エネルギー特性
放課後、タスクに向かう途中でリギラは話し始めた。
「それじゃあ本題の死神の話をしようか。昨日のことについても詳しく話すよ」
リギラは元気よく言った。昨日と同じ話題であるはずなのにやはり、昨日とは異なり焦りは全く見られなかった。リギラは死神について説明を始めた。
「昨日のことについて話すにはまず死神の役割について話さなきゃいけない。それでその死神の役割っていうのが人間の魂を刈り取って、七つの界域の一つ、冥府界に導くことなんだ。そして、魂を刈り取るっていう話なんだけど、魂を刈り取られた人は死んじゃうんだ。死神が人の魂を刈り取るのは有名な話だけど、冥府界に連れていくのは聞いたことがないよね。人間は、死んだら天使のお迎えが来るって思ってるようだけど、実際は刈り取った当の死神本人がそのまま連れてっちゃうんだよね」
人間の死を話すリギラの声色は変わらず淡々としていた。人間の死の話を聞く空も顔色一つ変えずに話を聞いていた。
「ただ、死神も誰でも彼でも殺すわけじゃないよ。例えば、死にそうなおじいちゃんの魂を刈り取ってその日をおじいちゃんの寿命が終わる日にしたり、災害にあった人の魂を刈り取ったり、死ぬのが決まった人の魂を刈り取っているんだ」
リギラは死神の役割を深掘りしていく。
リギラの話を要約すると、死神が人の魂を刈り取るとその人は亡くなり、冥府界に連れて行かれるということだった。また、人の魂を刈り取るには明確なルールがあるということだった。
「で、ここから昨日の話に繋がるんだけど、死神が魂を刈り取る人間は閻魔ノートに記されたかどうかで決まるんだ。それでどうやらそのノートに空の名前が記されたらしい」
空はリギラの話を聞いて、昨日、リギラと死神が話していたことを思い出した。
確かに死神は「閻魔ノートに記された」と言っていた。あの場に人間は空しかいなかった。つまり、それは空の魂が死神によって刈り取られることを示唆していた。
それは同時にこのままでは空が死に至ることも示していた。
空は魂が刈り取られて死ぬことを知っても何も反応しなかった。それはいつものことだったが、今回様子がおかしいのはリギラの方だった。
空が死ぬというのにリギラの声はいつも通りに明るい。昨日こそ慌てふためくリギラだったが、今日のリギラにはそんな素振りは微塵も見られなかった。
「ということは、このままじゃ『来週の月曜日に隣町の改装予定の学校』で空が死んじゃうってことじゃないかー。あーどうしよー、困ったなー」
リギラは白々しく話した。丁寧に日時と場所を言いながら。この日付と場所は昨日、死神が指定したものと同じだった。リギラはさりげなく、その日その場所で空が死ぬことを伝えていたのだ。
「でも大丈夫‼」
リギラが今日一番、大きな声を空の頭に響かせた。その声は自信と元気に満ち溢れていた。
「死神が魂を刈り取りに来ても、絶対に死ぬわけじゃないことを思い出したんだ。実際に明日、明後日死ぬかもしれないって言われて一年以上寿命が延びた人もいるし、人が大勢死ぬような災害に巻き込まれて生き延びた人もいるんだ。そういう人たちは閻魔ノートに一度名前が記されても、死ぬことがなければ名前が消えるんだよ。だから、空も死を回避できるんだよ」
リギラは「できるかもしれない」ではなく「できる」と言った。リギラの話を聞いている分には生き残る可能性はかなり低く感じられた。リギラは続けて「できる」と断言した理由を話した。
「なんせ、ボクが憑いて力を貸しているからね。そんじゃそこらの人間とは訳が違うんだよ。普通の人でも死を回避できるんだ。ボクの力を借りてて、S級の悪魔を退けた空にそれができないはずがない!」
言い切った。リギラが言ったことには何の根拠も含まれていなかった。リギラは、空に天使が憑いているにも関わらず閻魔ノートに名前が記されたことに気づいていなかった。
空はそのことに気が付いていたが、リギラに指摘を入れることなく黙ってリギラの話を聞いていた。
「というか、そもそもそこに行かなければいいって空は思ってるかもしれないけど、もしそこに行かないと死神はターゲットが死ぬまでついてくるからね。死神が付きまとうってことは常に死ぬ可能性があるってことだからね。死を完全に回避するには、その時その場所で生き延びる必要があるってこと」
リギラは何も思っていない空の疑問に答えるように言った。つまりリギラの言っていることは、死神が魂を刈り取る決められた時刻に死を回避しなければ、死神が常に付きまとい、常に死ぬかもしれないリスクを背負う、ということだった。
「だったらいっそのこと、空の力で死神を返り討ちにしてやればいいんだよ。死神を返り討ちにするってことは死を回避することと一緒なんだからさ」
リギラはまた根拠のない話をした。この根拠のない話をどこから持ってきて、どのようにして元気の素にしているのだろうか。そのような疑問が出るほど今日もリギラは能天気だった。
「さて、今まで死神の役割について話してきたけど、次は死神のエネルギー特性について話すよ。人間の魂を刈り取る役割をもつ死神、そんな役割を持つ死神のエネルギー特性は『死』なんだ。命あるものには死を与え、寿命ある物には劣化をもたらす。ほんと、物騒な力だよね」
今度は、死神の持つエネルギー特性について話し始めた。それと同時に空はリギラに誘導されて地下駐車場へと続く入口に着いた。
「死神はそのエネルギーを持っている鎌に付与して魂を刈り取るんだ。ただ、やろうと思えばエネルギー付与した鎌で魂じゃなくて人間の体を直接切り裂くこともできるらしいけど、そんなことが起きたことは一度もないらしいから安心していいと思うよ」
リギラは死神の特徴についても説明した。リギラの説明は曖昧で、どれも噂や他人伝で聞いたような物言いだった。空はリギラの話を聞きながら地下駐車場へと赴く。
「死のエネルギーを付与した鎌で切り裂かれれば普通の人間のエネルギーじゃ防ぐことはできないし、天使の力があっても死神のエネルギーは攻撃力がありすぎて完全に防ぐことはできないんだ。なんせ、魂を刈り取るほどの鋭さだからね」
リギラの話は死のエネルギーの攻撃力の高さを物語っていた。リギラの話を聞く限り、たとえ天使の力を持つ空であっても、死神の攻撃を喰らって無傷でいることは避けられそうになかった。
「だから死神に対抗するために、今日から一週間、あいつらで特訓しよう」
気が付くと空は既に地下駐車場に辿り着いていた。リギラが「あいつら」と言った方向には悪魔が一体だけ立っていた。
悪魔は人間に憑いておらず独立で行動していた。しかし、リエガのような迫力をその悪魔から感じられず、ただ物を壊して徘徊しているだけだった。その様子から徘徊している悪魔はA級であることがうかがえる。極めつけはリギラの反応だった。
リギラはその悪魔を見ても震えることはなくいつも通りの調子だった。リギラは空がタスクを行うにつれて、リエガ戦のときから着実に力を付けていることに気が付いていた。今の空の力はA級一体くらいなら苦戦することはないほどには成長していた。リギラの反応は徘徊している悪魔がA級であることの裏付けとなったのだ。
リギラが空の目の前にいる悪魔一体に対して「あいつら」と言ったことは、これから一週間空がA級悪魔と戦うことを示唆していた。
「他の種族や界域のことはまた、話す機会があるだろうからその時に話すね」
そこから空の一週間のタスク兼死神対抗特訓が始まった。




