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第5話 騎士

「―――――――――――――――というわけだ」


 アルカードさんの話を聞いて、私に向けられるのは憐憫じゃなくて呆れ顔だった。



「ミナちゃん、また暴走したのね…」

「ミナも懲りないね…警察は勘弁だよ」

「今回はテロリストじゃなかっただけまだましだな」

「全くだ。だが、今回ばかりは許さん。私の部屋にこい。お仕置きだ」

「ヒィィィィ!!」


 アルカードさんは私の腕を掴むと、そのままの勢いで肩に担いで歩き出した。



「やーん! やだぁ! ごめんなさい! 許してください!」


 嘆願してもアルカードさんはおろしてくれない。ジタバタ暴れていたら、天使が降臨した。



「アンジェロ! 助けて!」

「はぁ? お前何やらかしたんだ?」

「実はこのバカが、かくかくしかじかで…」


 アルカードさんに説明を聞いたアンジェロは爆笑しだした。



「アハハハ! お前バカだと思ってたけど、そこまでバカだったとはなー」

「バカでも何でもいいから助けてよー!」

「お前にお仕置きするのは本当に久しぶりだな。さぁ、どうしてくれようか。縛りつけてナイフで滅多刺しにしてやるか、それとも、あぁ、小僧に銃を借りようか」

「ヒィィィィィ!!」

「伯爵、銃貸してやってもいいけど、俺も混ぜて」

「ちょっ! 嘘でしょ!?」

「伯爵ちょっと耳貸して。例えばさー、ピ―――――して、ピ―――――とかは?」

「あぁ、なるほど。いいだろう。ついてこい」

「やったー!」

「いやぁぁぁぁぁ!!」



 降臨したのは堕天使だった! なんか今恐ろしい単語が聞こえたんだけど! 怖い! ものすごく怖い!!

 今まで対立することしか懸念してなかったけど、この二人がタッグを組むって恐ろしい! 最恐と最凶のドSコンビじゃん! 何されるかわかったもんじゃない!


 本当に命が危ない!



 ジタバタさせていた足で、アルカードさんの鳩尾に思い切り膝蹴りを入れると、そのはずみで、なんとかアルカードさんから飛び降りれた。


「貴様…」


 完全に怒らせてしまったようだけど、四の五の言ってる場合じゃないので速攻脱兎! 全力で階段を駆け上がって、逃げ込めそうな部屋を探していると、もうすぐ後ろにアルカードさんが迫っていた。



「逃がすか!!」

「ギャァァァ! なんで追いかけてくんの! ていうか早えぇー!」


 このままじゃ捕まっちゃう! 咄嗟に羽を出して飛び上がって、一気に吹き抜けの天井まで飛び上がった。ふぅ・・・ここならしばらくは・・・


「飛べるのはお前だけじゃないぞ」


 キュンと目の前にアルカードさんが飛んできた。そうだった! このままじゃただの空中鬼ごっこ。じゃぁ、これで逃げるしかない!



「インフェルノ・ヴェーダ第一、インドラジット!」


 どうだ! 私の姿も見えないし、霧なんて捕まえられないもんね! さすがのアルカードさんも困ってる。やった! じゃぁこの隙に、どこかに隠れちゃおー。



「仕方ない。サングィス・コントラクトゥス2号解除・ホロコースト」



 なにぃぃぃ!? こんな密閉した室内でホロコースト使う気!? そんなことしたら屋敷の人間全員死んじゃうよ!

 慌ててインドラジットを解除して、アルカードさんを止めに入った。



「待って待って! それ使っちゃだめですよ!」

「勿論、使う気はない」

「え?」


パァン!

 

 破裂音と共に、肩に痛みが走って思わず羽を解除してしまった。あ、ヤバい落ちる。ていうか、アンジェロ撃ちやがったなコノヤロー!!

 落ちながら、ニヤけて銃をしまうアンジェロが視界に入って来た。


 何とか体勢を立て直さなきゃ、とりあえず羽を出さなきゃ。そう思った瞬間、後ろから羽交い絞めにされて、落下が止まった。



「捕まえた」

「きゃぁぁぁぁ!」


 アルカードさんに捕まって、再びアンジェロのいる階下まで投げ落とされて、私が床に激突した直後に、アルカードさんも降り立つ。



「いたたたた…ていうか、アンジェロ! 何も撃つことないじゃない!」

「何も逃げる事ねーじゃねーか。なぁ? 伯爵」

「全くだ。私から逃げようとはいい度胸だな」

「「これから楽しい夜なのに」」


 変なとこで意気投合してんじゃねぇ!!


