第66話 身をひそめる①
背景説明地図と登場人物紹介は後書きにあります。よかったら読んでください。
二人が部屋に戻ると、同じ部屋のアルーム国の兵士二人が心配そうに尋ねた。
「無事に釈放されたんですか?」
「脱走して来た。」
マチアスが当然の様に答えた。
「この先どうするか考えないと。」
エイナーが頬杖をついてどうしたものかと言う表情をした。
その時、誰かが部屋の扉を勢いよく開けた。てっきり、追手が来たのかと焦ったが、サムートだった。
「二人ともここに居たか。大変なことになってるぞ。」
「マチアスを何処に隠すか考えないと。」
エイナーが答えると、サムートが呆れ顔で、
「エイナー君もだ、マチアスの脱走をほう助した罪でお尋ね者になってる。」
「え!」
エイナーが驚き顔で答えた。
「一先ず、どこかに身を隠そう。アリア家に行ってみよう。マルチナの家だ。」
「でも、マルチナの家には見張りがいて、とてもじゃないけど入ることすら出来ないだろう。」
「そこまで厳重な警備でもなかったじゃないか、どこかから潜入できるはずだ。一度入ってしまえば逆に見つかりにくいだろうし、灯台下暗しだ。」
サムートの提案に、エイナーは半信半疑で、
「そうかな……」
と呟いたが、他に行く当てもなく、地下通路を抜けて三人でマルチナの家に向かうことになった。
三人は町人の服装に着替えて出発した。
「サムート、君は城に残った方が良い。」
エイナーがサムートの立場を心配して言った。
「君たちを送り届けたらすぐに帰る。君たち二人だけで尋ねたら、流石に心優しいエクレムだって、君たちを家に入れないどころか通報するだろう。」
「確かに。」
言われてみれば確かにそうだと納得し、こんなところで余計な騒ぎを起こしたマチアスを少々恨めしく思ったが、ヨナスの小生意気な顔が頭にちらつき、これはこれで仕方がなかったと不思議と納得してしまった。
「マチアスはヨナスに何をしたんだい、怒り心頭に発してたぞ。」
サムートに聞かれ、ヨナスが手塩にかけて育てた、東アルタ門外秘伝の伝書カラス達に薬を飲ませて、そのほとんどを逃がしてやったとマチアスが話をすると、それを聞いたサムートは愉快だと言わんばかりに笑って、
「それは傑作だ。ヨナスは本当に嫌な奴だよ。マラトの部下は全員、嫌な奴ばかりだ。見た目だけは異様に美しいけど、中身は最悪。よくもまあ、あんな面子を集めてきたものだと、半分驚いている。」
「サムート、君はマラトに会ったことはあるのか?」
エイナーが尋ねた。
「殆ど人前に現れないからね、何度か見たことはあるけど、言葉を交わしたのは一度だけ。あのサファイアみたいな青い目に睨まれると、冷たい海の底に沈められたような気分になる。人を見下しながらも、全てのものが憎らしいとでも言いたげだ。でも、カリスマ性があるのかな?あれだけくせ者揃いの部下が言うことをきいているのだからね。ジャーダンとは真逆で、なぜあの二人が手を組んでいるのか不思議だよ。」
「ジャーダンはどんな奴なんだ?」
「見たまんまだよ。良くしゃべるし、考えていることがすぐに表情に出る。良家の長子らしいんだが、母親の身分が低くて、正妻の子である弟が家督を継いだって噂だ。そう言った背景もあってか、自分を馬鹿にする奴と血筋が良い奴がとことん許せないらしい。」
「エイナーには分からない悩みだろうな。」
後ろでマチアスがボソッと言った。
「どうせ私は、世間知らずのお坊ちゃまですからね。何故、味方を後ろから刺すようなこと言うんですか?こんな時に。」
エイナーが少し怒ったような表情をすると。
「自覚があるところが凄いよ、これはほめ言葉だ。」
マチアスが感心して言った。
アリア家に向かう途中、モラン軍の軍服を着た兵士を何度も見かけた、どうにか彼らをかわしアリア家に到着した。門の前と家の入口の前には、前回と同様に見張りの兵士が二名ずつ立っていた。
どこか侵入できる場所がないか探しながら、家の後ろに回ると、裏の勝手口から、小間使いらしき女性が顔をだして辺りを伺い、誰もいないことを確認して、表に出てきた。後ろからもう一人誰か出てきた。以前、サムートたちが訪問した際に対応した、しどろもどろの使用人の男だった。二人は手をつないで森の中に入って行った。
