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羽衣の七分  作者: 剛申
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第四章 第四節 願いの進行方向

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



ブウウウウウウウウウン!!!!!


超高速回転するアヴェンジャー銃身。

垂直に上昇するアヴァロンから、

真下の化物へ一直線に銃撃が放たれる。

パンダのような化物の背中から、ぱぁっと盛大に粒子が舞い上がる。


ミシミシ!!!!!

アヴァロンが反動で悲鳴を上げる。

ブルブルと震える機内。


「く…!」


歯を食いしばり、必死に座席の背もたれにしがみつく。

目の前にある、水野先輩の背負うフライトユニット。

先輩は真っ直ぐに奴を見つめているようで、微動だにしない。


ズドドドドドドオオ!

胴体に大きな穴が空き、強力な弾丸が地面のアスファルトをも破壊する。



ギシギシギシ!!バギン!!!!!


「きゃああああ!!」


アヴェンジャーの土台が反動に耐えられなくなったのか、

大きな音を立て、射線軸がずれる。


「げ、限界だよ!! 水野!」


市川副機長が振り向いて叫ぶ。

シューンと鳴り止むアヴェンジャー。


“Four minutes left”



化物は胴体の大きな穴を埋めるように、

小さくなりながら形を変える。

パンダのようだった姿が、ぐにゃっと潰れて、

翼を畳んだ鳥のような姿になる。


アヴァロンがすっと水平移動に戻る。


「そいつはここまでだ! 飛ぶぞ!」


橘先輩がそういって、後部デッキから飛び降りる。

水野先輩もライフルを持って続いていく。


「ハルカちゃん!」

「行こう!」


ミナモが長いアンチマテリアルライフルを持って飛び降りる。

続いて私も。


ビュウ!

ヘルメットをかぶる暇がなかったので、

ぶわっと風が思い切り顔面に当たる。

斜め下、100m程の距離に見える虹色の化物。


「あとは頼んだぜ」


塩見機長がそう言い残し、アヴァロンが離脱していく。


ふわっと重力がなくなるような感覚を覚えながら、着地する。

地面に足が着くと同時に、ズシっと腕にかかるライフルの重量。

膝に重さが伝わる。


「はあ…、はあ…」


先輩達が走り出す。

ミナモの脇を抜けて、私も駆け出す。

後ろでミナモが長いライフルをガチャっと構える。

鳥の化物がミナモの方を向く。

ミナモと、化物が見つめあう。


「はあ…、はあ…、私の故郷から、出てけええええええ!!」


青く輝くミナモのライフル。

ドン!!っと大きな音を立て、放たれる弾丸。

輝く青い直線が、化物の頭をぶち抜く。

粒子となってはじけ飛ぶ頭部。


走る私。

胴のすぐ下に駆け寄る。

ズキンとした痛みを感じると同時に、

弾けた頭部を目掛けて飛ぶ。

背面飛びをするように体をひねって、奴を飛び越える。

落ちる体をくるんとひねって向き直っては、

ガガガガガと銃撃を浴びせかける。


落ちていく私の後ろから、水野先輩が飛び上がり、

銃撃を繰り出しながら、逆方向へと降りる。

胴の左右から噴き出す粒子。


橘先輩が真上方向へ長い銃を構える。

ドガンと大きな音を立て、

一直線に胴体を撃ち抜く。


虹色の光体は、穴を塞ぐように小さくなったかと思えば、

畳んでいた翼を、バサっと広げるように、

薄い大きな翼を展開する。


ズキン!


「避けろ!」


水野先輩の叫び。

即座横に飛ぶ。


翼から幾重もの細長いレーザーが放出される。

上空から雨のように降り注ぐ光線。

目で見て避けれるようなシロモノではない。

上を見ながら、胸の痛みを頼りに、

あてずっぽうで右に、左にと短く飛び跳ねては躱し、

奴の胴に隠れるように走り抜ける。


“Three minutes left”



ターンと水野先輩が、奴の後方から飛び跳ねる。

奴の広い翼目掛けて、ダダダダと銃撃を浴びせる。

先輩の弾丸は、ジグザグの線を描き、翼を切り裂いていく。


「はあ、はあ」


私も背面に回り込んでは、高く飛び跳ね、

同じように右の翼にジグザグと銃撃を浴びせかける。


ドンドン!!