「やっ! 誰か、誰か助けて!」


 助けを求めようと、ボニーさん達に視線を向けても、さっと逸らされてしまうし、使用人さん達は見て見ぬふり。

 最狂コンビはニヤニヤとしながら、どす黒いオーラを放って近づいてくる。


「ったく、手間かけさせやがって」

「本当にお前は悪い子だ」

「悪い子には」

「お仕置きだ」


「いやぁぁぁぁぁ!!」









「やめてください!」


 もうだめかと思った瞬間、助けが入って、私の前に立ちはだかってくれた。




「ミナ様は僕を助けるためにしてくれたんです! ミナ様は悪くありません!」

「レミくん…」


 レミは私の前に回り込んで、私をぎゅっと守るように抱きしめてくれている。ほんま、ほんまもんのシュヴァリエや!


「レミ、そこをどきなさい」

「そのバカを甘やかすわけにはいかん。どけ」

「ダメです! ミナ様を虐めないでください! ミナ様は僕が守るんです!」


 レミは小さく震えながらも、涙目でじっと二人を見つめてそう言うと、二人の悪魔は溜息を吐いて「興が醒めた」と諦めてしまった。た、助かった・・・




「レミくん! ありがとう!」

「ミナ様、大丈夫ですか?」

「うん! あのアンジェロのバカに撃たれただけだよ」

「撃たれたんですか!?」

「あ、平気! もうすぐ治るから! それよりレミくん、カッコよかったよ! ありがとう!」

「いいえ! 僕はミナ様をお守りするって決めたんですもの。当然です!」

「レミくんは本物のシュヴァリエだね。ありがとう」


 レミの優しさと勇気と可愛さにものすごく萌え萌えしてぎゅうぅと抱きしめると、レミも良かったと呟いて抱きしめ返してくれた。

 その瞬間、影がしゅるんと動いてクリシュナと北都が出てきた。


「いやー、レミくんすごいねー」

「レミしかいないよねー」

「うわぁ! え! あの?」


 突然出てきた二人にレミは驚いて固まってしまった。


「あ、レミくんは初対面だよね。こっちが北都、私の弟で、こっちがクリシュナ、私の夫だよ」


 そう紹介すると、一瞬えっ! と驚いたものの、レミはすぐに自己紹介をして、二人もレミに自己紹介を始めた。


「ミナ様の弟様と旦那様ですか…」

「そうそう! でも、オレたちもう死んじゃってるんだけどね!」

「でね、今ミナの争奪戦やってるじゃん? 僕ら的には、ミナを一番大事にしてくれる人がいいわけ」

「そう! で、クリシュナ兄ちゃんとずっと見てたんだけど、レミがお姉ちゃんの次期旦那候補暫定一位ってことになったんだよね!」

「10年後が楽しみだね」



「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ていうか、なんだよそれ! 私当事者だよね!? 初耳なんですけど!



「ちょちょ! 二人とも! 次期旦那候補って何!?」

「その言葉の通りだよ? クリシュナ兄ちゃんの後釜」

「え? ぼ、僕が10年後にミナ様の旦那様になるんですか?」

「勿論、レミくん次第だけど、レミくんが良かったら僕たちは大賛成!」

「本当ですか!? じゃぁ僕頑張ります!」

「え!? レミくん!?」


 意外にレミがその話にノリノリになって3人でキャッキャ言い始めた。あれ、これって婚約したことになっちゃうの?


