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第88話 アリマ、ルッカへ

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

 アリマはフォンミンの密命を受けてルッカに渡ることになった。


 彼女の役目は、フォンミンの手紙をアクセル・ゲイラヴォルという男に渡すことであった。


 ユーリハ国の出兵許可が下りれば、ガイアム国にも正式ルートでの応援要請を出す予定ではあるが、多分受理されないであろう。そのため、直接この男に事前のネゴが必要だった。


「エイナーの元上司だ。その封筒の中にはエイナーと俺の手紙が入っている。直接、アクセル・ゲイラヴォルに手渡ししてくれ。」


 フォンミンがアリマに手渡した封筒を指さして言った。


「直接って、そんな簡単に会える人なの?」


「これが、その男の家の場所だ。」


 そう言って、別の紙を手渡した。


「そうか、家に直接行けばいいのか。」


「妻が一人、子どもが四人いるらしい。彼は師団長だがまだ三十手前で見た目も若い。背が高くて、やんちゃな感じで、ぱっと見は怖そうな感じのあんちゃんだった。」


「家にさえたどり着ければ、きっと大丈夫だよ。」


「本当は同行者を付けてやりたいんだが、事がことだけに他に頼める奴がいなくて。行きはマヌゥが一緒だから大丈夫だと思うが、帰りは一人になる。気を付けろよ。それと、言葉は大丈夫か?」


「言葉?」


 アリマはキョトンとした顔でフォンミンを見た。


「西方の言葉は話せるか?」


「軍に入って少し習った程度……ほとんど喋れない。」


「アクセルは、イズミールの公用語は喋れると思うが、妻の方はどうだろうな……」


 そう言って、フォンミンは何枚か紙を出して、何かを書き出した。

 西方の言葉とイズミールの言葉で何かが書かれている。


 ・私はユーリハ国軍のアリマです。司令官ヤン・フォンミンの代理で来ました。アクセル・ゲイラヴォルにお会いしたいです。

 ・とても重要な要件なので、アクセル・ゲイラヴォルと直接お話させてください。

 ・エイナーとジェイドの友だちです。

 ・貴重品を失くしました、警察はどこですか?

 ・これは幾らですか?

 ・もっと安くなりませんか?

 ・宿を探しています。安全で良い宿はどこですか?

 ・トイレはどこですか?


「他に何か言いたいこと有るか?」


 フォンミンが顔を上げて聞いた。


「…トイレの場所くらいは聞けるよ。そうだ、ジェイドの家も見てみたいな。もし、家に行けたらマーサって人にジェイドが元気だってこと伝えたい。」


「そうだった、これはハンナ妃からだ。」


 そう言って、手紙と包をアリマに渡した。手紙には封がされていた。包には他国の貨幣が入っていた。


「凄そうだけど、いくら入ってるの?」


 フォンミンは中を覗き込んで、ちょっとだけ考えて、


「一カ月間はちょっといい宿に泊まって、上手い物が食える。そんでお土産も買えるくらいは入ってるなあ。念のため、数か所に分けて持って行け。取られても被害が少なくて済む。そんで、ここがエイナーの家の場所で、使用人に手紙を見せるようにとのことだ。」


