第85話 出征前夜
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
一行は、無事にグレナディに到着した。
エイナーは城に戻り明日の出征に向けて準備を行った。
ジェイドとズーシュエンはグレナディでマラトを探したが、どうやら既に戻ってしまった後のようだった。
その後、二人がモーイエの家を訪ねると、いつもより早めに父親を説得することが出来たと言って、モーイエが出発の準備をしていた。
「お二人が迎えに来てくれたならば、護衛は不要ですね。」
そう言って、モーイエが微笑んだ。
「私たちのことを心配していただき本当に嬉しいのですが、先生にご迷惑を掛けることになります。このお願いは無かったことにして頂きたい。」
ズーシュエンがそう申し入れをすると、モーイエはちょっとワザとらしいくらいの笑顔になって、
「お約束したじゃないですか、お二人が怪我をされたら私が治療をすると。忘れたとは言わせませんよ。」
「そんなお話もしましたね。でも、それを約束だなんて思っていません。ちょっとした、会話の中の冗談というか、そう言う類のものでしょう。」
そう言って、ズーシュエンが断ろうとしたが、モーイエが同行すると言って引かないので、彼女の申し入れを受けることになった。三人も、明日出発することになった。
その夜、エイナーとジェイドは城壁の上で横になって、星空を眺めながら、話をしていた。
通常は出征前夜ともなれば、兵士たちが家族や友人、恋人と思い思いに楽しむことが多いが、今回の出征は建前上は秘密裏の出兵のため、前夜と言えども表向きは静かだ。
「士官の妻になれば、出征前夜なんてことも有るのだろうと想像していたが、こんな異国の地でそうなるとは思ってもみなかったよ。」
ジェイドが起き上がって、遠くを眺めながら言った。
「そんなこと想像していたんだ?以外だね。」
「ああ、エイナーとの結婚が決まってから、いろいろ考えた。一緒に暮らすってどんなことなのだろうかとか。いつ、自分の話をするのが良いのだろうとか。とか、とか、とか。」
「とか、とか、とか?他には?」
「変な趣味があったらどうしようかとか。他に本命の女がいたらどうしたらいいのかとか。男がいる可能性もあるかもとか。」
「……はぁ、結構いろいろ考えていたんだね。私は、結婚が決まってからは準備やらなんやらで忙しかったから、考える時間もなかった気がするな。結婚した後に、ハリスから暴露話を聞かされて、いろいろ考えたのはその後だよ。でも、まさかこんなことになるなんて想像もしてなかったよ。」
「本当だな~。」
ジェイドがいつもと変わらない、気軽な感じで答えた。
「今日は、モーイエ先生の家に泊まるんだろう?明日は早いのか?」
エイナーも起き上がって、ジェイドに尋ねた。
「エイナーと師匠を見送ってから出発しようと思う。妻として弟子としての役目を果たさないとな。それに、数時間急いだところでどうなるもんでもないし。」
役目?士官の妻の役目がお見送りなのか?とエイナーは心の中で呟いたが、言葉にはしなかった。
しかし、まさかジェイドに見送ってもらえるとは思ってもいなかったので、勿論、嬉しい気分ではあった。
明日を控えてお互いに体を休めておく方が良いだろうと気を使い、今日はこの辺で帰るのが良いと考えていた。
「じゃあ、今夜はお互いにゆっくり休めるな。」
「ああ、割とゆっくりできるよ。」
ジェイドが空を眺めながら元気良く返事をした。ちょっと違和感があった。
「じゃあ、そろそろ行くか。」
エイナーはそう言うと、何となく切なくなった。
「そうだな。」
ジェイドは何故か元気よく答えた。
そして二人は立ち上がり、塀から降りた。
そして同じ方向に歩き出した。というか、ジェイドがついて来る。モーイエ先生の家は方角が違う。
そうか、送って行って欲しいのか。と思い、
「送って行くよ。」
そう言って、モーイエ先生の家の方向にエイナーは歩き出した。
「どこにだ?」
ジェイドが怪訝そうに尋ねた。
「え、どこにって、モーイエ先生の家に帰るんだろう?」
エイナーが答えると。
「何でだ? まだ帰らない。ほら、行くぞ。」
そう言って、ジェイドはエイナーの手を取って、逆方向に歩き出した。
「あ、そういうことね。」
気を使うと、いつも逆効果だなとちょっと恥ずかしくなりながら、ジェイドに手を引かれて歩いた。
「で、エイナーの部屋はどこだ?」
振り返ったジェイドに聞かれて、エイナーは我に返り、ジェイドの手を引いて部屋に向かった。
「今日はズーシュエンだって、モーイエとゆっくりしたいだろう。私が帰るなんて野暮だよ。」
手を引かれながらジェイドが言った。
「え、あの二人はそう言う関係じゃないだろう?それにズーシュエンには心に決めた人がいるって言っていたし。」
「記憶はないが、きっと、私は、ズーシュエンにはずっと苦労を掛けていたはずだ、彼には好きな人と幸せになってもらいたい。それが、今の彼女とは限らないだろう。」
「え、そんなの、余計なお世話じゃないの? それに、随分とズーシュエンには寛容だね。もし私が他の女性とそうなったら、ジェイドはどうするの?」
「……その代償がどんなものかは、エイナーの想像に任せるよ。」
そう言って、ジェイドは悪い笑いを浮かべた。そしてすぐに怒った顔をして、声を荒げて言った。
「それに、そう言うことは冗談でも言って欲しくないな。」
「悪かったよ。もう言わないし、しないよ。」
エイナーはそう言って、ジェイドの手を引き寄せ、彼女を抱きかかえた。そして、エイナーがジェイドに微笑みかけると、ジェイドは耳まで赤くなった。
その頃、ズーシュエンはモーイエの弟子たちと一緒に、布団を並べて寝息を立てて寝ていた。
そして夢を見た。
リーファ(李花)の家で二人でお茶を飲んでいる。たわいのない話をしながら笑っている。そんな夢だった。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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ざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せました。理解の参考にしていただけると幸いです。
地図 全体
地図 モラン国周辺拡大
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性