「ちょちょちょっとレミくん、旦那様になるってどういう事かわかってる?」

「はい! 結婚するって事ですよね?」

「そ、うだよ。結婚するってどういう事かわかってる?」

「はい! 僕は今も10年後も100年後もミナ様が大好きです!」


 大好きです! とにこやかに笑うレミの笑顔に完全にノックアウトされてしまった。


「私もレミくん大好きだよ」

「わぁ! じゃぁ10年経ったら僕のお嫁さんになってください!」

「10年経ってもレミくんが同じように言ってくれるならいいよ!」

「待て待て待て待て!!」


 レミのプロポーズを受けていたら、いきなり待てが入って、振り向くとアルカードさんとアンジェロが血相を変えて寄ってきた。



「お前ね! 何のためにジュリオ様と俺らがここに居ると思ってんの!?」

「何のために私が同居を許可したと思ってるんだ!」

「えー? そんなこと言われても…ジュリオさんは私が決めてくれたらいいって言ったし」

「ならせめてジュリオ様か伯爵の2択にしろよ! 他に選択肢増やすな、バカ!」

「お前、どんな思いで私とジュリオが同居していると思ってるんだ! 少しはこっちの気持ちも考えろ、バカ!」

「そ、そんな寄ってたかってバカっていわなくても…別にいいじゃないですか。みんなで仲良く暮らせば。ねぇ?」

「そうですよ。僕とミナ様の幸せな姿を指をくわえて見守ってくれたらいいですよ」

「レミお前そんなキャラなの!?」


 アンジェロは今度は私に話を振られて口を開いたレミに突っかかり始めた。


「大体、レミ! お前はジュリオ様にお仕えしておきながら、ミナ様を横取りするとはどういうことですか!」

「僕はミナ様にお仕えしてるんですー。ミナ様の言う事しか聞かないし、一生ミナ様のお傍でお仕えしてお守りするんですー。他の人なんかどうでもいいですー」

「なにをぉぉぉ!? ミナ、お前レミに騙されてるぞ! こいつとんでもねー腹黒だぞ!」

「何言ってんの? レミくんは優しいし可愛いし、私のシュヴァリエになるって言ってくれてるんだもん。そんなわけないでしょ。ねー?」

「ねー!」

「それが騙されてるって言ってんだよ! あー! ジュリオ様になんて言えばいいんだ!」


 ニコニコと抱き合う私とレミの横で、アンジェロとアルカードさんはorz←こうなっていた。


 それにしても8歳児からプロポーズを受けるとは思わなかったけど、10年後のレミかぁ。18歳のレミはさぞかし美青年なんだろうな…そのレミが私を大好きって言ってくれる。あぁ、たまらん!





「思わぬ伏兵が現れたわね。アルカード、手羽先みたいになってるけど大丈夫かしら」


 8歳児による横取り騒動を見ていた3人は深く溜息を吐く。



「まさかミナがショタコンだったとはね。北都の影響かな」

「そりゃねーだろ。クリシュナと結婚してたんだから。レミはあんだけ美少年だし、将来を期待してんじゃね?」

「はぁ、あの子もあの子ね。初恋は叶わないものだと言うけど、どうなるかしら」

「ていうか、まさか子供に負けるとは思わなかったから、かける言葉も見つからねーし」


 改めて手羽先になった二人を見て溜息を吐く吸血鬼3人。そのタイミングで、ジュリオさんが帰ってきた。


「ただいまー。あれ? アンジェロ、伯爵もどうしたの?」


 ジュリオさんが声をかけると、速攻アンジェロがジュリオさんに飛びついて行った。



「猊下! 申し訳ありません! 私の監督不行き届きです!」

「…なにがあったの?」


 なにかとんでもないことが起きたのだろうと察したジュリオさんは、アンジェロの言葉に耳を傾けて、アンジェロも口を開こうとした瞬間、レミが先に割り込んだ。


「ジュリオ様! アンジェロ様酷いんです! ミナ様を撃ったんです!」

「なにぃぃぃぃ!? アンジェロ! お前何してくれてんの!?」


 レミの言葉を聞いたジュリオさんは血相を変えてアンジェロを睨みつけると、アンジェロはハッとして慌てだした。


「いや、違うんです! いや、違いませんけど! それよりも大変なことが…」

「アンジェロ様は伯爵と一緒になって、ミナ様を虐めたんです!」

「伯爵も!? 変なとこで気が合ってんじゃないよ!」

「いや、確かに私はただの趣味ですけど! 今はそれより大変なことが起きたんです!」

「悪趣味にも程があるだろ! 趣味程度で女の子撃つなよ! 全くお前はホンットバカなんだから!」


 ジュリオさんはアンジェロを一瞥すると、私の元に歩み寄ってきて、私の傍でしゃがんで心配そうな目を向けた。


「ミナ、大丈夫? ごめんね」

「あ、もう大丈夫ですよ。それに、レミくんが助けてくれたから、撃たれて投げ飛ばされただけで済んだし、何ともないです」

「撃たれた上に投げ飛ばされたの? 全くもう…伯爵はともかくアンジェロまで何やってんだか…ミナ、本当にごめんね」


 謝りながら、ジュリオさんは優しく抱きしめてくれた。本当この人優しいな。この人の下で働いてきたから、レミもあんなにいい子になったんだろうな。いや、じゃぁなんでアンジェロはあんな奴なんだよ。あぁ、アンジェロが異常なだけか。


