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第6話 先生

「化け物狩りじゃぁぁぁ!」


 城に帰ってきてから数日後、久々に仕事に赴くことになった。しかも出張。

 今回は、アルカードさんとボニーさんとクライドさんも一緒。ミラーカさんは、お留守番。初めてのお仕事にボニーさんとクライドさんは大喜びしていた。


「あっくまっ狩りー! あっくまっ狩りー!」

「千切って喰って、あっくまっ狩りー!」


 この二人の不思議な歌の通り、今日は悪魔狩り。吸血鬼の私が言うのもなんだけど悪魔って本当にいるんだな。


 数日分の荷物を抱えて、修道服に着替えて居間に戻ると、さっきのハイテンションから打って変わって、他の3人はお通夜かと思うくらいテンションがだだ下がりしていた。



「なんでシスターの格好なの!?」

「なんで神父のかっこうなんだよ!」



 ボニーさんは修道服、アルカードさんとクライドさんも神父の格好をさせられていた。


「一応決まりだからね。我慢してよ」


 ジュリオさんが申し訳なさそうに、そうたしなめるとしぶしぶ承諾したようだ。じゃぁ、準備も済んだし行きましょうか、と荷物を持つと、レミが走ってきた。



「ミナ様! しばらくお会いできないんですね…」

「うん。寂しいけど、行ってくるね」

「はい! お気をつけて! 神のご加護を!」

「ごめん、神に加護を貰ったら私多分死ぬわ」



 思わず突っ込むと、レミはそっか! と申し訳なさそうに笑っていた。


「じゃぁ、僕からの加護です」


 そう言うとレミは私の手を取って、手の甲にキスをして、手を離したレミは、いってらっしゃい! と手を振って見送ってくれた。

 みんなでゾロゾロと車に乗り込むと、いるはずの人の姿を見かけない。


「あれ? ジュリオさんは?」


 キョロキョロ見回してみても、ジュリオさんの姿はない。別の車かな?



「ジュリオ様は別件があって来れないから、今回は俺が指揮を執る」


 大きなケースを持ったアンジェロがそう言いながら車に乗り込んできた。



「そうなんだ。そのケースなに?」

「銃と弾薬のストック」

「あぁ、なるほど。ていうか、この前はよくも撃ったわね! 痛かったんだから!」

「痛いだけで済んだならいーじゃねーか」

「よくないよ! バカじゃないの!」

「バカはお前だろ! 警察沙汰になった上にヴァチカンの名前使いやがって! 俺とジュリオ様で事後処理したんだぞ! 余計な手間かけさせんな! バカ!」

「それは悪かったと思ってるけど! なんでアンジェロまでお仕置きに加わろうとすんのよ!」

「お前の泣き叫んで恐怖してる顔が見たい」

「バカじゃないの! 最低!」

「お前にバカって言われる筋合いはねーよ! バーカ!」



「うるさい!!」


 アンジェロと口喧嘩していたら、いきなりアルカードさんに怒られた。


「お前らは顔を合わせたら毎回毎回つまらん喧嘩をして! いい加減にしろ!」

「だってアンジェロが!」

「だってミナが!」

「黙れ! お前ら子供か! 次喧嘩したらお前ら二人とも犬の餌だ!」


 アルカードさんに怒られて、その様子にボニー&クライドや同乗していたチームの人たちにクスクス笑われてしまって、アンジェロは舌打ちして、私はぶすくれて黙り込んだ。





 黙り込んで俯いていたら、自分の手が目に入って来た。そう言えば、レミに手の甲にチューされたんだっけ。レミって結構キザだな。あれが子供レミじゃなくて大人レミだったら、私鼻血出てたかも。

 レミのご加護で今回は服に穴があきませんように。と祈っていたら、急にアルカードさんに手を取られて、手の甲にキスをされた。



「ほえ? どうしたんですか?」

「誰の加護も必要ない。お前は私が守る」


 アルカードさんはそう言って微笑んでくれるけど、あまりのことに驚いてしまった。この前私をお仕置きするとか言って追い掛け回していた人とは思えない。というか、追い掛け回してた人に言われても…


「どうしたんですか?」

「何がだ?」

「なんか、そんな急に優しくなって、今度は何を企んでるんですか?」

「お前な…別に、クリシュナと約束したから。それだけだ」

「あ、そっか。ありがとうございます」

「後は、消毒だ」

「消毒?」


 聞き返しても目も合わせてくれない。まぁ、シカトされるのはいつもの事なんだけどさ。ていうか、消毒ってレミに失礼じゃない?どんだけ嫉妬深いんだこのマスター。別に私アルカードさんの傍から離れるつもりないし、大体10年も先の話だし。