大きな二つの銃声が鳴り、二つの翼の根元に直撃する。

橘先輩が鋭い目つきでライフルを構えている。

銃口から上がる硝煙。

ばあっと派手に粒子が広がり、はじけ飛ぶ二つの翼。


奴の身体がグニューと丸まって、球体へと変わる。


「仕留めろ!」


水野先輩が叫んで飛び掛かる。

球体から四方八方へと、細いレーザーが放たれる。

私はその間をすり抜けるように飛び、球体に銃口を突きつける。


「ああああああああ!」


ガガガガガガと球体を削っていく。


小さくなっていく球体が、逃げるように上昇していく。


「あ、上がっていく!?」


上昇していく球体。

上空に舞い上がっている光の粒子たちが、それに引きつけられるように集まっていく。


「くそが。一気に削りすぎたか」


橘先輩がぼやく。

数多の粒子が球体に吸い寄せられるように集まり、次第に大きな塊に戻っていく。


ドン!!

ミナモの銃から青い直線が放たれ、塊を貫く。


「はあ、はあ、早く落ちろよ!!」


ミナモが長いライフルから、さらに一射放つ。

球体は銃撃から逃れていくように、更に上昇していく。


「距離を取られるとまずいぞ」


水野先輩が住宅の屋根を蹴って、高く飛び跳ねる。

しかし奴の高さには届かない。

奴は上空100mを越え、更に飛び上がっていく。


どうする?

このまま距離が離れれば、共鳴は弱まる。

広がった粒子を集まって、また巨体に戻ってしまう。


ミナモが私の側まで駆け寄ってきては、

上空に長いライフルをドンっと放つ。

距離が離れるにつれ、少しずつ弱まる弾丸の光。

化物に当たって粒子を放出させるが、効果が弱いように感じる。



“Two minutes left”


「河嶋! 有瀬! 願いの力だ!」


飛び跳ねて銃撃している水野先輩が、こっちに向かって叫ぶ。


「ミナモ!」


私はミナモの背後から抱きしめるように、

銃を支えるミナモの腕へ、重ねるように手を添える。


「うん!」


ミナモも、私も、上空の奴を見つめる。


「いっけー!」「いっけー!」


強く輝くライフル。


ドン!!!


強い衝撃が体にかかる。

眩い光を放ちながら、弾丸が一直線に上昇する。

球体を貫き、ばあああんと弾けるように粒子が飛び散る。


「行けるよ! ハルカちゃん!」

「うん!!」

「もう一回!」


ミナモがトリガーを引き、

ドンっと次の直線が放たれる。



宙を舞っていた水野先輩が、スタッと静かに橘先輩の側へ着地する。


「おー。よし、水野。俺たちも、同じようにやってみるか?」

「…悪い冗談だ。それに、あいつらほどの感情は、もう持ち合わせていない」


水野先輩がそういって、また高く飛ぶ。

橘先輩はハッと笑って、長いライフルから直線を放った。


「ミナモ! 次!」

「うん!」


強い衝撃で、腕がしびれてきたのか、

ミナモの腕がガクガクとしている。

それを支えるように、ぎゅっと強く掴む。


「いけー!」


私の叫びに合わせて、ミナモが銃撃を放つ。

粒子を放出し、次第に小さくなる化物。



“One minutes left”


ドン! ドン! ドン!


ミナモは何度もトリガーを引く。

強いビリビリとした衝撃。

服を通して伝わる、ミナモの熱い体温。

ミナモの険しい眼差し。



“30 seconds left”


ドン! ドン!


