2.王子と子爵令嬢との話し合い
王子と子爵令嬢を説得します。
「くそっ、マリアのヤツ。俺達を授業後に呼び出すなんて…。」
「…な、なんでしょうね?」
スティーブは苛立ちを隠せずに、ナタリアと2人で誰もいない生徒会室でマリアが来るのを待った。
マリアを牢屋から解放した翌日の朝、校門で馬車を降りたスティーブをマリアが待ち構えていた。
「スティーブ様、今日の放課後に生徒会室でお待ちしております。ルナ子爵令嬢と一緒に来てくださいね。来ていただけなければ婚約解消します。」
「…は? おい、急に何なんだっ!」
マリアが待ち構えていた事と、マリアがスティーブの機嫌を伺う事なく話しかけてきた事に戸惑ってしまう。
「来ていただけなければ、今度は私がルナ嬢を襲ってしまうかもしれませんね?」
「っ、おい、今なんて言った…!?」
だがナタリアの名前が出るとスティーブは険しい表情を見せた。しかし日差しの加減なのかマリアの顔は暗い影で覆われて、恐ろしく不気味な雰囲気を出した。スティーブ少し驚いてしまい何も言えなくなってしまった。マリアは一礼して背を向けるとそのまま校舎に向かってしまった。遠くなるマリアの姿を見ながら、スティーブは嫌な胸騒ぎを感じていた。
「…お待たせ致しました。」
生徒会室の扉が開き、マリアが挨拶をしながら入ってきた。ナタリアは何とも言えない顔でマリアを見ており、スティーブはマリアを睨みつけた。
「態々俺達を呼び出すなんて、何のつもりだっ!!」
「…話の前にお詫びいたします。お二人に来ていただけなければ婚約解消をする、ルナ嬢を傷付けるなどと発言してしまい、申し訳ありませんでした。ですが、ここまでの事を言わないと来ていただけないと思ったのです。」
「っ…、それで、話とはなんだ?」
頭を下げるマリアに、スティーブは勢いをなくして話を促した。マリアは頭を上げる。
「今後私を軽んじて、馬鹿にしないで欲しいとお願いする為にお呼びしました。そして今後の私達の為に、協力して頂きたい事があるのです。」
「…はぁ?」
スティーブが怪訝そうな顔をし、ナタリアも訳が分からないと言った顔をした。マリアは真剣な顔で改めて2人を見た。
「スティーブ様、貴女が私を王子妃にしたいのはルナ嬢を愛する為です。ルナ嬢は子爵令嬢である為王子妃になる事が認められなかったですよね。」
この国では王子妃になるには侯爵家以上の家柄である事が条件の一つだった。どんなにスティーブがナタリアを愛していても感情だけでは変えられなかった。
「スティーブ様にとって私は都合の良い存在と判断されました。公女の身でありながら公爵家にも周りにも愛されない私は都合が良いからです。」
では王子妃を誰にするかという問題がスティーブにあった。侯爵家以上の家柄の令嬢がお飾りの王妃になるなんて許せる訳がない。スティーブを愛していなくても、身分の低い女が寵愛を受ける事にプライドを傷つけられずにいられるだろうか。悩んでいたスティーブが思い浮かんだ相手はマリアだった。だがそんな事は改めて言うまでもない事だ。マリアには婚約者の話をした時に伝えてあるし、王家も貴族達も周知している事を何故、呼び出してまで話すのだろうか。
「それについては私は何の不満もありません。ですが、スティーブ様の私なんてどうでも良いという考えと態度によって、今回の事件が起こりました。仮にも私は、貴方様の婚約者であるというのに…。」
マリアの声に怒りが込められたのを感じ。スティーブとナタリアに緊張が走った。
「私は平民の母の血を引いてます。そして、私が生まれた時は母はまだ愛人でした。そんな私がよく思われない存在なのは理解しております。でも、それでも私はラビスタ公爵令嬢であり、王子であるスティーブ様に認められた婚約者です。それなのに、私の話は聞いて貰えず粗末な牢屋に入れられて、私が犯人ではないと分かっても牢屋から出さずに放置。出して貰えたのは罪人達への処罰を決めた後…全てが終わった後でした。しかも、誰からの謝罪もなければ気に掛ける言葉さえも無かったのです。」
「…い、いやしかしだな…。」
公女であり、王子妃になる存在に対する対応とはとても思えない。マリアの主張に気不味い顔をしたスティーブだったが何かを言おうと口を開いた。
