな。君たちに神のご加護があらんことを。アーメン」



 警察署を後にして、とりあえずホテルで作戦会議を再び開くことになった。とりあえず目的地はエルクラト市南西部の地区。比較的都市部の地域にありながら農業を営む家庭の多い田舎風情の残る地域。この地区にその吸血鬼が潜伏しているのは確実だ。




「折よく今夜は新月だ。前回の犯行から3日経っているし、今日あたりうろついてれば来るんじゃねーか」

「そうだね。とりあえず地図を。廃屋と墓所のあるところを押さえておこう」

「あぁ、おいミゲル、地図出せ」



 田舎なだけに民家はそれほど多くはない。空き家も6件ほどしかなく、その内3軒は割と近所だった。



「これなら楽に仕事が済みそうだね。いっそのこと一軒ずつ突入してもなんとかなりそうだよ」

「バカ、空き家つっても不動産の所有者に許可取らなきゃいけねーだろ。んな面倒くせーことできっか。ちょっとはまともに考えろバーカ」

「うっさいな!」




 深夜0時。家々の明かりはまばらで、街灯も少ない暗い夜。道には猫の子一匹いやしない。



「こちら本部、ミナ聞こえてるか?」

「うん、大丈夫。みんなは?」

「あーいミナちゃん、こちら後衛左翼レオナルドチーム聞こえてるよ」

「後衛右翼クラウディオチームも感度良好」

「よし、じゃぁミナ、その辺適当にうろついとけ」

「了解」



 無線からの指示に従って、その辺を歩き出す。後方200mくらいからは後衛たちが移動する音が聞こえる。

 しばらく歩いて行くと、前方に人影が見えた。人間か、それとも吸血鬼か。少し緊張しながら歩を進めると、なんと女性だった。



「ちょっとあなた! こんな時間にこんな状況で独り歩きして危ないじゃないですか!」

「で、でも怖いけど、急用で親戚の家に行かなきゃいけなくなったから・・・」



 親戚が危篤になってどうしても今夜行かなきゃいけないんだと言う女性。でも、彼女も当然事件の事は知っていてかなり怯えていた。



「ディオ! 誰か一人彼女を親戚の家まで送ってあげて!」

「ヤー!」

「あの、私の連れに家まで送らせますから、帰りは昼間に帰るか誰かに送ってもらってくださいね?」

「あ、ありがとう」



 クラウディオのチームから女性に一番優しいと自負するルカが名乗り出て彼女を送ってくれることになった。

 二人を見送って再びうろつき始めると、廃屋のある通りに差し掛かった。すると、その廃屋から男が一人出てきた。


 青白い顔をした茶髪でひげを生やした背の高い男、その男は紅い作業着風のかっこうをしていた。間違いない。こいつだ。



「敵を発見。とりあえず、素通りでOK?」

「あぁ、そのまま声がかかるまで普通にしてろ」



 男に近づきこんばんは、と挨拶してそのまま通り過ぎようとすると、背後から私に体を向けるジャリっという足音が聞こえた。




「お嬢ちゃん、こんな夜中に一人歩きは危ないよ」



 振り返ると男はニタニタと笑っている。



「そのようですね」

「最近連続殺人が多発してるみたいだ。俺が送ってあげようか」

「ありがとうございます。是非」



 しばらくその男と連れ立って歩いていると、突然男は私の手を引いて細い路地へと走り出した。

 路地の奥まで来ると、私をその場に突き飛ばし、ナイフを突きつけてきてニヤニヤと気味悪く笑いかける。




「アッハハァ! 可哀想になぁ、お嬢ちゃん。俺がその連続殺人犯だ。これからお嬢ちゃんを犯しながら切り刻んで、ゆっくり死の快楽を味わってもらおう」



 笑いながら私の前にしゃがみ込んだ男に目を向けて尋ねた。




「ねえ、あなた誰? ていうか吸血鬼でしょ?」



 私の質問を聞いた男は一瞬驚いてすぐに大笑いし始めた。



「驚いたなぁ、よくわかったなお嬢ちゃん。そうだ、俺様は吸血鬼だ。しかも連続殺人犯として生前からデュッセルドルフの吸血鬼として名を馳せたペーター・キュルテン、それが俺だ。こんな有名人に殺されることを名誉に思いな」



 悪いけど、私日本人だから知らないんだけど。



「ペーターさん、ちょっと待って。ねぇオリバーとヨハンはドイツ出身だよね。知ってる?」

「俺は知らん。オリバー知ってるか?」

「うーん? 聞いたことあるような無いような・・・」

「最近の若い人はあなたのこと知らないみたいだよ。残念だったね」



 ププッと笑いながらペーターさんに目を向けると、みるみる怒りの表情に変わっていった。



「誰と話してやがるんだ! バカにしやがって! もうお前は殺してやる!」


 怒りに任せて一気にナイフを振り降ろしてきたペーターさんの腰めがけて蹴りつけると、ボキッと音をたてながら吹き飛ばされて、路地の塀に激突した。



「残念でしたぁ。今から死ぬのはペーターさんの方でした」


 立ち上がってダーインスレイヴを出しペーターさんに近づくと、呻き声を上げながら立ち上がろうとするも、腰の骨を砕いたせいでその場から動くことができないようだった。



「お前、何モンだ!」

「自己紹介遅れてごめんなさい。私ヴァチカンの殺し屋です。更に言うと不死の王アルカードの眷属です。有名人の身内に殺されることを名誉に思ってくださいね」

「な、んだと!? 吸血鬼のくせに、あの最強の吸血鬼の眷属のくせにヴァチカンの手先だと!?」

「そうですよ。ホラ、どうするんですか? このまま死にますか? それとも戦って死にますか?」



 言いながらペーターさんの右足を切り落とすと、ぐぁぁぁ! と悲鳴を上げてのた打ち回っている。

 その切り口からダーインスレイヴがズルズルと吸血していく様を見て、あぁ、吸血鬼の血を吸った方が効率的に強くなれるなと思いついて、生きているうちに大量に吸血しておくことにした。



