6.もう馬鹿にさせない
最終回です。
今回の事件の罰の変更、髪剃の刑と火炙りの刑を提案したのはマリアだという事は貴族達だけでなく国民全員に知らされた。平民達からは慰謝料ではなく髪の毛で済ませるだなんて優しい、面白いといった意見が多くマリアに対する印象は好意的だった。火炙りの刑に関しては恐ろしいという声もあったが、元々処刑が決まっていた者の処刑方法を変えただけだった事と、実際に処刑を目の当たりにしていない事もあってか非難する声は上がらなかった。
一方で貴族達はマリアの変更に恐怖する者が多かった。髪剃の刑を受けた罪人達は屋敷に引き篭もる者が多かったが、中にはどうしても出なければならない集まりに出席する者もいた。周囲から向けられる視線には同情もあれば、好奇、嘲笑いといった冷たいものもあった。自分の容姿に自信を持ち、周りを見下していた者はとくに肩身の狭い想いをしている。この刑によって商談が上手くいかなかったり、婚約を破棄されたりといった弊害が出ている家もあり、慰謝料を支払うよりも重い罰になったと思った者が大半だった。
火炙りの刑についてはルーシュ達の最期を見届けた者達に、忘れられないトラウマを植え付けた。悲鳴、絶叫、髪と人間が燃えた時に発した感じた事がない異臭。そんな中で平然とした顔をしていたマリアと王族達。全てを提案し、承諾されたマリア・ラビスタという公爵令嬢の価値。彼女に危害を加えれば自分達はどんな目に合わせられるのか分からないのだと思い知らされた。貴族達は皆、マリアを見かけると手の平を返したように頭を下げ、丁寧な対応をするようになった。マリアはそんな彼らに微笑みながら挨拶を交わすも、何処か一定の距離を保ち接したのだった。
◇◆◇
「…本当に、本当にありがとう黒猫さん。」
マリアの部屋で、マリアは心から嬉しそうに黒猫にお礼を言った。
「お疲れ様マリア、頑張ったね。」
黒猫は機嫌が良さそうにふわりと尾を揺らした。
「ふふっ、あの人達が私を見て気不味そうにする姿、見ていて気分が良いわ! 私ってこんなに性格悪かったのね…。」
罰を受けた貴族と、罰は受けなかったがマリアを見下していた貴族達がマリアに頭を下げる姿は滑稽だった。公爵家の使用人達も殆どが頭を下げ謝罪してきた。そして、父である公爵もマリアの機嫌を伺うような態度をとるようになった。マリアが良好な関係を築きたいと思うのはハマスだけなので、公爵とは今まで通り距離をおいて放っておけば良いと思い相手にしなかった。今までマリアを放置していたくせに図々しいと思う。そんな公爵が相手にされずに気不味そうにするのは良い気味だと思った。
「これでもう…私は馬鹿にされない。」
コンコンッ、と部屋のドアをノックする音が聞こえた後、入室していいかと確認する侍女の声が聞こえてきた。黒猫はベッドの下に入り姿を隠した。マリアが許可をすると扉が開いた。
「…失礼しますお嬢様。」
「あら、どうしたの? 今までは勝手に入ってきたのに随分態度が変わったのね?」
「それは、今まで失念しておりました…。」
「それで、態々何の用なの?」
「あ、その…もうすぐスティーブ王子様との約束の時間ですよね。ですのでお召し替えのお手伝いに来ました。」
気不味そうにしながらも謝罪しない侍女の態度を無表情で眺めたマリアは、溜息をつくと準備するように命令した。何も言って来なかったマリアに、侍女は警戒を解いた様子で他の侍女も呼んで支度を始めた。
暫くして支度が終わり、侍女達が部屋を出ていくとベッドの下から黒猫が現れた。
「…もうマリアは1人で大丈夫そうだね。」
「…貴方とお別れ、なのね。」
マリアは少し寂しそうにそう言うが、すぐに微笑んで頷いた。
「ええ、私はもう1人で大丈夫よ。本当にありがとう……私ね、出かける前に公爵様と話してくるわ。」
別れの言葉に続くマリアの言葉に、黒猫は何処か楽しそうな様子を見せた。
◇◆◇
「ナタリア嬢はこの紅茶がお気に入りなのね? 確かにとても美味しいわ。」
「はいっ! スティーブ様が下さった紅茶なんですけど、飲んだときに感動したんですっ! マリア様もお気に召したようで良かったです。」
「はははっ、そんなに気に入ってくれて嬉しいよ。」
