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第74話 閂と老人

背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。

 洞窟に向かって登り始めたジェイドを見つめる、ズーシュエンの心の中は複雑だった。


 自分はまた同じ間違いをおかしているのではないか?

 何が何でも、彼女を引き留めて、引きずってでも連れ帰るべきなのかもしれない。しかし、今ここで彼女を引き留められたとして、いずれ彼女は、自分の目を盗んでマラトに会いに行ってしまうだろう。

 そんな思いを巡らせそうになっていたが、気持ちを切り替え、今、あの子の身を守るために出来ることを考えることにした。

 そして、ズーシュエンも崖の方に歩みを進めた。


 坂を上って行くと、ごくわずかに背後から人の気配を感じ振り返えると、剣が振り下ろされる寸前だった。

 すんでのところで、自分の剣で相手の剣を受け、そのまま押し返した。男は口元に薄っすらと微笑みを浮かべている様にも見えるが、それ以外は無表情に見えた。

 左の頬に新しい傷がある、さっきジェイドの矢で付いた傷だろう。

 男が無表情のまま押し返そうと剣に力を込め、かなり強い力で押し返されたが、ズーシュエンはそれを抑え込んで、男に尋ねた。


「お前たちは何者だ?」


 ズーシュエンの問に答えはなかった。ズーシュエンも始めから男が答えないことは分かっていたが、続けて尋ねた。


「お前のような部下は、全部で何人いる?」


 男は無表情で黙ったまま、ひたすら剣に力を込め続けた。その力に押し返されそうになりながらも、またズーシュエンが尋ねた。


「マラトも、お前たちと同じピエーリピル家のものなのか?」


 ほんの一瞬だけ男の力が弱まった。その瞬間を見逃さずに剣を強く弾き飛ばし、男を切った。切られた男は、表情を変えず、声も出さずに、後ろに倒れた。


 生きているのか、死んでいるのか、倒れてもなお無表情の男の顔を眺め、

 そもそも感情すら無くなっているのか?

 感情はあるがそれを表に出せないようになっているのか?

 そんなことをぼんやりと考えた。

 そして、同情のような気持ちがあふれ出て来るのを感じていた。その時、ふと、幼い頃に母親に言われた言葉を思い出した。


『そうやって、相手の気持ちや状況をおもんぱかろうとするのはお前の良いところだし、優しさだと思う。でもね、やり過ぎは良くないよ、何でもそうだけどね。結局さあ、最後は自分がどうしたいかだよ。それが分からなくなるようだったら、剣は持たないほうが良いね。』


 そして、また坂を上り始めた。




 過去に出会ったウズラと呼ばれる者たちは、全く気配を感じなかったが、今回の男は、ほんのごくわずかではあったが気配を感じた。

 まだ半人前なのか?

 流石に剣を振り上げた時は殺意が漏れるのか?

 もしや、マチアスがすり替えた石が効果を出し始めているのか?




 洞窟の入口に差し掛かった。


 洞窟の柱には松明が掲げられていて、中が明るい。その中をゆったりとした速度でズーシュエンは進んだ。奥の広間の大きな木の扉が閉じていて、外側からかんぬきが掛けられている。

 扉の横に立っている老人が手を上げると、何処からともなく四人の男が現れ、四方を取り囲んだ。彼らからは人の気配がする。彼らはただの護衛のようだ。


 一人が大きな剣で切りかかった、ズーシュエンはその剣をはじき返し、相手を一突き。

 後ろから切り掛って来る男の剣を往なすと、男の剣が地面に当たりガッツっという音がした。屈んでいる状態になった男の首を切り上げ、壁に向かって走り出し、壁を蹴って飛び上がり、三人目を大きく袈裟に切り、着地をして最後の四人目と向かい合った。

 男にひるんだ様子はなく、勢いよく切りかかってきた。

 互いに剣を受け合い、その度に洞窟中をジャキンという音が響き渡った。最後は男の隙を付いて、ズーシュエンが男の胸を一突きすると、男は倒れて動かなくなった。


 扉の横には、まだ老人が一人立ったままだった。


「そこをどいてくれ。」


 ズーシュエンが老人に声を掛けると、老人はうつむいたまま、黙って動かなかった。

 ズーシュエンが、老人の動きに注意しながら、閂を引き抜き始めると、老人が閂を強く抑えた。


「開けさせねえ。」


 そう言って、顔を上げた老人の目は異様に血走っていて、閂を抑える力も異様に強く、その見た目からは想定していなかった動きに、ズーシュエンは一瞬たじろいだが、


「どうしても、邪魔をするというならば、仕方がない。」


 そう言って、柄に手を掛けた。老人は引き抜かれそうになった閂をもとに戻し、静かに扉の横に立った。


 全く攻撃をしてこない者を切るのは気が進まず、老人の動きを気にしながら、扉の中の音に耳をそばだてた。中の会話が微かに聞こえた。


 閂に手を掛けなければ、老人は黙って立っているだけのようだった。どうも、この老人が閂にとりついた霊や妖のように思えて気味が悪くなったが、しばらくそうやって中の様子を伺うことにした。


 いざとなれば、老人を倒して閂を開けるしかない。想定以上に老人が強かったら厄介だなと思いながら、老人を視界に留め、中から漏れ聞こえる声に耳を傾けた。




戦うシーンを書くのって本当に難しいなと思います。頑張って書いていかないと。

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毎週水、土、日の14:30に新しいエピソードを更新しています。


今回のお話はいかがでしたでしょうか?

ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。

よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。


参考資料:

地図 全体

挿絵(By みてみん)


地図 モラン国周辺拡大

挿絵(By みてみん)



家系図

挿絵(By みてみん)


登場人物が増えたので追記しました。

リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長

ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物

リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物


マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇

ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)

アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)

カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻


アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官

ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻

テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)


サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子

マルチナ・アリア:サムートの婚約者


ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄

タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官

アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち


ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者


ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長

リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋

リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長

シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下

チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女

ワン・シア(王仔空):リーファの息子


ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母


師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住

ペペとムー:ジェイドの犬たち

ピン:ジェイドが飼っていた猫


ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性

ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下


バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理

アルタイル(通称:アル):バナムの部下

カジャナ・ポナー:サムートの主治医

ナズ:カジャナ医師の助手

アスリ:カジャナ医師の助手

メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性

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