 そういって、もう一枚紙を渡した。


 翌早朝、捜査官のマヌゥとアリマは馬でイーロアに向かった。二人がルッカに着いたのは、二日後の朝だった。




 ルッカに着くと、アリマは今まで見たこともない大きな市場や、人々の活気に圧倒された。ここで迷子になったら二度とナルクに帰れない……本気でそう思った。

 そして、胸の内ポケットに入れたアクセル宛の手紙に、服の上から手を置いた。これだけは守らないと。そう思うと、手に汗がにじみ出てくるのを感じた。


 だが、港の近くの市場では、聞き取れない言葉に混じって、馴染なじみのある言葉もちらほらと聞こえてくる。少しだけホッとした。




 アクセルの家まではマヌゥが一緒に行ってくれた。


 門の前でマヌゥが、

「アリマ、ここからは君一人で行った方がいい。頑張れよ。」


「うん、ありがとう。」


 そう言って、二人は別れた。

 マヌゥが去っていく背中を見ていると、どんどん不安になった。


 視線を屋敷に向けた。大きな家だと思ったが、よくよく見てもやっぱり大きい。門から入口までもかなり距離がある。


 周りを見回しても門番らしき人はいない。門に手を掛けて押すと、開いた。


 そのまま、門を開けて中に入って行った。直ぐに入口から誰かが出てきた。こちらに向かって何か言っているが、良く分からない。

 アリマは、フォンミンからもらった紙を出して、その男に見せた。


 すると男は、アリマにも解る言葉で話しかけた。

「随分と遠くから、一人で来たのですか?」


 一人かと言われると微妙だが、今は一人だったので、


「はい、一人で来ました。重要な話があるのでどうしても直接お話させてください。」


 そう言って、頭を下げた。


「ちょっと待ってくださいね。」


 そう言って、男は家の中に戻って行った。暫くすると、その男が背の高い男を連れて戻って来た。


「俺に大事な用ってなんだ?」


 アリマは男の威圧感に圧倒されて、口籠くちごもった。


「ん?どうした、出勤前で忙しいんだ。用があるなら早く言え。」


 震える手を握り締めて、アリマは大きな声を出した。


「私、ユーリハ国軍のアリマです。司令官のヤン・フォンミンの代理出来ました。貴方に直接渡さなければいけない手紙を持ってきました。それと、私……ジェイドとエイナーの友だちです。」


 そう言って、下を向いた。


「へー、ジェイドとエイナーの友達なのか、エイナーは随分と可愛い友達が出来たんだな。アリマ、中に入れ。」


 さっきとは打って変わって、男は笑顔になってそう言った。


 背の高い男の後ろをついて行くと、ソファとテーブルが置かれている、大きな部屋についた。


「そこに座りな。」


 男に言われるまま、ソファーに座った。さっきから、ずっと心臓がバクバクしている。


 男が正面のソファーに座った。


 アリマは、胸ポケットに仕舞しまっていた手紙を取り出した。手紙は手で握りつぶされたようなしわが何本も入っていて、何となくジメっとしていた。


 心の中で、ああ、汚くしてしまったと後悔しながらも、アリマはその手紙をアクセルに差し出した。


 アクセルはその手紙をペーパーナイフで開けようとしたが、紙がぐしゃっとなってきれいに開けることが出来なかった。何とか封を開けて、


「随分と強く握りしめてたたんだな。」


 そう言って中の手紙に目を通した。


「それで、状況は?」


 アクセルに現状を訪ねられたアリマは、ノンイン国が降伏し、ハルン国も何とか持ちこたえている状況のなか、ユーリハ国も出兵の準備をしているが、大臣たちがモラン国と通じているようで、なかなか出兵の許可が出ないこと。タユナの事件のこと。ジェイドとエイナーがモラン国に向かったことを話した。


「ジェイドの仇って、マラト・ベルカントだったのか。」


 アクセルは驚きを隠せないようで、少しの間、口をあんぐりと開けていた。


「そうなんです。それと、エイナーは友人であるアルーム国の皇太子に、ジャーダン・ナラハルトへの反撃の意思があるかどうかを確かめたいと言ってました。」


「皇太子にその意思があったら、どうするんだ?」


「その時は、手伝いたいって言っていました。」


「あいつは、何をしに行ってるんだ。」


 そう言って、アクセルは顔をしかめ、


「じゃあ、これからモラン国内でも内乱が起こるってことだな。」


「多分そうなると思います。しかし、もし、他のモラン国内の国々がモラン側についてしまった場合、アルーム国の軍力では……、かなり難しいかと。」


 そう言って、アリマがうつむいた。


「エイナーのことだから、始めから負けると分かっているようなことはしないと思うが、意外と何をやらかすかわからないところもあるからな。」


 そう言って、またアクセルは顔をしかめた。


「状況は分かった。ヤン・フォンミン司令官には、出来るだけこちらが出兵する理由がつけやすいような応援要請を頼む。俺もどうにか内部を説得する。」


 そう言って、読んでいた手紙を内ポケットに仕舞しまった。


 その時、アリマのお腹が鳴った。

 昨日の夜から何も食べていない。お役目をはたして気が緩んだせいかもしれない。


「この後どこか行くのか?急ぎの用がなければ、うちで朝食食べて行けよ。」


「急ぎではありませんが、ジェイドの家に行こうかと思っています。」


「じゃあ、食べた後にテュールに案内させるよ。後、ルッカ滞在中に困ったことがあったら、うちに来い。」


 そう言って、アクセルはテュールを呼び寄せて、アリマを今日一日エスコートするようにと言い付けて、部屋を出て行った。




 テュールは八歳の男の子で、見るからに生意気そうではあったが、父親からアリマのエスコートの任を言い渡され、頑張ってそれを全うしようとしてくれていた。アリマの言葉も分かるようだった。


 アリマはテュールに案内されて食堂の席についた。

 大きなテーブルに、どう見ても高そうな食器類、謎に沢山の絵画が飾られている。

 こんなところで食べたら、何を食べても味がしないだろうなと考えていたが、テュールくだらない話をしているうちに緊張がほぐれて、運ばれてきた『ふわっふわの黄色い何か』を一口食べると、思わず声に出して叫んでしまった。


「おいしい!」


 目を輝かせているアリマを見て、テュールは得意げに言った。


「そんなもんが美味しいのかよ。子どもだな。」





今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。

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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。


地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性

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