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英雄  作者: ゲシンム
第一章 善と悪、成長と童心
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もう1人じゃない妖精

 空は静かに手を開いた。そこには空に背を向け膝を抱えて静かにすすり泣く妖精の姿があった。妖精は小さく何かを呟いていたが聞き取ることができなかった。


 空は妖精を掌に乗せたまま、黙って妖精の背中を眺めていた。


「……もういいわよ。さっさと帰れば」


 しばらくして、妖精は空に背を向けたまま姿勢を崩さず暗く、重いトーンで口を開いた。妖精はそのように言うと、指で空中に円を描いた。


 次の瞬間、辺りを覆っていた濃霧が完全に晴れた。ここにたどり着いた道筋も把握できそうだった。しかし、空は妖精を掌に置いたまま動こうとしなかった。リエガとギハンも空気を読んだせいか、一言も話そうとしなかった。


「何してるのよ。早く帰ればいいでしょ」


 妖精は少し強めの口調で言葉を発した。しかし、妖精の言葉を聞いても空はその場を動かなかった。リエガとギハンも同様に口を開く素振りすら見せなかった。


「帰ってよ‼」


 妖精は空の態度に苛立ち、さらに強い口調で言葉を発した。しかし、それでも空は動かなかった。


「帰ってよ。お願いだから……」


 疲れたのか、呆れたのか、それとも悲しみに打ちひしがれたのか、妖精の口調はまた弱弱しいものへと戻っていた。妖精は小さな背中を丸めて、さらに小さくした。


 暗く重い空気が漂う中、明るい口調で口を開いたのは他の誰でもない天使だった。


「キミ、ボクたちの仲間にならない?」


 リギラはいつもの調子で言葉を発した。


「……え?」


 妖精は天使の言葉に思わず、一言だけ口から漏れ出た。妖精は静かに空の方へと振り返った。目には相変わらず涙が溢れていた。妖精の目に映ったのは空の顔ではなく、天使の姿だった。


「ここで、遊んでくれる人間が来るのを待ってたんだよね。一人でずっと」


 リギラは続けて言葉を発した。リギラの言葉に妖精は静かに頷いた。


「じゃあ一緒に行こうよ! ここで来るかも分からない相手を待つより、空と一緒に外の世界を探検する方がきっと楽しいよ!」


 リギラは妖精に一緒に来ることを唆した。妖精は黙ってリギラの話を聞いていた。


「じゃあの意味が分かりませんね」


 リギラに続いてギハンが普段通りの口調で会話に混ざった。


「探検じゃねぇだろ」


 さらにリエガも続けて口を開いた。二体の反応にリギラは不満を言った。その言葉を嘲笑うかのようにリエガは煽りながら返した。こうしてリギラとリエガの口喧嘩、もといリガの一方的なサンドバッグ口論が始まる。ギハンと空は黙ってその様子を眺めていた。


 なんとも滑稽な集団。しかし、妖精には彼らを羨ましく思った。


「……なる」


 喧嘩する二体を他所に妖精は自然と言葉が漏れ出た。妖精の言葉に二体の喧嘩はピタリと止まった。四体は視線を妖精の方へと移した。


「みんなと一緒にお話ししたい! 一緒に色んな所に行きたい! だから……」


 妖精はそこまで言うと言葉が詰まった。妖精は次の言葉が口から出てこなかった。妖精は焦って空の方を向いた。そこに笑みを浮かべているものはリギラ一人で残りの三体は無表情だった。傍から見れば、歓迎されていないように見える。しかし、妖精は彼らが受け入れてくれていることを根拠もなく理解した。


 妖精はリギラの表情に負けないくらいの笑顔を向けた。妖精の涙はいつの間にか止まっていた。


「ほんと⁉ 良かった~」


 リギラは妖精の笑顔を肯定の意味で捉え、安堵の表情を浮かべた。


「空もリエガもギハンもみんなノリが悪くって。お話できる相手が欲しかったんだ」


 リギラは妖精を歓迎する姿勢を見せた。リギラは淡々と妖精が仲間になる自身のメリットを話した。リギラの明るさは、妖精が仲間に加入するハードルを下げていた。


「私、あなたとは気が合いそうだとずっと思ってたの!」


 リギラの声を聞いて、妖精は明るい口調で言葉を発した。


「ほんと⁉ 実はボクもおんなじことを思ってたんだ!」


 妖精の期待に応えるようにリギラはその旨を伝えた。


「精神年齢近そうだしな」


 リエガが嫌味ったらしくリギラの言葉に返した。リエガの言葉にリギラが怒り再び口論が始まった。ギハンもリエガと同じ感想を抱いていたが、口には出さず胸の奥にしまい込んだ。その様子を見て妖精は笑った。


「そうだ。キミの名前はなんていうの?」


 リギラがギハンとの口論を突然止めて、思い出しかのように妖精に名前を聞いた。リエガは急に態度を変えた天使に対してイラっとした。


「私?私の名前はメイっていうの」


 妖精、メイは空の手に座り込んだまま自己紹介をした。メイは名前を言い終えると背中の透明な羽を広げて、空中を舞った。メイはそのまま空の顔の前まで近づいた。


「これからよろしくね、空」


 メイはそれだけ言い残すと空の鼻に口づけをした。


 次の瞬間、空の目には灰色にしか映らなかったが、メイは色とりどりの光の泡となって消えた。空は妖精が自身の中に存在することを確かに感じ取った。


「ガキとは言え、初めての唇の感触はどうだよ、空」


 リエガはここぞとばかりに空に中学生レベルの煽り文句を言い放った。


 空はいつも通りの無反応でリエガの返事を返した。また、空は妖精の存在を確認すると元来た道を辿り始めた。


「チッ。相変わらずの無反応かよ。つまんねぇ奴だな」


 リエガは空のいつもの反応に舌打ちをした。リエガは皮肉混じりの言葉を並べた。しかし、その言葉も当然空には届かなかった。


「まあ、それが空らしくもありますが」


 ギハンもリエガに続いて少しの皮肉を混ぜた発言をした。ギハンの言葉も空の足を止めるに至らなかった。


「そうだね。空らしいよね」


 リギラも二体に続いて皮肉の入った言葉を発した。先ほどタスクを聞いたリギラの言葉ですら空は無反応だった。


「そうなの? 空っていっつもこんな感じなの?」


 メイは空の態度に疑問を持ったのか、疑問符を浮かべた。新しく仲間になったメイの言葉でさえも空は反応を示さなかった。空はただ黙って足を動かしていた。


「そりゃもう!」


 リギラが大きな素振りでメイの質問に答えた。そこから空のこれまでの経緯を語る会が空を抜いて開催された。空は自身の中で話し込む四体を他所に、足を動かした。


 天は沈み行く太陽で赤く染まったが、空の目には相変わらずの灰色に映った。森は草木で生い茂り視界を狭めていたが、濃霧は晴れて先ほどよりも鮮明だった。それ以降、その山で行方不明者が出ることはなくなった。


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