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英雄  作者: ゲシンム
第一章 善と悪、成長と童心
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死神戦終幕 ー最後の一撃ー

「人間、いや、空!」


 空は黙って死神を見つめ話を聞いた。


「今名前を呼んだ?」


 リギラは死神の言葉に驚きを隠せず口に出してその事実を確認した。


「こいつのことを認めたんだろうよ。悔しいがあいつの気持ちがなんとなくわかる」


 リエガがリギラに続けて言葉を並べる。リエガは死神に共感していた。


「あなたがまさかここまでできる人間だとは思ってもいませんでした。最初こそ気に食わない人間だと思っていましたが今の考えは違います。あなたのような強者と戦えてよかった」


 死神は最後の賛辞を空に述べる。死神は続けて空に話しかけた。


「しかし、残念なことに時間が迫ってきてしまいました。これ以上戦うことができないのは惜しいですがこれで終わりにしたいと思います」


 死神はそのように言い残すと大鎌を担ぎ大量のエネルギーを大鎌に込め始めた。


「これを防ぐことができたならばあなたの勝ち。防ぐことができなければ私の勝ち。実にシンプルでしょう?」


 死神は空を煽るように話した。最後の勝負に挑んでほしそうな物言いだった。その間にも大鎌に集束されていく膨大なエネルギーは、その流れが雲と重なり、天候を操っているように錯覚させた。


 また、その日一日吹いていた強風で地面の砂が天へと巻き上げられる様子が、死神のエネルギーが蓄積されていく流れをさらに禍々しいものへと昇華させていった。


「やばいよ空! 逃げよう! あんなの受けたらほんとに死んじゃう!」


 リギラが死神の異様な様子を見て空に撤退を促した。


「それがいいかもな」


 リエガが以外にもリギラの意見に同意する。


「あのエネルギー量だと校舎くらいなら粉砕できるだろうからな。しかもその余波でここら一帯も吹っ飛ぶんじゃねぇか? あいつの攻撃を何とかしねぇと何人か死ぬくらいの被害になると思うぜ」


 リエガが冷静に分析した結果を口に出す。リエガは少し嬉しそうに話した。その分析結果で嬉しそうにするリエガはまさに悪魔だった。


「まぁ俺はそれでもかまわねぇけどな。他の誰がくたばろうがどうだっていいが、お前がくたばるとこっちが困るんだよ」


 リギラと同じ意見であるはずなのにリエガの発言は選択肢を一つ削るものだった。空自身もリエガの意見を聞いても特に何も思わなかったが、空の中の天使がそれを許すはずもなかった。


「じゃあダメじゃん! 避けちゃ! あれを何とかしてみんなを助けないと!」


 リギラの発言で避けるという選択肢は完全になくなった。それ以上に選択肢が一つに絞られたという方が正しかった。周囲に甚大な被害が出る以上、壊すという選択肢以外は残されていなかった。少なくともリギラという存在がそれ以外を許さなかった。


「まさか、逃げるなんてことしませんよね? そのような選択をして私を失望させないでくださいね」


 死神が重ねて空に逃げるという選択肢を奪う。空にとって死神の失望などどうでも良いものだったが、天使と悪魔の選択に加えて死神の発言も合わさって、死神の攻撃から図らずも町を救うことが決定された。


「しかし、あいつまだあんだけのエネルギーを隠し持ってやがったのか。さっきまでの戦いで相当エネルギーを使ったと思ってたんだがな」


 リエガの言う通り死神はエネルギーをかなり消費していた。それでもあれだけのエネルギーが死神に残っている理由はもともとの死神のエネルギーの多さが関係していた。しかし、死神が全員多いというわけではなく、空と相対していた死神のエネルギー量が多かったのである。


「何とかしなきゃとは言ったけど、あんなのどうすればいいか全然わかんないよ!」


 リギラが泣きべそをかいた。しかし、リギラから死神の攻撃を何とかするという選択肢を変える気は感じられなかった。


「泣きべそかいても仕方ねぇだろ。まぁ打開策がないのも事実だが」


 リエガが続けて言葉を発した。リエガもこの状況を何とかする方法を思いつくことはできなかった。


「だがまあそれでも…」


 リエガはそこまで言うとリギラの方を向いて様子を伺うような雰囲気を出した。


「! うん‼」


 リギラもリエガの雰囲気を汲み取ったかのように答えた。


「空なら何とかするよね!」


「お前なら何とかするだろ」


 二人は同時に空への信用の言葉を口にした。


 リギラは短いながらもこれまで過ごした日々の中で空と共にタスクをこなすことで、空のことを理解し空なら何とかするという根拠の無い自信があった。


 リエガもまだ空と過ごしたことはなくとも、敵として戦い、また共闘することで空の強さを認め信頼していた。


 空は何も言わずに俯くと、少しだけ回復した天使のエネルギーで双剣を具現化させることで二人の言葉に答えた。空は再び上を向くと死神はちょうど全てのエネルギーを大鎌に収束し終えた。