「うーん、やっぱりジュリオも捨てがたいね」

「あの時いたら、お姉ちゃんが撃たれる前に止めてくれた気もするしね」

「…なにが?」


 北都とクリシュナによる品評が始まると、ジュリオさんが不思議そうに首を傾げて、二人の品評を聞いたアルカードさんとアンジェロは、一目散に私達の所までスライディングしてきた。


「それです! 猊下、面倒なことになりました!」

「ジュリオ! お前は部下にどんな躾をしてるんだ!」

「え? なに? どういうこと?」


 不思議そうに首を傾げるジュリオさんに、アルカードさんとアンジェロは顔を見合わせて、口を開いた。



「この影2人によると、ミナ様の次期旦那候補暫定1位はレミだそうです」

「ええ!? そうなの!?」

「しかもあのガキ、ミナにプロポーズしやがった」

「えぇ!?」

「更にミナ様はそれをお受けしました」

「なにぃぃぃ!? ちょっとミナどういうこと!?」

「え? だって、私が決めていいってジュリオさん言ってくれたし、まだ10年も先の話ですよ?」


 私の返事を聞いたジュリオさんは「そうなんだけどさぁ…」と呟きながら手羽先になってしまった。なんだろう。今日は大の男が手羽先になる祭りだろうか。



「もう、ちょっと俺すごいショックなんだけど…」

「後10年ありますし、その間に頑張りましょう!」


 一生懸命ジュリオさんを励ますアンジェロの隣で、アルカードさんはピンと閃いた顔をした。


「おい、小僧、あのガキをクビにしろ」

「あ! その手があったか! 伯爵頭いい!」

「えー! ちょっと! ダメダメ! レミくんは私の付き人なんだから!」

「うるせー! お前は能天気でいいよな! 邪魔者は芽の内に摘み取る!」


 男3人がレミを追い出す方向で話をつけていると、レミがトコトコやってきて、私の首にきゅっと抱き着いて、にっこりと笑った。



「アンジェロ様、そんなこと言っちゃっていいんですか? あの事、バラしちゃいますよ?」




「え。レミ…あの事とは、なんでしょう」


 レミの言葉を聞いたアンジェロは、さっと顔色を変える。どうせこの男の事だから、人に知られたら不味いような事は山ほどしているんだろう。

 アンジェロの言葉を聞いたレミはまたにっこり笑って口を開いた。


「ミナ様が初めてお屋敷に来た夜に…」

「うわー! やめろ! ここで言うな! ていうかお前なんで知ってんの!?」

「見てましたから。これはジュリオ様もご存知ですね。ですが、これは誰も知らないでしょう。まだお屋敷にいたころ、アンジェロ様は毎晩のように…」

「わー! わかった! わかったから! もうわかりました!」

「わかって戴けて嬉しいです」


 アンジェロはがっぷりレミに弱みを握られていたらしく、あっさりとレミの軍門に下った。



「本当、レミ、なんで知ってるんですか…」

「見てましたから」


 にっこりと微笑むレミに溜息を吐いたアンジェロは、今度はジュリオさんに向き直った。




「というわけで猊下、誠に遺憾ながら、私はこの件に関してはレミに着きます」

「お前一体なにしたの」

「それは言えません」

「お前ね、日頃の行いが悪いからそうなるの!」

「そうですね。反省します。次からは人に見られないように頑張ります」

「反省するポイントが違うよね」


 というわけで、ミナ争奪戦は新たに布陣が敷かれた。


暫定一位 レミ

暫定二位 ジュリオ

暫定三位 アルカード



「ジュリオ、お前部下の教育方針を見直した方がいいぞ」

「そうですね…深く反省します」


マメチシキ


”アンジェロ”はイタリア語で天使という意味の男性名です。ヴァチカン一の名前負け男です。

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