「逢引きか?」
マチアスが呟いた。
「帰って来たところを捕まえて、家に入れてもらえるよう交渉しよう。」
サムートの言葉に、少し胸が痛くなったエイナーだったが、背に腹は代えられないと腹をくくって、二人の帰りを待った。
暫く待つと、二人がいそいそと勝手口に向かって帰って来た。サムートが二人の前に立ちはだかると、二人が声を上げそうになったので、エイナーとマチアスで後ろから二人の口を押えた。二人はジタバタと抵抗をつづけたが、
「危害を加えるつもりはない、落ち着いて私の話を聞いて欲しい。」
サムートが使用人の男に向かって言うと、使用人はサムートに気づいた様子で、驚きの表情を見せたが、抵抗を止めて大人しくなった。それに続いて女の使用人の方も大人しくなった。
「私たちを家に入れて欲しい。見張りの兵士に見つからないように。そしてエクレムと話がしたい。」
そう言われた使用人は、口をふさがれたまま、黙って頷いた。
水曜日はお休みしてしまいましたが、また今日から頑張ります!よろしくお願いします。
本格的に寒くなってきました。今年もあと1ケ月半、早い。
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今回のお話はいかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとでも続きが気になるという方がいらっしゃったら、本当に本当にうれしいです。
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自分でこの小説を書いていても、人の名前や地名など混乱してしまうので、参考資料としてざっくりとした世界観説明用地図と家系図を載せておきます。理解の参考にしていただけると幸いです。
参考資料:
地図
家系図
登場人物が増えたので追記しました。
リュウ・ズーシュエン(劉紫轩):虚明堂の副堂長
ヤン・リーイン(楊日瑩):ムーランと同一人物
リュウ・ズーハン(劉紫涵):ジェイドと同一人物
マラト・ベルカント:ある組織の幹部、ジェイドの仇
ジャーダン・ナラハルト:モラン国王の娘婿、国王の摂政(マラトと組んでモラン国を拡大させていると言われている。)
アラン2世:モラン国王(体調不良で表には出てこないと言われている。)
カリーナ王女:アラン二世の娘、ジャーダンの妻
アクセル・ゲイラヴォル:軍でのエイナーの上官
ヴォルヴァ・ゲイラヴォル:アクセルの妻
テュール(8) 、マグニ(6)、ダグ(4)、エーシル(1):ゲイラヴォル家の子どもたち(年齢)
サムート・ハン:エイナーの文通相手だったアルーム国の王子
マルチナ・アリア:サムートの婚約者
ヤン・フォンミン(楊楓明):ユーリハ国王軍の司令官、ズーシュエンの母方の従兄
タユナ・ハイネン:ユーリハ国王軍の副司令官
アリマ:ユーリハ国王軍の女性兵士、ジェイドの友だち
ジョゼフ・テオ:ある組織の創設者
ヤン・シィェンフゥア(楊仙華):ズーシュエンの母親、虚明堂の前堂長
リュウ・シュエンュエ(劉轩月):ズーシュエンの父親、菓子屋
リュウ・ュエフゥア(劉月花):ズーシュエンの妹、虚明堂の現堂長
シャンマオ(バナジール):西山で洋食屋をやっている元(現役?)ハリスの部下
チャン・リーファ:(張李花)ズーシュエンの彼女
ワン・シア(王仔空):リーファの息子
ソフィアとその祖母:ナルクで出会った麦畑の少女とその祖母
師匠 マチアス・ジュノー:ジェイドの師匠、元軍医、東アルタ在住
ペペとムー:ジェイドの犬たち
餅:ジェイドが飼っていた猫
ヤン・ジンウェン(楊金温):ピブラナ国の首都ボヤーナで医師をしている女性
ヨナス・デスモン:ピブラナ王室に送り込まれた、マラトの部下
バナム・アルマン:南モラン地区(旧アルーム国)の物資調達責任者、モラン国大臣代理
アルタイル(通称:アル):バナムの部下
カジャナ・ポナー:サムートの主治医
ナズ:カジャナ医師の助手
アスリ:カジャナ医師の助手
メイ・モーイエ(梅莫耶):旧アルーム国の首都グレナディで医者をしている女性