「これで決着を付けましょう! さあ!最後の勝負です空!」


 死神は最後にそう言い放った。


「おおおおおぉぉぉぉぉ‼‼」


 死神は今日一番の雄叫びを上げると両手で握った大鎌を振るい、大鎌に蓄積された全エネルギーを校舎に向かって放出した。放出されたエネルギーは巨大な刃の形となり空が居る校舎へと落下していく。


 空は具現化してもまだ残っていた天使のエネルギーを双剣に流し込み、双剣の耐久力と攻撃力を向上させた。また、悪魔のエネルギーは全身に流し込んで身体強化に回した。


 空はその場で低く屈んで全身を力ませると、地面を力強く蹴りあげ刃に向かって凄まじい勢いで跳躍した。地面にはこれまでに付いたどのクレーターよりも大きな凹みが出来上がった。


 空は双剣を顔の前でクロスさせ勢いそのままにエネルギーの刃にぶつけた。これまでで一番大きな金属音が鳴り響く。跳び上がった時の上へ行く推進力と落下してくるエネルギーの刃の重力に押しつぶされ空の体が悲鳴を上げる。その負担は腕に最大限に掛かり空は腕の感触が感じられなかった。


 空はそのようなことに気を留めることなく目の前の巨大な刃を破壊することだけを意識していた。空は初めて死神のエネルギーの刃を破壊したときのことを覚えていた。あの時破壊された刃は光の泡となって消えたことも同時に空の記憶に残っていた。


 空は力んだ。すべての悪魔のエネルギーを身体強化に回して体を最大限活用した。少しだけ巨大な刃に双剣の刃が通った。リギラとリエガはそれを確認した。


「「いっけぇぇぇぇぇぇ空ぁぁぁぁぁぁぁ‼‼」」


 二人の熱の籠った声援が響く。空はその声に押されるように巨大な刃に少しずつ刃を通していく。その溝は徐々に深く深くなっていく。そして……


 その時は一瞬だった。空の双剣の刃がある程度まで進むと、空の体は一気に巨大な刃の間を通り抜け、気づけば空は巨大な刃の上空に居た。巨大な刃は真っ二つに切り裂かれていた。やがて巨大な刃は無数の光の小さな泡に分解され消失した。


「やったぁぁぁ‼」


「よっしゃぁぁぁ‼」


 リギラとリエガが巨大な刃が消失していく様子を見て喜びの声を上げる。空はその役目を無事に果たした。空の腕はひどく腫れ上がり双剣を握ることができなくなっていた。握られていた双剣もその役目を果たし光の泡となって消えた。


「やったね空! 流石ボクが見込んだだけのことはあるよ。やっぱりボクの目に狂いはなかったね! これはボクのおかげで勝てたと言っても過言ではないかな? なーんて冗談だよ、冗談!」


 リギラは空が巨大な刃を切り裂いたことが嬉しかったのか、いつもよりテンションが高かった。


「調子乗ってんじゃねぇぞクソ天使! お前がそんなんだからこんなギリギリな勝利しかできねぇんじゃねぇか!」


 勝利後のいつも通り調子に乗るリギラに今回はツッコミ役が存在した。リギラに悪口を言いつつ平静を装っているが、リエガもどこか嬉しそうだった。激戦の熱に感化されているようだった。


「てめぇからもなんか言ってやれ! 大体いつもてめぇがそんな態度だからこいつが付け上がるんだろうが」


 リエガの愚痴の矛先はまたも空に向いた。リエガは誰彼構わず噛みつく性分であることが死神の戦いを通して明らかになった。空はいつも通り何の反応も示さなかった。それどころか指一つ動かさず空中に身を放り投げた状態だった。


「……空?」


 明らかにいつもと様子が異なる空の異変に気付きリギラが空に声を掛ける。空はまたも反応を示さなかったがリギラは空がいつもと違うことに確信を持った。


 空は激動による疲労と全身の損傷、果てはタスク終了による彼自身が感じることのない「達成感」で気絶してしまっていた。実際に巨大な刃を斬ったことは空が活動できる運動能力の限界を超えるものであった。


