表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄  作者: ゲシンム
第一章 善と悪、成長と童心
27/39

ドラゴンキラー?

 リギラの声には、未知の存在を初めて目の当たりにした興奮と、迫力に押しつぶされそうになる恐怖が入り混じっていた。


「グアアアアアァァァァ‼」


 架空の存在であるドラゴンはリギラの声に反応するかのように、鋭い歯が並んだ口を大きく開け、体をうねらせると、勢いよく咆えた。その音は先ほど霧の中から聞いたものと同じものだった。先ほど聞こえた音の正体が目の前のドラゴンのものであると、その場に居た全員が把握した。


「こ、こいつだよこいつ! 俺がさっき見たのは! こいつが霧の中から急に現れやがったんだ!」


 ドラゴンの咆哮の後に真っ先に言葉を発した者は悪魔だった。悪魔は自身が気絶する時に目の前と同じドラゴンを見たことを口早に話した。悪魔の口調から動揺している様子が窺える。


「こんな特徴的なやつ見たら忘れねぇだろ!」


 リエガが悪魔の言葉に突っ込んだ。ドラゴン出現の衝撃はリエガにも同様に与えたようで、リエガの口調もいつもより早くなっていた。


「そんなこと言われても……」


 悪魔はリエガの返答に答えようとした。顔を空の方に向け途中まで口を開いた。


 その時、空を除いた全員が慌てふためく中、ドラゴンが幹のような太い足を一歩前に出した。ドラゴンの巨体が空達に近づく。足が地面に着いた瞬間、地面が軽く振動したことを全員が感じ取った。


「ヒィ‼」


 振動に怯えた悪魔は情けない声を出した。振動を感じ取った悪魔は空の方からドラゴンの方に再び顔を向けた。同時に、悪魔はドラゴンと目が合った。


 悪魔はドラゴンの目を見ると自身が気絶したときのことを思い出した。濃い霧の中を彷徨っていた途中、ドラゴンの鋭い眼光が自身を捉えていたことを。今も正にドラゴンは同じ目をしていた。


 悪魔は目の前の怪物をただただ恐れ怖がった。


「お、俺は逃げるぞ! もう弱らせられたんだから用はねぇよな⁉ そいつはお前らでなんとかしろよ!」


 悪魔は先ほどよりも口早に言葉を発した。この場合、「言いたいことだけを言った」という表現の方が正しいだろう。悪魔はそのように言葉を発すると、背中をドラゴンに見せてその場から一目散に逃げていった。


「クスッ」


 空はまたもすすり笑う声を聞いた。どこから聞こえてきたか正確な位置はわからなかったが、ドラゴンの後方あたりから聞こえてきたことを聞き取った。


 しかし、他の三体は先ほどと同様に、笑い声が聞こえている様子はなかった。また、前回とは異なり空はドラゴンの様子を伺っているため、目線を声が聞こえた方向に向けることができなかった。


「おい!」


 リエガは逃げ出す悪魔に一言だけ呼びかけた。しかし、悪魔は背中越しの聞こえたはずのリエガの言葉に耳を傾けず、足を止めることはなかった。悪魔はやがて霧の中へと姿を完全に眩ませた。


「構いません。今はそれよりも目の前のことを」


 リエガが再び悪魔に呼びかけようとしたその時、今度はギハンがリエガの言葉を遮った。ギハンの声は冷静さに満ちていた。


 ギハンは考え込むあまりに周りが見えなくなってしまったことを反省していた。ギハンが冷静さを欠いたことは空との戦いの時以来のことであった。


「!……そうだな」


 リエガもギハンの言葉で冷静さを取り戻し、悪魔からドラゴンに注意を向けると、静かにドラゴンの様子を伺った。ドラゴンは背を向け逃げ出す悪魔を追うような素振りを見せることはなかった。悪魔の姿は既にそこになく、霧の向こうへと身を包ませていた後だった。


 ドラゴンの眼には空が映っていた。ドラゴンは空を見つめるだけで最初の一歩から動こうとしなかった。今にして思えば、ドラゴンの最初の一歩は邪魔者を排除するための威嚇にも見て取れるような行いだった。


 空とドラゴンは黙ってお互いを見つめていた。しかし、突然発生した謎の霧や、霧の中から出現した架空の存在であるドラゴンがこの場に居ることで作り上げられた、異様な空気は流れど、張り詰めるような緊迫した空気はそこにはなかった。


 空がドラゴンと相対してもそのような空気である理由は二つあった。


 一つは空のこれまでの激闘。リエガとギハン、二体と戦った時の戦闘は死闘とも呼べるものであり、そのときに張り詰めていた空気感が今は微塵もなかった。


 二つ目はドラゴン自身の気魄だった。ドラゴンからは敵意を空に向けられているものの、殺気は全く感じられなかった。この場に相応しくないともいえる空気感をリギラ以外の三体は感じとっていた。


「しかし、ドラゴンねぇ」


 少しの静寂の中、最初に口を開いたのはリエガだった。


「まさか、人間界に架空の生物がいるとはなぁ」


 リエガはドラゴンに殺気がないと気が付くと、冷静さを取り戻したこともあり、いつも通りの口調に戻っていた。しかし、警戒は解かずむしろ先ほどよりも強めていた。


「まぁ、私たちが言えたことではありませんがね」


 リエガに続いて、ギハンも口を開いた。ギハンもリエガ同様の口調と警戒態勢だった。天使を除く三体の種族はドラゴンの存在感と敵意に臆することないながらも、周囲も含め目の前のドラゴンへの警戒を解くことはなかった。


