第71話 グレナディへ
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。
サムートが国務会議に遅れて参加すると、会場はアラン二世の今朝の様子の話でもちきりだった。
その隙に自分の席に着いた。
「いかがでしたか?」
横に座っているパナムがサムートに尋ねると、サムートは黙って頷いた。それを見たパナムは安堵の表情を浮かべた。
国務会議四日目、今日のジャーダンはいつにもまして荒れていた。カリーナ王女から国王の容態が良かった話を聞いて、心中穏やかではなかったのだろう。
会議が終わり、部屋を出たところでサムートとバナムは部下から報告を受けた。
エイナー達の状況を確認しに行った部下の話によると、二人はアリア家にはおらず、用事があるので城に帰ると言って帰ったということだった。ただ、荷物も剣も全て部屋に置いたままだったため、怪しく思い使用人を問いただしたところ、賞金稼ぎの男に脅されて二人を引き渡したと自供したとのことだった。また、その使用人の話によると二人はアバガス方面に連れ去られたとのことだったので、使いを出して捜索をしているとのことだった。
「訳が分からないな、二人は見つかったのか?」
「いえ、それがまだ見つかっていません。」
エイナーたちのことは心配だったが、サムートにはまだやらねばならないことがあった。
ジャーダン討伐のために、以前から親交が深かったノンインとムンドと同盟を結ぶことである。
国王同士が旧知の仲だったとはいえ、今の状況では慎重な対応が求められる交渉だ。町中の宿屋の一室にサムート、元ノンイン国王、元ムンド国皇太子が集まり、サムートからのジャーダン討伐の提案を受け、各々の領地で協議を行い、後日、再び集まり協議を行うことになった。
翌日の昼頃、エイナーとマチアスはパレオスに戻った。国務会議、最終日の真っただ中である。
「ここでぼーっと突っ立ていても仕方ない、カラスを見に行くぞ。」
「別に突っ立っているわけじゃないでしょう。変に動くと捕まりますよ。」
「じゃあ、お前はここに居ろ。」
そう言って、マチアスが歩き出した。仕方なくエイナーもついて行った。途中で馬車の荷台に乗せてもらい森の近くで降りた。
途中、誰もいないことを確認しながら、森の中を進み、ヨナスの伝書カラス小屋に近づいた。
以前はカラスが枝にとまっていて、まるで茂った大きな木のように見えた大木が、今ではただの枯れ木であった。枝には数えるほどのカラスしか居らず、殆どのカラスが帰ってきていないようだった。
それを見たマチアスが小さくガッツポーズをした。
その時、二人は人の気配を感じ後ろを振り返った。
小柄な男と背の高い男が半月刀を振り上げている。
間一髪のところで彼らの攻撃を避け、そのまま森に逃げ込んだ。後ろを見ると二人とも追いかけて来る。
「反撃しますか?」
「ここで、いざこざを起こすとややこしいことになるだろう。」
マチアスが答えた。今更何をと思いながらもエイナーが答えた。
「そうですね、じゃあ逃げ切りましょう。」
横に並んで走るマチアスを横目に、この人は自分の父と同じくらいか、それ以上の年齢にもかかわらず、自分と同じ速度で走っている。そして、無茶なことを当然のようにやらかし、興味のある事は直ぐに飛びつく、ない事には全く見向きもしない。何という体力と気力の持ち主だろうと尊敬にも似た気持ちを抱いた。
しかし、ふと思い返せば、ただの自分勝手な人間だ、騙されてはいけないと自分に言い聞かせながら走った。
どのくらい走っただろうか?森を抜け街中に向かう道を走っていた。振り返り、男たちが追いかけてこないことを確かめ、立ち止まった。
「ここまで来れば大丈夫でしょう。」
そう言って、街に向かって歩き出した。
ノコノコと城に帰れば捕まってしまう。
一先ずアリア家に置いて来た荷物が残ってないかを確認しに向かった。
裏口から様子を伺っていると、緑の軍服を着た見覚えのある兵士が周りを気にしながら裏口に近づいて来た、サムートの部下である。エイナーは思わず彼に小声で声を掛けた。
すると、彼は驚いた表情を見せたが、直ぐに笑顔になり、
「エイナー、探したのですよ。ここで会えて本当に良かった。マチアスも一緒ですね。」
「なぜ、君がここに?」
「二人がここに来た翌日、様子を確認しに来たのですが、お二人が賞金稼ぎに連れ去られたと聞いて、直ぐに探しました。でも、見つけることができず、何かもっと有用な情報がないかと思い、ここを訪ねたんです。帰り準備ができるまで、宿で身を潜めていてください。」
そう言われ、街外れの宿屋に案内された。
「外を出歩かないように、誰かが来ても鍵を開けないように。」
そう釘を刺し、彼は城に戻って行った。
サムートの部下が準備した簡単な食事を取っていると、急に眠気が襲って来た。今度は睡眠薬とかではなく単に疲労のせいだろうと思い、エイナーは心地の良い眠りについた。
誰かが扉をノックする音で目を覚ました。窓の外がオレンジと群青色に染まり、夕方になっていた。覗き窓から外を覗くとサムートの部下が立っていた。彼があらかじめ決めてあった合言葉を口にしたので、エイナーは鍵を開けて扉を開いた。
「ゆっくり休めましたか?これからグレナディに戻ります。お二人の馬と荷物は準備してあります。さあ行きましょう。」
パレオスはここ数年で急激に人口が増えて、成長したため、元々あった城壁の外にも町が広がっていた。壁の外の方が酒場や賭場、そして宿が多く、この時間から徐々に活気づいて来る。
そんな町を横目に歩いていくと、街外れの食堂に着いた。
「さあ、ここです。ここで腹ごしらえをして、次の街まで行きますよ。はやくパレオスを離れないと、お二人のことが気が気じゃないですからね。」
二階の個室に入ると、そこには十数名ほどの男たちが既に賑やかに食事をしていた。
「無事でよかった。」
サムートが嬉しそうに二人を迎えてくれた。
ストーブが温い。
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今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性