城の一室でマリアとスティーブ、そしてナタリアの3人は和やかに談笑していた。あの事件と誓いの儀によって、マリアとナタリアはお互いの名前を呼び合うほど親しくなった。2人と共に談笑していたスティーブは、真面目な表情でマリアを見た。
「マリア…今更だが、これまで君に酷い態度を取ってしまって申し訳なかった。君は俺とナタリアにとって都合が良い存在だというのは昔から変わらないけど、今は心から君が王子妃に、未来の王妃としてこの国を支えるに相応しい存在だと思っている。」
スティーブの言葉にマリアは目を丸くした。まさか面と向かって謝罪するとは思わなかったのだ。罰の変更をマリアに提案したのは黒猫だが、そんな事はマリア以外知らない。マリアの誰も思いつかないような発想によって、スティーブはルーシュを痛めつける事が出来た。そして国王や貴族達が周知していても、どこか後ろめたさが残るスティーブとナタリアの関係を公言し、周りに認めさせる事が出来た。マリアの案は素晴らしいと国王や王妃も称賛し、スティーブはとても満足した。だからこそ、スティーブは今までの行いを悔いたのだろう。
「わ、私もマリア様の事を誤解しておりました。私はスティーブ様だけじゃなくて、マリア様の事も支えたいと思います! わ、私なんかじゃ力になれないかもですけど…。」
自信なさ気なナタリアを見て、そしてスティーブを見たマリアは口を開いた。
「…いずれ、お二人からとても素敵な子供が生まれるでしょうね。」
何の脈絡もなくいきなり言われた言葉にナタリアは少し顔を赤くし、スティーブはポカンっとした顔をした後苦笑いをした。
「お二人の子供は王子、もしくは王女としてとても重要な存在となります。私はその時王妃として接し、力になります。ですので…。」
態と最後まで言わずに2人に目線を送ったマリアに、2人は察したように頷いた。
「…あぁ、俺は王として父として子供を守る。そして子供にはマリアを王妃として適切な態度を取るように言い聞かせるさ。」
「私も、母として子供を守ります。そしてマリア様を王妃として敬い、無礼な態度を取らないように注意します。」
スティーブとナタリアの言葉にマリアは嬉しそうに微笑んだ。そんなマリアを見て2人も笑った。3人の絆が確認されたところでマリアが口を開いた。
「ところで、私はスティーブ様と結婚式を挙げた後は城に住む事になりますよね。その際に1人、ラビスタ公爵家から侍女を連れて来たいと思っておりますが宜しいでしょうか?」
「あぁ、勿論かまわない。」
「実は今日、一緒に来ておりますの。紹介しても宜しいでしょうか?」
マリアの言葉にスティーブが頷くと、マリアは入り口近くにいた城の使用人に声をかけた。暫くすると城の使用人に連れて来られたマリアの侍女が姿を現した。侍女は緊張しながらも、スティーブのいる場に呼ばれた事で何かを期待するように微笑んでいた。
「ご紹介しますね、彼女はバカーコ。」
「は、初めまして…スティーブ王子様、ルナ子爵令嬢…。」
「彼女は使用人であるにも関わらず、私に公爵令嬢に相応しくない、等と無礼な発言と態度を取り、一言も謝罪をしない図々しい性格の持ち主なんです。公爵家の使用人としてどう思われますか?」
緊張した様子で頭を下げたバカーコは、マリアの言葉に固まった。そして恐る恐る顔をあげると、恐ろしい程無表情でバカーコを見るスティーブとナタリア、そして冷酷に微笑むマリアの顔が視界に入った…。
黒猫は少し離れた場所からマリア達の様子を見届けると、まるで存在しなかったかのように姿を消した…。
完結しました! ここまで読んで下さり本当にありがとうございました!! 金持ちな貴族はお金よりも見栄え(外見)が劣る方がダメージ大きいのでは無いかと思いました。魔法がなければどんなに金があっても髪はすぐに生えませんのでどうかなと思って書いてみました。ただいきなりそんな発想が思いつくとは思いませんし、不遇扱いされてた令嬢の言葉がすんなり通るとは思えなかったので黒猫に協力して貰いました 笑
もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(*^^*)