「な、なんでみんなそんな落ち着いてるの? ねぇ?」


 残りの一体の種族は、他の者がその空気に適応していることに対して、あたふたしている様子だった。そんなリギラを気にも留めず、三体はドラゴンを注視していた。ドラゴンもまた空を見つめたまま動こうとしなかった。


 ほんの少しの間、流れた膠着の間。しかし、その時間をドラゴンが見せた僅かな隙が終わらせることとなった。


((今‼))


 リエガとギハンがドラゴンの一瞬の隙を見て、一言分の感想を思うと同時に、空はその思いに答えるかの如く合図もなしに行動に出る。ドラゴンの見せた一瞬の隙を、当然空も見逃すことなく、空はドラゴンの上部へと跳躍した。


 空はすかさず両手に携えた双剣を強く握りドラゴンの首に狙いを定めると、その刃を振るい落とした。その間、ドラゴンは空の動きに反応できなかったのか、ほとんど動きを見せなかった。


 やがて、空の刃がドラゴンの首を通り抜け、空は地面へと着地した。空の刃は確かにドラゴンの首を捉え刃が通った。しかし、空は物を斬った手応えを感じ取ることができなかった。その理由はすぐに判明した。


 先ほど斬ったドラゴンは巨体を留めることなく、徐々に粒子のように風に運ばれやがて完全に消えてしまった。空はその様子を見て一つの確信を持った。


「蜃気楼だな」


 リエガが空の一連の動作の後に声を発した。リエガの言葉にはドラゴンの正体を指し示していた。


「私も同意見です。威圧感や殺意を感じられなかったのも恐らく、実態のない幻影だったからでしょう」


 ギハンもリエガに続いて言葉を発した。ギハンは異様な空気感の正体までも推察した。


「え? 殺意無かったの? すごく怖かったんだけど」


 リギラも二体に続いて声を発するも、その内容は二体の発言から乖離したものだった。リエガは呆れた態度で天使の発言を無視した。


「問題は『誰が』これを作ったかだな」


 リエガは次の問題を提起した。


 リギラはリエガに無視されて腹を立てた様子を見せるも、リエガは天使の態度をさらに無視した。さらにその様子を見てリギラは寂しそうな様子を見せた。


「ええ。蜃気楼であるはずのドラゴンから、足を踏み出す際の振動を発生させたのも恐らく同じ相手でしょう。ただ、相手の正体と目的がわからない以上、迂闊な行動は危険ですね」


  ギハンはリエガの言葉に返答した。ギハンもリエガが考え付く問題点には気づいているようだった。それを示すように悪魔と死神から警戒心は薄れていなかった。ドラゴンの蜃気楼を振り払ったというのに、霧はまだ濃いままである。それだけでも二体の警戒心を煽ることには十分だった。


「え? なんで誰かの仕業ってわかるの?」


 リギラは二体の会話に混ざるように疑問符を投げかけた。リギラの考えのない言葉に今度は死神も呆れた様子を示した。


「あのな……。そもそも蜃気楼は水蒸気が見せる幻覚の一種なんだよ。実態のある空やあの悪魔だけが見えるならともかく実体のねぇ俺たちが見えんのがおかしいんだよ。ましてやドラゴンだぞ? その存在を知らねぇ空が見ること自体ありえねぇし、そんなもんがたまたま蜃気楼として出る方がおかしいだろうが」


 リエガはリギラの疑問に対する回答を発言した。少し考えればわかるリギラの質問に対して、リエガがいつものように高圧的な態度を取らずに真面目に答えたのは、警戒の方にリソースを割きリギラの方にまで気を回す余裕がなかったためだった。


「クスクスッ」


 三度、空は何かがすすり笑う声を聞いた。


 しかし、今度のすすり笑いを耳にした者は空だけではなかった。リエガとギハンだけでなくリギラさえもその声を聞き洩らさなかった。


 四体は同時に声のした方向に意識を向ける。その方向は、やはりというべきかドラゴンが現れた方向と一致していた。


「な、何の声⁉ もしかして、ゆ、幽霊⁉」


 リギラは自身の声を震わせながら言葉を発した。リギラは先ほどの声を聞いて恐怖を抱いている様子だった。


「天使が幽霊でビビってんじゃねーよ」


 リエガはリギラを煽るように発言するも、リエガも先ほど以上に警戒心を強めていた。リギラはリエガのツッコミを聞いて一人納得したような表情を浮かべた。


「……どうする?」


 リエガは疑問符を投げかけた。誰に対して投げられたかは言わずとも分かりきっていた。


「進みましょう。ドラゴンやこの霧を作り出したのが誰で、どういった目的があったのか気になります。このまま放置して厄介ごとに巻き込まれでもしたら困りますしね」


 ギハンはリエガの質問が当然自分に投げかけられたと言わんばかりに返答した。ギハンもリエガと同様に警戒心を強めていた。


 ギハンの言葉を聞き終えると空は声のした方向に足を動かした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