第91話 城塞都市アバガスと新しい武器
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
「あれが……、アバガス。」
遠くに見える山脈から突き出たような灰色の巨大な要塞を見て、エイナーが感嘆の意がこもった呟きを漏らした。まるで、山脈があったその日から、その要塞も一緒に存在していたかのように、その岩肌の一部であるかのようにも感じる。
ムンド軍が一足先に、西に面する大門から長い行列を成して入って行くのが見えた。アルーム軍もそれに続き入って行った。
ムンド軍を率いるのは、元ムンド国第二王子アシル・クムである。彼はサムートの一歳上の物静かで穏やかな男で、博学で機転が利くタイプである。一見こういった争いごとには向かないように見えるが、常々、兄である元皇太子のエレン・クムは弟である彼のことを高くかっていて、今回はエレンの推薦で彼がアバガスに軍を率いてやって来た。
また、彼は子どものころからアバガスの城塞が好きで、良く遊びに来ては滞在していたようで、誰よりもアバガスに詳しかった。
「サムート、久しぶりだね。君がやると思っていたよ。」
手を差し出しながら、アシルが穏やかな笑みを湛えた。
「アシル、本当に久しぶりだ。少し遅くなってしまったけどね。」
そう言って、サムートはアシルの手を強く握った。アシルもサムートの手を強く握り返した。
サムートとアサヤ将軍がアルーム軍を率いて、ナフナ将軍がムンド軍を率いて、パレオスに攻め込む。
奇襲が掛けられれば良かったのだが、流石に、ジャーダンに隠れてアバガスに集結することは不可能。ジャーダン側もアルームとムンド軍がアバガスに向かったことに気づいているはず。
戦いは、パレオスとアバガスの丁度中間地点の平原になるだろう。まず、この戦いに勝ち目はない。早々に撤退し、アバガスに帰ることになる。
この戦いの間にアバガスではアシルとエイナーが、応戦の準備をし、サムートたちを追撃する兵たちを討つ算段である。
サムートたちは必死に戦いながら少しずつ後退し、撤退する。そして、サムートたちを追撃するモラン軍をアバガスの強固な城壁の上から攻撃する。
アバガスには古くなった投石機があった。アシルは以前から、何かのためにと、それらを密かに補修して使えるようにしていた。
「きっと、これを使う日が来ると思っていたんだよ。」
アシルが嬉しそうに、我が子を眺めるかのような眼差しで投石機を見上げた。
「試し打ちしてみましょうか?」
そう言って、城壁の上に並んだ五台の大きな投石機の一台に石をセットし、発射角を調整して打った。目の前の平原の遠くの方まで跳んだ。
「このくらい飛ぶのが一つくらいあっても使えるかな。」
アシルがそんなことを呟きながら、発射角はそのままで、投射する方向を少し右に向けて、同じくらいの大きさの石を再び打った。
「これは遠投用にしよう。」
そう言って、次の投石機の投射角度を調整し、もう少し近くを狙えるように設定した。各投石機には、遠距離用、中距離用、近距離用と記載し、近距離用には火薬使用禁止と書いた。
「火薬球の威力も試したいですね。それに扱いも注意しないと、ここで爆発したら自爆事件になってしまう。」
そう言って、エイナーが試し打ちに使った石と同じくらいの薄茶色の球体を持ち上げた。長めの導火線が付いている。これが火薬球である。
ズーシュエンとジェイドがグレナディの倉庫にあった材料で作った火薬を用いたものである。火薬の材料をここまで運びそれを調合して、あらかじめ準備して置いた入れ物に入れたものである。
幸い、火薬の扱いに慣れたものがアルーム国の兵士にいたため、彼の指示のもとこの火薬球をここで作っている。
「やってみようか。」
アシルもこの火薬球にはかなりの興味があったようで、試し打ちをすることになった。
「おーーーーい、次は火薬球だぞ、皆気を付けろ。」
アシルが大声で下にいる兵士たちに声を掛けた。下の方がざわついた。
エイナーが火薬球を投石機の投石台に置き、兵士たちが投石準備をし、導火線に火をつけた。透かさずに投石を行うと、火薬球は宙に大きな弧を描いた。地面に着地する前に大きな音とともに爆発した。下の方でその様子を眺めていた兵士たちから大きな歓声を上げた。
「空中で爆発するのは勿体ないなあ。導火線はもっと長い方がいいかもしれない。」
アシルが隣にいる、火薬球作りの兵士に行った。
「次のはどうでしょうか?」
そう言って、彼がもう少し長めの導火線の火薬球を投石機に置いた。兵士たちが投石を行うと、大きな弧を描いて飛んで行った。次は地面に叩きつけられると同時に爆発した。
「このタイミングが一番いいな。導火線がもっと長いと着地と共に爆発しないのかな?」
アシルがそう呟くと、もっと長い導火線の火薬球が投石台に置かれ、放たれた。これも、着地と同時に爆発した。
どうやら、着地までに爆発しなければ、導火線に余裕があっても着地と同時に爆発するようだ。
「導火線は少し長めにしよう。」
アシルの目が少しだけ輝いているように見えた。
この人は研究者肌なのかもしれないなと、エイナーは思った。
三発の試し打ちで、目の前の平原には二つのくぼみが出来ていた。また、その前に投げた石が数個転がっている。
エイナーは、こんなものが自分の頭上に落ちてきたらと思うと、寒気を感じた。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性
エレン・クム:元ムンド国皇太子
アシル・クム:元ムンド国第王子
ルスラン8世:元ノンイン国王
元アルーム国軍の将軍:アサヤ将軍
元ムンド国軍の将軍:ナフナ将軍