「そして何よりルナ嬢は怪我をしました。階段から突き落とされたのです。ベラドンナ公爵令嬢が私を陥れて婚約者の座を奪う為に。」
だが、マリアの言葉にスティーブは息を呑んで固まった。ルーシャの狙いはマリアを陥れる事だったが、その手段の為にナタリアを狙った。マリアは軽んじられているから、ナタリアに怪我をさせればマリアの仕業に出来るという、緻密さがない本来ならあり得ない計画。マリアが軽んじられ、馬鹿にされていなければ行われなかったであろう事件だ。
「私が今後も軽んじられ馬鹿にされる限り、また同じ事が起こるかもしれません。今回はルナ嬢に何も後遺症は残る事はありませんでしたが、下手をすれば死んでいたかもしれないのですよ?」
「「……。」」
マリアの言葉に2人は言葉は出さなかったが、確かにそうかもしれないと思った。ナタリアは突き落とされた恐怖心があるのか、顔色を悪くして俯いた。スティーブはそんなナタリアを気遣い、肩を引き寄せた。
「私という存在は、お二人にとって重要な存在だと認識して頂きたいのです。私以外の婚約者ではルナ嬢の安全が保障されません。」
スティーブとナタリアが疑問を浮かべてマリアを見た。
「無礼を承知でお話しします。私はスティーブ様を愛する事は今後一切ありえません。スティーブ様との子供なんて嫌です。ですので私にとってルナ嬢の存在はとても大切なのです。他の令嬢を婚約者にしてしまえばスティーブ様も危惧されているようにルナ嬢の存在を良く思わず、家の力を使って何かをしてくるかもしれません。それに、中には王妃の地位さえ貰えれば良いと言う方もいるかもしれませんが、次第にスティーブ様の愛を欲してルナ嬢を邪魔に思わない保証はありますか?」
「俺との…子供は嫌…だと。」
マリアのスティーブを愛する事はないという言葉に、スティーブは呆気にとられた。マリアを愛してなどいないがスティーブを否定するあんまりな言い方に気分が悪くならない筈がない。ナタリアも驚いて固まるが、ナタリアの存在が大切だと主張する言葉に少し安心感を抱いて何も言えずにいる。暫く間を置くとスティーブはマリアを睨みつけて皮肉るように口を開いた
「ふ、ふん! だ、だがその理屈でいえば、お前だって俺の愛を欲するようになる可能性がある事になる。そうだろう!?」
「私、スティーブ様に話を聞いて貰えないばかりか、挙句の果てに殺されかけたのですよ?」
マリアが微笑みながら言った言葉は、その場を一瞬で凍り付かせた。
「いくら愛していなくたって、私は貴方様の婚約者だというのに……私は、ずっと忘れません。」
マリアの微笑みに影が差し、目から光が消えたように見えてとても恐ろしいモノとなった。スティーブはマリアに言った言葉とその後の対応を思い出し顔を青褪めさせた。ナタリアもマリアから目を離せずに、怯えたように縮こまった。
「…申し訳ありません。私を軽んじておられるのはスティーブ様だけではありません。私を取り巻く全ての方達です。私は、愛されたいとまでは思っておりませんが貴方様の婚約者に、未来の王妃に選ばれたのです。その地位に相応しい対応を求める事はおかしいですか?」
「…い、いやその通りだ。」
スティーブはぎこちなくも頷いた。
「そして、いずれ王妃になる以上この国の為に私は生きるつもりです。そんな私が今後も国民から軽んじられ馬鹿にされれば、スティーブ様とルナ嬢も困りますよね。私は個人的な好き嫌いの話ではなく、お互いの利の為に信頼し協力出来る関係を築きたいのです。」
スティーブの今までの態度について恨んだりはしない、だから協力し合おうとマリアが言っているのだとスティーブ達は理解した。
「仮にもし私が今後ルナ嬢を邪魔だと思ったとして、ラビスタ公爵家は私に力なんか貸しませんよ。私と公爵家の関係は周知されておりますよね。私の王妃としての地位が脅かされる場合を除けば、個人的感情程度は我慢しろと言われるだけです。」
「…成程な、分かった。」
マリアが牢屋に入れられても気にかけなかった程だ。マリアの言葉の全てに信憑性があるとスティーブは思い、マリアに了承した。
