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第6話 出発の準備と親心

始めまして、白黒西瓜シロクロ スイカです。

某鉄道会社のキャラクターが好きでこの名前にしました。


ロードオブザリングが好きで、その世界観をオマージュした小説を書いてみたいと思って小説に挑戦しましたが、全く違うものになりました。

若い夫婦の旅物語です。母の仇を打つべく自分を鍛え上げた娘ジェイドと、不本意ながらも彼女の復讐の完全成功に導くために頑張る結婚相手のエイナーとの旅物語です。


4話以降は1話を小分けにして2~3回/週くらいのペースで上げていく予定です。


自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。


参考資料:

地図

挿絵(By みてみん)


家系図

挿絵(By みてみん)

 ジェイドから出発の日付が言い渡された。


「出発は九月初めにしようと思う。」


 ジェイドは自分の部屋の机に向かって、広げた地図を眺めながらそう言った。

 出発までに一カ月半ほどある。


 ソファーで考え事をしていたエイナーも近くにあった椅子を持って行って机の横に座り、地図を覗き込んだ。ジェイドが地図のとある一点を指さしながら言った。


「多分、マラトはこの辺りにいるはずだ。マラト・ベルカントは私の母を殺した男だ。」


 そこは、モラン国がある辺りであった。


「とりあえず、ここに行ってみようと思う。どうやってマラトと接触するかは、向こうに着いてからいろいろ情報を集めて考えないと。」


「分かった、丁度その途中に姉たちが嫁いだ国があるから、立ち寄って話が聞けるように頼んでおくよ。」


「ありがとう。」


 と言いながら、地図から視線をエイナーの方に移してジェイドが言った、

「やっぱりエイナーは来ない方がいい。これは私の個人的な都合であって、君を巻き込むことは出来ない。」


 エイナーは彼女から視線を外し、胸のつかえを吐き出すように答えた、

「今更それは冷た過ぎないか?俺がお前から離れられると思っているのか?」


 本当は、『お前は俺と離れても大丈夫なのか?』とも聞きたかったがそこまでは吐き出せなかった。


 口籠るジェイドに視線を戻して、努めて明るく言った、

「まあ、邪魔はしないつもりだし、多少は役に立つと思う。一人で行くよりも二人で行く方が何かと便利だし気も紛れる。目的が暗いからと言って、道中まで暗くなる必要はないだろう。それに、お前の復讐に賛成している訳じゃない、もし怖気づいたりしたら連れて帰るつもりだ。」


「分かったよ。気分を害したなら申し訳ない。それに怖気づいたりなんかしないよ。」


「じゃあ、俺の話も聞いてくれるか?」


「良いよ、言ってみて。」


「守って欲しいことが二つある。一つは、復讐の後の人生も考えて行動して欲しい。もう一つは、新たな遺恨を作らないで欲しいってことだ。」


「どういう意味?」


「復讐が人生のゴールじゃないだろう。終わったらまたここに戻ってきて生活するんだ。まずは死なないこと。その後の生活の邪魔になるものは持って帰ってこないこと。例えば、組織の奴らから逆恨みされて追われて逃げ隠れする生活なんて望んでない。新たな遺恨は、例えば、マラトに近づくために組織に潜入して悪事に手を染めて、それで他人から恨みを買うとかは駄目だ。それと、やっぱり死んじゃ駄目だ、もしそうなったらそれが新たな遺恨になる。」


 それを聞いたジェイドは、込み上げる憤りを抑えながら答えた。

「それじゃ、何も出来ないのと一緒じゃないか。死ぬ覚悟で挑んだって良くて相打ちだと思ってる。どんなに鍛えても限界がある。それにもうこれ以上は強くなれない気がする、速さも、力の強さも頭打ちだ。あいつは、母上を殺した、母上は物心がついた頃から十六歳になるまで、みっちりと武術の修行をしていた、私とは比べ物にならないくらい強かった母上が、あいつにやられたんだ。それに、マラト一人のことだけで精一杯で、組織のことなんか考える余裕なんてないよ。」