「ホラぁ、早く骨を直して足を再構築してくださいよ。使い魔を出して戦ってください。じゃなきゃあなたなぶり殺しですよ? いいんですか?」




 右肩を刺突しながらそう言うと、ペーターさんは血を啜る剣を見て、私を取り巻く影に恐怖の顔色を窺わせた。



「ば、化け物め・・・!」



 この人は完全に格下の超下級の獣のような吸血鬼だ。ダメ。全然ダメ。吸血鬼としてのプライドも何も持ってないような奴なんか大嫌い。



「化け物ねぇ、よく言われます。じゃぁあなたはなんですか? ただ地を這う虫にしか見えないけど」

「く、くそっ! くそっ!」



 地を這う虫よろしく、ペーターさんは必死に匍匐前進でその場から逃げようとする。



「ミナ、殺せ」

「うん。じゃぁ、そう言う事なんで、地獄の旅へいってらっしゃい」



 ペーターさんの心臓に剣を突き立てると、勢いよく吸血して一気に砂塵となりその吸血鬼は瓦解した。




「ミッションコンプリート!」

「ミナちゃんお疲れー!」

「隊長お疲れさん!」



 剣を消していると背後から覗いていた後衛のみんなが労いの言葉をかけてくれた。



「さすがじゃん! 圧倒的!」

「ていうか、こいつが弱過ぎなんだよ。吸血鬼のくせに武器がなきゃ戦えないなんて、吸血鬼を冒涜してるとしか思えない」



 ペーターさんの砂を蹴っ飛ばしながら文句を言うと、みんなに「いや、ミナちゃんも武器使ってたじゃん!」と突っ込まれた。



「私の剣は使い魔だから格が違うの! ていうか、これこのまま放置でいいの?」



 ペーターさんの砂を指さしてみんなに尋ねると、別の無線が入った。



「アローアロー、隊長いまどこ?」

「あ、ルカおかえり。えっとねー・・・ていうか、ここどこ?」


 途中から走ったせいで道が分からなくなってしまい、みんなに尋ねると、みんなも首を傾げた。



「ごめん! わかんないや! ルカはそのまま本部に戻ってよ!」

「えー! しっかりしろよ!」

「エヘヘ、ごめんね」



 とりあえず証拠にと少しだけ砂を集めて、みんなで右? 左? とウロチョロしながら、来るときは2時間で来た道を3時間かかってなんとか本部にしていたホテルにたどり着いた。





「おい、ミナはともかくよ、なんでお前らまで揃いも揃って迷子になってんだよ! 早速ミナのバカウイルスに感染してんじゃねーよ! お前ら何年仕事してんだ!」



 本部で待ちぼうけを食らっていたアンジェロは相当にお怒りだ。夜中どころか朝方だというのに騒々しい。



「もう、アンジェロうるさいよ。他のお客さんに迷惑じゃない。何時だと思ってるの?」

「うるせぇ! てめーは黙ってろ! いいかお前ら、こいつのバカさ加減は俺らの常識越えてんだよ。お前らがしっかりしねーと、すぐに妙なことに巻き込まれて死んじまうぞ」

「ちょっと! どういう意味よ!」

「どうもこうもそういう意味だ。つーかお前は黙ってろって!」



 ムキー! とアンジェロと睨みあっていると、まぁまぁ! とエドワードとアレクサンドルが間に入って来た。



「任務も無事に完了したんだからいいじゃん、なぁ?」

「そうそう、ミナちゃんいなかったらもっと時間かかってただろうし」

「お前らな・・・」



 みんなが私の弁護に回るので、とうとうアンジェロは溜息を吐いてソファにドサッと座り込んだ。



「お前ら頼むから、ミナを甘やかすな」

「えーでも副長と違って隊長優しいしー」

「女の子だしー」

「可愛いしー」

「腑抜けてんじゃねーよ! お前らそれでも死神か!」

「これでも死神だ。でもやっぱ職場に女の子がいると華やいでいいと思わねぇ?」

「思わねぇよ! 死神に必要なのは華じゃなくて鎌だ!」

「はー、これだから仕事一辺倒の男はダメだよなー。副長、たまにはガス抜きも必要だぜ?」

「余計なお世話だ! もうてめーら全員出てけ! ブッ殺すぞ!」

「おーコワ!」



 大変ご機嫌を損ねたアンジェロが銃を取り出して追い払うものだから、みんな大人しく部屋から退散した。



登場人物紹介


【ペーター・キュルテン】

生前「デュッセルドルフの吸血鬼」の異名をとった連続殺人犯。生前犯した犯罪は窃盗、放火などを含め80件以上に上り、殺人や殺人未遂の被害者数は20名を超えるともいわれるシリアルキラーの元祖とまで呼ばれた男。

彼を吸血鬼化したのはノスフェラトゥだったため、吸血鬼としての教育を受けることもなく、生前同様あちこちでやりたい放題やっていた。


【ビビり女性】

小さいころから可愛がってくれた叔父が危篤だと聞いて、危険だとわかっていてもいてもたってもいられなくなり、家を出たところでミナと遭遇して難を逃れた。

そのまま叔父は息を引き取ったそうだが、死に目に会えたことを心から感謝したとか。


【デュッセルドルフ警察署署長】

ヴァチカンに掃討依頼をした署長さん。保守派と違って結構頭が柔らかいので若い部下には人気がある。

デスクワーク派で署長まで昇進した為、反感を持つ者もいるがなかなかのキレ者

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