 それに、10年も経てばレミだってきっと外の世界で好きな女の子ができるだろうし。レミは可愛いし大好きだけど、本当は今はまだそういうこと考える気になれないし。

 争奪だの次期旦那候補だの、正直勝手にやってろって感じ。クリシュナが死んでまだ半年くらいだし、忘れられるわけないじゃない。



「では何故お前はレミの話を受けたんだ?」


 急にアルカードさんが、思考を読んで話しかけてきて驚いた。


「ていうか、勝手に読まないでくださいよ」

「お前こそ、いい加減自覚しろ」

「…そうでした。別に、レミはまだ子供だし、断ったりしても可哀想だし。10年も経てば忘れちゃってますよ。初恋は実らないものだって言うじゃないですか」


 何の気なしにそう答えたら、アルカードさんは少し悲しそうな顔になった。


「お前、それは少し無責任じゃないか。もしレミが10年間努力して、お前を思い続けて10年後約束を反故にされたら、レミはお前に裏切られたと思うだろう」


 アルカードさんの思わぬレミ擁護発言に少し驚いて、でも、確かに言うとおりかなとも納得した。


「そうかもしれないですね…でも、レミはまだ子供ですよ?10年もあれば子供は全然違う人間に成長するじゃないですか」

「じゃぁ、お前はどうなんだ?」

「え? 私?」

「お前は何年経てばクリシュナを忘れられるんだ? 10年? 20年? 100年?」



 そう言われて、ハッとした。

 そうだ。少なくとも今は忘れる気なんてさらさらない。でも、その内忘れようと思う日は来るだろう。でも、それはいつなんだろう。

 アルカードさんは「ミナ」を忘れるのに100年以上の月日を費やした。では、クリシュナを体内に宿している私は? 彼が一緒にいるなら、他の人なんかいらないって思うかもしれない。一生忘れられないかもしれない。忘れるとしても100年後、200年後ずっと先かもしれない。

 それなのに、例え子供でも先の話でも、他の人を受け入れるべきじゃなかった。



「レミに失礼なのはお前の方だ。帰ったらちゃんと謝っておくんだぞ」

「…はい。ごめんなさい」







 現地に着いて、車から降りると、アンジェロが傍に寄ってきた。


「あんな暴君なのに、なんでお前は着いて行けるのかと疑問に思ってたけど、ちょっとわかった」

「え?」

「だから、伯爵も言わねーんだな」

「え? なんのこと?」

「お前がちゃんと気付いてやれ」


 それだけ言うと、アンジェロはさっさと行ってしまった。気付いてやれって、なにを? アンジェロの背中を見送りながらぼうっと考えていたら、一人取り残されていたので慌てて後を追った。






エイヴァンゲリウム・ディアボルスのセーフハウス



「ねーアンジェロ、ていうか、ここってどこなの?」


 微妙に聞いてなくて、何となくついてきたのでここがどこかわからず、キョロキョロしながら尋ねると、まぁ多少予想してはいたけどイラっとした表情をされた。


「はぁ? お前、話したじゃねーか。聞いてなかったのか?」

「あ、やっぱり話してた? ゴメン、じゃぁ聞いてなかった」


 エヘヘと笑いながらそう答えると、アンジェロに溜息を吐かれた。


「チッ、全く。ここはミュンヘンだよ」

「え? ドイツの? どうしよう! 私ドイツ語話せない!」

「必要ねーだろ。悪魔と何話す気だよ」

「えー? でも現地の人とお話しできないじゃん!」

「それは俺がやるからいーの」

「え? そうなんだ。アンジェロ、ドイツ語喋れるの?」

「当たり前だろ。お前の頭と一緒にするな」

「ムカつく…」




 アンジェロはそのまま現地の担当官の人と、チームの人たちと作戦会議があるから、といなくなってしまったので暇人の吸血鬼組はちょっとでもドイツ語を覚えようという事になった。

 本当はミラーカさんも話せるんだけど、今日はアルカードさんしか話せる人がいないから、とりあえず、英独辞典を丸暗記しろと言われ、書斎に押し込まれて渋々3人で読みふけっている。