 興奮気味のジェイドをなだめるようにエイナーが言った。

「そんなに思いつめるな。それは一対一で正攻法に勝負した場合だろう?結局は、姑息な手を使っても勝てばいい、相手もそのつもりだろう。そもそも、死ぬこと前提で挑むのと、死ぬ気で挑むのは違う。死ぬかもって思っているのなら、どうしたら死なずに済むかを考え抜いてから挑むしかないだろう。」


「確かに尤もな意見だけど、難しいことを言うね。考えても、考えても、思い浮かばないときは?」


「その時は……うーん、一旦忘れる。」


「無責任な。そうだ、エイナーが一緒に戦ってよ。」


 本当ならばそうしたい、でもそれは出来ない。

「気づいていると思うけど、俺たちは合わない。多分一緒に戦ったらお互いに邪魔をし合うことになる。時間があれば、合わせられるように訓練することは出来るかもしれないが、そんな余裕はないし……でも、もしかして……」


 それ以上は言わなかったが、西山にある虚明堂とやらで、ジェイドと一緒に武術の修行をしていた者だったら一緒に戦えるんじゃないだろうか?

 誰か手伝ってもらえそうな人がいないか探しに行ってみよう考えた。


「兎に角、お前はマラトに集中すればいい。組織云々はこっちで考えるよ、姉たちのことも心配だから。それで良いよな?」


「分かったよ、ありがとう。確かに最近あの辺りは物騒な話ばかりで、お姉様たちのことは心配だよね。」


 そう答えて、ふと何かに気づきジェイドが続けた、

「っていうかやけに事情に詳しいね、調べてたの?」


「多少は、気になって調べてた。」


「それと、私もエイナーのこと『お前』って呼んでいい?」


 以前、ジェイドに『お前』呼ばわりされた際に、『お前』と呼ぶなと言ったことを覚えていたようで、禁止した本人が『お前』と言うのならばもう自分も使ってい良いと理解したのだろう。


「いや、駄目だ。私も今後は使わない。」




 そうとなれば、やることは山ほどある。


 だがしかし、組織云々はこっちで考えると言ってしまったが、正直何から手を付ければいいのか分からない。組織の内情は全く分からない。

 モラン国の支配下に置かれてしまった国や近隣諸国が現状をどう捉えて、何を画策しているのか、していないのかも分からない。


 その辺を探るためには、近隣諸国の御歴々と話ができる機会を持てるよう準備はしておいた方が良い。

 勿論いきなり政治的な話じゃなくていい、まずは商売の話から入って、お近づきになる切っ掛けを掴めばいい。そのためにはトレーダになっておこう。


 領主が発行するトレーダーの証明割符があれば、領主や時には国王レベルと商談が出来ることだってある。それに、ただの旅人よりも、トレーダーとして仕事をしながら旅をしている体にする方が何かと便利だ。


 父上とハリスに発行してもらえるよう頼んでみよう。そう考えながらも、結局二人に頼らないと何もできない自分の不甲斐なさを感じつつ、使えるものは何でも使うのだと自分に言い聞かせて、考えを巡らせた。




 一先ず、エイナーは父親とハリスに手紙を送り、三人で相談する場を設けた。


 ハリスは明らからに不機嫌であった。

「止めてくれるんじゃなかったのか?なぜ復讐する前提で準備を進めているんだ?」


「一人で出て行かれるよりは良いかと思いまして。この件になると彼女は一人で抱え込もうとするし、思い詰めてしまう。それに、これ以上強くなれないという強迫観念もあるようで、いつ突発的に出て行ってしまうか分からない状態を続けるよりも、一緒に行く方がよっぽど良いと思ったんです。」


「勝てる算段はあるのか?あの子が安全に帰ってこれる保証はあるのか?」


「そんなものがあったら、さっさと行って、片づけてるでしょうね。」


「それじゃあ、危険だと分かっていて行くのか?そんなの賛同できるわけがないだろう。」


 暫しの沈黙の後、エイナーが言った。

「彼女は、よく言えば根が素直で欲がない。強さをひけらかす訳でもなく、それで偉業を成し遂げたいわけでもなく、只々、母親の仇を討ちたいそれだけなんだと思います。それ以外のことは何も考えられないのではないでしょうか。多分、今後もずっとそうだと思います。彼女の中でこの件に決着が着かない限り、永遠にこのまま先には進めないし、脇道に逃げることも出来ないのではないかと。」


