七つの種族と一呼吸
「おはよー空! 今日もいい天気だね」
空の通学途中に目が覚めたのかリギラはテンプレとも言えるようなセリフを吐いた。その声は元気に満ち溢れており、昨日の焦っているリギラの姿はどこにもなかった。
「いやー、昨日は変なところを見せちゃったけど許してね」
リギラの様子はいつもの明るい調子に戻っていた。リギラは謝らなかった。今日のリギラは何やら浮ついて見える。昨日とのギャップが激しくそのように見えたのかもしれない。
「さて、それじゃあ昨日の内容も含めて色々と話をしようか」
リギラはそのように言うと軽く咳払いをして話を始める準備をした。今日もリギラの長い一人会話が始まろうとしていた。
「昨日のあの骸骨の話の前に空には基本的なことを教えてあげよう」
その姿はまさに先生、いや教授そのものであった。今日のリギラの話し方は「おしゃべり」ではなく「講義」のそれだった。
「空は地球に関わっている種族が何種族いるか知っているかい。おっと、動物とか昆虫、細菌はなしだからね。あくまでも空たち人間やボクたち天使のような存在に限った話だよ」
リギラの話はクイズ形式で始まった。ここで、空がこの問いに回答するとリギラはますます調子に乗って鼻につく話し方をするだろう。
しかし、空は回答する気がなかった。単純に興味がなかったこともあるがこの後の展開を読めていたからである。
「なんと、この世界には七つの種族がいて、さらにそれぞれの種族が住む七つの界域が存在するんだ」
リギラは自身の問いから少しも間を空けずに勝手に答えを言った。空はリギラの性格がどういったものなのか知っていたため、このような展開になることをなんとなく予測していた。リギラは空の態度を気にも留めず話し続けた。
「七つの種族の内、空が出会ったことがあるのが人間族、天使族、悪魔族の三種族。この三種族の他に死霊族、死神族、妖精族そして神族が存在するんだ」
空は神族という単語を聞いて少しだけ反応した。空がリギラの話に反応したのは自身に天使と悪魔が憑いていないと分かったとき以来である。今回でようやく二回目だった。しかし、反応したのは一瞬で空はすぐに通常通りになった。リギラは今回も空の反応に気づかなかった。
リギラの話は続く。
「七つの種族はそれぞれ役割があって、それに応じた特徴あるエネルギーを持ってるんだ。ほら、悪魔戦のときにボクが天使のエネルギー特性が~って鎌を掛けたの、覚えてる?」
リギラの疑問符が空の頭に響く。空はリギラの話を聞いて悪魔戦のときのことが頭に浮かび上がった。空とリエガが一度動かなくなったとき、リエガが空に向かってビームのようなエネルギーを放出したあとのこと。リギラは状況を変えようと悪魔に話しかけていた。そのときに確かに天使のエネルギー特性についての話を出していた。
「ボクら天使の役割の一つは空に話したタスクのことなんだ。他にもS級悪魔と戦ったり神の補佐もしたりしてるよ。まぁ、そういった役割はもっと位の高い天使がやるんだけどね」
リギラが位の高い天使の話をしたとき、リギラの声が少し、気づかない程度であるが暗くなっていた。空はリギラの機微の変化に気が付いていたが、いつも通り反応を示さなかった。
「そんな役割をもつ天使のエネルギー特性は『聖』に関係することなんだ。例えば、悪の心を改心させる浄化だったり、傷を癒す治癒の力だったり。とにかくそういった聖に関する性質を持ってるんだ。光属性って言った方がわかりやすいかもね」
リギラの変化はいつもの調子で搔き消され、再び普通に話し始めた。空の頭に悪魔戦のことがまたも浮かび上がる。
悪魔戦のときに付いた空の体の傷はかなり深く、普通では立てることが考えられず、ましてすぐに立てるようなものではなかった。しかし、悪魔戦のときにリギラが悪魔に鎌を掛けたあとも、リエガが空に憑いたあとも空は立ち上がっていた。本来なら立ち上がるまでにかなりの時間を要するはずであった。傷ついた空の体は天使の力によって急速な回復が行われ、空は通常よりも早く立てるようになっていた。
リギラが天使のエネルギー特性に話し終えたとき、空はちょうど学校の校門にたどり着いた。
「それじゃあ続きは放課後に話すね。放課後は死神の話をするから」
それだけ言い残してリギラの声は頭に響かなくなった。リギラの声が途切れると、空の耳に自然と周りの音が入ってきた。人が話している音しかなかった。空はその音を気にせず生徒玄関へと向かっていった。
空が下駄箱で靴を履き替えていると空の尻に違和感があった。空はすぐさまその違和感を感じ取り、前によろけるフリをした。
「邪魔」
二文字の言葉が空の後ろから飛んできた。そのあと、横から下駄箱の窓を開く音と上履きを地面に落とす音が次々に聞こえてきた。空は黙ってよろけたままのフリをして動こうとしなかった。再び窓を閉める音がして、次は足音へと音を変えていった。
空は足音が遠のくことを確認してその方向へと目を向ける。そこにはいつも通りの三人の後ろ姿があった。
三人は空のことを見向きせず談笑していた。先ほど空が感じた違和感は三人のうちの誰かが空の尻を蹴ったものだった。しかし、空はより強力な衝撃を過去に喰らっていたため、その蹴りは空にとって尻に違和感を残すほどの刺激しかなかった。空は三人の姿をじっと見ていると、先日の放課後にリギラに言われたことが脳裏に浮かんだ。
「空は彼ら(に憑いた悪魔)を弱らせないのかい」
学校帰りの放課後、その日はタスクがなくそのまま戻ろうとしていた時だった。リギラは空に不良グループのことについて聞いた。
「いや、ほら空って彼らにいじめられているんだろう。それって悪魔のせいだしそいつらを弱らせれば解決すると思うんだけど」
空は何も反応せず答えなかった。空の中でリギラの質問に対する答えはすでに出ていた。その答えとは、彼らの中に潜む悪魔を弱らせることは「タスク」ではないため弱体化させない、だ。自分の意志がわからない空は私利私欲のために天使の力を使うことはなかった。
リギラは沈黙している空の様子を見て何かを察して話題を変えた。その様子は気まずいものではなく、なにかを悟って答えを知り、納得したため別の話題を持ち込んだ、ただそれだけだった。
空が思い出すことを終え、ふと我に返ると空の視線はまだ三人の背中だった。空は何も思わず、視線を下駄箱のほうに向けて、自分の上履きを取り出して履き替えた。