 大鎌に蓄積され放出された死神のエネルギーは、巨大な刃を斬る直前の空の持っていたエネルギー総量を凌駕していた。死神が直前に大量のエネルギーを放出していたとは言えども、ほとんど使い果たした天使のエネルギーと目覚めたばかりで体に馴染みきっていない悪魔のエネルギーを足し合わせた空のエネルギー総量に負けるはずもなく、その差は歴然だった。


 しかし、死神は広範囲にエネルギーを放出したのに対して空は自身と双剣にのみエネルギーを集中していた。空が一点に攻撃を集中させたことが勝敗を分ける決定打となったことは言うまでもないが、それでも空の体を犠牲にしなければこの勝利を掴むことはできなかった。


 リギラはすぐに空が気絶していることに気付いた。


「空⁉ 起きて! この高さからエネルギー無しで落ちたら死んじゃうよ!」


 空の体内エネルギーはほとんどゼロであった。天使のエネルギーは双剣の具現化と双剣の強化に使用し、空っぽの状態だった。悪魔のエネルギーも身体強化にすべて使用して天使のエネルギー同様空っぽの状態だった。


 例えエネルギーが残っていたとしても、空が目覚めていなければそのエネルギーを活用することはできなかった。意識の無い状態でもエネルギーを活用することは可能ではあるが、エネルギーの存在を知って日の浅い空がそれを行う能力など到底持ち合わせていなかった。


「おい! ふざけんなてめぇ! こんな最後笑えねぇぞ! さっさと起きやがれ!」


 リエガも必死に空に呼びかけるも空が起きる気配は微塵も感じられなかった。空中で静止していた空だったが、次第にその高度は低下していき徐々に落下速度も速くなっていった。頭から落下していく空の速度は勢い止まらず地面との距離を縮めていく。リギラとリエガは必死に空に呼びかけるもその声は届かず、空の頭にむなしく響くだけだった。


 空が目覚めぬまま重力に従っていたその時、空の落下速度が急激に低下した。


「まったく。何をやっているのですかあなたは。このままくたばったら私の立つ瀬がないじゃないですか」


 空の足元から不穏な声が聞こえる。その声は今の今まで聞いていた不穏なものだった。


「‼ てめぇ‼」


 リエガが威嚇するように声の主に怒鳴る。リギラがリエガの怒鳴る方に目を向ける。


 そこには自身の体をボロボロにしながら空の片足を掴んでふらふらと浮かぶ死神の姿があった。死神は骸骨に呆れたような顔を浮かべているようだった。


「何してやがるてめぇ」


 リエガは続けて死神に威嚇する。リエガは死神が何か空に仕掛けることを警戒していた。


「ご安心を。彼を掴んでどうしようとは思っていませんよ。先ほども言いましたが私に勝っておきながらこのままくたばるのは私も望むところではありませんから」


 リエガの思いとは裏腹に死神は空に手を加えるつもりがない旨を伝えた。


「空を助けてくれるの?」


 この状況を理解できていないようにリギラは死神に聞き返す。死神は空の中にいる天使をじっと見る。


「……そういうことになりますね」


 死神は少し間を置くとリギラに答えた。その声はどこか暗そうな雰囲気を纏っているようにも捉えられた。


「こいつ地面に着く直前に空を落とすつもりなんじゃねぇか?俺らを油断させといて安心したときに空を落下死させる。俺にはそんな気がして仕方がないんだが……」


 死神を信用していないリエガは死神を疑う発言を行う。死神は今度は空の中にいる悪魔に目を向け同じようにじっと見た。


「それも悪くないかもしれませんね」


 死神は今度は嬉しそうに明るく答えた。自身の髑髏をケタケタさせながら笑みを浮かべ冗談混じりに答えた。


「やっぱりてめぇ……!」


 リエガが死神に言葉で噛みつく。


「冗談ですよ。」


 死神がリエガの文句に答えるように明かるげに答えた。リエガは煽られたことに苛立ち死神に何度も文句を言った。それを止めるようにリギラがリエガをなだめた。リエガの矛先はリギラにも向いた。リギラはリエガに噛みつかれて悲鳴を上げている。その様子を死神は静かに見守っていた。


 その様子を片目に死神は空の方に目を向けじっと見つめた。


「……私は負けましたからね」


 死神は静かに呟いた。その声は少し悔しそうで、しかし、今まで聞いた死神のどの声よりも穏やかだった。喧嘩に夢中な二体も掴まれたままの人間も死神の呟きに気が付くことはなかった。


 時刻は十九時二分、先ほどまで吹き荒れていた暴風はその勢いをピタリと止め、天を覆いつくしていた雲は流れ煌めく星々と明るく夜空を照らす三日月を映し出していた。

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