「それでも、危険を冒しては欲しくない。いつか諦めてくれると信じている。例えば,こどもが出来れば気も変わるかもしれない。」


「こどもは要らないと言われました。本心かはわかりませんが。それに、こんな状態でこどもが生まれても、その子が可哀そうでしょう。置いていかれるかもしれない、仇を打てなかったことの言い訳にされるかもしれない。」


「そこまで考えるのは、考え過ぎじゃないのか?もっと単純に、こどもの側に居たいって思うようになるだろう。」


「根本的な解決にはならないと思いますけどね。なので、私は彼女の気が済むまで付き合おうと思っています。」


 二人の話を黙って聞いていたアドルフが口を開いた。

「ハリス、可愛い娘が心配なのは良くわかる、しかもまだ十七歳だ。しかし、ジェイドもエイナーも、もう結婚をして夫婦になったのだから二人で決めたことは、二人の意思を尊重してもいいと思う。」


「そんな、無責任なこと良く言えるな……」

 と言いながら、ハリスは黙って空を仰いだ。


 結局ハリスから明確な承諾は得られなかったが、出発準備の手伝は不本意だと言いながらもやってくれるようだった。


 その後、アドルフと二人になった時に彼からこう言われた。

「ハリスは一度妻を失っている、彼女を守れなかったことを本当に悔やんでいる。その上、娘まで失ってしまうかもと思うと、とても怖いのだ。そこは理解してやってくれ。」




 二人とも、各領主別々にトレーダーの証明割符を発行することには了承してくれたが、知識も経験もない不似合いなものが持つと怪しまれてしまうことを懸念した。


「普通は数年見習いをしてから自分の割符を持てるようになるんだが、全く経験がない若者がこれを持っていたら、どうやって手に入れたのか逆に怪しまれてしまう。」


「経験はありませんが、知識ならばある程度、私は酒全般、生地、織物あたりの知識はあるし、ジェイドも鉱物、薬草などの知識があるので、ある程度の決まり事さえ教えてもらえれば、それなりの振る舞いは出来ると思います。」


「分かった、ベテラントレーダにみっちり一週間くらいトレーニングを受けろ。」


 証明割符は、金属で出来た金色のメダルの様なもので領主毎に特徴的な模様が入っていて、それを真ん中で二つに割ったものである。片方をトレーダーが持ち、もう片方を護衛役が持つことで、万が一、片方が盗まれても両方が揃わないと意味をなさないというものである、ナーゲルス家は葡萄と酒の甕を抱えた女神が、ドゥゴエル家はラッパを吹くケンタウロスが描かれている。


 これがあれば、領主お抱えの商売人と認識され、商談が断然スムーズになる。また、買い付け資金が必要になったときには、イズミールやアルタ地方の一部の両替商で資金調達も可能である。




 そしてもう一つ大切な準備があった。


 それは、ジェイドと共闘できる人材を探すということであった。


 その件でハリスに尋ねてみた。

「ジェイドが暮らしていた西山にある虚明堂でしたっけ、そこに彼女の助太刀をしてくれるような人がいないかと考えているんですが、心当たりありませんか?」


 ハリスは、不機嫌な顔になって答えた。

「君がすればいいだろう。」


「残念ながら、剣の使い方も動きも違い過ぎて、お互いに邪魔をし合うんじゃないかと。」


 腕を組んで俯き、暫く悩んだような顔をしていたが、意を決したかのように顔を上げて答えた。

「リュウ・ズーシュエンという男に相談するといい。今でも虚明堂で副堂長をしているはずだ。」


「ジェイドを逃がしてくれたという人ですか?」


「そうだ。」


 確かに、そこまでしてくれた人ならば、手伝ってくれる可能性はかなり高い。


「リュウ・ズーシュエンはどんな人なのですか?」


 ハリスは再び俯き、目を閉じ、少しイラついた声で答えた。


「会えばわかる。」

今回はいかがでしたでしょうか?


ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。


よろしければ、いいね!ブックマークなどもよろしくお願いします<(_ _)>

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