「…ありがとうございます。では、私への周りの態度を変える為にスティーブ様に協力して頂きたい事があります。」
「…何をするんだ?」
「陛下達に、今回の件の罰の内容を変えるように私と説得して欲しいのです。この罰の内容を変えるだけで私への考えを一気に変える事が出来ると確信しております。」
自信を持って話すマリアだが、スティーブは何とも言えない顔をした。
「罰の変更か…だが、今より重い刑に変える事はまず出来ないぞ。」
もう処罰が決まっている為、罪の重さが変わらない限り罰の内容を変える事は出来ない。情けをかけて少し軽くする事は出来なくないが、例えば“慰謝料を払うという罰を死刑に変える”というような事は不可能に近い。国の決まりであるし、私情で変えてしまえば秩序が成り立たない。マリアの時はまだ罰が決まっていなかった事もありスティーブは死刑にしようと本気で考えていたのだが…その話は忘れようとスティーブは思った。
「その点は大丈夫です。“罰の重さは殆ど変わらずに、内容が変わるだけ”ですから。まぁ、捉え方によってその重さは重たくも軽くもなるかもしれませんけどね。罰の内容ですが……。」
マリアの話す罰の内容に、スティーブは驚いた顔をして、ナタリアは若干顔を青褪めさせ絶句した。マリアはにこやかに話を続けた。
「…ね? これなら変更するにあたって問題はないと思います。あとは陛下達の許しだけです。陛下達が納得されればラビスタ公爵家も手を貸さざるを得ませんし、難しくはないでしょう。」
「い、いや、まぁ…その…。」
マリアの罰の内容に何とも言えずに口籠るスティーブを見た後、マリアはナタリアを見た。
「…ルナ嬢、貴女はとても怖い想いをされましたよね。ベラドンナ公爵令嬢の欲望の為だけに傷付けられるなんて…身体は治っても心はとてもお辛いですよね。本当にベラドンナ嬢は最低ですよっ…。」
「えっ…!? …ラビスタ公女様。」
マリアの目から涙が一筋頬をつたっていった。マリアは鼻をすすっておらず、泣きそうな顔もしていない。ただナタリアを心配そうに見つめたまま涙を流しているだけだった。とても演技とは思えず、ナタリアを心から気遣うマリアに、ナタリアは涙ぐんでいく。
「そ、そんな…私よりもラビスタ公女様の方が辛かったですよっ!」
「…ありがとうございます、ルナ嬢は本当にお優しいですね。」
ナタリアはハンカチを取り出してマリアに渡し、マリアをそれを嬉しそうに受け取った。マリアとナタリアがお互いを気遣うように言葉を掛け合う様子を呆然と見ていたスティーブに、マリアはハンカチで涙をふいた後話しかけた。
「スティーブ様、貴方様も本当は愛するルナ嬢の身体を、心を傷付けたをベラドンナ公爵令嬢が毒殺程度で済んでしまうなんて…とても許せませんよね?」
「っ、…あぁ、そうだな。」
影の濃い怒りの表情をみせるマリアの言葉に、スティーブは目を見開いた後、強い眼差しでマリアに見返しながら頷いた。
◇◆◇
「本当に、説得できるなんて思わなかった。」
公爵家に帰ったマリアは、部屋で黒猫に話しかけた。
「マリアの本気が伝わったんだよ。僕の魔法なんてオマケ程度だったね。」
黒猫はマリアに説得する為のアドバイスをした。そして顔の影を濃くしたり目の光を失くす錯覚魔法と、涙を流す魔法を使ったのだ。黒猫はスティーブ達が気が付かない場所からタイミングを見てマリアに魔法をかけた。魔法の効果でマリアの怒りがより強く伝わり、そして目元から涙…というより水を垂らして泣いているようにに見せる事でナタリアを懐柔する事が出来た。
「まぁ、お化粧みたいなものだったけどね。マリアは理不尽に殺されかけたからか、肝が据わってて凄かったよ。言葉に迷いも隙もなくて満点だった。」
「ありがとう…でも、全部貴方のおかげよ。私はこんな方法思いつかなかったもの。」
「スティーブの協力が得られれば、後は上手くいくさ。」
黒猫の言葉にマリアは嬉しそうに頷いた。
黒猫シリーズを楽しみにして下さった方々がいてくれてとても嬉しいです。今回の黒猫の魔法はお化粧でした 笑
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