「あー、いつもだけど、この辞書丸暗記って苦痛で仕方ねーな」


 そう。私とボニーさんとクライドさんは、いつも外国語の勉強をするときは、発音を覚えて辞書丸暗記で、日常会話のお勉強に入る。

 この、辞書丸暗記と言うのが本当につまらなくて苦痛だ。



「なんかもっと楽しく丸暗記できないかな?」

「丸暗記はいいのかよ」

「字幕でハリウッド映画のDVD見るとかさぁ」

「ここテレビねーじゃん」

「もー! クライド文句ばっかり言ってないで考えてよ!」

「俺だって考えてるよ!」


 相当ストレスなのか、とうとう二人は喧嘩を始めてしまった。この二人が喧嘩をするなんて余程この行程が苦痛なんだろうな。



「ちょっと、二人とも落ち着いてくださいよ」

「もー! ミナも考えてよ!」

「そーだぞ! お前後からアルカードにマンツーマンで指導してもらえるからって!」

「八つ当たり!? いや、別に私だけ指導してもらおうとか思ってないですよ!」

「ミナがそう思ってても、アルカードはミナばっかり甘やかすじゃん!」

「えぇー…そんなこと言われても…」


 とんだとばっちりを受けて、余計やる気がなくなってきた。チクショー!このバカップル!

 とうとう二人は、本気でやる気をなくして「別にドイツに長期滞在するわけじゃないし!」とお勉強を放り出していなくなってしまった。


 全くもう! と、一人取り残された書斎で溜息を吐いたら、目の前の書架に見覚えのある装丁が。取り出して見てみると、旧約聖書だった。

 そうだ! この本を辞書で翻訳しながら読んで、丸暗記すればいいじゃん!



「えーと、第11章、全地は同じ発音、同じ言葉であった。時に人々は東に移って、この地に平野を得て、そこに住んだ。彼らは言った。「さぁ、れんがを作って」」

「バベルの塔か」

「うわぁぁ!」



 翻訳に夢中になっていて、急に声をかけられて心停止するほど驚いた。驚いたはずみに落としてしまった旧約聖書を拾いながら、アルカードさんは私の隣に腰かけた。



「あのバカップルは?」

「逃走しました。長期滞在するわけじゃないから必要ないって」

「はぁ、あのバカども。まぁいい。お前一人なら私が教えてやる」

「本当ですか!? ありがとうございます!」



 アルカードさんが翻訳してくれるなら辞書いらないしラッキー! と、二人で旧約聖書片手に暗記を始めた。



「次の朝早く、アブラハムはろばに鞍を置き、献げ物に用いる薪を割り、二人の若者と息子イサクを連れ、神の命じられたところへ向かって行った」

「私の子よ、焼き尽くす献げ物の仔羊はきっと神が備えて下さる」


 アルカードさんの翻訳を聞きながら、黙々と旧約聖書を読んでいく。そうすると段々、ドイツ語も分かるようになってきて、自分とアルカードさんの様子を客観的に見て思った。


 なんかこれ、お父さんに絵本を読んでもらってる女の子みたいだ。そう言えば前にミラーカさんがアルカードさんにとって私は娘みたいなものだと言ってた。そうか。やっぱりアルカードさんはお父さんだったんだね!←違う


 勝手に納得していると、アルカードさんが翻訳を止めて黙って私を見ていることに気付いた。



「お前な…」

「あ! すいません! 聞いてます聞いてます!」

「いつから私がお前の父親になったんだ?」

「あ、そっちですか。だって、ミラーカさんがそう言ってたし、クリシュナと結婚する時も渋々みたいな感じだったから、娘を取られたくないパパ心かなぁって。違うんですか?」

「違う」

「え? じゃぁなんですか?」

「うるさい。それより、読みづらい」



 いつものごとく、さくっと質問をスルーされたかと思うと、アルカードさんは持っていた本を伏せて、ひょいっと私を膝の上に乗せて、私の肩に顎を乗せて再び聖書を読み始めた。


 わぁ、なんだろうこの雰囲気。なんかめっちゃほっこりする。すごい、仲良し親子みたいだ!



「その親子設定から頭を離せ。というか折角付き合ってやってるんだからちゃんと聞け」

「あ、はい! すいません」


 怒られたけど、フワフワした雰囲気は継続で、私も体育座りをしながら聖書を読みつつ、アルカードさんの言葉に聞き入った。


 しばらくして、ヨブ記が終盤辺りに差し掛かった頃に、ドアの方からヒソヒソと話し声が聞こえてきた。



「わー、いいですね、あれ」

「だから言っただろ? あいつらいつもイチャついてんだって」

「だとしたら尚更、私はあの二人を邪魔しないわけにはいきません」

「そうはいくか! ボニー! アンジェロの部屋に強制連行だ!」

「アイサー!」

「あ、ちょっと、離してください! 離せー!」



 ドアの外でギャァギャァ言う3人を見つめていると、アルカードさんはクスッと笑っていた。


「どうしたんですか? ていうか、あの3人はどうしたんですかね?」

「どうもしない。ほら、続きを読むからちゃんと聞け」

「はーい」


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