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英雄  作者: ゲシンム
第一章 善と悪、成長と童心
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死神戦・第二幕

 死神は鎌を熟練の捌きで振り回す。鎌が死神の一部であるかのようにその役割を担い、死神の手の上で踊る。風をも切り裂く速度で振り回される鎌は人の目には捉えることはできず、空に猛威を振るった。

 鋭利な刃は的確に空の急所を狙い、一歩ずつ死を歩み進める。


 空は拙い素人ながらも特訓で培った双剣の扱い方で鎌を捌く。最初こそ特訓で戦ったA級悪魔と死神との強者としてのギャップに後れを取るものの、持ち前の運動・戦闘センスで徐々に死神の攻撃に対応していく。


 両者の刃の混じり合いは剣戟というにはあまりに荒く、鋭い攻防であった。校舎には金属がぶつかり合う音だけが鳴り響いていた。


「聞いて空」


 人間と死神の激しい攻防が始まって間もなく、人間の中の天使は口を開く。話しかけるべき空気ではないことをお構いなしにリギラは空に話しかけた。


「ただでさえ双剣の具現化はエネルギー消費が激しいんだ。加えてそこにエネルギーを流し込んだら消費量が多くなるのはわかるよね」


 リギラは諭すように空に話す。リギラの言う通り、空は天使のエネルギーで双剣を具現化させるだけでなく、その具現化した双剣に上乗せして天使のエネルギーを纏わせていた。


 空が双剣をコーティングしなければ、悪魔の鎌ですぐに破壊されていたことだろう。死神も持っている鎌にエネルギーを流し込んでいることから、空がコーティングをしなければ、死神の攻撃に対抗できないことは明白だった。


「だから、できるだけ短期決戦を心掛けて」


 以外にもリギラは今の現状を把握し、冷静に分析していた。空がリギラの言葉を聞き終えると、先ほどより死神に踏み込む回数を増やした。すると自然に手数が増え攻撃の鋭さが増した。


 しかし、死神は空の攻撃に難なく順応し再び拮抗してみせた。死神は話す余裕がないのか、はたまた油断を無くして見せたのか。第二の火蓋が切られてからは口数が減り、ほとんど言葉を発することはなかった。時々、攻撃する時に掛け声のようなものはあるものの、ただ黙々と空にその刃を向けた。


 ここにいる三者はそれぞれが人間が不利であることを把握していた。その理由は大きく分けて二つあった。


 一つは、死神は鎌を具現化しているのではなくもともと実在しているもの使用していること。空の武器具現化が未熟でエネルギー消費が激しいことも踏まえ、このエネルギー消費の差はかなりの痛手であった。


 もう一つは単純なエネルギー総量である。連戦・激戦を繰り広げ、それに比例してエネルギー総量も多くなった空であったが、死神はその量を軽く凌駕していた。


 空の中にある天使のエネルギーは空のエネルギーとリギラのエネルギーを混ぜ合わせて作られたものであり、空とリギラのエネルギー合算値に近しいものであった。


 しかし、リギラの天使の力が弱まっていたこともありそこに人間である空のエネルギーを足し合わせたところで到底、死神の総量に届くはずもなかった。


 両者の戦術が拮抗しているこの状況下で、先に形成不利に陥るのが空であることは明白なのである。


 互いの刃は相手に届かず互いに受け攻めを繰り返すのみ。刃を避け、刃で受け、刃で攻める。中庭を縦横無尽に駆け回り刃を振り回し続けて、時間だけが刻々と過ぎていく。


(時間が掛かりすぎてる。このままだと空は……)


 リギラは今の状況を危惧するかのようにふと思う。リギラの予想は残酷にも的中することとなった。


 双剣にエネルギーを流し奮闘するも押し切ることができなかった空は、やはりというべきかいよいよ双剣にエネルギーを回すことができなくなった。


 強化された鎌に対して強化されていない双剣では到底太刀打ちすることができず、鎌は無常に双剣を破壊する。割れたような音と共に双剣は光の塵となり散りばめられる。


 死神はそのようなことを気にも留めず、淡々と鎌を振るう。すぐさま空は双剣を展開するも先ほどよりその強度は脆く、鎌を当てられると呆気なく砕け散った。


 空は第一戦の時同様、素手での戦闘を強いられることとなった。


 先ほどと同じ状況に立たされた空であったが、その動きは明らかにぎこちないものだった。空はここまでの長時間戦闘を経験したことがなく、また双剣生成によりエネルギーをかなり消費してしまった。


 結果、体に回す分のエネルギー量も減少し、運動能力の低下に繋がっていった。空は拙い動きで鎌を捌く。


 しかし、それも少しの時間稼ぎにしかならず、すぐに空の不調は状況を悪化させていった。


 死神の鎌は空の肩めがけて振りかざされた。空は鎌の持ち手を素手で受け止めることで勢いを殺すことになんとか成功。鎌を受け止めたときその衝撃は空の体を流れ地面へと走り、空の両足の下に軽いクレーターを形成した。