鳴り響く銃撃音。

小さくなっていく塊へ、狙いを定めるように見続ける。


「さっさと消えろーーー!」


ミナモが叫び、ライフルから強い衝撃が伝わる。

一段と輝く青い弾丸が、小さな球体を貫く。

ばああああんと盛大な粒子を飛び散らせ、

球体は完全に粒子となる。


“10”

“9”

“8”

“7”


上空に大きく広がった粒子が、パラパラと舞い降りてくる。

青いキラキラとした光が美しい。

まるで、三尺玉の冠柳。

大きな打ち上げ花火を見つめている気分になる。


“3”

“2”

“1”

“0”

“Time limit reached“


上を見上げ、荒い息遣いのミナモ。

肩の上下で、呼吸が私にも伝わってくる。

私たちはゆっくりと銃を下げた。





バババババ

夕焼けの中、基地に着陸するアヴァロン。

葉山先輩達のチヌークが先に到着している。


ミナモが小さいタブレットを見ながら、機内から降りる。


「…。良かった」


ちらっと画面を覗く。

誰かのつぶやきページ。

パッとミナモが画面を隠してコッチを見る。

照れたような、笑っているような、可愛い睨み顔。


「お前の親、どうだった?」


チヌークの横から、葉山先輩がミナモに声をかける。


「うん! 大丈夫だったって!」


満面の笑みで、早歩きで葉山先輩に駆け寄るミナモ。

片手を上げる葉山先輩。

二人はパンっと軽いハイタッチをした。



「水野先輩。願う気持ちが伝わることで化物を倒しているという仮説、私も信じます」


隣の水野先輩も、ミナモたちを見ている。


「…そうか」

「はい。私は今回の射撃で銃には触れていませんでした。ミナモの腕に手を添えて、願ったんです。届けって」


水野先輩が一面に広がる、オレンジ色の空を見上げる。


「お前たち二人で撃ったとき、確かに何かが違って見えた。お前たちが同じことを願っていた。きっとそれが、奴へ届いた理由だ」

「はい。私もそう思います」


ミナモと葉山先輩、柳原さんが笑顔で笑いあっている。

それを見ているだけで、なんだか嬉しくなってくる。




「遠距離射撃の指示には従わなかったようだな」


二藤陸佐の部屋で、どさっと、ソファーにもたれ掛かる橘先輩。


「…。現場の臨機応変ってやつだ。ああでもしなけりゃ、奴は倒せない」

「そうだな…お前の判断が正しいだろう」


二藤陸佐は橘先輩を見る。

天井を仰ぐ橘先輩。


「…今回は家族がいる奴もいたんでな。ムキになっていたのさ」

「…ああ。彼女たちのためにも、この現状は何とかしなければならない。なるべく早期にな」

「…。期待せずに待っているよ」


ふうと、橘先輩が溜息を吐く。


「ああ、ほんの少しずつだ。だが一歩ずつ確かに変えていこうじゃないか。それが指示を出す者としての、大人としての責任だ」


二藤陸佐は赤く染まる夕陽を眺めた。



“本日15時に和歌山県白浜町で発生した、かぐや姫の影響による緊急避難警報は解除されました。軍関係者に5名の死者が出ており―”


暗い部屋の中で、モニターを見つめる桐ケ谷議員。

ふうとため息をついて、立ち上がる。


「空間崩壊は阻止。適合者の死者も出ていない。これでは、大衆は動かない…」


カーテンをめくる。

夜の街明かりがキラキラとしている。


「世論を動かすには、もっと大衆に伝わる出来事が必要なのよ…。もっと…、具体的な一撃が…、ね」


窓に映る桐ケ谷議員の険しい表情。

奥歯がぎりぎりと噛みしめられる。


“防衛省が運用するインスタントリプレイス制度をめぐって、未成年者を含めた、高濃度汚染者からの、戦闘員への強制徴用の疑念が浮上しています。

この問題を受けて、国会では参考人招致を行うべきかどうか、現在、与野党間で協議が進められています―”


暗い部屋にニュースの音が響く。


※ありがとうございました。

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