「空‼」


 リギラの大声が空の頭に響く。攻勢は死神に押されているものの危機的状況に陥っているわけではなかった。そのため、空はリギラが叫んだ理由に気付けなかった。


 押し込まれる鎌を必死に受け止め、全身で鎌の押し込みにこらえていると空は肩に違和感を覚えた。この時、空はリギラが叫んだ理由を初めて理解した。


 肩から見慣れたドロッとした液体が流れ出ていたのだ。液体は滴り落ち地面に斑点を作り上げる。


 鎌の刃が深く空の肩に潜り込んでいた。


 空はかなり危機的状況に陥っていると肩の怪我を見て初めて気が付いた。残り少ないエネルギーで身体強化と肩の治癒を同時にこなさなければならなくなったのだ。


 空はこれ以上鎌が肩に潜り込まないように身体強化の方にエネルギーを優先することを判断し、肩から血を流しながら鎌を受け止めた。


 死神は人間を切り裂かんと鎌を押し込もうとするも、空は表情を変えず全身で堪える。


 死神は抵抗する空を見て、これ以上の力勝負は無駄だと判断し、人間の空いた腹に蹴りを入れた。


 空は肩から肉が切り裂かれる音と共に、奇しくも一度飛ばされた場所に近い位置に再度吹き飛ばされた。先ほど空いた廊下と外を隔てる壁を通り抜け、今度はその先にある教室にまで身を転がす。空はまたも煙に身を包まれ、その姿を眩ませた。


 死神は目に力を入れ人間の様子を確認する。煙の中でもたれかかるように座る人間の姿を捉えた。その魂の輝きは先ほどより小さくなっているものの、消えるほどではなかった。


 人間が横たわって動いている様子がないことを観察し、気絶しているかもしれないと思った。しかし、これまでの人間の行動・しぶとさを考慮して、気絶しているか確信が持てなかった。


 死神と人間との道筋には所々に空の血が滴り落ちている。死神は鎌を担ぎ慎重を期すように地面に付いた血の跡を辿って、ゆっくりと近づいていった。


 死神は廊下に侵入し浮かび止まる。無闇に突っ込むような真似はせず、煙が晴れるまでじっと待った。


「空‼ しっかりして‼」


 煙の中から天使の声が響いてきた。空が気絶している可能性が一気に高くなった。


 しかし、死神は人間に飛び掛かることはなかった。認めたくないながらも人間の能力を高く評価していたためだ。そのため、死神は油断せずにじっと機会を伺う。


 徐々に煙が晴れ人間の姿を直接捉えられるようになった。辺りには机や椅子、瓦礫が転がり空は瓦礫の山にもたれるように座っていた。


 空は左手で右の肩を押さえ俯いたまま、死神の方を向くことはなかった。左手で押さえられた右肩からは深い傷が見られ、血が流れ出ていた。深手の傷に対して、流れ出る血液の量が少なく見られる。


 それは空が残りのエネルギーを治癒に当てていることを意味し、それすなわち戦う力をそちらに費やすことをも意味していた。


 死神は人間の様子を伺う。ここで彼を斬れば決着が付くことを死神は頭では理解していた。


 しかし、死神は目の前の人間はそれすらも何とかするであろうという根拠の無い確信があった。


 ふと人間を観察していると人間の中で必死に呼びかけている天使と目が合う。お互い何も言わず無言で相手の目を覘く。


 死神は少し天使を見るとすぐに目を反らし教室に立て掛けてあった時計にちらりと目を向けた。時計の秒針は音を立てて時を刻む。そしてすぐに人間の方を向いた。


 秒針だけが鳴り響く静かな教室の中、死神は鎌を大きく振りかぶった。死神は人間の首を捉え、両手で鎌を振りかざした。


 その時、今までで一番大きな金属がぶつかり合う音がした。空は右の手の甲で鎌の刃を受け止めていた。

「⁉」


 死神は驚いた。空が気絶していなかったこと、またも攻撃を防いだこと、そして空の中にリギラ以外の何かが潜んでいること。様々な事象が重なるも、死神は驚くという一つの反応のみを示した。


「なんだよ。なかなか面白そうなことになってんじゃねぇか」


 聞き慣れない、しかしどこかで聞いたことのある声が金属音の後に響いた。その声は少し嬉しそうで高揚していた。


「俺も混ぜろよ‼」


 その声と共に空は鎌を振りほどき立ち上がった。死神は振りほどかれた鎌を片手に持ち後ろに一歩引いた。


「……」


 死神は苛立った表情を骸骨に浮かべた。


「リエガ‼」


 リギラの甲高い声が響く。その声は天使と悪魔の垣根を感じさせないほど明るい口調で希望に満ちているようだった。天使はどうやら聞き慣れない声の主の名前を叫んだようだった。


 野太い声の正体は人間に取り憑いていたもう一体、天使とは相反する種族である


 悪魔であった。


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